手当と税金の関係-課税される手当と非課税の手当について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
働き方改革の影響もあり、労働者の勤務方法等を見直すのと同時に、手当を含む賃金(給与)についても見直している会社は多いと思います。手当には、家族手当や住宅手当、残業手当等、多くのものがありますが、そのどれもが課税されてしまうとは限りません。以下、課税される手当と非課税の手当に分けて、詳しくみていきましょう。
目次
手当の課税・非課税について
課税対象となるのは「所得」であるところ、手当は原則的に給与所得として課税対象となります。ただし、所得税法や通達で定める条件を満たせば、例外的に非課税となることもあります。そこで、所得税法が例外的に非課税と定める手当にはどのようなものがあるのか、みていきましょう。
なお、手当の概要については下記の記事をご覧ください。
所得税・住民税が課税される手当
給与所得として、所得税・住民税が課税される主な手当には、次のようなものがあります。
- ・時間外手当(残業手当)…法定労働時間を超えて労働した場合に支給する割増賃金
- ・休日手当…休日に労働した場合に支給する割増賃金
- ・役職手当…役職者に対して支給する手当
- ・資格手当…会社が必要とする資格の保有者に対して支給する手当
- ・家族手当…扶養家族がいる労働者に対して支給する手当
- ・住宅手当…家賃や住宅ローンの補助を目的に支給する手当
- ・退職手当(退職金)…退職者に対して支給する手当
それぞれの手当についての詳しい説明は、下記の記事をご覧ください。
所得税・住民税が非課税となる手当
所得税法が規定する、非課税となる手当は次のとおりです。
- ・一定金額以下の通勤手当
- ・一定金額以下の宿直や日直の手当
- ・通常必要と認められる範囲内の転勤や出張等の際に支給される手当
- ・一定の要件を満たす学資金
このように、実費に対する清算・補填の性質を有するもの等は、非課税とされる場合があります。
通勤手当の税金
自宅から会社までの通勤にかかる費用として支給する通勤手当は、所得税法により、一定の限度額までは非課税とされています。また、法令等は通勤方法を3つの類型に区分し、これを念頭に、それぞれの条件や限度額を定めています。
それでは、こうした条件や限度額について、次項より説明していきます。
電車・バス通勤者の場合
電車・バスで通勤する場合、通勤にかかる運賃・時間・距離等といった事情を考慮して、最も経済的で合理的な経路と方法で通勤したときの1ヶ月あたりにかかる金額が非課税額となります。ただし、月額15万円という上限(所得税法9条第1項第5号、所得税法施行令20条の2第3号)があり、これを超えた部分の通勤手当は、給与所得として課税対象となります。
経済的で合理的である限り、新幹線を利用した場合の運賃も通勤手当に含めることができますが、グリーン車の料金を含めることはできないため、課税対象となります。
なお、通勤定期券を現物支給する場合も、月額15万円を限度として非課税となります。
マイカー・自転車通勤者の場合
マイカーや自転車で通勤する場合、非課税となる限度額は、片道の通勤経路に沿った距離に応じて変わります。しかし、片道の通勤距離が2キロメートル未満である場合は、通勤手当の全額が課税対象となり、また、限度額を超えた部分についても課税対象となるので、ご注意ください。
通勤距離に応じた限度額については、下記の記事をご参照ください(2016年1月1日以後)。
なお、会社内に駐車場がない場合、利用することになる外部の月極駐車場等の料金を支払うかどうかは、会社が自由に決めることができます。しかし、その利用料金は、非課税の通勤手当に含めることはできず、その分の手当は給与所得として課税対象となるため注意しましょう。
また、通勤に有料道路を使用する場合、「片道の距離に応じた非課税限度額+有料道路の通行料金=非課税限度額」となります。ただし、この場合も、1ヶ月あたり15万円が上限です。
公共交通機関とマイカーや自転車等を併用している場合
電車・バス等の公共交通機関と、マイカーや自転車等を併用して通勤している場合、①2-1でみた「公共交通機関の1ヶ月あたりの交通費」と、②2-2でみた「マイカ―等を利用する場合の片道の距離に応じた1ヶ月あたりの限度額」の合計額が、非課税額の上限(ただし、最大上限は月額15万)となります。
例えば、自宅から3キロメートル離れた最寄り駅まで自動車を利用し、そこから電車で会社の最寄り駅まで行くときの電車代が月額2万円だった場合、計算式は「4200円」+「2万円」となり、非課税限度額は1ヶ月あたり2万4200円となります。
年末調整時の取り扱い
非課税限度額を超えて通勤手当を支給した場合、限度額を超えた部分は給与所得として課税対象となるため、年末調整の際に、超過分を給与に含める必要があります。
宿直手当・日直手当の税金
会社の指示等により、通常の勤務とは異なる、緊急電話への対応・巡視といった軽微な労働に従事させる場合、日中に行われれば「日直」、夜間にわたり宿泊を要するのであれば「宿直」と呼びます。
この宿直や日直をした際に、会社から支給される手当としては、宿直手当や日直手当があります。宿直手当・日直手当を支給する場合、一回の宿直・日直に対して支給される手当は、4000円(食事が支給される場合は、4000円から食事代を控除した残額)を上限として非課税となります。
ただし、例外的に課税対象となる場合もあります。次項をご覧ください。
課税所得として扱われるケース
次のいずれかに該当する宿直手当または日直手当は、非課税とはならず、給与所得として課税対象となるので、注意しましょう。
- ①休日または夜間の留守番をするためだけに雇用された者や、休日または夜間の留守番も行うことを職務として雇用された、その場所に居住する者に対して支給するもの
- ②通常の勤務時間内に宿直または日直をした者や、宿直や日直の代日休暇が与えられる者に対して支給するもの
- ③宿直または日直をする者の通常の給与等の額に比例した金額、またはこの金額に近似するように当該給与等の額を階級区分等に応じて定められた金額で支給するもの
また、宿直や日直における業務内容によっては、手当という名目であっても非課税対象となり得る点には注意してください。
例えば、病院での宿直のように、急患等への対応が予定されている場合には、軽微な労働ではなく、本来的な労働が予定されているので、課税対象となります。つまり、医師が夜間の救急搬送に対応するために宿泊を前提とした夜間の勤務を行い、それに対して手当が出た場合、急患等への対応という通常の勤務と同じであるので、支払われる手当は非課税とはなりません。
このように、宿直・日直として非課税であるか否かは、具体的事情をもとに判断されますので、ご注意ください。
出張手当・転勤手当の税金
転勤や出張をした際に会社から支給される出張手当や転勤手当は、非課税となる場合があります(所得税法9条第1項第4号)。
出張手当や転勤手当が非課税となるかどうかは、「通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内(所得税基本通達9-3)か否か」で判断され、その際には旅行の目的、目的地、期間の長短、宿泊の要否、対象者の職務内容および地位等が考慮されます。
例えば、日帰りができる範囲内の取引先と商談をする目的で、取引先から遠く離れた観光地に出張・宿泊した場合、その出張は観光目的だったと判断できます。そのため、支払われた出張手当は「通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内」とはいえず、課税対象となります。
また、「通常必要とされる費用」と規定されていることから、転勤手当と出張手当は実費精算ではなく、定額で支給することが可能です。そのため、例えば1万円の宿泊費が支給され、1泊5000円のホテルに宿泊した場合には、残額の5000円は課税されることなく、労働者の手元に残ることになります。
学資金の税金
業務に必要な資格や知識・技術を取得させるために、会社が労働者に対して支払う研修費や講習費用のことを学資金といい、以下の2つの要件を満たす場合に非課税とされます(所得税法9条第1項第15号)。
まず、1つ目の要件は、通常の賃金に加算して会社から支給されることです。したがって、賃金に代えて給付されるものは、非課税とはなりません。例えば、講習費用等が大きく膨らみ、通常の賃金と同等の額となったので、賃金の支払いに代えて、労働者に講習費用等に相当する額を支払った場合、その講習費用等は課税対象となります。
2つ目の要件は、株式会社の役員や使用人の親族等を対象としないことです。例えば、会社の取締役が経営の勉強をするために大学に入学し、その入学金や授業料に相当する金額を会社から支給されたとしても、非課税とはなりません。
学資金の非課税制度について、会社が、優秀な学生に対して大学の学費等を貸与し、学生が卒業後にその会社に就職して一定期間勤続した場合には返済を免除するといった仕組みで運用することで、優秀な学生を早い段階で確保することが可能になります。ただし、入社しなかった場合のリスクや返済免除の期間設定等の問題は残るので、その点は注意が必要です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある