割増賃金とは|計算方法や割増率の改正、請求されたときの対処法
残業代の割増賃金率の改正内容についてYouTubeで配信しています。
2023年4月1日以降、大企業のみならず中小企業も含めて月60時越えの時間外労働の割増賃金率は50%となります。これまで猶予されてきた中小企業も含めて月60時間超えの時間外労働の割増賃金率は50%となります。
動画では、このような内容とともに深夜労働を行った場合の割増率や、法定休日に労働した場合の割増率も含め解説しています。
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
使用者は、労働者を法定時間外・休日・深夜に働かせた場合、割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金の支払いは労働基準法に定められた義務なので、支払わない契約は基本的に無効です。
もしも割増賃金を支払わないでいると、高額の未払い賃金を突然請求されるリスク等が生じます。また、2023年4月から、中小企業にも月60時間超えの時間外労働について、割増賃金率50%が適用されましたので、全企業において対応が必要です。
ここでは、使用者として知っておくべき割増賃金の概要や計算方法、未払い賃金を請求された場合の対処法などについて、わかりやすく解説していきます。
割増賃金とは
割増賃金とは、使用者が労働者に対して次の労働をさせた場合に、通常支払う賃金にプラスして支払うべき賃金のことをいいます。
- 時間外労働
- 休日労働
- 深夜労働
これは労働基準法第37条で規定されています。具体的に、割増賃金には次の3種類が存在します。
- 時間外労働割増賃金(時間外労働に対するもの)
- 休日労働割増賃金(休日労働に対するもの)
- 深夜労働割増賃金(午後10時から午前5時まで)(深夜労働に対するもの)
使用者がこれらの労働をさせたのであれば、その時間やその日については、通常の賃金とそれぞれ定められた率で計算した割増賃金を合計して支払わなければなりません。また、時間外労働と深夜労働など、割増賃金が重複して発生している場合は全ての割増賃金を合計して支払う必要があるため注意が必要です。
次項より、それぞれの割増賃金の違い、特性、計算の仕方等について解説していきます。
割増賃金の種類
残業手当・時間外労働割増賃金
法定労働時間を超えた残業には、残業手当となる割増賃金を支払う必要があります。
割増率は、通常の労働時間または労働日の賃金の25%以上でなければなりません。
なお、法定労働時間とは、労基法によって「1日8時間・週40時間」と定められた、労働時間の上限のことです。また、これを超えて働くことを「時間外労働」といいます。
例えば、時給1200円で働く労働者については、時間外労働1時間につき、1500円以上の支払いが必要となります。
また、会社によっては「1日7時間、週35時間」といったように、法定労働時間よりも少ない労働時間を設ける場合もあるでしょう。このような時間は「法定」ではなく「所定労働時間」といいます。
実際に働いた時間が所定労働時間を超えていたとしても、法定労働時間内であれば残業手当は発生せず、通常の賃金を支払うことで足ります。
深夜手当・深夜割増賃金
深夜労働をさせた場合も、深夜手当となる割増賃金を労働者へ支払う必要があります。
【深夜労働となる時間】
22時~5時まで
※厚生労働大臣が必要と認めた場合に、地域または期間によっては23時~6時まで
【深夜手当の割増率】
通常の労働日または労働時間の25%以上
※深夜手当は休日手当や時間外手当と重複するため、時間外労働かつ深夜労働である場合は「25%+25%=50%」により50%以上の割増率、休日労働かつ深夜労働の場合は「35%+25%=60%」により60%以上の割増率
休日手当・休日割増賃金
使用者は、労働者に法定休日を与えなければならず、この法定休日に労働させると「休日労働」となり、割増賃金(休日手当)を支払わなければなりません。割増率は、通常の賃金の35%以上である必要があります。
週休2日制の企業の場合、1日は「法定休日」で、もう1日は「法定外休日」ということになります。例えば、日曜を法定休日と定めている場合には、土曜は法定外休日なので、労働させても休日手当は発生しません。
この点が争いにならないよう、法定休日は就業規則等で定めておくことが望ましいでしょう。
なお、上記のケースで、日曜日に労働させて労働時間が1日8時間、週40時間を超えたとしても、割増率は休日手当として35%になります。時間外労働の割増率は上乗せされない点に注意しましょう。
割増賃金率の一覧表
割増賃金率とは、労働基準法で定められた残業等に対する賃金の割増率です。最低限の割増率は、下に掲載した割増賃金率の一覧のとおりです。
この割増賃金率は、労働者の心身にとって重い負担となる労働を抑制することなどを目的として定められています。
労働条件 | 対象労働時間 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 (法定内残業) |
1日8時間、週40時間以内の労働時間 | 0% |
時間外労働 (法定外残業) |
1日8時間、週40時間を超える労働時間 | 25% |
月60時間を超える時間外労働時間 | 50% | |
法定休日労働 | 法定休日(週1日)の労働時間 | 35% |
深夜労働 | 22時~5時の労働時間 | 25% |
時間外労働+ 深夜労働 |
時間外労働+深夜労働の時間 | 50% |
休日労働+ 深夜労働 |
休日労働+深夜労働の時間 | 60% |
【2023年4月改正】残業60時間超の割増率の引き上げ
月60時間を超える時間外労働に対しては50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。これは、2023年4月から、中小企業を含む全企業において適用されています。
例えば、月60時間超えの時間外労働を深夜時間帯(22時~5時)に行わせた場合は、深夜割増25%+時間外割増50%=75%以上の割増賃金を支払う必要があります。
また、月60時間を超えた時間外労働の算定については、法定休日(日曜など)における労働時間は含まれませんが、それ以外の法定外休日(土曜など)における時間外労働は含まれます。
ただし、労働者の健康を保持するため、割増賃金率の引き上げ分(25%)の支払いに代えて、代替休暇(有給休暇)を与えることも可能です。
代休・振替休日の割増賃金の考え方
代休とは、労働者に休日労働を行わせて、事後的に付与する休日のことです。例えば、休日にシステムトラブルが発生して急きょ休日労働をしなければならなかった場合に、後日の労働日を休日とするとき、当該休日は「代休」になります。代休を与えても休日労働が行われたことに影響しないため、割増賃金を支払う必要があります。
一方で、振替休日とは、休日とされていた日を労働させる日に変更し、その代わりに前もって労働日を休日に変更したものです。例えば、毎週日曜が休みの従業員が、日曜に開催する会議の運営をする必要がある場合は、本来休日の日曜をあらかじめ労働日に変更し、別の日に休日を振り替えるような場合、その休日が「振替休日」になります。振替休日を与えれば、休日労働割増賃金を支払う必要はありません。
ただし、他の週に振替休日を設けると、週の労働時間が40時間を超えてしまい、時間外労働割増賃金が発生することはあります。
代休や振替休日についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
割増賃金の計算方法
割増賃金は、次の式によって計算します。
割増賃金額=1時間あたりの基礎賃金×対象労働時間数×割増率
※1:1時間あたりの基礎賃金:[時給]、[日給÷1日の所定労働時間]、[月給÷月の平均所定労働時間]
※2:対象労働時間数:時間外労働・休日労働・深夜労働を行わせた時間数
割増賃金は1時間あたりの基礎賃金に対象労働時間数と割増率をかけて求めます。
そのため、割増賃金を計算する前に、ベースとなる1時間あたりの基礎賃金を算出する必要があります。以下で求め方を確認しましょう。
割増賃金の基礎となる賃金とは
割増賃金の基礎となる賃金とは、1時間あたりの基礎賃金、つまり時間単価のことを指します。
時間単価は、時給制であればそのまま用いることができます。しかし、日給や月給などの場合には、時間単価に換算しなければなりません。
計算方法は以下の通りです。
●日給の場合
日給額÷1日の所定労働時間
●月給の場合
月給額÷1ヶ月の平均所定労働時間
1ヶ月の平均所定労働時間は、「(1年の日数-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12」によって計算します。以下の例を使って、実際に計算してみましょう。
(例)年間休日が140日、1 日の所定労働時間が 8時間の企業で、月給30万円の従業員
・1ヶ月の平均所定労働時間時間数=(365-140)×8÷12=150
・1時間あたりの基礎賃金=300,000÷150=2000円
この従業員の場合、1時間あたりの基礎賃金は 2000円となります。仮に1時間、時間外労働を行わせた場合は、2000円×1時間×1.25=2500円の割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金の計算方法について、詳しくは以下の記事で解説していますので、ご覧ください。
割増賃金の基礎となる賃金から除外される手当
割増賃金の計算のベースとなる「1時間あたりの基礎賃金」には、基本給以外に支払っている各種手当なども含まれます。ただし、個人的な事情が大きく関わる、以下の手当については、1時間あたりの基礎賃金から除外することが可能です(除外賃金・労働基準法37条5項、同法施行規則21条)。
- 通勤手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 別居手当
- 臨時に支払われた賃金
- 子女教育手当
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ただし、上記の手当の名目であっても、すべての従業員に一律に支給される手当については、除外することはできません。例として以下が挙げられます。
- 扶養家族の有無や人数に関係なく、毎月全員に支給される家族手当
- 通勤にかかる距離や運賃による変動なく、毎月全員に支給される通勤手当
- 住宅の形態(持ち家、賃貸など)に関係なく、毎月全員に支給される住宅手当
割増賃金の適用除外となる労働者
労働基準法は基本的に、業種や職種、雇用形態にかかわらず、すべての労働者に対して適用されます。
そのため、労基法で定められた割増賃金についても、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員など、従業員全員に支払わなければなりません。
ただし、割増賃金に関する規定が、適用除外となるケースがあります。
- ① 農業(林業を除く)、畜産・養蚕・水産業の事業に従事する者
- ② 事業の種類にかかわらず、「管理監督者」「機密事務取扱者」に当たる者
- ① 監視、または断続的労働従事者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者
上記の労働者については、一般の労働者と働き方が異なるため、労基法により「労働時間、休憩、及び休日」に関する規定が適用されないことになっています。そのため、時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われません。
ただし、深夜労働や有給休暇については除外対象とはなっておらず、これらの労働者にも深夜手当や有給休暇は付与されますので、注意が必要です。
割増賃金の適用除外についての詳細は、以下の記事で解説していますので、ご参照ください。
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割増賃金の未払いと罰則
割増賃金の未払いについては、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則が定められています(労基法119条第1号)。
罰則の対象は事業主に限定されません。条文は「法律に違反した者」と規定しているため、部下に違法な残業を命じる部長などの管理職も、罰則を受ける可能性があります。
ただし、これらの管理職が「会社のために違反行為を行った」という場合は、事業主も違反者と同じく、罰金刑が課されます。
もっとも、事業主が違反の防止のために適切な措置を講じていれば、この規定は適用されないことになっています(同法121条第1項)。
なお、従業員が割増賃金の未払いについて労基署に相談に行く場合もあり、そのようなケースでは、労基署による立ち入り調査が行われる場合もあります。
未払いの割増賃金を請求された場合の対処法
労働者から未払いの割増賃金の支払いを請求されて裁判になると、場合によっては未払い賃金に加えて遅延損害金や付加金を支払わなければいけなくなるおそれがあります。高額の支払いが命じられることも少なくありません。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、従業員からの請求に対して適切に対処することが必要です。
未払いの割増賃金を請求された場合の対処法とその流れは、以下のとおりです。
① 請求書面の受け取り
② 請求内容の確認
③ 労働者との交渉
④ 労働審判の利用
⑤ 労働者との裁判
各詳細について見ていきましょう。
①請求書面の受け取り
労働者側から請求書面が送付されてきたら、必ず内容を確認します。
おそらく内容証明郵便で送られてくる可能性が高く、この場合、相手側には受け取ったことが通知されます。相手方が何を求めているのか、期限は設定されているか等を確認しないと、裁判になったときに不利になってしまうおそれがあります。請求書面が届いたら、なるべく早く確認しましょう。
②請求内容の確認
未払い割増賃金の請求があったら、まずはその請求が妥当であるかを確認しましょう。そのためには、就業規則の確認も不可欠です。
就業規則と照らし合わせながら、タイムカード等、出勤・勤務状態がわかるものを参照して、以下のような事項を確認しましょう。
- 請求されている金額が妥当なものか・過大請求ではないか
- そもそも当該労働者が割増賃金の適用除外となる管理監督者ではないか
- 消滅時効を迎えていないか
- 固定残業手当により残業代を支払い済みでないか
- 企業側で残業を禁止してはいないか
- 企業側に未払割増賃金を支払う義務があるのか 等
③労働者との交渉
労働者側からの請求書の条件をそのまま受け入れられない場合には、交渉を行います。直接交渉、電話交渉いずれもあり得ますが、後で蒸し返されないように、録音したデータなどを残しておきましょう。
交渉によって話がまとまった場合は、トラブルを防止するため、合意に達した内容を合意書として作成します。
労働者との交渉が合意に達しなかった場合には、労働基準監督署等の紛争調整機関によるあっせんや調停、日本弁護士連合会の紛争解決センターによる仲裁等を利用して解決を図ることとなります。
④労働審判の利用
交渉や紛争調整機関を利用しても解決に至らなかった場合、裁判所を利用し、労働審判を申し立てることができます。
労働審判は、平成18年より新設された、労働問題を迅速に解決するための新しい制度です。地方裁判所で行われる手続きであり、基本的には3回の期日で終了します。話し合いによる柔軟な解決が可能ですが、まとまらなかった場合には、裁判所により審判が下されます。
審判の結果にどちらかが異議申立てを行ったときには、裁判に移行することとなります。
⑤労働者との裁判
交渉で合意に至らず、労働審判でも解決しない場合、裁判が行われます。
裁判では、当事者双方が未払い残業代について主張、立証を行った上で、裁判所が判決を下します。
なお、裁判と労働審判の最も大きな違いは、解決までの期間にあります。
裁判は解決まで時間がかかり、1年を超えるケースも多々ありますが、労働審判は3回の期日と決められているため、3ヶ月程度でスピード解決できる場合もあります。
仮に裁判で全面的に敗訴した場合は、未払いの割増賃金に加えて、遅延損害金や付加金の支払いが命じられる可能性もあります。未払い賃金には、本来支払われるべき日の翌日から、利息に相当する遅延損害金(年利3%、退職者には退職日の翌日から年14.6%)が発生します。
また、悪質と認定されると、ペナルティとして、未払い賃金と同額の「付加金」の支払いも命じられる場合があります。未払い賃金の発生を防止することが重要です。
遅延損害金や付加金について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
割増賃金の消滅時効について
割増賃金を請求できる権利については、3年という消滅時効が定められています(2020年4月民法改正)。
したがって、定められた支払日から3年間、割増賃金の請求がなければ、「消滅時効」を迎え、使用者の支払い義務もなくなります。また、この3年の時効は、2020年4月1日以後に発生した残業代が対象となります。
ただし、「時効の更新」という制度もあります。使用者が、未払い残業代があることを認めた場合、本来の支払日から2年半が経っていたとしても、それがゼロに戻りますので注意が必要です。
割増賃金の消滅時効については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
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※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある