生理休暇|労働基準法における規定、不正取得への対策など
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
生理休暇は労働基準法で定められた制度で、労働者の権利です(同法第68条)。体調がすぐれないとパフォーマンスも低下しますし、メンタル不調につながるおそれもあるため、進んで取得すべきでしょう。
しかし、令和2年度の調査では、生理休暇の取得率はわずか0.9%と非常に低い数値となっています。
取得をためらう理由は、「周りに取得する人がいない」「生理の理解度が低い」「生理中だと伝えるのが恥ずかしい」などさまざまです。事業主としては、労働者が安心して生理休暇を取得できるよう配慮する必要があると考えられます。
本記事では、生理休暇の取得に関するルールや注意点などを解説していきます。
目次
生理休暇とは
生理休暇は、労働基準法第68条で定められた法定の休暇措置です。会社独自の休暇とは異なるため、就業規則の規定に定められていなくとも請求することができます。また、事業主に拒否権はなく、労働者からの請求があったときは、当該労働者を就業させてはならないとされています。
体調不良のなか無理に勤務すれば、個人のパフォーマンスだけでなく会社全体の生産性も低下するおそれがあります。社員が積極的に生理休暇を取得できるよう、会社が配慮をすることが重要です。
生理休暇の取得率
令和2年度の調査では、生理休暇の取得率はわずか0.9%と非常に低い数値となっています。この背景には、以下のようなものが考えられます。
- 生理休暇を利用する人が職場にいない
- 男性の上司に生理休暇を申請しづらい
- 生理中だと知られたくない
- 症状が比較的軽い
- 多忙なのに休んで迷惑をかけたくない
また、痛み止めを飲んで我慢する人や、生理休暇ではなく有給休暇を使って休む人が多いのも、取得率が低い要因の1つです。
この現状を受け、一部の企業や自治体では、生理休暇の名称を「F休暇」や「健康支援休暇」などと変更する試みも行われています。
生理休暇の労働基準法での規定内容
生理休暇は、労働基準法68条で定められた「法定休暇」です。そのため、労働者から申請があった場合、事業主は必ず取得させなければなりません。
申請を却下したり、無理やり出勤させたりした場合、30万円以下の罰金が科せられます(同法120条1号)。
また、法定休暇は会社独自の休暇とは異なるため、就業規則に生理休暇の定めがなくても申請を拒否することはできません。
労務管理上の取り扱い(欠勤・有給休暇)
生理休暇の賃金に関する定めはないので、「欠勤扱い」にしても問題ありません。むしろ、生理を理由とする不正取得を防ぐため、欠勤扱いにする企業も多いです。
ただし、欠勤は年次有給休暇の付与にも影響するため注意が必要です。
有給休暇は出勤率が8割未満だと付与されないため、生理休暇の取得回数次第では付与されなくなる可能性があります(労働基準法39条1項)。事業主は、その旨を労働者にしっかり説明し、理解を得ておく必要があります。
また、労務上は「欠勤扱い」でも、出勤率の算定では「出勤扱い」とすることもできるので、検討すると良いでしょう。
出勤率の算定については、以下のページで詳しく解説しています。
取得条件
生理休暇を取得する条件は、「生理が原因の症状により就業が著しく困難な状態」とされています。これに該当する労働者であれば、正社員、パート、契約社員などの雇用形態を問わず、誰でも生理休暇を取得できます。
なお、「就業が著しく困難な状態」に明確な定義はありません。体調不良の程度には個人差があるため、自己申告で足り、医師の診断書なども必要ないと考えられています。
また、公務員でも生理休暇は取得可能ですので、社会的に広く認められた権利といえるでしょう。
給料の支払い
生理休暇中の賃金に関する定めはないので、会社の判断に任されています。そのため、無給にしても問題はなく、「1ヶ月〇日間までは有給とする」などと柔軟に定めることも可能です。
もっとも、多くの企業は生理休暇を無給とする傾向があります。令和2年度の統計では、生理休暇を有給とした企業は29.0%、無給とした企業は67.3%となっており、無給が多数派であることがわかります。
いずれにせよ、賃金のルールを取り決めた際は、就業規則や賃金規程に明記しておく必要があります。
取得日数
生理休暇の取得日数に上限を設けることは禁止されています。つまり、「生理休暇は月に〇日間までとする」といった規定は認められません。これは、生理痛の症状には個人差があり、一概に基準を定めるのが難しいからです。
また、いつ生理痛がきても対応できるよう、半日単位や時間単位での取得も認めなければなりません。例えば、「今朝から生理痛が重いので、落ち着いてから出社したい」「勤務中に生理痛が酷くなったため、午後は休みたい」などの申請も拒否することはできません。
一方、PMS(月経前症候群)については、生理休暇の付与が義務付けられていません。そのため、PMSで生理休暇を認めるかは、会社が任意で決定できます。
PMSとは、一般的に生理の数日前から、腹痛や倦怠感、抑うつ、イライラ感などさまざまな症状が現れるものです。人によっては仕事に支障をきたすこともあるため、許可するかは慎重に判断しましょう。
生理休暇の申請方法
生理休暇については、あらかじめ申請に関するルールを定めて、従業員に周知しておく必要があります。
生理休暇は、口頭によって当日に申請することが可能とされています。なぜなら、生理による体調不良は当日にわかることが多く、事前に生理で働けない日や何日休みが必要かどうかを予測するのが難しいからです。
申請時の伝え方は、口頭以外にも、メールでの連絡や勤怠システムなどの利用が考えられます。
なお、生理休暇を申請する場合に、医師の診断書を提出する必要はないとされています。
生理休暇の不正取得への対策
生理休暇を毎月取得することは問題なく、会社も拒否することはできません。
しかし、生理休暇の申請は自己申告で済むため、“ズル休み”をする社員が出てくるかもしれません。このような不正取得を防ぐため、以下のような対策が考えられます。
- 就業規則で生理休暇は無給とする旨を定める。
- 有給とする生理休暇の日数に上限を設ける。
- 不正取得した場合の懲戒ルールを定める。
なお、生理の期間や症状を詳しく聞くことは、セクシュアルハラスメントとして訴えられるおそれもあるため避けましょう。
生理休暇の取得を理由とした不利益な取扱いの禁止
社員から生理休暇の申請があった場合、会社は拒否することができません。また、生理休暇の取得を妨げるようなルールも、違法となるおそれがあるため避けましょう。例えば、賞与の査定や昇給・昇格の評価を行う際、出勤率の算定において生理休暇の取得日を「欠勤扱い」にすることは、公序良俗に反するとして無効とした裁判例があります(最高裁判決平成元年12月14日)。
また、生理休暇を取りすぎていることを理由に、降格や給与の引き下げを行うことも認められません。
社員が生理休暇の取得をためらうような環境にならないよう、配慮が必要です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある