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定期昇給制度の導入方法|就業規則に規定すべき事項

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

昇給は、単に給与が上がるだけではなく、従業員のモチベーションアップにもつながります。モチベーションが上がると、業務に対する姿勢も変わり、生産率が上がるといった効果も期待できます。こうした効果が期待できる、従業員を昇給させる代表的な制度が「定期昇給制度」です。

定期昇給制度を導入する場合には、就業規則の記載が必要となる等、手続面のルールがあります。また、昇給の仕組みが不明確であると、従業員に不信感を持たれ、かえって業務へのモチベーションが低下することにもなりかねません。

本記事では、昇給について、また定期昇給制度を導入するにあたっての注意点等を解説していきます。

定期昇給制度とは

定期昇給制度とは、会社の定めたタイミングで定期的に昇給する機会が与えられる制度です。
昇給の機会が与えられるタイミングは会社によって様々ですが、年齢や勤続年数に応じた「年功序列」の考え方が給与の算定に反映されるケースが一般的であり、多くの企業で定期昇給制度が採用されています。

定期昇給制度には、従業員の生活が安定し、勤続年数を長くするために人材が定着しやすくなるメリットがありますが、若手社員の不満が生じやすい等のデメリットもあります。

より詳しい内容については、以下のページをご覧ください。

定期昇給について

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定期昇給制度の導入方法

定期昇給制度を導入するには、就業規則を改定し、所轄の労働基準監督署へ届け出て、従業員に周知する必要があります。
就業規則を改定して定期昇給制度を記載しなければならないのは、昇給に関する事項は、就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)となっているからです。

また、就業規則を改定した場合には、所轄の労働基準監督署へ届け出て、従業員に周知しなければ有効になりません。

なお、労働条件を不利益変更するには、基本的に労働者の個別の同意が必要になりますが、定期昇給制度を導入するだけであれば不利益変更にはならないと考えられます。

就業規則に規定すべき事項

就業規則に昇給に関する規定があれば、昇給の機会を設けることは会社の義務となります。昇給に関する事項は、従業員にとっても、使用者にとっても、非常に重要な賃金にかかわる労働条件にも該当するため、就業規則に明確に定めて、従業員に周知しておくことが大切です。

賃金に関する就業規則の変更は、重要な労働条件の変更となりますので、以下の事項を定める必要があります。

  • 昇給の要件
  • 昇給の時期
  • 昇給額又は昇給率

昇給に関する規定が不明確な場合、従業員からの不平不満の原因になるおそれがあります。
各事項について、掘り下げて解説していきます。

昇給の要件

昇給の要件として定められるのは、主に従業員の年齢や勤続年数であり、会社の業績等も考慮されます。昇給の要件を定めた場合には、その要件を就業規則等に記載しておくことで、従業員への周知につながります。

ただし、就業規則に定めた昇給の要件にかかわらず、入社当初に交わした労働契約等において昇給が確約されていれば、必ず昇給をさせる必要があります。

昇給の要件に関する裁判例

【大阪地方裁判所 昭和59年7月18日判決、社会福祉法人大阪暁明館事件】

事件の概要

当該事案は、社会福祉法人の病院である被告に勤務していた原告らが、昭和56年度から58年度の間、給与規定所定の昇給がされていないとして、昇給額、それを基礎とした住宅手当および57年度の夏季・冬季各一時金の支払いを求めた事案です。

なお、被告の就業規則の付属協定である給与規定には昇給の要件が定めてあり、実質的に以下の要件のみで運用されていました。

  • ①前回の昇給時から1年経過していること。
  • ②前回の昇給時からの期間に3ヶ月以上欠勤したことがないこと。
  • ③技能が著しく不良もしくは勤務怠慢等と評定されないこと。
裁判所の判断

裁判所は、被告が毎年、定期昇給を実施し、上記②③の昇給欠格要件に該当するとして定期昇給を留保された者がいなかったことから、労働者に上記①及び②の要件があるときは、使用者が上記③の欠格要件を主張、立証しない限り、使用者は労働者を昇給させるべき責務を負っているとしました。

また、被告の給与規定は就業規則の付属規定であるため、従業員だけでなく被告自身も法的に拘束するとして、原告らの請求を認容しました。

昇給の時期

昇給時期は、年1回(4月)や年2回(4月、10月)としている企業が多いです。
各従業員の昇給時期をまとめて、特定の月に限定するのは、決算や新卒の入社に合わせること等が理由として挙げられます。また、賃金が変更されるタイミングを統一することで、企業側が労務管理をしやすくなるという点も挙げられます。

なお、定期昇給以外にも、業績の好調時や昇進など必要性が生じた場合には、臨時で昇給させることが可能です。また、会社の業績の悪化が著しい場合等には、定期昇給を行わないということもありえます。

昇給額と昇給率

昇給額 月給の平均が前年の月給の平均と比較し、いくら増加したのかを示す金額。
昇給率 昇給前と昇給後を比較し、給与が何%上がったかの割合。

昇給額と昇給率は、以下の式で表すことができます。

「昇給前の給与×昇給率=昇給額」

例えば、給与が25万円で昇給率が1%だった場合には、上記の式に当てはめると以下のようになります。

「25万円(昇給前の給与)×1%(昇給率)=2500円(昇給額)」

この結果により、昇給額は2500円となるため、昇給後の給与は25万2500円となります。
なお、昇給率は以下の式で確認できます。

「昇給後の給与÷昇給前の給与-100%=昇給率」

例えば、1年目の給与が20万円、2年目の給与が20万5000円だった場合には、上記の式に当てはめると以下のようになります。

「20万5000円÷20万円-100%=2.5%」

以上により、2.5%が昇給率です。

近年は、「年功序列」の見直しが進んでいることもあり、昇給額や昇給率を一律に定めていない会社が増えています。また、昇給額や昇給率を定めず、単に「毎年4月に定期昇給を行うことがある」等と規定した場合には、昇給は努力義務に留まります。

昇給の平均額

2020年の大企業、中小企業の平均額については、春季生活闘争の結果から、以下のとおりになっています。

大企業の平均昇給額
月給 平均昇給額
20万円 4240円
25万円 5300円
30万円 6360円

中小企業の平均昇給額
月給 平均昇給額
20万円 3860円
25万円 4825円
30万円 5790円

平均昇給率は以下のとおりです。

大企業:2.12%
中小企業:1.93%

上記から従業員の数が多い大企業ほど平均昇給額が高く、従業員の数が少なくなると、平均昇給額も低くなっていくことが分かります。また、中小企業は経済の影響を受けやすく、時期によっては昇給率が不安定になることが、昇給額が低くなる原因の一つです。

定期昇給制度の規定例

定期昇給制度の就業規則への規定は、降給の規定と併せて行うと良いでしょう。
具体的には、以下のような規定が考えられます。

就業規則
(昇給・降給)第●条

1 会社は、従業員の勤務状況や経営環境等を考慮して、原則として毎年4月に賃金改定(昇給又は降給)を行う。
2 会社は、従業員の勤務状況や経営環境等を考慮して、臨時の賃金改定(昇給又は降給)を行う場合がある。

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定期昇給時の通知義務

昇給時の通知は、必須でもなければ法的義務もありません。労働基準法で定められた労働条件の通知義務は、「労働者の雇入れ時」だけです。

しかし、給与は、基本的に使用者と従業員の合意に基づいて変更するものですから、昇給の際に通知をする方が望ましいといえます。

昇給の事実や額を通知することは、従業員のモチベーションを上げる効果につながり得ます。そのため、昇給をする場合には、従業員に対して、書面などで昇給額を示すのが良いといえます。

定期昇給制度を導入する際の注意点

定期昇給制度を導入する場合には、「毎年必ず昇給を行う」と受け取られないようにしましょう。不安であれば、定期昇給を行わないケースについて定めることも可能です。

なお、昇給してから3ヶ月が経過すると、社会保険料の報酬月額変更届の提出が必要になります。昇給の直後ではないので、忘れないように注意してください。

「定期昇給なし」とする規定について

「会社の業績が著しく悪化した場合」等の、定期昇給を行わない事情を定めることは可能です。むしろ、従業員に定期昇給の期待がある場合において、漠然とした理由で定期昇給を行わなければモチベーションへの悪影響も考えられます。そのため、理由は明確に定めておくのが望ましいと考えられます。

ただし、あらゆる理由で定期昇給の見送りが認められるわけではないため、不合理な理由で定期昇給を行わないのは無効とされるリスクがあります。例えば、有給休暇や産休・育休の取得、セクハラ・パワハラの被害の相談等を理由として定期昇給を見送るのは、不利益取扱いの禁止を定める各種の法令に違反するものとして無効とされるリスクが高いと考えられます。

定期昇給による社会保険料の改定

定期昇給により固定給が増えると、社会保険料額も増額されます。ここで注意するべきなのは、実際に変更となるのは、昇給後3ヶ月分の給与を平均し、標準報酬月額に対して一定の変動があったときだということです。

加えて、年金事務所へ「報酬月額変更届」を提出しなければなりません。ただし、変更届を提出する必要があるのは、以下の要件をすべて満たすときになります。

  • 昇給または降給等によって固定的賃金が変更した場合
  • 固定的賃金が変更した月以後継続した3ヶ月間に支給された報酬の平均額が、これまでの標準報酬月額と2等級以上の差が生じた場合
  • 変更月から3ヶ月間の報酬支払いの基礎日数が、いずれも17日以上である場合

定期昇給制度を廃止する際の注意点

定期昇給制度の廃止は、従業員にとって不利益な変更に該当するため、原則として就業規則を変更するための従業員の合意が必要となります。従業員の同意が得られない場合には、従業員に生じる不利益の程度や就業規則を変更する高度の必要性や代償措置の有無等を総合考慮することになります。

このように、定期昇給制度を導入する場合、事後的に会社の業績が悪化したからといって簡単には廃止できません。そのため、定期昇給制度の導入にあたっては、会社の業績の見通し等、長期的な視点を持って検討していく必要があるといえます。

定期昇給制度の廃止についての詳細は、以下のページをご覧ください。

定期昇給の停止・廃止について
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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