みなし労働時間制とは|メリット・デメリットや残業代をわかりやすく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
みなし労働時間制とは、実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ設定した時間働いたものと扱う制度です。
みなし労働時間制は、「裁量労働制」と「事業場外みなし労働時間制」の2種類に分けられ、テレワークや外回り営業など多様な働き方に対応できる点が注目されています。一方で、適用条件や残業代の扱いを正しく理解していないと、違法となるリスクがある点には、注意が必要です。
本記事では、みなし労働時間制の仕組みや残業代の考え方、メリット・デメリットなどについて解説します。
みなし労働時間制とは
みなし労働時間制とは、実際に働いた時間に関係なく、一定の労働時間働いたものとみなす制度です。
この働いたとみなす時間を、「みなし労働時間」といいます。例えば、1日8時間と設定した場合、実際の労働時間が5時間であっても9時間であっても、8時間働いたものとみなして給与を計算します。
みなし労働時間制は、以下のような業務で導入されるケースが多いです。
- 業務の進め方や時間配分を、従業員の裁量に任せるのが効率的な業務
- 営業職など社外での活動が中心で、労働時間を把握することが難しい業務
ただし、みなし労働時間を超えて働かせた場合には、別途残業代の支払いが必要となります。
また、みなし労働時間制は、18歳未満の年少者や、請求があった妊娠中及び産後1年未満の妊産婦には適用できないため、ご注意ください(労働基準法60条、66条)。
みなし残業制(固定残業代制)との違い
「みなし労働時間制」と「みなし残業制」は、名称が似ているものの、内容はまったく別の制度です。
まず、みなし労働時間制とは、労働時間の正確な把握が難しい場合に用いられる制度です。実際に何時間働いたかにかかわらず、あらかじめ決めておいた時間働いたものとみなして、給与を計算します。
一方、みなし残業制は、残業の有無にかかわらず、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。
例えば、月給25万円の中に、月15時間分の残業代が含まれている場合、15時間以内の残業であれば、追加の残業代は発生しません。
両制度の詳しい違いについては、以下の表をご覧ください。
| みなし労働時間制 | みなし残業代制(固定残業代制) | |
|---|---|---|
| 概要 | あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度 | 一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う制度 |
| 主な目的 | 労働時間管理が困難な業務への対応、裁量を活かした柔軟な働き方の実現 | 残業代計算の負担軽減 |
| 超えた場合 | みなし時間を超えた分は、割増賃金の支払いが必要 | 固定残業時間を超えた分は、割増賃金の支払いが必要 |
| 適用職種 | 営業職や専門職、企画業務など、裁量が大きく、労働時間の把握が難しい業務 | すべての職種で導入可能 |
| 労働時間管理 | 実際の労働時間にかかわらず、一定時間働いたものとみなす | 実際の労働時間を管理する必要がある |
「みなし残業(固定残業代)制」についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
みなし労働時間制の種類
みなし労働時間制は、裁量労働制と事業場外みなし労働時間制の2種類に分けられますが、これらは以下の3種類にさらに細かく分けることができます。
- ①事業場外みなし労働時間制
- ②専門業務型裁量労働制
- ③企画業務型裁量労働制
これらの制度の対象となる業務について、表でご確認ください。
| みなし労働時間制の種類 | 対象になる業務 |
|---|---|
| 事業場外みなし労働時間制 | 会社の外で業務に従事しており、労働時間の算定が困難である業務 |
| 専門業務型裁量労働制 | 業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務 |
| 企画業務型裁量労働制 | 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析を行う業務 |
裁量労働制についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページも併せてご覧ください。
事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制とは、外回り営業や出張、在宅勤務など、会社の外で働くため実際の労働時間を把握しにくい場合に、あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。ただし、すべての社外業務に適用できるわけではありません。
厚生労働省は適用できないケースとして、以下をあげています。
- 複数人で外回りを行い、労働時間を管理する監督者が同行している場合
- 携帯電話などで使用者から随時指示を受けながら、労働している場合
- 事業場で、出発先や帰社時刻などの指示を受けた後、事業場外でそのとおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合
- 日報や日程表、IDカードの記録などから労働時間を確認できる場合
これらに該当すると、会社が労働時間を把握できる状況にあるため、この制度は適用できません。
導入する方法
事業場外みなし労働時間制を導入するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 労働者が、全部又は一部の労働時間について、事業場外で業務に従事していること
- 労働時間の正確な算定が難しいこと
つまり、たとえ社外で働いていても、労働時間を把握できる場合には、制度は適用できません。
制度を導入する際には、就業規則に内容を明記し、従業員へ周知することが必要です。さらに、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合は、36協定の締結・届出と、時間外手当の支払いも求められます。
| 労使協定 | 時間外労働手当 | |
|---|---|---|
| 所定時間分働いたとみなす場合 | 不要 | 不要 |
| 通常その業務を遂行するのにかかる時間分労働したとみなす場合 | 必要 | みなし時間による |
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、厚生労働省令が定めた下記の19の専門業務を行う労働者を対象とした制度です。労働時間の規定にとらわれず、あらかじめ労使協定によって定めた時間について労働したとみなすことができます。
- 新商品、新技術の研究開発
- 情報処理システムの分析、設計
- 新聞、出版の取材、編集、又は放送番組の制作のための取材、編集
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲーム用ソフトウェアの創作
- 証券アナリスト
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発
- 大学における教授研究(主として研究に従事するものに限る)
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
導入する方法
専門業務型裁量労働制を導入するには、対象業務やみなし労働時間、健康確保措置などを定めて、労使協定を結び、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
ただし、労使協定の締結は、あくまで制度を法律上使えるようにするための手続きにすぎません。
実際に制度を運用するには、就業規則に反映させて周知し、対象となる労働者一人ひとりから同意を得ることが必要です。
裁量労働制の導入方法についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、企業において企画や立案、調査、分析の業務を行う労働者を対象とした制度です。
あらかじめ決めた労働時間だけ働いたとみなされる点は専門業務型裁量労働制と同様ですが、導入手続きはより複雑です。
導入する方法
まずは労使委員会を設置し、対象業務の範囲などについて十分に話し合い、決議を行います。その決議内容については、労働基準監督署への届け出が必要です。あわせて、就業規則も更新し、従業員へしっかりと周知することが求められます。
さらに、制度を適用するためには、対象となる労働者ごとに個別の同意を得る必要があります。同意を取得するときは、みなし労働時間や健康確保措置などを記載した書面を用意し、署名・押印をしてもらう方法が一般的です。
みなし労働時間の算定方法
事業場外のみなし労働時間を算定するときには、通常の労働者の労働時間(所定労働時間)と、事業場外のみなし労働時間、内勤した時間を用いて計算します。
みなし労働時間制における労働時間の詳しい算定方法は、こちらの記事で解説しております。ぜひご覧ください。
みなし労働時間制の残業代
みなし労働時間制では、基本的に残業代は発生しません。ただし、次のようなケースでは残業代が発生することがあります。
- みなし労働時間が法定労働時間を超えたケース
- 深夜労働や休日労働をしたケース
これらのケースで残業代を支払わないと、労働者から請求を受けるおそれがあるため注意が必要です。
労働時間が法定労働時間を超えた場合
みなし労働時間制を適用していても、労働時間とみなす時間が法定労働時間を超えてしまっている場合には、超えた労働時間については残業代が発生します。
法定労働時間というのは、労働基準法によって定められている労働時間の上限のことで、基本的には「1日8時間、週40時間」とされています。
例えば、労働時間とみなす時間を1日9時間に定めてしまうと、法定労働時間上限の8時間を超えた1時間分については残業をした扱いとして時間外労働割増賃金の支払いが必要となります。
深夜・休日労働をした場合
みなし労働時間制が適用される労働者も、深夜労働や休日労働をさせる場合は残業代が発生することがあります。
そのため、基本的に、休日出勤した労働者や、深夜労働(午後10時~午前5時までの労働)をした労働者については、割増賃金を支払う必要があります。
みなし労働時間制を導入するメリット・デメリット
みなし労働時間制は、働き方の自由度を高める一方で、運用の仕方によっては思わぬ負担やトラブルにつながる可能性があります。そのため、便利な制度としてだけではなく、どのような点が利点で、どのような点に注意すべきかを理解しておくことが重要です。
以下では、従業員と企業の双方の視点から、メリット・デメリットについて解説します。
従業員側のメリット・デメリット
みなし労働時間制を導入した場合の、従業員側のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
時間に縛られず、自分の裁量で働き方を調整できるのが大きなメリットです。始業・終業時刻や休憩時間を柔軟に決められるため、仕事の進め方をコントロールでき、プライベートとの両立もしやすくなります。
また、実際の労働時間が短くても、みなし労働時間分の給与が支払われるため、効率よく働けば時間にゆとりが持てるのも利点です。
デメリット
みなし労働時間を超えて働いても、基本的に残業代が支払われない点には注意が必要です。
さらに、勤務時間の管理が個人に任されるため、自己管理が十分でないと長時間労働となりやすく、負担が大きくなるおそれもあります。
企業側のメリット・デメリット
みなし労働時間制を導入すると、企業には次のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
業務の進め方を従業員に任せることで、業務効率や生産性の向上が期待できます。
さらに、労働時間の管理、給与計算がシンプルになるため、負担軽減にもつながります。人件費をあらかじめ把握しやすいので、事業計画も立てやすくなるでしょう。
また、働き方の自由度が増すことでワークライフバランスが向上し、人材定着にもつながる点も魅力です。
デメリット
導入には労使協定の締結などの手続きが必要で、準備に手間がかかります。また、運用を誤ると労使トラブルや訴訟に発展するおそれがあり、制度が無効と判断されれば、未払い残業代の支払いリスクも生じます。
さらに、長時間労働につながる制度と誤解され、求職者から敬遠される可能性がある点にも注意が必要です。
みなし労働時間制に関する注意点
みなし労働時間制を導入するときに企業側が注意するべきこととして、以下があげられます。
- 適正な労働時間管理を行う
- 法定労働時間を超える場合は36協定が必要
- みなし労働時間制が違法と判断されるケースもある
適正な労働時間管理を行う
みなし労働時間制は実労働時間の把握が難しい業務に適用される制度ですが、労働者の労働時間はなるべく管理することが望ましいと考えられます。
そのために、労働者にヒアリングを行う等の方法によって、労働時間や労働時間帯の傾向を把握すると良いでしょう。
無理のない労働が行われていることを確認して、過度な長時間労働をしている場合には健康確保を図る必要があります。
法定労働時間を超える場合は36協定が必要
みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、36協定を締結しなければなりません。
36協定は、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)の範囲内であれば、基本的に締結する必要はありません。しかし、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、あらかじめ36協定を結び、労働基準監督署へ届け出る必要があります。これを怠ると、労働基準法違反となるためご注意ください。
36協定についてさらに詳しく知りたい方は、こちらのページをご覧ください。
みなし労働時間制が違法と判断されるケースもある
みなし労働時間制は運用方法を誤ると、違法と判断されるおそれがあります。特に次のようなケースに注意が必要です。
- 割増賃金を支払っていない
みなし労働時間が法定労働時間を超える場合や、深夜・休日に働かせた場合は、割増賃金の支払いが必要です。 - 労働時間を把握できるのに事業場外みなし労働時間制を使っている
社外勤務でも、管理者の同行やスマートフォンでの随時の指示などにより、労働時間を把握できる場合は、この制度は使えません。 - 裁量がないのに裁量労働制を使っている
上司の具体的な指示やマニュアル通りに働く業務では、裁量労働制は認められません。 - 実際の労働時間がみなし労働時間を大きく超えている
制度の適用が否定され、残業代の支払いが必要になる可能性があります。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
