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個別労働紛争における民事訴訟手続きについて

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者と会社の間で個別労働紛争が発生した場合、円満に解決するには交渉によって和解することも有効です。しかし、交渉ではお互いが感情的になったり、和解条件で合意を得られなかったりと様々なリスクも想定されます。

話し合いで解決できず、それでも自身の要求を通すためには、最終的には訴訟で争うしかありません。訴訟では裁判所が最終判断を下すため、合意がなくとも確実な解決が可能です。

とはいえ、「裁判は大げさではないか」「進め方がわからない」などご不安も多いでしょう。そこで本記事では、個別労働紛争における訴訟の流れや注意点について詳しく解説します。訴訟を検討している方や、訴訟を提起されそうな方は、ぜひ参考になさってください。

個別労働紛争とは

個別労働紛争とは、個々の労働者と事業主の間で発生する、労働問題に関する紛争のことです。つまり、労働者と事業主間の労働トラブルということです。主に労働条件や職場環境をめぐる紛争が多くなっています。

個別労働紛争は民事上の問題ですので、基本的に当事者間で自主的に解決するのが望ましいとされています。そのため、まずは当事者だけで話し合う任意交渉や、第三者を挟んで話し合うADR・労働審判を行い、合意を目指す必要があります。どうしても解決しない場合は、最終的に訴訟で争うというのが通常の流れです。

訴訟以外の解決手続きについては、以下のページをご覧ください。

個別労働紛争解決手続

民事訴訟とは

民事訴訟とは、私人間の民事的な紛争を、最終的に裁判所の判決によって解決する手続きです。当事者の意見が食い違ったり、合意に至らなかったりした場合に行われるのが基本です。

裁判官は、当事者双方の主張や提出された証拠の内容を考慮し、判決を決定します。ただし、訴訟の途中で話し合いによる和解が成立するケースも少なくありません。

民事訴訟は、当事者のいずれかが管轄裁判所に申し立てることで開始されます(請求額が140万円以下であれば簡易裁判所に申し立てることができ、140万円を超えるときは地方裁判所に申し立てます)。

また、請求額が60万円以下の場合、より簡易的な少額訴訟を行うことも可能です。

民事保全手続き

訴訟を提起する場合、あらかじめ民事保全手続きをとることができます。民事保全手続きとは、訴訟で判決が出るまでの間に当事者に不利益が生じないよう、裁判所が暫定的な処分を下す手続きです。個別労働紛争の場合、例えば解雇の無効を訴える労働者が、訴訟中の生活費を確保するため会社に賃金の支払いを求めるケース等が挙げられます。

その他、将来的な権利の実現を保全するため、財産の差し押さえ等を行うケースもあります。

民事保全手続きの詳細は、以下のページで解説しています。併せてご覧ください。

個別労働紛争における民事保全手続きについて

民事訴訟のメリット

民事訴訟を行うメリットには、以下のようなものがあります。

  • 紛争の終局的な解決ができる
    訴訟では最終的に裁判所が判決を下すため、紛争を終わらせることができる可能性が高いです。また、判決に当事者間の合意は不要なので、主張や意見が食い違っていても解決することが可能です。
  • 適正な金額で解決できる
    紛争の内容によっては、労働者が高額な慰謝料や損害賠償金を請求してくる可能性があります。特に社内いじめやパワハラの場合、怒りに任せて法外な金額を求めてくることもあるでしょう。
    この点、裁判官は客観的な証拠や過去の裁判例に基づいて判断をしますので、適正な金額で解決することが可能です。
  • 強制執行ができる
    訴訟で確定した判決をもとに、強制執行を申し立てることができます。そのため、確定判決の内容を相手が守らない(金銭を支払わないといった)場合、強制的に相手の財産を差し押さえて金銭等を回収することができます。

民事訴訟のデメリット

一方、民事訴訟には以下のようなデメリットもあります。

  • 時間がかかる
    労働紛争における訴訟は、申立てから終了まで1年~1年半かかるのが平均です。この点、労働審判やADRは数ヶ月で終了するのが一般的ですので、早期解決を望む方に訴訟は不向きといえるでしょう。
  • 費用がかかる
    訴訟には、申立手数料や郵便料金等の訴訟費用がかかります(最終的には敗訴者が負担します)。
    また、訴訟の手続きを進める際は弁護士に依頼するのが一般的ですが、弁護士費用は訴訟費用に含まれないため、勝敗を問わずご自身が負担しなければなりません。
  • 外部に公開される
    訴訟の様子や内容は、外部に公開されます。そのため、紛争の内容によっては会社のイメージ低下につながるリスクもあるでしょう。
  • 労働者との対立が悪化する 訴訟では最終的に勝ち負けを決めるため、労使間の関係が悪化するおそれがあります。そのため、解決後の雇用継続が困難になる可能性もあります。

