労働組合法上の労働者性|労働基準法との違い
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働組合法とは、労働者が労働組合を結成し、企業と対等な立場で交渉できる権利を保障するための法律です。
労働組合法上の「労働者」であると判断されると、これらの者が結成した労働組合には、企業と団体交渉を行う権利が与えられます。
企業側が正当な理由なく団体交渉を拒否すると、法的責任を問われる場合があるため、どのような者が労働組合法上の「労働者」になるのか確認しておくことが重要です。
また、労働組合法と労働基準法では「労働者」の定義が異なるため、この違いにも注意する必要があります。
このページでは、労働組合法上の「労働者」の定義や、労働基準法上の「労働者」との違い、労働組合法上の労働者性の判断基準などについて解説していきます。
目次
労働組合法上の「労働者」性をめぐる問題
労働組合との団体交渉では「労働者」性、つまり、労働組合法上の「労働者」に該当するかどうかが問題となります。
労組法上の「労働者」に該当しない場合は、これらの者が結成した労働組合には、労組法の保障が及びません。そのため、企業側が団体交渉の申し入れを拒否したとしても、不当労働行為には該当しないことになります。
なお、不当労働行為とは、労組法7条で禁止される、労働組合等への使用者の行為をいい、大きく①不利益取り扱い、②正当な理由のない団体交渉拒否、③不適切な介入に分類されます。
また、労組法上の労働者性で問題となるのが、業務委託や個人事業主(フリーランス)などの勤務形態者が労組法上の労働者に当たるのか、これらの者が結成した組合が団体交渉を要求できるのかという点です。
不当労働行為による損害賠償請求など、会社が被るリスクを防ぐためにも、どのような者が労組法上の労働者となるのかを把握することが重要です。次項から詳しく見ていきましょう。
団体交渉や不当労働行為について詳しく知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
労働組合法上の労働者の定義
労働組合法は、労働組合法が適用される労働者を、以下のとおり定義しています。
労組法第3条
「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」
労組法が適用される「労働者」の範囲は、団体交渉の保護を与えることが必要な労働者にまで広げたものであるため、労働基準法や労働契約法が適用される「労働者」よりも広くなっています。
また、労組法上の「労働者」は、憲法28条の「勤労者」や労働関係調整法上の「労働者」と同じ適用範囲であるとも理解されています。
なお、労組法上の「労働者」の定義には、「使用される」という要件がないため、失業者であっても、同法の「労働者」に該当する可能性があります。
労組法上の「労働者」に該当すると、これらの者が結成した労働組合は法適合組合として、企業側に団体交渉を求めることが可能となります。
労働組合の詳細については、以下のページで詳しく解説していますので併せてご覧下さい。
労働基準法上の労働者の定義
労働基準法は、労働基準法が適用される「労働者」を、以下のとおり定義しています。
労基法9条
「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という)に使用される者で、賃金を支払われる者」
上記の「事業に使用される者」の要件、つまり労働が使用者の指揮・監督下で行われているかどうかは、基本的に以下の要素から判断されます。
- ① 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
- ② 業務遂行上の指揮監督の有無
- ③ 拘束性の有無
- ④ 代替性の有無
次に、「賃金を支払われる者」の要件は、使用者の指揮・監督のもと、一定時間の労務提供の対価として報酬が支払われているかにより判断されます。
労基法上の「労働者」は現在働いていることが前提であるため、労組法と異なり、失業者は含まれません。また、この概念は、労基法を基礎とした労働関係法(労働安全衛生法、労働者派遣法、パートタイム・有期雇用労働法など)上の「労働者」とも一致すると判断されています。
労基法上の「労働者」に該当するかどうかの判断基準については、以下の記事でも解説していますので、ぜひ併せてご覧下さい。
労働者の定義に違いが生じるのはなぜか
労働基準法上の「労働者」と、労働組合法上の「労働者」の定義に違いが生じる理由は、以下のとおり、法の置かれた目的(趣旨)が、それぞれ異なるためです。
・労働基準法:労働条件に関する最低基準を設けて、労働者にこれを保障すること
・労働組合法:使用者と比べて経済的に不利な立場にある労働者に対して、団体交渉や団体行動を行うことを認め、労使が対等な関係で労働条件を決定できるよう促すこと
