監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
一定の期間を定めて従業員を採用する方法として、「試用期間」と「有期雇用」があげられます。
採用にあたり、まずは適性や働きぶりを見て判断したいと考える企業にとって、どちらを選ぶべきか迷う場面は少なくないでしょう。
そこで、この記事では、試用期間と有期雇用の違いについて整理し、それぞれの特徴やメリット、契約時に注意すべきポイントについて解説します。まずは期間限定の採用をしたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
試用期間と有期雇用の違い
試用期間とは、一般的に長期雇用を前提とした正社員の能力や適性をはかるためのお試し期間です。期間を区切られてはいますが、有期雇用契約ではなく、あくまで無期雇用契約の中の一部分という扱いになります。
対して有期雇用とは、大前提として契約期間満了となれば、その雇用契約も自動的に終了となります。もし契約更新や、正社員として雇用されたとしても、あくまでも有期雇用期間は期間雇用と明確に区別されることとなります。
法的性格は異なりますが、会社として労働者の能力判定期間を設けるとなった場合、契約内容の選択によってどのような違いが発生するのか、それぞれのメリットを解説していきます。
試用期間、有期雇用についての詳細は下記ページで解説しています。
試用期間を設けるメリット
試用期間を設けることで、書類選考や面接だけでは分かりにくい業務への適性やスキル、勤務態度、職場との相性を、実際の働きぶりを通じて確認することが可能です。その結果、採用後のミスマッチや早期離職を防ぐ効果が期待できます。
また、有期雇用は期間満了で終了する可能性があるため、応募者にとって不安を感じやすい側面があります。一方、「試用期間付き正社員募集」とすれば、雇用の安定性を示せるため、応募への心理的ハードルが下がり、応募数の増加につながるでしょう。
もっとも、試用期間であっても本採用拒否が自由にできるわけでなく、合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。指導や改善の機会を与えずに解雇すると、不当解雇となるリスクがあるためご注意ください。
有期雇用を契約するメリット
有期雇用を契約するメリットは、契約期間の満了により雇用関係が終了することが予定されている点にあります。
試用期間付きの正社員採用では、能力や適性に不安があっても、本採用拒否は解雇の一種と扱われるため、ハードルが高くなります。
一方、有期雇用であれば、契約期間が満了すれば、基本的に雇用関係を終了させることが可能です。
また、試用期間を数年単位で設定することは不適切とされるおそれがありますが、有期雇用であれば原則として最長3年までの契約が認められています。そのため、一定期間、能力や適性を見極めたうえで、正社員登用を検討するといった柔軟な人材活用も可能です。
ただし、有期契約を長期にしたり、何度も更新したり、正社員登用を約束したりすると、労働者の更新への期待が高まり、期間満了による終了が難しくなる点には注意が必要です。
試用期間としての有期雇用契約は認められるか?
試用期間として有期雇用契約を結ぶこと自体は、法律上問題ありません。期間を定めて雇用契約を結ぶ目的について、明確な制限は設けられていないためです。
もっとも、有期雇用契約であっても、その目的が労働者の能力や適性を見極める点にある場合には、裁判所から「無期雇用契約に付された試用期間」と判断される可能性があります。この場合は、単に契約期間が満了したという理由だけで本採用を見送ることは難しくなります。
客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、雇止めが無効と判断されるおそれがあるため注意が必要です。
試用期間として有期雇用契約した場合、期間満了による雇止めは可能?
有期雇用契約の期間満了による雇止めが認められるかどうかは、更新の回数や通算の雇用期間、労働者の更新期待の妥当性などを踏まえて判断されます。
しかし、実態が試用期間の趣旨であった場合、有期雇用として契約していても、裁判所から試用期間であると判断され、雇止めが違法となる可能性があります。そのため、試用期間のつもりで有期雇用契約を結んだ場合には、「契約期間が終わったから当然に退職してもらえる」と考えず、雇止めには合理的な理由が必要となることを理解しておく必要があるでしょう。
なお、雇止め自体に罰則はありませんが、雇止め予告をしないなど「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に違反すると、行政指導の対象となります。
有期労働契約の雇止め法理について詳しく知りたい方は、以下のページをご確認ください。
試用期間満了による本採用拒否は解雇と同等の扱い
試用期間満了後に本採用を見送ることは、法律上は解雇の一種と考えられています。
正社員の普通解雇に比べると、会社の判断が認められやすい面はありますが、だからといって自由に本採用を拒否できるわけではありません。客観的に合理的な理由があり、社会的に相当といえるかどうかは、やはり問われます。
そのため、試用期間中の成績や習熟度などについて、会社として「この水準には達してほしい」という明確な基準を設けておくことが重要です。そのうえで、指導や研修を行いながら従業員の能力を測るなど、本採用を見送る場合でも、その判断が合理的であったと説明できるようにしておくとよいでしょう。
本採用拒否が認められる理由や試用期間延長については、以下の記事で解説しています。
有期雇用契約は期間途中での解除が困難
有期雇用契約は、契約期間の途中で解除することが非常に難しい契約です。
有期雇用契約は、あらかじめ決められた期間が満了するまで雇用が続くことを前提としており、労働者には「契約期間中は働き続けられる」という強い期待が生じます。この期待は法律でも保護されており、労働契約法17条では、やむを得ない事情がない限り、期間の途中で解除することはできないと定められています。
このやむを得ない事情は、正社員を解雇する場合に求められる、客観的合理性や社会通念上の相当性よりも、さらに厳しく判断されるのが特徴です。具体的には、長期間の就労が不可能となる重い病気や重大な不正行為、深刻な経営危機など、例外的なケースに限られます。
時間をかけて判断したいからと長期契約を結んだ場合、後になって適性に疑問を感じても、簡単には解約できなくなるため注意しましょう。
有期労働契約の途中解除については、以下のページで詳しく解説しています。
有期雇用契約でも試用期間と判断される可能性がある
有期雇用として契約を結んでいても、実態が能力や適性を見定めるための期間であるならば、裁判では、有期雇用契約ではなく試用期間と認定される可能性があります。実際に、1年の有期雇用契約が結ばれていたにもかかわらず、採用時に無期雇用を前提とした説明がされていたことなどを理由に、その期間は試用期間と判断された裁判例もあります。
注意すべきなのは、試用期間と認定されると、契約期間満了による終了は認められず、解雇と同様の厳しい規制が適用される点です。
有期雇用契約として適切に対応しているつもりでも、試用期間と判断されれば法的な問題が生じかねません。試用期間かどうかは、契約書の内容だけでなく、採用時の説明など個別の事情を踏まえて判断されます。弁護士のアドバイスなどを参考にしながら、慎重に対応することが必要です。
有期雇用契約が試用期間と認定された裁判例
試用期間の代替として有期雇用契約を採用した裁判例では、「神戸弘陵学園事件」がよく知られています。この裁判では、期間雇用を試用期間の趣旨として締結しており、その判断について最高裁まで争われました。試用期間を有期雇用契約にしたいとお考えであれば、必ず確認しておくべき裁判例です。
事件の概要
私立高校Yに社会科担当の常勤講師として雇用された教諭Xは、1年間の有期雇用として契約を締結していました。その後、期間満了によって雇用契約終了と通告されましたが、採用時にYの理事長から1年間の勤務状態を見て雇用継続の判定を行うと説明を受けており、契約の実態は、単なる有期雇用ではなく試用期間であるとして訴えました。
裁判所の判断
平元(オ)854号・平成2年6月5日・最高裁第三小法廷・上告審・神戸弘陵学園事件
原審では、1年間の有期雇用契約と認められ、期間満了をもって契約は終了したと判断されています。しかし、最高裁は、雇用契約に期間を設けた趣旨や目的が、労働者の適性判断のためであり、期間満了時の契約終了について明確な合意があるといった事情が特にないのであれば、試用期間と判断すべきとしました。
