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変形労働時間制とは?1ヶ月・1年・1週間単位の違いをわかりやすく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

変形労働時間制とは、業務量などに合わせて1日の労働時間を調整できる制度です。

業務によっては、季節による繁閑の差があったり、月初は暇で月末は忙しかったりするケースがあります。
変形労働時間制を採用すれば、忙しい日には10時間働き、そうでない日は6時間に抑えるといった調整が可能です。

業務効率アップや残業時間の削減など様々なメリットがあるため、導入企業は増えていますが、どこから残業代が発生し、どのように計算するのか疑問に思う方は多いかと思います。

そこで、本記事では、変形労働時間制の種類や計算方法、導入手続き、メリット・デメリットなどについて解説していきますので、ぜひご一読ください。

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、わかりやすくいうと、労働時間を月・年単位で調整することで、忙しい日や週に労働時間が増えたとしても、時間外労働として扱わない制度をいいます。
具体的なケースで見ていきましょう。

事例①
1ヶ月の法定労働時間:週40時間(特別措置対象事業場ではない一般の法定労働時間)、その月の歴日数:28日(毎年2月)、上限時間:160時間

変形労働時間制を導入した場合

通常は1日8時間・週40時間を超えた時点で残業代が発生しますが、この事例の変形労働時間制では、1ヶ月の労働時間をトータルで160時間以内に収めれば、原則として残業扱いにはなりません。1日6時間勤務、1日10時間勤務で週休3日といった勤務形態を取ることも可能です。

労働時間のルールは、以下のページでも解説しています。

労働時間について

変形労働時間制のメリット・デメリット

変形労働時間制は、理想的な運用ができれば労使双方にとって利益のある制度です。しかし、労使双方にとって負担となるおそれがあるため、導入する前に十分な検討が必要です。
変形労働時間制を導入することのメリットとデメリットについて、以下で解説します。

メリット

変形労働時間制のメリットとして以下が挙げられます。

●残業時間の削減
通常の勤務体系だと、「暇なのに終業時刻まで帰れない」といった問題が起こり得ます。
変形労働時間制を導入すれば、忙しい時期は1日10時間働き、暇な時期は6時間に抑えるといった調整ができます。これにより、残業時間が減り、残業代の削減につながります。

●ワークライフバランスの充実
閑散期の労働時間を短くすることで、労働者は退勤後の時間を自由に使うことができます。家族と過ごす時間や趣味に費やす時間が増え、ストレスも減るでしょう。

●会社のイメージアップにつながる
「ワークライフバランスが実現できる」「柔軟な働き方ができる」といった点は、採用の場面で大きなアピールポイントとなります。新規採用の応募者が増え、優秀な人材も確保できるかもしれません。

デメリット

変形労働時間制のデメリットとして、以下が挙げられます。

●繁忙期の労働時間が長くなる
閑散期に早く帰れる分、繁忙期の拘束時間は長くなります。また、長時間働いても所定労働時間を超えなければ残業扱いにならないため、労働者のモチベーションが下がるおそれがあります。

●人事担当者の手間が増える
変形労働時間制は、日や週によって所定労働時間が異なるため、通常の勤務体系よりも残業時間の計算が複雑になります。また、導入時には就業規則の変更や労使協定の締結など様々な手続きが必要です。

●不公平感が生まれる
特定の部署だけで変形労働時間制を導入している場合、他部署と就業時間が異なり、不公平感が生まれる可能性があります。また、他部署との連携が必要になる場面では、変形労働時間制の効果が薄れてしまう可能性があります。

変形労働時間制の種類と残業時間の計算方法

変形労働時間制は、次の期間を単位とします。

  • 1ヶ月単位
  • 1年単位
  • 1週間単位

これらの期間の変形労働時間制を導入するためには、定められた手続きを行わなければなりません。また、それぞれに労働時間の上限が定められています。
それぞれの違いについては、下の表でご確認ください。

労働時間の上限

1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制の場合、該当月における1週間あたりの平均労働時間が40時間を超えないよう、1日の労働時間を設定していきます。

また、1ヶ月の所定労働時間の合計が、上限を超えないようにすることも必要です。この上限は、1ヶ月の日数によって下表のように異なります。

1ヶ月の日数 法定労働時間(40時間) 法定労働時間(44時間)
28日 160.0時間 176.0時間
29日 165.7時間 182.2時間
30日 171.4時間 188.5時間
31日 177.1時間 194.8時間

就業規則や労使協定で定める際は、上記のルールを守るようにしましょう。
なお、1週間の法定労働時間を44時間にできるのは、一定の要件(労働者の人数や業種)をクリアした特例措置対象事業場のみとなります。

1ヶ月単位の残業時間の計算方法

1ヶ月単位の変形労働時間制では、「1日」「1週間」「1ヶ月」それぞれで算定した時間の合計を“残業時間”とみなします。

①1日ごとの基準 所定労働時間が8時間を超えている場合
→所定労働時間を超えた分はすべて“残業時間”
所定労働時間が8時間以内の場合
→8時間を超えた分が“残業時間”
②1週間ごとの基準
(①で残業時間にカウントした部分は含まない)
所定労働時間が40時間を超えている場合
→所定労働時間を超えた分はすべて“残業時間”
所定労働時間が40時間以内の場合
→40時間を超えた分が“残業時間”
③1ヶ月全体の基準
(①、②で残業時間にカウントした部分は含まない)
月ごとの法定労働時間(1ヶ月の日数により異なる)を超えた分はすべて“残業時間”

したがって、①~③の合計が、当該期間における“残業時間”となります。

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制とは、1ヶ月以上1年以内の期間を対象に、1週間あたりの労働時間の平均を40時間以内に収めるものです。
例えば、1~3月の所定労働時間を「1日10時間」にし、4~6月を「1日6時間」にするといった調整が可能です。

会社カレンダーを作成し、1年間全日の労働時間を決めることもできますが、1年間を数ヶ月単位で区切り、対象期間ごとに労働時間を設けることも可能です。この場合、当該期間が始まる30日前までに、従業員の同意を得た上で周知する必要があります。

なお、1年単位では対象期間が長いため、労働時間や労働日数に最高限度があり、「1日10時間・週52時間」「1年間280日」「連続勤務日数6日(特定期間中は12日)」といった上限が設けられています。また、1年間の所定労働時間にも、以下の上限があるため、適切な管理が必要です。

日数 法定労働時間
365日 2085.7時間
366日(うるう年) 2091.4時間

1年単位の残業時間の計算方法

1年単位の変形労働時間制では、「1日」「1週間」「1年」それぞれで算定した時間の合計を“残業時間”とみなします。

①1日ごとの基準 所定労働時間が8時間を超えている場合
→所定労働時間を超えた分はすべて“残業時間”
所定労働時間が8時間以内の場合
→8時間を超えた分が“残業時間”
②1週間ごとの基準
(①で残業時間にカウントした部分は含まない)
所定労働時間が40時間を超えている場合
→所定労働時間を超えた分はすべて“残業時間”
所定労働時間が40時間以内の場合
→40時間を超えた分が“残業時間”
③1年全体の基準
(①、②で残業時間にカウントした部分は含まない)
年間の法定労働時間(1年間の日数により異なる)を超えた分はすべて“残業時間”

したがって、①~③の合計が、当該期間における“残業時間”となります。

なお、1年単位の変形労働時間制では、“1日の労働時間の上限”や“1週間の労働時間の上限”など厳格に決められています。上限を超えないよう、導入前にしっかり確認しましょう。

1週間単位の非定型的変形労働時間制

「日によって閑散の差が激しく、事前に労働時間を設定するのが難しい事業場」については、1週間単位で労働時間を調整することが認められています。
ただし、小規模の事業場に向けた制度ですので、すべての会社が導入できるわけではありません。導入できるのは、従業員数が30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店です。

1週間単位の非典型的変形労働時間制を実施する場合、その週が始まるまでに、1週間の所定労働時間を書面で通知する必要があります。

1週間単位の非定型的変形労働時間制の残業時間の計算方法

1週間単位の非定型的変形労働時間制では、「1日」「1週間」それぞれで算定した時間の合計を“残業時間”とみなします。

①1日ごとの基準 所定労働時間が8時間を超えている場合
→所定労働時間を超えた分はすべて“残業時間”
所定労働時間が8時間以内の場合
→8時間を超えた分が“残業時間”
②1週間ごとの基準
(①で残業時間にカウントした部分は含まない)
所定労働時間が40時間を超えている場合
→所定労働時間を超えた分はすべて“残業時間”
所定労働時間が40時間以内の場合
→40時間を超えた分が“残業時間”

例えば、以下のケースで考えてみます。

月曜:所定労働時間8時間、実労働時間9時間→1時間残業
火曜:所定労働時間6時間、実労働時間7時間→残業時間はゼロ
水曜:所定労働時間10時間、実労働時間10時間→残業時間はゼロ
木曜:所定労働時間7時間、実労働時間10時間→2時間残業
金曜:所定労働時間9時間、実労働時間10時間→1時間残業

1週間の実労働時間は46時間ですが、1日ごとにカウントした残業時間は除外するため、この週の残業時間は2時間(46時間-4時間=42時間)となります。

変形労働時間制の残業時間に関する注意点

就業規則で定めた労働時間を変更することはできません。
例えば、就業規則で所定労働時間が“7時間”と定められている日に“8時間”働いた場合、1時間分の残業代が発生します。
このとき、翌日の勤務を1時間減らして相殺したことにするといった対応は認められません

変形労働時間制の導入の流れ

変形労働時間制を導入する際は、以下の手順で進めましょう。

  1. 従業員の勤務実態を調査
  2. 対象者や変形期間の決定
  3. 就業規則の作成や労使協定の締結
  4. 労働基準監督署への届出
  5. 社内への周知
  6. 適切な運用と残業代の計算

1年単位・1週間単位では、労使協定の締結と届出が必須ですが、1ヶ月単位では就業規則等による規定でも可能となっています。
また、1年単位では、「1日10時間・週52時間」、1週間単位では「1日10時間」など所定労働時間の上限が設けられています。また、残業時間の計算方法も変わるため注意が必要です。

各手順の詳細や注意点は、以下のページをご覧ください。

変形労働時間制の導入手順や注意点

変形労働時間制での年次有給休暇の取扱い

変形労働時間制では、有給休暇の際の賃金の計算方法に注意が必要です。
計算方法として次の3つがあります。

  • ①所定労働時間働いた場合に支払われる通常の賃金
  • ②平均賃金
  • ③健康保険法の標準報酬額に相当する金額

日給・月給制では、働く時間が日々違っても同じ賃金額が支払われ、有給休暇を取った日も同じですが、時給制では、計算方法により違いが生じます。

①通常の賃金を採用し、時給制である場合は、計算は簡単ですが、有給休暇取得日の所定労働時間によって、支給額が変わります。そのため、所定労働時間が長い日に、従業員が有給を申請する可能性があるでしょう。

一方、②平均賃金や③標準報酬額を採用し、時給制の場合は、日々の所定労働時間が異なっても支給額は変わりません。ただし、②は平均賃金の計算、③は労使協定の締結など手間もかかります。

計算方法ごとにメリット・デメリットがあるため、企業の事情に合った計算方法を選択するのが良いでしょう。

有給休暇の取扱いは、以下のページでも解説しています。

休暇・年次有給休暇

その他の労働時間制度との違い

変形労働時間制に似た制度として、次に挙げるような制度があります。

  • ①フレックスタイム制
  • ②裁量時間労働制
  • ③シフト制

それぞれの特徴やメリット・デメリットを知ったうえで、どの制度を導入するか決めると安心でしょう。以下でそれぞれ説明します。

フレックスタイム制

フレックスタイム制は、一定期間の総労働時間を守れば、労働者が出退勤時刻を自由に調整できる制度です。
変形労働時間制との違いは、労働時間を会社が決めるか、個人が決めるかという点です。
変形労働時間制は、残業時間の削減や効率アップを目的に、会社が1日の所定労働時間を決定します。

一方、フレックスタイム制は、労働者が自由に労働時間を決められるため、ワークライフバランスの実現に向いているといえます。

フレックスタイム制の仕組みは、以下のページで詳しく解説しています。

フレックスタイム制の仕組み

裁量労働制

裁量労働制とは、労働時間や時間配分について、労働者がすべて自由に決められる制度です。出退勤時刻も自由で、遅刻・早退という概念もありません。
柔軟性が高いのがメリットですが、その分高い専門性や成果が求められるのが基本です。

変形労働時間制も労働時間を柔軟に調整するという点は同じですが、裁量権が会社にあるという点で異なります。また、法定労働時間のきまりや、残業時間の発生の有無などにおいても違いがあります。

裁量労働制の詳細は、以下のページをご覧ください。

裁量労働制の仕組み

シフト制

シフト制とは、いくつかの勤務パターン(早番・遅番など)が決められており、労働者の都合に合わせて“交代制で”勤務する制度です。

変形労働時間制は、業務量に応じて“柔軟に”労働時間を調整できるのが特徴です。1日の中で、働いている者が入れ替わるシフト制とは異なり、それぞれの労働者の労働時間が日によって変動します。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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