法人の訴訟追行権限

当事者を代理して訴訟を追行できる(訴訟上の手続きを行うことができる)のは、弁護士のみと定められています(民事訴訟法54条1項)。よって、民事事件の当事者は、基本的に弁護士以外を代理人とすることはできません。

ただし、法人の訴訟代理人については別途規定があります。これは、会社が当事者の場合、その支配人が会社に代わって訴訟を追行できるというものです(会社法11条1項)。

また、代理人の権限としては、委任を受けた事件における反訴・参加・強制執行・仮差押えと仮処分に関する訴訟行為・弁済の受領と幅広く認められています(民事訴訟法55条1項)。

ただし、会社の支配人を代理人にする場合、支配人という肩書だけでは認められません。商業登記簿に支配人として登録されていることや、実質的に支店等の一切の営業権限を有していることが必要です。

訴訟の準備

訴訟では、どれだけ有効な主張をして裁判所に認めてもらえるかがポイントとなります。そこで、訴訟前には以下の準備を徹底しましょう。

  • 事実関係を整理する
    訴状や準備書面の作成前に、事実関係の整理を行います。具体的には、紛争に至った原因や経緯、労働者の言動等を時系列で整理しましょう。また、書面には事実のみを正確に、かつ端的に書くことが重要です。
  • 証拠を揃える
    証拠を裏付ける客観的な証拠を揃えます。例えば、解雇の有効性を争うのであれば、労働者の問題行為が分かるメールや戒告書、賃金について争う場合は勤怠記録やタイムカードの打刻履歴等が証拠になりえます。
  • 証人を選ぶ
    証人尋問の前に、こちらの主張をサポートする証人を決定します。当事者の意見に食い違いがある場合や証拠が不十分の場合、証人尋問は重要なポイントですので、事件の争点や経緯を詳しく知っている人物を選びましょう。また、証人が本番で緊張しないよう、事前にリハーサルをしておくと良いでしょう。

民事訴訟手続きの流れ

日本の訴訟は三審制がとられており、第一審の判決に不服があっても控訴・上告を提起することで3回まで審理を受けることができます。これは、慎重な審理を行い、判決の誤りを防ぐことを目的としています。

第一審

第一審は、原告が訴状を提出することで開始されます。訴状の提出先は、管轄裁判所(請求額が140万円以下であれば簡易裁判所に提出することもでき、140万円を超える場合は地方裁判所)となります。また、当事者が法人の場合、法人登記事項全部証明書の添付も必要です。

裁判所は、訴状に不備がないか確認後、被告に対して第1回口頭弁論期日の呼出状等を送付します。その後は、事案にもよりますが複数回の期日や証拠調べを経て、最終的に裁判所が判決を下すことになります。

判決に不服がある場合、当事者は判決の取消しや変更を求め、上級の裁判所に控訴を申し立てることができます。

なお、労働関係訴訟の第一審における審理期間は、14~16ヶ月が平均です。また、上訴率も50~60%と、通常の民事訴訟よりも長期化する傾向があります。

控訴審

第一審判決に不服がある場合、高等裁判所に控訴を申し立て、再審を請求します(第一審が簡易裁判所だった場合、控訴審は地方裁判所に申し立てます)。

なお、控訴が認められる期間は、第一審判決正本が送達された日の翌日から2週間以内と決められています。また、控訴状や法人登記全部事項証明書等も改めて提出する必要があります。

  

控訴審では、控訴人が不服を申し立てた範囲内で第一審判決の内容を審理し、不服の正当性について判決が下されます。この点、審理をすべてやり直すわけではないので、第一審よりも短期間で終了するのが一般的です。労働紛争における控訴審の期間は、約6ヶ月が平均となっています。

上告審

控訴審に不服がある場合、最高裁判所に上告を申し立て、再審を請求します(控訴審が地方裁判所だった場合、上告審は高等裁判所に申し立てます)。

控訴審判決正本が送達された日の翌日から2週間以内に、上告状や法人登記全部事項証明書等を改めて提出する必要があります。

ただし、上告では事実関係の確認は行わず、法律問題に関する審理を行うのが基本です。よって、上告の内容は以下の2つに限られています。

  • 上告の提起
    控訴審の判決に憲法違反や法律違反があることを理由とする不服申立て
  • 上告受理の申立て
    控訴審の判決に、最高裁判所の判例(ない場合は高等裁判所の判例)と相反する判断があること、又はその他法令の解釈に関する重要な事項を含むことを理由とする不服申立て

判決の効力

決められた期間内に当事者が不服申立てを行わなければ、判決が確定します。判決確定後は、訴訟の焦点だった権利義務関係や法律関係が確定するため、原則として、その内容について再度争うことができなくなります。

また、判決には執行力があるため、相手方が義務を履行しないときは裁判所に対して強制執行の申立てを行うことができます。

なお、判決に仮執行を認める文言が記載されている場合、判決確定前であっても強制執行の申立てが可能です(ただし、相手方が不服申立てをした場合、強制執行の手続きが中止されることがあります)。

 

その他、判決の確定によって、時効の再進行や短期消滅時効の延長、参加的効力といった付随的な効力も発生します。

訴訟の終了

訴訟は、判決以外によって終了することもあります。具体的には以下のケースです。

  • 訴えの取下げ
    申立人は、判決が出る前であればいつでも訴訟を取り下げることができます。その場合は訴訟が終了し、初めから訴訟がなかったとみなされます。 ただし、被告がすでに準備書面の提出等を行っていた場合、取下げには被告の同意が必要です。
  • 請求の放棄・認諾
    請求の放棄とは、原告が自らの請求について理由がないと認めることです。
    一方、請求の認諾とは、被告が原告の請求が正しいと認めることをいいます。
    期日や弁論準備手続きの中で、口頭又は書面でこれらの意思表示がなされた場合、訴訟は終了します。
  • 訴訟上の和解
    訴訟中に、争点である権利義務について当事者が和解し、訴訟が終了することです。

このうち、請求の放棄・認諾、裁判上の和解については、調書が作成されます。調書には確定判決と同一の効力があるため、その内容について原則として再び争うことはできません。

裁判所による和解の勧試

訴訟上の和解は、当事者同士が争点について譲歩し合い、和解を成立させて訴訟を終了する手続きです。判決確定前であれば、いつでも行うことができます。

また、裁判所は、訴訟係属中いつでも当事者に和解を勧試する(促す)ことができます(民事訴訟法89条)。

和解が成立すればより迅速で柔軟な解決ができるため、実際に裁判官が当事者へ和解を勧試するケースは多いです。また、民事訴訟全体のうち、30~40%は和解で終了するといわれています。

なお、訴訟上の和解は、当事者が出廷して裁判官の面前で行われるのが基本です。これは、意思確認を誤り、間違った和解調書が作成されるのを防ぐためです(ただし、当事者が遠方に住んでおり出廷が難しい場合、書面によって行うこともあります)。

裁判上の和解の効力

和解には、「訴訟上の和解」と「訴え提起前の和解」の2つがあります。訴え提起前の和解とは、法的な争いはあるものの、当事者の合意が見込める際に、裁判所の関与のもとで和解を成立させる手続きです。

また、2つの和解を合わせて裁判上の和解といいます。

裁判上の和解が成立すると、合意内容をもとに和解調書が作成されます。和解調書には確定判決と同一の効果があるため、相手が調書の内容を守らない場合には強制執行を申し立てることが可能になります。

強制執行の申立て

確定判決や和解調書(債務名義)に記載された義務を履行しない相手には、強制執行を行うことができます。強制執行では、相手の給与や財産を差し押さえて金銭を回収したり、建物の明渡しや物の引渡しを強制的に行ったりすることができます。

ただし、強制執行は自動的に行われるものではないので、裁判所に申立てを行う必要があります。また、申立て前には以下の手続きが必要です。

  • 債務名義の正本を用意する
  • 債務名義の執行分付与を申請する(強制執行ができる旨の文言を付与してもらう)
  • 債務名義の送達証明を申請する(相手に債務名義の送達を依頼したうえで、その証明書を取得する)

これらの書類と共に、当事者目録や請求債権目録、申立手数料(収入印紙)等を裁判所に提出することで、申立ては完了します。

民事訴訟の費用

民事訴訟を行うには、訴訟費用がかかります。訴訟費用は最終的に敗訴者が負担しますが、申立手数料と郵便切手代は、申立て時に一旦申立人が支払います。また、証人の旅費日当等も訴訟費用に含まれます。

このうち郵便切手代は裁判所によって異なりますが、申立手数料は訴額(請求額)に応じて決まっており、訴額が高いほど申立手数料も高額になります。具体的には、訴額が100万円以下の部分については10万円ごとに1,000円、100万円を超え500万円以下の部分については10万円ごとに2,000円といった具合に加算されます。

ただし、労働審判から訴訟に移行した場合、労働審判の申立て費用との差額を納めることになります。

一方、裁判手続きを弁護士に依頼した費用(弁護士費用)は訴訟費用に含まれないため、当事者それぞれが負担するのが基本です。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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