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労働者性の判断基準

弁護士が解説する【労働者性の判断基準】について

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弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

一般的にいわれる「労働者」は、どのような判断によって「労働者」と呼ばれているのでしょうか?労働基準法9条では「事業又は事務所…に使用され…、賃金を支払われる者」と定められているのみで、詳細については明記されていません。そこで本記事では、どのような基準で「労働者」と判断していくのか、労働者の職種によって判断基準が異なるのか等について解説していきます。

労基法・労組法における「労働者性」の判断基準

労働者性の判断基準

本記事では、「労働基準法における労働者性」に焦点をあて、詳しく解説していきます。
「労働組合法における労働者性」については、以下のページをご覧ください。

労働組合法上の労働者性

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「使用従属性」に関する判断基準

労働基準法における労働者に該当するためには、①使用者の指揮監督下で労働の提供をし、②労務の対償を支払われる者である必要があります(使用従属性)。
以下で、使用従属性における考慮要素を解説していきます。

「指揮監督下の労働」

使用従属性における考慮要素として、指揮監督下での労働の有無が挙げられます。これは、指揮監督下において労働が行われているかどうか、すなわち他人に従属して労務を提供しているかどうかを判断基準として定めています。その判断基準は、以下の4つに分類できます。

(1)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
使用者からの具体的な仕事依頼、業務従事の指示等に諾否の自由があれば、使用者と労働者が対等な関係となるため、指揮監督関係が否定される要素となります。
一方、諾否の自由がなければ、指揮監督関係を推認させる重要な要素となります。

(2)業務遂行上の指揮監督の有無
業務内容・遂行方法について使用者から指揮命令を受けているかどうかは、指揮監督関係を認める要素です。
また、命令や依頼等によって通常の業務以外の業務を行うことは、使用者の指揮監督を受けているとの判断を補強する要素となり得ます。
一方、労務の範囲が広範囲であること、労務の性質上専門性が高いこと等は、指揮監督を受けていることを否定する要素になります。

(3)場所的時間的拘束性の有無
使用者が勤務場所、勤務時間の指定や管理をしている場合、指揮監督関係を認める基本的要素となります。
ただし、業務の性質上、勤務場所や勤務時間が指定されるケースもあり、その場合、勤務場所や勤務時間が拘束されていることのみをもって指揮監督下にあったとはいえないため、注意が必要です。

(4)代替性の有無(指揮監督関係の判断を補強する要素)
他の労働者が代わって労務を提供すること、本人が補助者を使うことが認められている等、労務提供の代替性が認可されている場合は、指揮監督関係を否定する要素になります。

「報酬の労務対償性」

労働の結果による較差が少ない、➁欠勤するとそれ相応の報酬が控除される、③残業をした際に通常の報酬とは別の手当が支給される等、報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には、使用従属性が補強されます。

また、給与所得として源泉徴収されていること、雇用保険、厚生年金保険、健康保険の保険料が徴収されていること等も報酬の労務対償性を補強する要素となり得ますが、これらの事項は当事者において比較的容易に操作可能であるため、労務対償性を補強する際には、その経緯や他の従業員の取扱い等も考慮される可能性があります。

「労働者性」の判断を補強する要素

「労働者性」が問題となる事例については、以上の要素のみでは「使用従属性」の判断が困難な場合があります。そういった場合は以下の3つの要素も勘案して判断していきます。

事業者性の有無

(1)機械・器具の負担関係
労働者は生産手段を持たないことが通例ですが、自己所有のトラックを利用する傭車(ようしゃ)運転手等は自己所有の機械・器具を利用して労務を提供する場合があります。自己所有する機械・器具が高価であれば、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」としての性格が強くなり、「労働者性」を弱める結果になり得ます。

(2)報酬の額
報酬額が、業務内容が同じ正規労働者に比べて高額だった場合、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」に対する代金と認められやすく、「労働者性」を弱める結果になり得ます。

専属性の程度

専属性の有無は、「労働者性」の有無に関する判断を補強するものと考えられています。「労働者性」の補強を要するものとして、以下の3つのケースが挙げられます。

  • ●兼業禁止の定めがある等、他社の業務に従事することが制度上制約されるケース
  • ●時間的余裕がなく、事実上、他者の業務に従事することが困難であるケース
  • ●報酬に固定給部分があり、その金額が生計を維持し得る程度のものである等、報酬に生活保障的な要素が強いケース

その他

その他に、「労働者性」を肯定する補強事由として以下のものがあります。

  • ●採用、委託等の選考過程が正規労働者の採用の場合とほぼ同様である
  • ●労働保険の適用対象としている
  • ●服務規律を適用している
  • ●退職金制度、福利厚生を適用している 等

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企業の経営に携わる者の労働者性

例えば、株式会社の取締役は会社と委任関係にあり、会社の業務執行に関する意思決定を行う、または自ら業務執行を行う立場にあることから、これらを前提にすると取締役は指揮監督する立場であり、労働者には該当しません。もっとも、取締役といっても、実質的に経営者としての役割を担っている者から、取締役とは名乗るものの上司の指揮命令を受けている者まで、実態は様々です。以下にて、企業の経営に携わる者の労働者性についてみていきましょう。

取締役の労働者性

一口に取締役といっても、その実態は様々です。そのため、取締役という立場をもって一概に労働者性を否定することはできません。取締役の「労働者性」の判断をする際には、上述した要素以外にも、取締役就任の経緯、業務執行権限の有無・内容、他の取締役からの指揮監督の有無・内容、報酬の性質等が考慮されます。

執行役員の労働者性

執行役員の「労働者性」についても同様に、業務や権限の内容、取締役からの指揮監督の有無・内容、報酬額の増加程度等をふまえて判断されることになります。

個人請負型就業者の労働者性

外交員、傭車運転手、フランチャイズの店長、建設業の一人親方等は委任契約や請負契約の形式をとっていますが、その契約形式のみによって「労働者性」を否定することはできず、その実態において使用従属性が認められるか否かを判断することになります。

具体的判断

例えば、過去の判例では、特定の会社の業務に専従的に従事する傭車運転手が、自己所有するトラックのガソリン代等の金銭を負担したこと、業務遂行に必要な指示以上の指示命令は受けなったこと、場所的・時間的拘束性がゆるやかであったこと、報酬が出来高払いであり、事業所得扱いをしていたこと等を指摘して「労働者」に該当しないと、「労働者性」を否定しました(最高裁 平成8年11月28日第一小法廷判決、横浜南労基署長(旭紙業)事件)。

一方、「労働者性」が肯定された事例もあります。

映画撮影をしていた映画撮影技師(カメラマン)Aは、Bと撮影業務に従事する契約に基づいて映画撮影をしていましたが、撮影中に亡くなりました。これに関して亡Aは、Bへの専属性は低く、Bの服務規律が適用されていないこと、場所的・時間的拘束性が高く、他の業務に従事することは不可能であったこと、労務提供の代替性がなかったこと等を総合すると、亡Aは使用者との使用従属関係の下に労務を提供していたものと認めるのが相当であり、労働基準法9条の「労働者」に該当するとされ、労働者性が肯定されました(東京高等裁判所 平成14年7月11日判決、新宿労基署長(映画撮影技師)事件)。

このように、個人請負型就業者の労働者性の有無は「労働者性の判断基準」をもとに「実質的な労働者性の有無」をもって判断されていると考えられます。

「労働者」でない者への保護

労使間に典型的な労働契約や労働者性の存在が認められなくても、実質的な使用従属性が認められる場合には、労働契約法の適用を受けるケースがあります。実際に、労働契約関係があったといえなくとも、実質的な使用従属関係があったと認められ、使用者は安全配慮義務を負っており、その違反があったと判断された裁判例があります(大阪高等裁判所 平成20年7月30日判決)。

専門的裁量的労務供給者の労働者性

専門的裁量的労務供給者とは、医師や弁護士、一級建築士等の高度な専門的能力、資格または知識を有した者を指します。この者が、特定事業主のためにその事業組織に組み込まれ、基本的な指揮命令の下で労務を提供し報酬を得る関係にある場合、たとえ個々の労務遂行において逐一具体的な指揮命令を受けていなかったとしても、使用従属性が認められ、「労働者」といえます。以下において、実際に労働者性について争われた事例をご紹介します。

研修医の労働者性

【最高裁 平成17年6月3日第二小法廷判決】

事件の概要
臨床研修を受けていた研修医が過労死したことで、遺族が研修先である病院に対して、研修医は労働基準法上の労働者に該当するにもかかわらず、最低賃金を下回る賃金しか支払っていなかったとして、最低賃金との差額の支払いを請求した事案です。
裁判所の判断
裁判所は、研修医が医療行為等に従事する際は、病院の開設者のための労務の遂行に当たり、また、病院の開設者の指揮監督下での行為と評価できる限り、研修医は労働基準法9条所定の労働者に該当するべきとしました。したがって、最低賃金法の労働者にも該当するものと考えられるため、研修医に対しても最低賃金と同額の賃金を支払う義務を負っていたとされ、最低賃金との差額請求を認めました。
ちょこっと人事労務

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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