ベースアップとは|定期昇給との違いや注意点をわかりやすく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
ベースアップによって賃金が上がることは、労働者にとって魅力的であるだけでなく、会社にとっても優秀な人材の獲得など様々な効果が期待できます。
ただし、ベースアップは人件費の上昇につながるだけでなく、経営が悪化しても賃金の引き下げは難しいため、実施するかどうかは慎重な判断が必要です。
本記事では、ベースアップを行う義務や流れ、ベースアップを行うときの注意点などをわかりやすく解説します。
目次
ベースアップとは
ベースアップ(ベア)とは、賃金の基準額(賃金表)そのものを改定することによって、労働者の基本給を一律で引き上げることをいいます。
個人の勤続年数や等級、成績などに左右されず、改定される賃金表が適用される従業員全員に一律で適用されるのが特徴です。
ベースアップの幅については、一般的に毎年2~3月頃に行われる「春闘」で決定する企業が多いです。
春闘とは、労働組合と企業の経営者の間で、“賃上げ”や“労働条件の向上”について交渉する場のことです。企業の業績や今後の見通しを踏まえ、ベースアップの金額や比率について話し合います。
なお、労働組合がない企業の場合、当年度の業績や社会情勢などを踏まえ、独自に賃上げ率を決めることとなります。
ベースアップの実施義務
基本的には、ベースアップの実施に法的義務はないと考えられるため、実施しなくても問題はないと考えられます。業績が振るわない場合や、今後の見通しが悪い場合は、ベースアップを行わないという判断も可能です。
ただし、就業規則にベースアップを毎年実施する旨が定められている場合は、ベースアップを行わなければ違法となる可能性があります。
なお、一度引き上げた賃金を下げるのは難しいため、就業規則に記載するかどうかは慎重な判断が必要です。
長期的なベースアップに不安がある場合は、基本給に手当を上乗せするなどの代替策を講じるのも一案と考えられます。
例えば、子育て支援金を支給したり、施設の割引利用を導入したりすることで、ベースアップをせずとも労働者の満足度を高めることができます。
ベースアップを実施する目的
ベースアップの目的として、労働者への利益還元と物価上昇に対応するための調整が挙げられます。
例えば、社会情勢の影響で物価が高騰している場合、賃金額が変わらないと支出だけが増え、労働者が自由に使えるお金が減ってしまいます。
この点、ベースアップでは、個人の評価や成績を反映して行われるものではないため、全労働者の生活を公平にサポートすることが可能です。
また、春闘の方針決定には「連合(日本労働組合総連合会)」や「産業別組合」も関与するため、ベースアップは社会全体で行う大規模な賃上げともいえます。
ベースアップと定期昇給の違い
「ベースアップ」は、企業の業績を踏まえ労働者の賃金を一律で引き上げる方法です。
一方「定期昇給」とは、個人の勤続年数や成果を考慮し、年1回など定期的に基本給を引き上げる制度です。そのため、労働者によって昇給額も異なるのが一般的です。
また、定期昇給の判断基準は企業によって異なるため、必ずしも全員に実施する必要はありません。
しかし、就業規則において、毎年必ず昇給させる旨規定されている場合には、昇給しないと違法と判断される可能性があるため注意が必要となります。
従来の終身雇用制度の下では、勤続年数が長いほど昇給額も上がるのが一般的でした。しかし、近年は成果主義が広まっていることもあり、より個人の成績や評価を重視する企業が増えています。
定期昇給制度については、以下のページでも詳しく解説しています。
ベースアップの種類と計算方法
ベースアップには、基本給に一定額を上乗せする定額方式と、同じ割合で昇給させる定率方式の2種類があります。それぞれどのような方法なのか、次項で詳しくみていきます。
➀定額方式
定額方式とは、全員の基本給に一定額を上乗せする方法です。
例えば、全員の基本給を1万円引き上げるようなケースです。この場合、基本給が25万円の人は「26万円」に、基本給が35万円の人は「36万円」に昇給します。
昇給額が同じなので、分かりやすく公平性を確保できるのがメリットです。
ただし、基本給が低い人ほど昇給率が高くなるため、新入社員や若手社員に有利な制度といえるでしょう。
②定率方式
基本給をベースに、一定率を上乗せする方法です。例えば、以下のようなケースです。
【昇給率3%のケース】
-
基本給25万円の場合
25万円+(25万円×3%)=25万7500円(7500円の昇給) -
基本給35万円の場合
35万円+(35万円×3%)=36万500円(1万500円の昇給)
基本給が土台になるため、勤続年数が長い人や等級・職位が高い人に有利な方法といえます。
なお、定率方式では労働者間の賃金格差が大きくなりやすいため、導入時は労働者の理解を得られるようしっかり説明することが重要です。
ベースアップを実施するメリットとデメリット
メリット
-
労働者のモチベーションがアップする
賃金アップの機会があれば、労働者のモチベーションが向上することが期待できます。特にベースアップは企業の業績に左右されるため、社員一丸となり「業績アップに貢献しよう」という動きが高まると期待できます。 -
優秀な人材の確保につながる
求人票に「ベースアップあり」と記載があれば、採用活動でアポールポイントとなります。他社との差別化も図れるため、優秀な人材を確保しやすくなることが期待されます。
また、ベースアップは全社員が対象のため、新卒採用者にもメリットが大きいといえます。
デメリット
-
人件費が増える
一度ベースアップを行うと、元の給与水準に戻すことは困難です。そのため、長期的な人件費増加につながるリスクがあります。たとえ業績が悪化した場合でも、一度引き上げた給与を下げるのは難しいため注意が必要です。 -
一部の労働者が不満を抱く
ベースアップに個人成績は反映されないため、実績のある労働者ほど不満を抱き、その結果優秀な労働者が離職してしまう可能性もあります。
また、勤続年数が長い社員も若手社員と同じ基準で昇給するため、勤続年数が長い社員の不満を招く可能性があります。
ベースアップを実施した企業の現状
| 年度 | 集計組合数 | ベースアップ | |
|---|---|---|---|
| 金額 | 引き上げ率 | ||
| 2021 | 1498 | 1602円 | 0.55% |
| 2022 | 2213 | 1864円 | 0.63% |
| 2023 | 3186 | 5983円 | 2.12% |
| 2024 | 3639 | 10694円 | 3.56% |
ベースアップによる賃金引き上げ率は上昇傾向にあり、2015年の集計開始以降初めて3%を超える結果となりました。
また、上記の表以外でも、「ベースアップ」と「定期昇給」を合わせた平均賃上げ率は5.1%と公表されており、1991年以来の高水準となっています。
2020年以降、新型コロナウイルスの流行により賃上げ率は停滞していましたが、2023年からは大幅な上昇をみせています。
もっとも、従業員数300人未満の中小企業については、大企業に比べて賃上げ率が低いため、賃上げできる環境を整えることが今後の課題とされています。
ベースアップを実施する際の注意点
就業規則や労働協約の変更が必要
ベースアップを導入する場合、就業規則や労働協約の変更が必要です。
具体的には、賃金表の改訂を行うことになります。賃金表とは、勤続年数や等級ごとの賃金額を定めた表のことで、「1級〇〇円、勤続5年以上○○円」などと書かれています。
この賃金表に、社内で決定した定率(昇給率)又は定額(昇給額)を反映し、ベースアップ後の基本給を記載しましょう。
また、就業規則や労働協約を変更するには、過半数労働組合または過半数代表者労働者の同意を得て、所轄の労働基準監督へ届け出る必要があります。加えて、変更後の内容は必ず労働者に周知しましょう。
就業規則の作成や労働協約の締結については、以下のページで詳しく解説しています。
初任給のベースアップと既存社員への配慮が必要
新卒採用者の初任給を上げることは、採用活動をスムーズに進めるために有効です。
そのため、新卒者や若手社員の基本給を重点的に引き上げるベースアップの方法(重点配分方式)を採る企業も少なくありません。この方式であれば、既存の労働者の昇給幅が小さくなるため、人件費の増加を抑えることができます。
ただし、“新卒者の賃金”が“既存の社員の賃金”を上回らないよう配慮する必要があります。
新卒者の賃金の方が高額になっても違法性はありませんが、既存の社員は不満を抱く可能性が高いです。
そのため、新卒採用者のベースアップを行う場合は、既存社員への説明や代替措置などを行うのが望ましいでしょう。
一度引き上げた給与を下げることはできない
一度引き上げた給与を下げること(ベースダウン)は、労働条件の不利益変更にあたるため、基本的に労働者から個別に同意を得たうえで行う必要があります(労働契約法8条)。
しかし、ベースダウンに同意する労働者は少ないため、実際に給与を引き下げるのは難しいといえるでしょう。
そこで、作業工程の見直しなどによって業務効率を高め、無駄を省くことが重要です。
コストが削減できれば、その分を人件費に回せるため、ベースアップの原資確保にもつながります。
また、人件費の増加を抑えるための制度設計も検討する必要があります。
例えば、賞与の支給月数を減らし、年収に占める賞与比率を下げることで、人件費の急騰を抑えることが1つの対応策として考えられます。
最低賃金に合わせて賃金の見直しが必要
最低賃金の引き上げが行われた際は、ベースアップを基本とした賃上げ対応が求められます。
最低賃金とは、事業主が労働者に支払うべき「最低限の賃金額」です。労働者の賃金を時給換算し、最低賃金を下回っている際は早急に引き上げる必要があります。
しかし、最低賃金に抵触する者(給与額が少ない者)だけを賃上げの対象にすると、賃金テーブルのバランスが崩れ、ベテラン社員の不満を招くおそれがあります。
そのため、ベースアップのような全労働者を対象とした賃上げを実施するのが望ましいといえます。
最低賃金制度の詳細は、以下のページで解説しています。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