また、契約終了について明確な合意があったかどうかについても、原審と最高裁では判断が分かれています。原審は、XとYが署名捺印した契約書に「契約期間は1年」とはっきりと定められていた点を重視しました。さらに、「契約期間が満了した場合は、解雇予告などを行うことなく、当然に退職となる」といった記載もあることから、期間満了による契約終了について、明確な合意があったと判断しています。
これに対し最高裁は、契約書の交付・署名捺印が雇用契約成立後であることや、当時のYの状況を照らし合わせると、契約書の内容が必ずしも適切に表現されていない可能性があるとし、契約終了についての明確な合意があったとまではいえないと判断しました。
ポイント・解説
本事案では、書面上、1年の有期雇用契約を締結しています。しかし、採用時に適性判断の期間であると伝えていること等、その採用経緯から実態上は試用期間であると判断されました。
試用期間であると認定されれば、有期雇用として期間満了で契約終了とすることはできません。本採用拒否として客観的に合理的な理由が存在し、その理由が社会通念上、本採用拒否とするのに妥当な理由であるのかという点で判断されます。
さらに本事案では、期間満了に伴う契約終了の明確な合意については、単にその旨を記載した契約書に署名捺印するだけでは認められない可能性についても示唆されています。契約期間について「一応」と表現したこと、「うちで30年でも40年でもがんばってくれ」と長期にわたる勤続を期待する発言なども判断材料としています。
試用期間の趣旨で有期雇用契約を結ぶことには、法的リスクがあることを踏まえて検討することが必要です。
有期雇用契約を締結する場合の実務上の注意点
試用期間を有期雇用契約として締結する場合、書面内容だけではなく、その実態や意図から試用期間と判断される可能性があることを理解しておく必要があります。その点を踏まえて、有期雇用契約を活用するときは、以下のポイントを押さえることが大切です。
- 雇用契約書への更新の有無の明記
- 契約期間満了により労働契約が終了する旨の合意
- 契約更新を行わない場合の解雇予告の必要性
雇用契約書への更新の有無の明記
期間満了により契約終了、つまり更新無しである旨が明記されていないと、自動的に契約終了とするのは難しいでしょう。
更新の有無が書面で曖昧な場合、実態に沿って判断することとなります。つまり、労働者が更新を期待する合理性や、同様の有期雇用契約を行っていた労働者の更新実績や社内慣行等を含めて総合判断となる可能性が高いでしょう。
また、有期雇用契約の場合には更新の有無および更新の基準を明示しなければいけない、という労基法上の義務があります。更新の有無を明示していなければ労働基準法違反となり、30万円以下の罰金刑となる可能性もあります。法改正によって、2024年4月から有期雇用契約の場合には、更新上限や無期転換申込機会、転換後の労働条件などの明示についても義務化されています。
この機会に雇用契約書の内容について、専門家を交えて確認・検討することをおすすめします。
契約期間満了により労働契約が終了する旨の合意
有期雇用として契約する以上、契約期間が満了となればその段階で労働契約が終了する点についてあらかじめ合意しておくことが必要です。合意については単に契約書面の一文として記載しておくのではなく、採用時からしっかりと説明の上で合意することが必要でしょう。
もし、有期雇用契約と判断された場合でも、契約終了が曖昧で更新の可能性があるように認識させてしまうと、労働者の更新への期待の合理性が認定され、雇い止めが無効となる可能性があります。
また、契約終了について合意する以上、期間満了後は会社が希望したとしても、労働者に継続して勤務してもらえないというリスクについても認識しておかないといけません。
契約更新を行わない場合の解雇予告の必要性
契約書に「契約は更新しない」と明記し、労働者とあらかじめ合意できていれば、雇止めの予告をせずに契約期間満了として雇用関係を終了することができます。
ただし、契約更新を3回以上繰り返している場合や、1年を超えて継続的に雇用している場合には、雇止め規制の対象となります。少なくとも契約期間満了の30日以上前の雇止め予告が必要となる点に注意が必要です。
また、たとえ有期雇用契約であっても、その目的が労働者の能力や適性の確認であると判断されれば、試用期間と評価される可能性があります。この場合、入社から14日を超えていれば、解雇予告が必要となります。30日前の解雇予告、または30日に不足する日数分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
試用期間と有期雇用に関してよくある質問
試用期間としての有期雇用契約では、どのくらいの契約期間を設けたら良いですか?
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試用期間として有期雇用契約を結ぶ場合、契約期間は1~6ヶ月程度とするのが一般的であり、長くても1年以内に抑えるべきでしょう。
試用期間の長さについて、法律上の上限はありませんが、試用期間はあくまで労働者の適性を測るための一時的な期間です。その間は雇用が安定しない状態が続くため、必要以上に長い試用期間を設けると、労働者に不安を与えるとして、公序良俗に反し無効と判断されるおそれがあります。試用期間は目的に見合った、合理的な長さにとどめることが必要です。
試用期間と有期雇用ではどちらの方が契約期間を延長しやすいですか?
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契約期間の延長だけを考えると、有期雇用の方が対応しやすいといえます。有期雇用は当事者の合意があれば更新や再契約が可能だからです。
ただし、更新回数や期間が重なると、雇止め法理が適用され、期間満了で終了できなくなるおそれがあります。また、無期転換ルールの対象となる場合もあるでしょう。一方、試用期間の延長には、就業規則での定めと合理的な理由が必要で、無制限な延長は認められません。延長が認められない場合は、通常の解雇として厳しく判断されるリスクがある点に注意が必要です。
試用期間の代わりに有期雇用契約をする場合、採用募集時の雇用形態はどうなりますか?
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契約が有期である以上、評価目的であっても、正社員ではなく契約社員として募集する必要があります。例えば、「有期契約社員(試用期間あり・正社員登用あり)」などと明示するのが一般的です。
ただし、契約社員募集は雇用が不安定な印象を与えやすく、応募が集まりにくい傾向があります。特に優秀な人材ほど、正社員採用に限定して求人を探すため、採用の間口が狭まるおそれがあります。人材確保の観点からすると、有期雇用を試用期間として用いる方法が適切か、慎重な検討が必要でしょう。
有期雇用終了後に正規採用とする場合、追加で試用期間を設けても良いですか?
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追加で試用期間を設けることは可能です。
有期雇用と無期雇用は別の契約であるため、無期雇用に新たな試用期間を設けることは禁止されていません。ただし、有期雇用の目的が労働者の適性の確認であった場合、試用期間と判断され、正規採用後の試用期間が「試用期間の延長」とみなされる可能性があります。
就業規則の定めや正当な理由がなければ延長は無効となり、通常の労働期間として扱われます。そうなると、解雇が認められる条件は一段と厳しくなります。弁護士に相談するなどして十分にご検討ください。
有期雇用契約をする労働者にも試用期間を設けることは可能ですか?
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有期雇用契約であっても、「契約期間1年、3ヶ月を試用期間」といった形で試用期間を設定できます。
ただし、有期雇用では、やむを得ない事情がなければ途中解約はできません。そのため、試用期間中であっても「能力が足りない」「協調性がない」といった理由だけで安易に本採用を見送ると、法的トラブルにつながるおそれがあります。
採用後に適性を見極めたい場合は、最初から3~6ヶ月程度の短い有期契約とし、その期間の評価を踏まえて更新を判断する方法が、より安全といえるでしょう。
試用期間や有期雇用に関するお悩みは労働問題に詳しい弁護士にご相談ください
有期雇用と試用期間はいずれも「期間を区切って雇用する」という点で似ているため、同じものと考えて運用してしまいがちです。しかし、両者は法的な性質が大きく異なり、それぞれに特有のリスクがあります。
お試し期間のつもりで有期雇用を設定すると、実態としては試用期間と判断され、想定外の法的トラブルに発展する可能性も否定できません。労働者の適性を見極める目的で、試用期間とするのか有期雇用とするのかは、メリットだけでなくリスクを踏まえた慎重な検討が欠かせません。
弁護士法人ALGには、企業側の労働法務に詳しい弁護士が多く在籍しています。試用期間や有期雇用についてお悩みがある場合は、ぜひ私たちにお気軽にご相談ください。
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執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士谷川 聖治
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
