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労働協約の効力の拡張(一般的拘束力)について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

一般に、組合員よりも低い労働条件で働く未組織労働者が存在すると、使用者は、非組合員を優先的に雇用し、組合員を先に解雇するといった行動に出がちとなり、その結果、労働組合や労働協約の安定性が阻害されるおそれが生じます。使用者団体にとっても、協約条件より低い労働条件で労働者を雇用しうる使用者の存在は、公正な競争秩序を脅かす存在とみられます。そこで、労働協約の効力拡張が意義を持つことになります。労働協約の効力拡張について、本ページで理解を深めていきましょう。

労働協約の効力拡張

複数組合交渉代表制をとる日本では、労働協約の効力が生じるのは締結労働組合の組合員に対してのみであり、組合員以外には生じません。

しかし、労働組合法17条と18条では、この原則に、事業場単位の一般的拘束力と地域的な一般的拘束力という例外を設けています。

事業場単位の一般的拘束力

労働組合法17条では、「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。」と規定しています。

立法趣旨

この事業場単位の一般的拘束力については、①協約当事者組合に加入していない少数労働者の労働力の安売り(それによる労働条件水準の引下げ)を阻止することによって、多数組合の労働条件規制権限を強化するための規定とする見解、②少数労働者の労働条件を多数組合の協約の線まで引き上げることによって、少数労働者を保護するための規定とする見解、③4分の3以上の多数組合の獲得した労働条件を事業場の公正労働条件とみなして事業場の労働条件を統一するための規定とする見解などがあります。

判例は、「当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ること」と述べて、①と③を融合した説明をしています(最高裁 平成8年3月26日第三小法廷判決)。

強行性

上記判例の説明からすると、事業場の労働協約の拡張運用制度は、協約当事者組合の利益のためのみの制度ではないので、同組合が労働協約において同制度の適用を排除し、または制限する規定を設けても、それは無効というべきとなります。この意味で、同制度を定める労働組合法17条は、強行規定であると考えられます。

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一般的拘束力へ拡張適用される要件

拡張適用の要件は、「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったこと」です(労働組合法17条)。この要件は、拡張適用の開始の要件であるとともに、存続の要件でもあります。すなわち、この要件を満たさなくなったときは、その時点で拡張適用は終了することになります。

「一の工場事業場」の要件

「工場事業場」は、概念上「企業」とは区別されます。文言からすれば、本社の他に工場、支社、支店などがある場合には、工場や支社などの単位ごとに同種の労働者の4分の3という要件を満たすかどうかを判断することになります。

この点について、労働協約は実際には企業段階で統一的に判断される場合が多く、この場合、本社や各支社、工場などの間で頻繁に転勤する(非組合員)労働者の存在などを考えると、企業単位で効力拡張の可否を考えた方が合理的であるとも考えられます。そこで、これまで効力拡張の可否を企業単位で判断した裁判例もあります(新潟地方裁判所  昭和63年6月6日判決)。しかし、こうした解釈は、労働組合法17条の文言からあまりに遠く離れるものであって、支持できません。最高裁も、同種労働者の4分の3という要件は、工場、支社、支店などごとに判断すべきであるという立場をとっています(最高裁 平成8年3月26日第三小法廷判決)。

存立要件か否か

この要件は、拡張適用の開始の要件であるとともに、存続の要件でもあります。すなわち、この要件を満たさなくなったときは、その時点で拡張適用は終了することになります。

出向と拡張適用

出向者も出向元企業によって賃金を決められ支払われているという場合には、出向元企業が所属の事業場とみなされて、出向元企業における同種労働者に対する賃金協約の拡張を受けることになると考えられます(横浜地方裁判所 平成19年9月27日判決)。

常時使用される同種の労働者とは

「常時使用される」といえるか否かが問題となるのは、日雇労働者や臨時労働者などですが、契約の形式にとらわれず実質的に判断すべきとされています。すなわち、短期契約が反復更新されて実質上常時使用されている者はこれにあたります。

次に、労働組合は、労働者の処遇上の利害が共通の集団を組織対象範囲とし、これらの組織対象範囲のなかで協約の適用対象範囲ないしは協約の適用対象範囲を基本として定めるべきであると考えられます。たとえば、工員(ないし職員)のみを組織対象とする組合が工員(職員)を適用対象として締結した協約については、工員(ないし職員)のみが「同種の労働者」として拡張適用の対象となります。また、工員と職員をともに組織する組合が工員と職員の双方を適用対象として締結した協約については、工員と職員の双方が「同種の労働者」となります。これに対して、工員と職員の双方ともに組織する組合が工員(職員)のみを適用対象として協約を締結すれば、工員(職員)のみが「同種の労働者」となります。

通常の企業別組合は、正社員を工員・職員などの職種の違いにかかわらず全体的に組織し、正社員に共通の労働条件を交渉し協約を締結しているので、正社員の全体が同種の労働者とされることが多いと考えられます。この点につき、使用者との間でその範囲が協定され非組合員とされる管理職者は、賃金、労働時間などの処遇において組合員と明確に区別された処遇を受け、したがって、協約の適用範囲からも除外されるのが通例であり、その場合「同種の労働者」とはいえないこととなります。しかしながら、管理職者はかつての組合員であり、組合員の将来像でもありますので、正社員の労働組合がその労働条件をも視野に入れて管理職者をも含めて労働条件を協約で定めることがあり、そのような場合には、当該労働条件を定める協約については、管理職者も「同種の労働者」となり得ることになります。従業員の定年や定年後の再雇用制度などを定める労働協約はその典型といえます。

契約社員・パート社員等の非正規労働者の該当性

企業別組合は、従来、正社員のみを組織対象とし、契約社員、パートタイム労働者、アルバイトなどの非正社員労働者を組織対象外としてきました。それは、非正社員労働者が正社員と職務内容、処遇の体系・内容、雇用保障のあり方などを異にし、したがって正社員とは利害を異にしてきたからであると考えられます。そのような状況においては、非正社員労働者は正社員と「同種の労働者」とはいえないとせざるを得ません。

しかしながら、近年は、週労働時間が一定以上のパートタイム労働者など、一部の非正社員労働者を組織対象に含める企業別組合も増加しており、そのような組合が組合員である当該非正社員労働者をも適用対象として締結した労働協約については、適用対象の非正社員労働者の種類(社員区分)に属する非組合員も当然に「同種の労働者」となります。

4分の3以上の数の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至った場合

「一の労働協約の適用を受ける」者に算入されるのは、当該労働協約の本来的適用対象者のみと考えるべきであり、当該協約を事実上適用されている未組織労働者や、この一般的拘束力により協約を拡張適用された労働者はそれに算入されるべきではありません。

要するに、この制度は、当該労働協約が独力で4分の3以上の適用規模を有している場合に初めてそれを拡張に値する労働基準とみなしているものと考えられます。

拡張適用の効果

拡張適用の効果は、「他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用される」ということです。「他の同種の労働者」とは、「常時使用される他の同種の労働者」を指します。

拡張適用される労働協約の部分は、労働協約の規範的部分に限られます(最高裁 昭和48年11月8日第一小法廷判決)。すなわち、労働協約の規範的部分の人的適用範囲を拡張することが、この制度の眼目です。

拡張させることの意義

労働協約の事業場単位の拡張適用制度は、労働組合が当該事業場の同種労働者の4分の3以上を組織している場合には、その組合の協約上の労働条件を公正かつ妥当な労働条件とみなして他の同種労働者にも拡張適用し、当該事業場の同種労働者の労働条件を統一するという制度です。

また、労働協約の規範的部分は、協約適用対象である組合員に対して有利にも不利にも規範的効力を有します。

したがって、本制度による一般的拘束力は、拡張適用の対象者に対して有利にも不利にも、両面的に規範的効力を及ぼすことになります。

労働条件の不利益変更の場合の留意点

労働協約によって労働条件の不利益変更が行われた場合、規範的効力が肯定されるには、組合が協約締結の交渉をする際、組合員だけではなく関係従業員全体の意見を公正に集約して真摯に交渉したことが必要です。また、特に不利益を受ける従業員グループがある場合には、組合員の有無にかかわらず、その者たちの意見を十分に聴き取って被る不利益の緩和を図る等、関係従業員の利益を公正に調整したことも必要になります。

労働協約による労働条件の不利益変更について、詳しい内容は下記のページをご覧ください。

労働条件の不利益変更と労働協約

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少数組合への拡張適用の有無

具体例

事業場単位の一般的拘束力について問題となるのが、4分の1未満の少数者が自ら労働組合を結成している場合にも適用されるのかというものです。これについては、学説、裁判例ともに見解が分かれているところです。

見解

第1の見解は、少数派組合の独自の労働協約締結の有無にかかわりなく、また、効力拡張によって少数派組合員の労働条件が有利・不利のいずれに変更されるかによらず、多数派組合の協約の効力拡張を肯定するものです。この見解は、労働組合法17条の文言に忠実な解釈ですが、このような結論を認めると、少数派組合の団結権・団体交渉権を否定するに等しいこととなり、現行の複数組合主義に反することになると考えられます。

第2の見解は、少数派組合が存在しても、その組合が労働協約を締結していない場合か、締結している労働協約が失効している場合に限って、効力拡張を認めるというものです。この見解は、第1の見解を修正したものになりますが、少数派組合がたまたま有効な協約の当事者になっていないにしても、いつでも団体交渉・争議行為を通じて有効な労働条件を獲得する可能性を持つべきであると考えられます。したがって、第1の見解と同様に支持されていないものと考えられます。

第3の見解は、多数派組合の労働協約のうち、少数派組合の協約より有利な部分だけが少数派組合の組合員に適用され、少数派組合が獲得していた有利な労働条件はそのまま存続するというものです。しかし、別組合が締結した労働協約の効力が当該少数派組合の意思に関係なく拡張されるという異常さを払拭するものではないばかりか、多数派組合よりも少数派組合を不当に優遇する結果をもたらし、場合によっては多数派組合からの脱退と少数派組合への加入を促進する機能を営むことになるという事態も生じ得ます。

そこで、近時の有力な見解として、労働組合法17条に基づく効力拡張は少数派組合の組合員には及ばない、というものがあります。他人の協定が自己の意思に関係なくその労働条件を決定するという効力拡張制度の問題点は、多数派組合に属していない労働者が固有の労働組合を組織している場合に、より一層あらわになります。多数派組合が締結した労働協約を、少数派組合との団体交渉を経ることなくその組合員に適用することは、事情によっては不当労働行為になると考えられます。少数派組合の組合員への効力拡張を否定すると、組合員間の労働条件に格差が生まれるといった問題が起こる可能性がありますが、これは多数派組合が労働者の4分の3未満しか組織していないケースにも生じることであり、不当労働行為の問題として解決されるべきでしょう。

地域的な一般的拘束力について

労働組合法は、「一の地域において従業する同種の労働者の大部分が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てに基づき、労働委員会の決議により、厚生労働大臣又は都道府県知事は、当該地域において従業する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約……の適用を受けるべきことの決定をすることができる。」と規定しています(労組法18条1項)。

この地域的な一般的拘束力の制度は職業別または産業別労働組合が締結する横断的労働協約を前提としており、企業別協約が支配的なわが国においては活用の余地が少ないものと考えられます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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