このような趣旨の違いから、労組法上の「労働者」は経済的従属性の有無を中心として判断し、使用者への従属性を主な判断要素とする労基法上の「労働者」よりも、労働者性を広くとらえるべきだとする考え方が一般的です。
労働組合法上の労働者性の判断基準
労働組合法上の労働者性、つまり問題となる労働者が、労組法上の「労働者」に該当するかどうかについては、以下の3つの判断要素を考慮して判断されるのが通例です。
- 基本的判断要素(事業組織への組入れ、契約内容の一方的・定型的決定、報酬の労務対価性)
- 補充的判断要素(業務の依頼に応ずべき関係、広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束)
- 消極的判断要素(顕著な事業者性)
基本的判断要素をもとに、補充的判断要素と合わせて総合判断します。消極的判断要素が認められる場合は、労働者性を否定する方向で考えます。労働者性に関しては、契約の形式で見るのではなく、あくまで勤務実態に基づき判断するのがポイントです。
以下で、各判断要素について見ていきましょう。
基本的判断要素
労働組合法上の労働者性の「基本的判断要素」として、以下が挙げられます。
- ① 事業組織へ組入れられている
労務提供者がその会社の業務遂行において不可欠な労働力として、組織内に確保されており、労働力の利用を巡って団体交渉により問題を解決すべき関係にあること - ② 契約内容が一方的・定型的に決められている
契約の締結や更新の際に、労働条件や提供する労務の内容を会社側が一方的・定型的に決定しており、事実上、個別交渉の余地がないこと - ③ 報酬に労務対価性がある
報酬が業務量や時間をもとに算定されていたり、一定額の支払いが保証されていたりするなど、労組法3条の「賃金・給料その他これに準ずる収入」との性格を有していること(仕事の結果というよりは、働いたことそのものの対価として報酬を得ていること)
つまり、経済的な面で、働く側が会社に従わざるを得ない(経済的従属性がある)といえれば、労組法上の労働者性を肯定する方向で考えることになります。
補充的判断要素
次に、労働組合法上の労働者性の「補充的判断要素」として、以下が挙げられます。
- ①業務の依頼に応じるべき関係がある
労務提供者が会社からの業務依頼を実際に拒否した場合に、契約の解除や更新拒絶など、事実上の不利益取扱いや制裁を受ける可能性があること - ②広い意味での指揮監督下の労務提供と一定の時間的場所的拘束がある
労務の内容がマニュアル化されているなどして裁量の余地がないこと、労務提供の日時や場所等について労務提供者に裁量の余地がないこと
基本的判断要素を重視しつつ、それらを補強する材料として用いられます。上記のような事情が認められる場合には、労組法上の労働者性を肯定する方向で考えることになります。
消極的判断要素
さらに、労働組合法上の労働者性の「消極的判断要素」として、以下が挙げられます。
・顕著な事業者性がある
労務提供者が自らの経営判断で利益を増やすために動けるような場合や、想定外の利益得失が労務提供者自身に帰属する場合、受託した業務を他人に代行させることができる、又は実際に代行させている場合など
これらの事情が認められる場合には、当該労務提供者の経済従属性は弱いため、その分労働組合法上の労働者性を否定する方向で考えることになります。
労働組合法上の労働者性が争点となった裁判例
ここで、労働組合法上の労働者性が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京高等裁判所 平成16年9月8日判決】
事案の内容
プロ野球選手会Aは、プロ野球の球団合併が選手の地位や労働条件に重大な影響を与えるとして、日本プロ野球組織Bに団体交渉を要求したものの、合併は経営上の問題であるとして、拒否されました。そこで、AがBに対し団体交渉を行える地位にあるとして訴えた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点を考慮して、プロ野球選手は労働組合法上の労働者に該当すると判断し、AがBに対し、団体交渉を行う権利を有するとして、A側の勝訴判決を下しました。
- AはBの構成員のいずれかの球団と選手契約を結ぶ日本プロ野球選手及び一部の外国人プロ野球選手により構成される労働組合である
- Aは労働委員会により労働組合であるとの認定を受け、労働組合として法人登記を行った
- AとB間で団体交渉のルールを定め、外国人選手の出場登録枠やFA資格取得要件の緩和等に関する協定書を作成し、このルールに従い、両者間で選手の待遇等について団体交渉を行ってきた
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会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある