外国人アルバイト・パートの雇用について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
少子高齢化による人手不足が深刻化する中、外国人労働者の重要性はますます高まっています。
実際に、日本における外国人労働者数は、令和3年10月末時点で過去最高を記録しています。
また、令和4年4月の有効求人倍率は1.23倍となっており、多くの企業が求人募集を行っている状況です。外国人労働者を積極的に雇うことは、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
ただし、外国人労働者を雇用する際はさまざまな対応が必要です。チェック事項や注意点、手続きなどが多いため、漏れがないよう注意しましょう。また、事業主に課せられる責務も理解しておくことが重要です。本記事で詳しく解説していきます。
目次
外国人をアルバイト・パート雇用する際に重要なこと
外国人を雇用する際は、在留資格の確認が必要です。
在留資格とは、外国人が日本に滞在し、一定の活動を行うための資格です。
在留資格には「就労活動の有無」が定められており、就労不可の場合は基本的に雇うことができません(資格外活動を除く)。また、仕事内容に制限があるケースもあるため必ずチェックしましょう。
なお、渡航手続きを受けず日本に60日以上滞在する場合(日本国籍の離脱や日本国内での出生など)は、その事由発生後30日以内に在留資格を申請する必要があります。
労働関連法規や社会保険等の適用
労働基準法などの労働関連法規は、外国人労働者にも適用されます。
また、社会保険への加入も必要です。雇用保険(及び労災保険)はハローワークへ、健康保険と厚生年金は年金事務所へ、それぞれ必要書類を提出しましょう。
なお、雇用保険に加入しない場合、「外国人雇用状況報告書」の提出が必要となります。
また、入社前には労働契約を締結する必要があります。このとき、「在留資格が認定されなかった場合、契約が無効となる」旨を明記しておくと安心です。
外国人をアルバイト・パートで採用する際の留意点
外国人をアルバイトやパートとして採用するとき、事業主はどんなことに注意すべきでしょうか。
「知らずに雇用していた」ということがないよう、以下でしっかり押さえておきましょう。
在留資格(ビザ)の確認
在留カードなどによって、在留資格や就労資格があるかチェックします。
また、在留資格にはいくつか種類があり、就労できる職務が限定されているものもあります。例えば、医療・教育・技能といった分野で区分されています。
詳しくは、在留カードの「就労制限の有無」に記載されているため、自社の業務と合致するか必ず確認しましょう。
なお、ここに「就労不可」と記載されている場合、基本的に当該外国人を雇用することはできません。ただし、別途「資格外活動許可」を得ている場合、一定の範囲内で就労が可能となります(詳しくは後ほど解説します)。
外国人雇用が認められる在留資格
在留資格の種類によって、就労できる職務にも違いがあります。
【無制限に就労できるもの】
- 永住者
- 日本人や永住者の配偶者等
- 定住者
【就労が認められないもの】
- 文化活動
- 短期滞在
- 留学
- 研修
- 家族滞在
※資格外活動許可を得ていれば、その範囲内で就労可能
また、就労できる業務が限定されているものもあります。例えば、医師であれば「医療」、語学教師であれば「教育」の分野での就労資格が必要となります。就労資格と適合しない職務や活動を行うことは、基本的に認められません。
なお、ワーキングホリデーなどの特定活動も、指定された範囲で就労・活動が可能です。
詳しくは法務省の表をご覧ください。
在留資格のない外国人を雇用した場合の罰則
就労が認められていない外国人を雇用した場合、事業主は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はその両方が科せられます。
罰則の対象は、以下の外国人を雇用したケースです。
- 不法入国者:入国許可を得ず、違法に入国した者
- 不法滞在者:在留期間が切れている者、退去強制されることが決まっている者
- 就労資格がない者:在留カードが「就労不可」の者(資格外活動許可を除く)、就労資格の範囲を超えて就労している者
事業主は、雇用前に在留カードの提出を求め、在留期間・就労資格・資格外活動許可などを確認する義務があります。
たとえ不法就労だと知らなかったとしても、確認不足などの過失により処罰の対象となるためご注意ください。
日本語能力の確認
入社後のミスマッチを防ぐため、採用時に日本語能力をチェックしておくことが重要です。チェック方法としては、日本語能力試験の等級が参考になります。
日本語能力試験は、文法や読解、リスニング問題を通し、外国人の日本能力を測るための試験です。難易度によってN1~N5の級に分けられています。
日本で就職を希望する外国人の多くが日本語能力試験を受けるため、採用時の判断基準として有効です。
また、職種によって必要な日本語能力も異なりますので、どの程度の等級を求めるかあらかじめ検討しておくと良いでしょう。
N1レベル | 幅広い場面で使われる日本語を理解することができる |
---|---|
N2レベル | 日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる |
N3レベル | 日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる |
N4レベル | 基本的な日本語を理解することができる |
N5レベル | 基本的な日本語をある程度理解することができる |
就業規則の適用について
外国労働者にも、就業規則は適用されます。
ただし、従来の就業規則をすべて理解するのは難しいでしょうから、母国語に翻訳するなどの配慮が必要です。もっとも、全体を翻訳するのは手間や時間がかかるため、まずは就労時の基本ルールや賃金、解雇などの重要事項から翻訳していくと良いでしょう。
また、初めて外国人を雇用する場合、就業規則の変更が必要になることもあります。
ただし、“国籍による差別”など不合理な内容(外国人というだけで賃金が低いなど)は認められません。
その他、就業規則の変更後に個別で教育・指導するなどの配慮も求められるでしょう。
就業規則の作成の流れについては、以下のページをご覧ください。
在留資格「留学」「家族滞在」「文化活動」を雇用する際の留意点
在留資格が「留学」「家族滞在」「文化活動」の場合、就労するには資格外活動許可が必要です。例えば、留学生がアルバイトする場合です。また、講演などに参加して謝礼金を受け取る場合も同様です。
資格外活動許可は、以下の2つに分けられます。
- 【包括許可】
「留学」「家族滞在」が対象です。
1度許可を得れば、勤務先や活動内容が変わっても再度申請する必要はありません。 - 【個別許可】
「文化活動」が対象です。
勤務先や活動内容、活動期間について個別に許可を得るため、勤務先が変わるたびに申請が必要となります。
資格外許可を得ずに就労した場合、罰則や退去強制の対象となります。また、労働時間の上限にも十分注意が必要です。詳しくは次項をご覧ください。
労働時間の制限
資格外活動許可を得て働く者は、労働時間に上限があります。
「留学」や「家族滞在」による包括許可の場合、1週間の労働時間は週28時間以内となります。なお、残業が発生した場合や、複数のアルバイトを掛け持ちしている場合、すべての労働時間の合計を28時間以内に収める必要があります。
なお、この場合、社会保険(健康保険や厚生年金)の加入要件を満たさない可能性があります。その際は、必ずしも加入する必要はありません。
「文化活動」による個別許可の場合、労働時間は活動ごとに指定されます。したがって、労働時間の上限も、申請の都度個別に決定することになります。
在留資格 | 1週間の就労可能時間 | 長期休業 |
---|---|---|
留学 | 28時間以内 | 1日8時間以内、1週間で40時間まで |
家族滞在 | 28時間以内 | ― |
文化活動 | 個別に決定 | ― |
禁止されている業種
資格外活動許可では、以下の業務に就労することが禁止されています。
- 風俗営業
- 風俗特殊営業(店舗型性・無店舗型性、映像送信型)
- 特定遊興飲食店営業
- 電話異性紹介営業(店舗型・無店舗型)
例えば、キャバレーやナイトクラブ、バー、パブなどが挙げられます。また、パチンコ店やゲームセンターでの就労も認められません。
なお、この規定は、留学生アルバイトだけでなく「家族滞在」や「文化活動」の在留資格にも該当します。
外国人をアルバイト・パート雇用する際の手続き
外国人を雇用する際は、労働契約の締結や各種届出、社内の受入れ準備などさまざまな手続きが必要です。漏れがあると労働者とトラブルになったり、罰則の対象になったりするため注意が必要です。
必要な手続きの詳細は、以下のページをご覧ください。
ハローワークへの届出義務
雇用保険に加入するため、ハローワークへの届出が必要です。
事業主は、雇用保険被保険者資格取得届を入手し、以下の事項を記載してハローワークへ提出する必要があります(雇用対策法28条)。
- 外国人労働者の氏名
- 在留資格
- 在留期間
- 国籍や地域
- 在留カード番号など
手続きの期限は、被保険者となった月の翌月10日までとなっています。また、電子申請も可能です。
一方、外国人労働者が雇用保険に加入しない場合も、雇用状況の報告は必要です。この場合、外国人雇用状況報告書に必要事項を記載し、雇い入れた月の翌月末までにハローワークへ提出します。
届出を怠った場合や、虚偽の申告をした場合、事業主は30万円以下の罰金が科せられます。
外国人雇用における事業主の義務
外国人の雇入れ後、事業主はどのような責務を負うのでしょうか。適切に対応しないと労働者とトラブルになったり、違法になったりする可能性もあります。
求められる対応や注意点をチェックしておきましょう。
適切な人事管理、教育訓練、福利厚生の実施
労働施策総合推進法に基づく外国人指針では、事業主に以下の努力義務を課しています。
- 適切な人事管理
言葉や文化の壁をなくし、多様な人材が能力を発揮できる職場環境を整備する必要があります。 - 教育訓練
外国人が業務内容を十分理解できるよう、母国語での研修や個別相談を実施します。
また、日本の文化や雇用慣行に関する指導や教育も有効です。 - 福利厚生
日本人の社員と同様の福利厚生を提供する必要があります。また、必要に応じて社員寮や宿泊施設の提供も検討すべきでしょう。
詳しくは、以下のページでも解説しています。
国籍による差別の禁止
労働者の国籍・人種・信条・性別・社会的身分などによる差別は、労働基準法によって禁止されています。
例えば、外国籍だから日本人社員よりも低賃金にする、人種の違いを理由に不利な労働条件を設定するなどの行為は違法となります。
また、社内での差別的発言に苦しむ外国人労働者も少なくありません。特に、同僚や上司、取引先から差別的な発言を受けると、その後の業務に支障をきたすおそれもあるでしょう。
外国人を雇用する際は、あらかじめ社内で周知し、差別的行為をしないよう教育・指導しておくのも良いでしょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある