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個別労働紛争における民事保全手続きについて

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者とのトラブルが発生した場合、話し合いで解決できなければ訴訟に発展する可能性があります。訴訟では紛争を確実に解決できる一方で、終結までに時間がかかるというデメリットがあります。訴訟中に事情が変わることも想定しておくべきでしょう。

そこで、訴訟前には民事保全という手続きがあります。民事保全は、当事者の権利を保護するための制度であり、会社も利用することができます。ただし、労働者から申し立てられることも多いので、手続きの流れやリスクをしっかり把握しておくことが重要です。

本記事では、民事保全の概要や流れ、具体例等を詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。

個別労働紛争とは

個別労働紛争とは、労働に関する事項をめぐり、労働者個人と事業主の間で発生する紛争のことです。

例えば、解雇の有効性や、賃金・残業代の未払い、降格の有効性で労使間に対立が生じるケースが多いです。また、近年ではハラスメント被害を訴える労働者も増えています。

個別労働紛争のような民事的な問題は、当事者間の話し合いで解決するのが基本ですが、必ずしも合意できるとは限りません。その場合、行政の制度や裁判所の手続きを利用して解決を図ることが考えられます。

個別労働紛争の解決手続きについては、以下のページで詳しく解説しています。それぞれの比較もありますので、参考になさってください。

個別労働紛争解決手続の種類について

民事保全とは

民事保全とは、訴訟による権利の実現を確保するため、債権者に一定の権利や地位を暫定的に認める制度です。通常、権利の実現は確定した勝訴判決に基づきなされますが、民事保全では、勝訴判決を得る前に権利関係を暫定的に認めて、債務者の財産を一時的に処分できないようにしたりします。

民事保全は訴訟の当事者が申し立てることができますが、裁判所の審査など一定の手順を踏まなければなりません。また、申立人は、一定の権利を有していることや保全の必要性があることを証明(疎明)する必要があります(詳しい流れは後ほどご説明します)。

なお、訴訟の流れやポイントについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

個別労働紛争における民事訴訟手続きについて

民事保全の目的

民事保全の目的は、訴訟による利益の実現を確保することです。
訴訟には長期間かかるため、その間に財産や権利関係に変化が生じると、勝訴判決が無意味になりかねません。例えば、訴訟中に相手が財産を隠したり処分したりすると、せっかく勝訴判決を得ても本来の利益が受けられず、強制執行もできないというリスクが生じます。

そこで、あらかじめ相手の財産を差し押さえておき、将来確実に回収できるようにするのが民事保全手続きです。

また、債権者(申立人)の権利や地位を維持し、訴訟中に著しい不利益や危険が生じるのを防ぐという側面もあります。

民事保全の種類

民事保全手続きは、その目的によって仮差押え仮処分の2つに分けられます。また、手続きの方法や保全の対象にも違いがあります。それぞれ詳しくみていきましょう。

仮差押え

金銭債権を保全するため、債務者(相手方)の財産をあらかじめ差し押さえる手続きです。これによって、債務者が訴訟中に財産を処分・売却することを防ぎ、将来の強制執行を保全することができます。主に、賃金の返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求といった事案で利用されています。

差押えの対象は、債務者の預金債権や車(動産)、土地(不動産)などです。ただし、債務者の債権額に相当する財産のみが対象となります。

また、債権者は、差し押さえる財産を申立時に特定しなければなりません。この点、動産については基本的に特定不要ですが、保全の必要性を判断するため、その種類や所在場所の特定を求められる場合もあります。

仮処分

仮処分とは、債権者の権利を保全するための暫定的な措置のことです。民事保全の仮処分には、以下の2つがあります。

  • 係争物に関する仮処分
    金銭以外の請求権を保全するため、権利関係の変動を一時的に禁止する手続きです。
    主に建物の明渡しや物の引渡しを争う事案で、債務者が対象物を処分したり、対象物の占有を移転したりすることを禁じる措置がとられます(処分禁止の仮処分、占有移転禁止の仮処分)。
  • 仮の地位を定める仮処分
    債権者に生じている危険を回避するため、債権者の権利関係について暫定的な措置を講じることです。
    例えば、不当解雇を争う事案で、労働者が当面の生活費を確保できるよう、会社に賃金の支払いを命じるケースがあります。
    また、配置転換の無効を訴える労働者に対し、訴訟中は以前の業務に就くことを認める措置がとられるケースもあります。

労働事件における保全の例

では、労働事件で民事保全手続きがとられるのはどのようなケースでしょうか。代表例を3つみていきましょう。

未払い賃金・退職金等の請求訴訟

労働者が未払い賃金や残業代、退職金等を請求するケースです。
ここで保全が必要なのは「金銭債権」なので、労働者が仮差押えを申し立ててくることが考えられます。仮差押えによって会社の財産を確保し、強制執行を保全するためです。

なお、会社に対する仮差押えでは、会社の不動産や預金、売掛金等が対象となります。

正当な理由により賃金や退職金を支払っていない場合、証拠を揃えて訴訟で争うことが重要です。賃金や残業代であれば、タイムカードの打刻記録や勤怠表、業務日報など労働時間がわかる資料が証拠になりえます。また、退職金の場合、就業規則の規程や雇用契約書をもとに、当該労働者が支給の対象外であることを主張しましょう。

最終的に会社側が勝訴すれば、差押えによって受けた不利益について、労働者へ損害賠償請求できる可能性もあります。

労働契約上の地位確認訴訟

主に解雇の有効性を争うケースです。この場合、解雇された労働者が、労働契約上の従業員たる地位を保全するため、仮処分を申し立てることがあります。

仮処分の内容としては、まず、地位保全の仮処分があります。これは、労働者が労働者としての地位を失うことによる不利益(社会保険を利用できなくなる、社員寮に住めなくなる等)や再就職の難易度を考慮し、暫定的に労働者としての地位を認める措置です。

  

また、賃金仮払いの仮処分もあります。これは、解雇によって労働者の生活が困窮するおそれがある場合、会社に対して訴訟中の賃金の仮払いを求める措置です。

ただし、労働者に預貯金や財産がないことが前提ですので、たとえ会社が勝訴しても仮払金を回収するのは困難です。そのため、保全の必要性が高いケースで、一定期間かつ最低限の賃金のみが支払われるのが一般的です。

競業による損害賠償請求訴訟

競業とは、在職中や退職後に競合他社へ入社したり、競業企業を自ら立ち上げたりすることをいいます。
労働者が競業に及んでいる場合、自社のノウハウや機密情報が漏洩するリスクがあるため、会社は労働者に損害賠償請求をすることができる可能性があります。

しかし、判決を待っていると不利益が拡大するおそれがあるため、会社は民事保全手続きをとるのが良いでしょう。具体的には、労働者の競業行為を仮に禁止する仮の差止めができます。また、将来の損害賠償請求を保全するため、労働者の財産を仮差押えすることも可能です。

ただし、競業について民事保全を行う場合、基本的に労使間で競業禁止の合意があることが必要です。就業規則や雇用契約書に、競業行為を禁止する旨が書かれているかがポイントとなるでしょう。

その他、当該合意が正当な範囲であること(職業選択の自由を不当に侵害しないこと)会社の不利益が著しく大きいこと等も証明する必要があります。

民事保全手続きの流れ

民事保全手続きは、以下のような流れで行われます。ただ申し立てるだけでは認められず、裁判所の審査や担保の提供など様々な手続きを踏む必要があります。

  1. 保全命令の申立て
  2. 審理
  3. 担保決定
  4. 保全決定
  5. 保全執行

それぞれのステップについて、詳しくみていきましょう。

保全命令の申立て

まず、裁判所に必要書類を提出し、保全命令を申し立てます。申立先は、差し押さえる財産や会社の所在地を管轄する地方裁判所となります。

なお、申立書には、申立ての趣旨や保全されるべき権利、申立てに至るまでの経緯、保全の必要性等を詳しく記載します。また、それを証明する資料(契約書や陳述書等)も併せて提出する必要があります。

また、申立手数料として2,000円の収入印紙や債務者数に応じた郵便切手の添付が必要です。

その他、保全命令の内容によっては、不動産登記事項証明書や固定資産評価証明書、当事者の資格証明書等の提出を求められることがあります。

審理

保全命令を出すべきかどうか、裁判所が審査を行います。
審査では、提出書類や疎明資料(証拠)をもとに債権者面接を行うのが一般的です。債権者から直接話を聞き、主張の正当性や保全の必要性について慎重に判断するためです。

なお、仮差押えや係争物に関する仮処分では、債務者に内密に行われるため、債権者の審尋のみが行われます。

一方、仮の地位を定める仮処分では、債権者・債務者双方に審尋を行うことがあります。もっとも、双方から話を聞く場合、当事者尋問ではなく答弁書のやり取りとなるケースが多いです。答弁書の内容や証拠をもとに、裁判所が保全の必要性を判断するのが一般的です。

担保決定

保全の必要性が認められたら、法務局に担保の供託を行います(民事保全法14条)。
担保の供託は、債権者が敗訴したときに備え、債務者への補償を確保するための手続きです。債権者が敗訴した場合、保全命令を受けた債務者は大きな不利益を被ると考えられるため、事前に担保の提供を求められるのが基本です。

供託が完了したら、裁判所へ供託書とその他必要書類(当事者目録・請求債権目録・仮差押え債権目録・物件目録など)を提出します。

なお、担保金の額は裁判所の裁量で決まりますが、請求額の20~30%が相場となっています。

ただし、解雇による仮の地位を定める仮処分では、無担保で保全命令が出されることもあります。というのも、仮処分は労働者に生じている危険(生活の困窮など)を回避するための措置であり、担保を支払わせるのはこの目的に矛盾するといえるためです。

保全決定

保全命令が下されると、債権者には保全命令の正本が交付されます。その後、関係各所への通知や、債務者への保全命令の正本も送達されることになります。

なお、保全命令の正本を受領した債務者は、債権者に対し、本事案について訴訟を起こすよう求めることができます。また、一定期間内に債権者が訴訟を提起しない場合、保全命令は取消しとなります。

保全執行

保全命令が下されても、それだけで執行手続きが進むわけではありません。保全執行を望む場合、債権者は、保全命令の送達を受けた日から2週間以内に保全執行手続きをとることが必要です(民事保全法43条2項)。これを執行期間といいます。

2週間と短期に定められているのは、そもそも保全命令が、緊急性の高い場合に限り認められるものだからです。また、時間が経過すると状況が変わり、保全の必要性がなくなる可能性もあるためです。

なお、保全命令が債務者に送達される前であっても、債権者は保全執行を行うことができます。

不服申立て

債務者は、保全命令に不服がある場合、異議申立てを行うことができます。保全命令を発した裁判所に対し、再度審理を求めることになります。

異議の事由としては、命令の内容が不当であること、被保全権利が認められないこと、担保が不十分であること等が挙げられます。

ただし、保全執行の停止を求めるには、異議申立てとは別に執行停止の申立ても行う必要があります。この点、異議申立てだけで当然に執行手続きが止まるわけではないので注意しましょう。

また、保全取消しの申立ても可能です。これは、保全命令発令後の事情の変化や特別な事情により、保全命令の取消しを求める手続きです。保全命令が比較的債権者に有利な手続きであることから、債務者にも是正の機会を与えるための救済措置と考えられています。

例えば、被保全権利が弁済や解除によって消滅した場合や、債務者の財産が増加して差押えの必要性がなくなった場合等に申し立てられることがあります。

民事保全手続きの費用

民事保全手続きの申立てには、申立手数料と郵便切手の提出が必要です。
申立手数料は、1案件につき2,000円の収入印紙を添付するのが基本です。

郵便切手は裁判所によって金額が異なるため事前に確認が必要ですが、債務者の人数や法務局の数によって増減します。具体的には、ベースの金額や切手の組み合わせが決められており、「債務者が1人増えるごとに〇円を追加する」といった具合です。

また、不動産の仮差押えを行う場合、担保の供託後に登録免許税納付用の収入印紙も収める必要があります。金額は、請求債権額×4/1000となっています(ただし、請求債権額の1,000円未満、算出額の100円未満は切り捨てます)。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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