労働安全衛生マネジメントシステムにおける「PDCAサイクル」の構築
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
このページでは、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の要となる「PDCAサイクル」に焦点を当て、サイクルを構築する際のポイントを中心にお伝えしていきます。まずは、「P」「D」「C」「A」の頭文字が何を示すのか押さえておきましょう。
目次
労働安全衛生マネジメントシステムにおける「PDCAサイクル」
労働安全衛生マネジメントシステム、別称【OSHMS】は、法的な対策とは別に、事業者が自主的に行う安全衛生管理の仕組みを指しますが、その中核となるのが「PCDAサイクル」です。
①Plan(計画) ➡ ②Do(実行) ➡ ③Check(評価) ➡ ④Action(改善)
「PDCAサイクル」とは、①計画を立て(Plan)、②実行し(Do)、③その結果の評価に応じて(Check)、④改善する(Action)という4つの流れを繰り返すことをいいます。
なお、「PDCAサイクル」について知る前に、労働安全衛生マネジメントシステム【OSHMS】について理解を深めたいという方は、以下のページをご覧ください。
OSHMSの導入手順
《OSHMS導入の流れ》
(1) 基本的な仕組みの導入
(2) 効果的とする仕組みの導入
(3) 仕組みの見直し
OSHMS は、上記の3つの工程を踏んで導入します。また、この3つの工程は14のタスクに細分化でき、「PDCAサイクル」の構築は、(1)基本的な仕組みの導入におけるタスクとして組み込まれています。
OSHMSの導入手順の詳しい解説は、【OSHMS】のページの該当項目をご確認ください。
PDCAサイクルの必要性
労働安全衛生規則第24条の2において、「PDCAサイクル」がOSHMSの主たる部分と示されていることからみても、事業場の安全衛生水準の継続的な向上を図るために必要な要素といえるでしょう。
厚生労働省は、労働安全衛生規則第24条の2に基づき、『労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針』公表しています。これは、OSHMSの導入を促進するために作成された指針であり、「PDCAサイクル」は、この指針を軸に構築していくことになります。
労働安全衛生規則
第24条の2
厚生労働大臣は、事業場における安全衛生の水準の向上を図ることを目的として事業者が一連の過程を定めて行う次に掲げる自主的活動を促進するため必要な指針を公表することができる。
一 安全衛生に関する方針の表明
二 法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置
三 安全衛生に関する目標の設定
四 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善
『労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針』の策定、指針改正の経緯等に関する詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
国際規格ISO45001との関連
OSHMSの国際規格である“ISO45001”も、労働安全衛生の水準を継続的に改善していくために「PDCAサイクル」の仕組みを構築し、OSHMSを運用することを求めています。
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PDCAサイクルの構築方法
では、①Plan(計画)、②Do(実行)、③Check(評価)、④Action(改善)を具体的にどのように構築していくのか、『労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針』を交えてみていきましょう。
Plan(計画)
まずは、いわゆる“リスクアセスメント”等の実施(第10条)によって、労働者に及ぶ労働安全衛生上のリスクを抽出したうえで、安全衛生目標を設定します(第11条)。その際、最終的に到達すべき目標を数値で示すことで、円滑かつ的確な「③Check(評価)」を行うことが期待できます。また、職場における緊急事態時に労働災害の発生を防ぐための対応(第14条)等についても、この時点で定めておきます。
これらをもとに、安全衛生目標達成のための、具体的な安全衛生計画を作成します(第12条)。
目標と計画が明確でなければ、「②Do(実行)」、「③Check(評価)」へと繋がらず、「PDCAサイクル」がうまく回りません。そのため、「①Plan(計画)」は「PDCAサイクル」の中でも最重要ステップといえるでしょう。目標、計画は、それぞれ文書で残しておくこと(第8条)もポイントです。
なお、“リスクアセスメント”については別にページを設けて詳細に解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
- 明文化(第8条)
- 危険性又は有害性等の調査及び実施事項の決定(第10条)
- 安全衛生目標の設定(第11条)
- 安全衛生計画の作成(第12条)
- 緊急事態への対応(第14条)
Do(実行)
「②Do(実行)」は、「①Plan(計画)」で立てた安全衛生計画に沿って実行するとともに(第13条)、実行した結果、計画の内容が効果的なものだったか、別案がないかなどを検証し、試行錯誤するステップです。
「③Check(評価)」に備え、計画通りに進んだものだけでなく、計画通りにいかなかったものの結果や、目標に対する進捗具合なども、記録に残しておくことがポイントとなります(第9条)。
- 記録(第9条)
- 安全衛生計画の実施等(第13条)
Check(評価)
「③Check(評価)」では、安全衛生計画を実行した結果について、目標と照らし合わせて達成できているかどうか、そもそも計画に沿って実行できていたかどうかを評価します(第15条)。
具体的には、目標が達成できた、あるいはできなかった場合の、良かった点と悪かった点、労働災害等が発生した場合の問題点(第16条)など、それぞれの原因を分析し、課題を浮き彫りにして「④Action(改善)」に繋げていきます。
- 日常的な点検、改善等(第15条)
- 労働災害発生原因の調査等(第16条)
Action(改善)
「④Action(改善)」では、「③Check(評価)」で検証し、評価した結果浮き彫りになった課題に基づき、改善を行っていきます。
そして、定期的に、以下のような観点でOSHMSの見直しを行い(第17条)、次の「PDCAサイクルに」繋げて、職場内の安全衛生レベルをより引き上げるための改善策を、継続的に模索していきます。
(ア) このまま「②Do(実行)」を継続する。
(イ) 「Plan(計画)」の一部修正を図る。
(ウ) 現在の「①Plan(計画)」を中止して、新たな「①Plan(計画)」を立てる。
- システム監査(第17条)
PDCAサイクルがもたらす効果
「PDCAサイクル」によって計画から改善までの流れを継続的に繰り返すことで、ある程度作業が定型化されるため、ミスが減り、作業効率の改善が期待できます。
加えて、どういった目標に向かって業務を進めていくのか、計画にかかわる者の役割、責任、権限に至るまで、文書に記録しておくことが指針にて求められています。つまり、目標や行動基準が明確であるため、チーム全体が円滑に、具体的な行動をとることができます。また、評価を行う際にも、一連の作業においてどの点が良く、どの点が問題だったのかといった判断も容易になります。
PDCAサイクルの効率化
「PDCAサイクル」は、継続して初めて効果を発揮するものです。つまり、いかにして次のサイクルへ繋げられるかが重要です。例えば、明らかに達成できないような目標や、ざっくりした目標を設定していては、サイクルが途切れてしまうおそれがあります。それよりは、小さな「PDCAサイクル」を的確に回していく方が、サイクルは効率的に回るでしょう。
誰が、どんな業務を、どのような方法で、なんのために行うのか、数値等を示して細かく具体的に「①Plan(計画)」を設定することがポイントです。
また、「④Action(改善)」に至るまでの経過や結果をデータとしてまとめておくことも、効率化のためには大切です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある