労働安全衛生法とは|目的や義務一覧・改正内容をわかりやすく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働安全衛生法は、職場で働く人の安全と健康を守るための法律です。
2025年5月の改正では、メンタルヘルス対策の強化や、個人事業者への安全配慮義務の拡大など、企業に求められる安全衛生対策が大きくアップデートされました。これらの改正は、2025年から2027年にかけて段階的に施行されています。
この記事では、労働安全衛生法の目的や企業に課される義務、違反時の罰則について解説します。最新の改正ポイントについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
目次
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法は、職場で働く人の安全と健康を守るため、1972年に制定された法律です。安衛法(あんえいほう)とも呼ばれています。
この法律にもとづき、企業には労災を防ぐための対策、健康診断や安全衛生教育、リスクアセスメントの実施などが義務づけられています。事故や健康被害を防ぎ、誰もが安心して働ける職場を実現するための、経営に欠かせない基本ルールです。
正しく理解し遵守することは、従業員の安心につながるだけでなく、企業の信頼性を高めることにも直結します。
労働安全衛生法の目的
労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を守り、快適な職場環境を形成することを目的として制定された法律です。
この法律の目的を達成するために、事業主は以下のような取り組みを行う必要があります。
- 労働災害を防止するための危害防止基準の確立
- 責任体制の明確化
- 自主的活動の促進
労働安全衛生法が制定された背景
労働安全衛生法が制定された背景として、高度経済成長期に急増した労働災害があげられます。
建設業や製造業が勢いよく拡大していた当時、現場では事故が相次ぎ、多くの労働者が命の危険や健康被害にさらされていました。十分な安全対策が追いつかない状況の中で、労働者を守るための法整備が強く求められ、1972年に労働安全衛生法が制定されました。
この法律は当時の主要産業の実態を踏まえて作られ、企業が守るべき安全基準や健康管理のルールが明確に定められています。施行後は企業の安全管理体制が強化され、労働災害による死亡者数は大きく減少しました。
現在も法改正を重ねながら、働く人の安全と健康を支える重要な法律として機能しています。
労働基準法との違い
労働安全衛生法と労働基準法は、どちらも労働者を守るための法律ですが、その役割が異なります。
労働基準法は、労働時間や休憩、休日、賃金など、働くうえで最低限守られるべき労働条件を定めた法律です。労働者が無理なく働き、安定した生活を送れるようにすることを目的としています。
一方、労働安全衛生法は、職場でのケガや病気を防ぎ、安全で健康に働ける環境を整えることを目的とした法律です。企業には労働災害の防止措置や安全衛生管理体制の整備など、より専門的な対策が義務づけられています。
もともと安全衛生の規定は労働基準法の一部でしたが、高度経済成長期に労働災害が急増したことを受け、独立した法律として労働安全衛生法が制定されました。
労働安全衛生法にもとづく命令
労働安全衛生法のルールは、法律の条文だけで完結しているわけではありません。
現場で具体的に何をすべきかについては、政令(労働安全衛生法施行令)や、省令(労働安全衛生規則)といった命令で細かく定められています。これらには作業環境の基準や安全対策、健康管理など、実務に則した手続きが盛り込まれています。
法律本体だけでなく、これらの命令まで正しく理解しておくことが、安全で働きやすい職場づくりには欠かせません。
労働安全衛生法施行令
労働安全衛生法施行令とは、労働安全衛生法を職場で実際に運用するために、内閣が定めた政令です。どの機械や物質が規制対象となるか、産業医を選任すべき事業場など、事業者が守るべき基本的な安全衛生体制を定めています。
主な規定として、以下があげられます。
- 総括安全衛生管理者や安全管理者、衛生管理者、産業医などを置くべき事業場
- 安全委員会や衛生委員会を設ける必要がある事業場
- 労働安全衛生法の規制対象となる機械設備や有害物
- 職長など現場指導者への教育が義務づけられる業種
- 特定の免許がなければ従事できない就業制限業務
- 作業環境の測定が必要な作業場
- 健康診断が義務づけられる有害な業務
- 健康管理手帳が交付される業務など
労働安全衛生規則
労働安全衛生規則は、労働安全衛生法や施行令を確実に実行するために、厚生労働省が定めた具体的なルールです。法律で規定された文言を、より具体的な内容として定めています。
保護具を備える義務や設備の点検事項、健康診断や長時間労働者への面接指導の内容、化学物質の取り扱いなど、事業者が守るべきポイントが体系的に整理されています。
企業は労働安全衛生法と合わせてこの規則を確認し、日々の安全衛生管理に反映させることが重要です。
労働安全衛生法の対象者と適用除外
労働安全衛生法における労働者と事業者の定義は以下のようになっています。
- 労働者:職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者
- 事業者:事業を行う者で、労働者を使用するもの
この定義により、ほぼすべての労働者が労働安全衛生法の対象者となります。
ただし、以下の労働者については、労働安全衛生法の適用から除外されています。
- 同居親族のみの事業に使用される者
- 家事使用人
- 鉱山における保安に従事する者
- 船員法の適用を受ける船員
- 公務員の一部
労働安全衛生法で定める義務一覧
労働安全衛生法における企業の責務として、次のような対応を行うべきと定められています。
- ①管理者・責任者・産業医などの選任
- ②安全衛生委員会の設置
- ③安全衛生教育の実施
- ④労働災害の防止措置
- ⑤リスクアセスメントの実施
- ⑥労働者の健康保持・増進のための措置(健康診断やストレスチェックの実施)
- ⑦快適な職場環境の形成
①管理者・責任者・産業医などの選任
労働者が安全で衛生的な環境で働くためには、一人ひとりの注意だけでは不十分で、職場全体として労災を防ぐ体制を築くことが欠かせません。そのため、事業主には、安全衛生管理体制を整備したうえで、安全や健康の確保を担う管理者を選任し、適切に指示・監督する責任があります。
具体的には、事業場の規模や業種に応じて、以下のような管理者を選任する必要があります。
| 名称 | 選任要件(常時使用する労働者数) |
|---|---|
| 総括安全衛生管理者 | 建設業、林業、鉱業、運送業、清掃業:100人以上 製造業、電気業、水道業、機械修理業など:300人以上 その他の業種:1000人以上 |
| 安全管理者 | 建設業や製造業、通信業、運送業など:50人以上 |
| 衛生管理者 | 50人以上 |
| 安全衛生推進者 | 建設業や製造業、通信業、運送業など:10人~49人 |
| 衛生推進者 | 安全衛生推進者の対象業種以外:10人~49人 |
| 産業医 | 50人以上 |
産業医の選任義務について詳しく知りたい方は、こちらの解説をご覧ください。
②安全衛生委員会の設置
労働者の安全と健康を守るため、一定規模以上の事業場では、安全委員会や衛生委員会を設置することが義務づけられています。設置が必要となるのは次の事業場です。
【安全委員会を設置すべき事業場】
- 建設業、林業、鉱業、製造業や運送業の一部業種など:常時50人以上
- 上記以外の安全管理者の選任が必要な業種:常時100人以上
【衛生委員会を設置すべき事業場】
業種を問わず常時50人以上
安全委員会では労働災害の防止について、衛生委員会では健康障害の防止について調査や話し合いを行い、その内容を事業者に意見として伝えます。両委員会を別々に設ける代わりに、「安全衛生委員会」として一本化することも認められています。
企業に求められる安全衛生管理体制について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
③安全衛生教育の実施
安全衛生教育は、義務づけられている教育と、努力義務とされている教育に分けられます。
【義務づけられている教育】
- 雇い入れたときの教育
- 作業内容を変更した場合の教育
- 厚生労働省が定めた危険または有害な業務に従事する際の教育
- 職長や労働者を指導・監督する立場にある者への教育
【努力義務とされている教育】
- 安全管理者等労働災害を防止するための能力向上を図る教育
- 危険または有害な業務に従事する者に対する安全衛生教育
- 健康教育
教育が必要なタイミングとして、次のものが挙げられます。
- 雇入れ時
- 作業内容変更時
- 安全衛生水準向上の必要があるとき
また、次の対象者には教育が必要とされています。
- 特別の危険有害業務従事者
- 危険有害業務従事者
- 職長等
パート・アルバイト等の時短勤務者に対しても、安全衛生教育を実施する必要があります。
安全衛生教育について、さらに詳しく知りたい方は以下のページを併せてご覧ください。
④労働災害の防止措置
事業主は、労働者の危険や健康障害の発生を防ぐため、さまざまな措置を講じる必要があります。代表的な措置として、危険物・有害物に関する規制があり、次のことが義務づけられています。
- 一定の危険物について製造や使用を禁止すること
- 危険物が含まれている旨の表示をすること
- 一定の危険物を含む材料等について、含まれている危険物の内容を表示すること
また、以下の施行令や規則において、必要な措置が定められています。
- クレーン等安全規則
- 特定化学物質健康障害予防規則
- 高気圧作業安全衛生規則
- 事業所衛生基準規則
- 粉じん障害防止規則など
また、労働災害が発生してしまった場合には、二次災害や再発を防ぐため、速やかに原因調査及び被害の拡大防止措置をとることが重要です。
事業主に求められる対応は、以下のページでも解説しています。
⑤リスクアセスメントの実施
労働災害を防止し、労働者の健康被害を防ぐためには、リスクアセスメントが欠かせません。
リスクアセスメントとは、化学物質やその製剤の持つ危険性や有害性を洗い出し、そのリスクを見積もったうえで、事故を未然に防ぐための対策を講じることをいいます。
実施は努力義務とされていますが、職場の安全水準を高めるためにも行うのが適切です。また、一定の有害な化学物質については、リスクアセスメントの実施が法定の義務となっており、より適切な安全管理が求められています。
リスクアセスメントについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
⑥労働者の健康保持・増進のための措置
労働者の健康管理は、事業主の責務のひとつです。定期健康診断の実施はもちろんのこと、メンタルヘルス対策や過労の防止にも努めなければなりません。
近年、慢性的な長時間労働や過労死、うつ病などのメンタル不調が問題視されています。それらの問題を是正するため、労働安全衛生法では、事業主に次のような措置を義務付けています。
- 健康診断の実施
- ストレスチェックの実施
なお、メンタルヘルス対策について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
健康診断の実施
使用者は、労働者の健康状態を守るため、医師による健康診断を実施することが義務付けられています(安衛法66条)。対象となる労働者は常時使用する労働者であり、無期雇用の労働者や1年以上の期間の契約をしている労働者等です。
健康診断の結果は労働者本人に通知するだけでなく、労働基準監督署に報告しなければなりません。
労働者は、基本的に会社が指定した医療機関において健康診断を行います。また、労働者が50人以上いる事業所では、産業医を選任したうえで、健康診断を実施する必要があります。
健康診断の実施義務については、下記のページで詳しく解説しています。
ストレスチェックの実施
常時50人以上の労働者を使用する企業では、年1回、産業医や保健師によるストレスチェックを実施することが義務付けられています。
ストレスチェックとは、労働者のストレスの程度を把握し、メンタル不調を未然に防ぐための制度です。また、結果を労働者に通知し、現在どれほどのストレスを抱えているか自覚させることも目的のひとつです。
なお、ストレスチェックの結果、「高ストレス者」と判定された労働者は、医師の面接指導を受けることができます。本人から申し出があった場合、事業主は速やかに面接指導を実施しなければなりません。
ストレスチェックの詳しい内容は、以下のページで解説しています。
⑦快適な職場環境の形成

事業者は、労働者の健康管理だけではなく、職場の環境に関しても安全・衛生に保つよう努めなくてはいけません。
快適な職場環境をつくるための措置として、以下のようなものが挙げられます。
- 作業環境の改善
労働者が快適で働きやすい作業環境にするために、不快と感じないような空気環境や、外部からの騒音が遮断されている音環境等を整えます。 - 作業方法の改善
労働者の心身の負担を軽減するために、不自然な姿勢や高い緊張状態が続く作業、高温・多湿の場所での長時間の作業、ひたすら荷物を運搬する作業等は作業方法の改善を図ります。 - 疲労回復施設・設備の設置
作業による労働者の心身の疲労回復を図るために、休憩室やシャワー室、運動施設などをなるべく設置します。 - その他の施設・設備
快適な職場環境をつくるために、トイレや洗面所、更衣室、食堂、給湯設備などを、清潔で使いやすいように維持します。
【2025年・2026年】労働安全衛生法改正のポイント
2025年5月14日に労働安全衛生法が改正され、段階的に施行されています。
主な改正点は以下のとおりです。
- 個人事業者の安全衛生対策の強化
業種を問わず、労働者や個人事業者が混在する作業場所を管理する者に対して、自らと請負人が行う作業間の連絡調整等の必要な措置を義務付けました。 - メンタルヘルス対策の推進
従業員50人未満の事業場でも、ストレスチェックと高ストレス者への面接指導が義務化されました。 - 化学物質による健康障害防止の強化
通知事項が変更された場合のSDS(安全データシート)の再通知義務や罰則の導入など、化学物質管理が強化されました。 - 機械等による労災防止の促進
ボイラーなど特定機械の審査・検査の一部が民間機関でも行えるようになりました。 - 高年齢労働者の労災防止
高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善などが、事業者の努力義務となりました。
改正の概要は厚労省のリーフレットでも確認できます。過去の改正については、以下の記事をご覧ください。
労働安全衛生法に違反した場合の罰則
労働安全衛生法に違反した場合、事業主には刑罰が科される可能性があります。罰則の対象となる行為や規定されている罰則については表をご確認ください。
| 違反内容 | 罰則 |
|---|---|
| 健康診断の未実施 | 50万円以下の罰金 |
| 安全衛生教育の未実施 | 6ヶ月以下の懲役、又は50万円以下の罰金 |
| 産業医の未選任 | 50万円以下の罰金 |
| 衛生委員会の未設置 | 50万円以下の罰金 |
| 疾病者の就業禁止違反 | 6ヶ月以下の懲役、又は50万円以下の罰金 |
| 書類の保存義務違反 | 50万円以下の罰金 |
また、安全衛生法には「両罰規定」が定められています。そのため、違反行為を行った者を雇っている場合には、事業主も罰則を受けることになります(安衛法122条)。
これは、事業主は雇っている労働者を指揮監督する立場にあり、その違反行為を防止する責任があると考えられるためです。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
