労働安全衛生法上の機械・危険物・有害物に関する規制
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
機械や有害物といった「危険物」を扱う職場では、労働災害の発生を防ぐため、さまざまな規制が設けられています。規制の具体的な内容としては、使用の禁止や検査の実施、許可申請や表示義務などが挙げられますが、とても細かく定められているため、漏れがないように対応する必要があります。
本記事では、危険物に対する規制について、一覧表やリストを用いてわかりやすく説明していきます。
目次
労働安全衛生法による危険・健康障害の防止義務
労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康を守り、働きやすい環境を作るための法律です。労働災害の発生を未然に防ぐため、事業主にはさまざまな措置の実施が義務付けられています。
特に、機械や有害物質などの“危険物”を取り扱う職場では、重大な労働災害が発生しやすいといえます。また、高温や騒音が発生する場所での作業も、後に健康障害を引き起こす可能性があります。
よって、事業主は必要な措置をしっかり理解し、漏れなく対応することが重要です。
なお、労働安全衛生法上の措置を怠った企業は、行政処分や刑事罰の対象となるため注意が必要です。
機械や危険物・有害物に関する規制
労働者の危険や健康障害を防ぐために、機械や有害物、危険物等の規制が労働安全衛生法及び労働安全衛生法施行令で設けられています。
機械の不備等による負傷や、化学物質など危険物の吸引等による健康被害を防ぐために、適切な検査や危険性の表示、伝達を実施することが求められています。
機械等に関する規制
会社は労働災害を防止するため、事業場の機械・設備等に不備がないか、定期的に検査等をして安全を確保する必要があります。
また、危険な作業を行う機械等は、製造や検査等に関する規制が設けられているため、本項で紹介していきます。
製造の許可
特定機械等といわれる危険な作業を必要とする一定の機械等の製造には、都道府県労働局長による事前の許可が必要となります(労安衛法37条)。
ここでいう特定機械は以下に挙げるものです。
- ①ボイラー(小型ボイラーを除く)
- ②第一種圧力容器(小型圧力容器を除く)
- ③つり上げ荷重が3トン以上(スタッカー式のクレーンにあっては、1トン以上)のクレーン
- ④つり上げ荷重が3トン以上の移動式クレーン
- ⑤つり上げ荷重が2トン以上のデリック
- ⑥積載荷重が1トン以上のエレベーター(簡易リフトおよび建設用リフトを除く)
- ⑦ガイドレールの高さが18メートル以上の建設用リフト(積載荷重が0.25トン未満のものを除く)
- ⑧ゴンドラ
製造時等の検査・検査証の交付
特定機械等を下記のように取り扱うには、都道府県労働局長又は労働基準監督署長による検査を受け、検査証の交付(または裏書)を受けることが義務付けられています。
- ①製造
- ②輸入
- ③設置
- ④主要部分の変更
- ⑤使用休止後の再開
また、検査証には、特定機械等の種類に応じて有効期限があり、期限は次のとおりです。
種類 | 有効期限 |
---|---|
ボイラー及び第一種圧力容器 | 1年 |
エレベーター及びゴンドラ | 1年 |
クレーン及び移動式クレーン | 2年 |
譲渡等の制限
検査証の交付を受けていない特定機械等の使用は禁止されています。検査証を受けた特定機械等は、検査証付きに限り、譲渡または貸与が許可されています(労安衛法40条)。
また、特定機械等以外の機械での危険・有害な作業や、危険な場所で使用する機械等に関しては、厚生労働大臣が定める規格または安全装置を備えていなければ、設置・譲渡・貸与を行うことはできません。(労安衛法42条)。
個別検定・型式検定
「危険な場所で使用する機械」や、「危険防止のために使用する用具」については、厚生労働大臣が定める規格・安全装置を備えている必要があります。
また、そのうち17種類については、「個別検定」または「型式検定」に合格したうえで設置する必要があります。
【個別検定】
機械1台ごとに、または製品1つずつ、個別に行う検定のことをいいます。型式が同じ機械でも、それぞれ検定を受ける必要があります。
合格証は交付されず、機械や製品の明細書に「合格印」を押されるのが基本です。
【型式検定】
同じ型式の機械や製品ごとに行う検定のことです。合格すると「型式検定合格証」が発行され、記載された有効期間内であれば、その型式の機械や製品を何個でも製造・輸入することができます。
個別検定が必要なもの |
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型式検定が必要なもの |
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危険物・有害物に関する規制
危険物・有害物を取り扱う事業場の場合、知らず知らずのうちに人体に健康障害を生じさせているおそれがあります。そのような事態を防止するために、労働安全衛生法では、化学物質の取扱いや調査等が規制されています。本項では、危険物・有害物に関する規制について説明します。
製造禁止物質
以下の物質は、労働者に重度の健康障害をもたらすため、製造・輸入・譲渡・提供・使用が基本的に禁止されています(労安衛法55条本文、同法施行令16条1項)。
- ①黄りんマッチ
- ②ベンジジン及びその塩
- ③4-アミノジフェニル及びその塩
- ④石綿
- ⑤4-ニトロジフェニル及びその塩
- ⑥ビス(クロロメチル)エーテル
- ⑦ベータ-ナフチルアミン及びその塩
- ⑧ベンゼンを含有するゴム糊(5%以上含有するもの)
- ⑨②、③若しくは⑤から⑦の物をその重量の1%を超えて含有し、または④に掲げる物をその重量の0.1%を超えて含有する製剤その他の物
ただし以下の要件を満たせば、これらの「製造禁止物質」を試験研究目的で製造・輸入・使用することができます。
- 所轄の都道府県労働局長の許可を受けること
- 禁止物質の製造における基準(予防規則)を満たすこと
製造の許可
以下の物質は健康障害を及ぼすおそれがあるため、製造するには厚生労働大臣の許可が必要となります(労安衛法56条、同法施行令17条、別表第三第1号)。
- ①ジクロルベンジジン及びその塩
- ②アルファ-ナフチルアミン及びその塩
- ③塩素化ビフェニル及びその塩
- ④オルト-トリジン及びその塩
- ⑤ジアニシジン及びその塩
- ⑥ベリリウム及びその化合物
- ⑦ベンゾトリクロリド
- ⑧①から⑥の物をその重量の1%を超えて含有し、または⑦の物をその重量の0.5%を超えて含有する製剤その他の物(合金にあっては、ベリリウムをその重量の3%を超えて含有するものに限る。)
- ⑨石綿分析用試料等
危険有害性の表示義務
一定の有害物質の容器や包装には、その危険性や取扱い方法をラベルで表示することが義務付けられています。
【ラベル表示が必要な物質】
- ①爆発性、発火性、引火性の物その他の労働者に危険が生ずるおそれのある物
- ②ベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある一定の物
- ③製造に厚生労働大臣の許可を要する物
【ラベル表示が必要な項目】
- 製剤の特定名(名称、成分、含有量等)
- 絵表示
- 注意喚起語
- 危険有害性情報
- 注意書き
- 供給者の特定 他
また、これらの有害物質を譲渡・提供する際は、SDS(安全データシート)に以下の項目を記載し、相手方に交付しなければなりません。
【SDSに記載する項目】
- 化学製品中に含まれる化学物質の名称
- 物理化学的性質
- 危険性
- 有害性
- ばく露した際に行うべき応急措置
- 取扱方法
- 保管方法
- 廃棄方法 他
なお、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、ラベル表示やSDSの交付が必要な物質が一覧化されています(2024年4月1日時点で896物質)。また、物質名やCAS番号での検索も可能です。
化学物質の有害性の調査
政令で定められていない化学物質(新規化学物質)を製造・輸入する場合、厚生労働省の基準に沿って有害性の調査を行い、その結果を厚生労働大臣に届け出なければなりません。
この“有害性の調査”では、新規化学物質が労働者の健康にどのような影響を与えるのかを調べます。
また事業主には、調査結果をもとに、労働者の健康障害を防ぐために必要な措置を速やかに講じることが義務付けられています。
さらに、調査結果や講じる措置の内容については、関係労働者へ周知し、記録を残すことも必要です。
一方、厚生労働省は、必要に応じて事業主へ安全対策の実施を勧告する場合があります。具体的には、安全設備の整備や保護具の装備などの措置を促します。
このように化学物質を調査し、必要な対策を講じることは、「リスクアセスメント」と呼ばれます。
リスクアセスメントの実施の流れなどは、以下のページで解説しています。
化学物質に関する労働安全衛生法の改正
法改正により、2023年4月から「新たな化学物質規制」が開始されました。これは、職場の安全確保に向け、事業主がより主体的に行動するための指針です。具体的なポイントは、以下の3つです。
【リスクアセスメントの実施対象物質が大幅に増加】
ラベル表示やSDS通知、リスクアセスメントの対象物に、新たに2900種類が追加されました。これにより、国で危険性または有害性が確認されたすべての物質が対象となりました(2024年4月から順次導入)。
【ばく露低減措置の実施義務化】
リスクアセスメントの結果を踏まえ、労働者が対象物質にばく露される程度を最小限に抑えることが義務付けられました。
また、一定の物質については、労働者がばく露される濃度を基準値以下にすることが求められます。
【化学物質管理者および保護具着用管理者の選任義務】
リスクアセスメントやばく露防止措置を適切に実施するため、「化学物質管理者」を選任します。
また、保護具を使用する職場では、有効な保護具の選定や使用状況の管理を行う「保護具着用管理者」を選任することが義務付けられました。
労働者への特別教育の実施
労働災害の発生を防ぐには、危険物を取り扱う労働者に対して十分な教育を行う必要があります。労働者に危険物の知識や技能があれば、防げていたであろう事故も多く発生しているためです。
具体的には、まず雇入れ時に「危険物の扱い方」や「作業手順」、「事故発生時の応急措置」などを説明します(労働安全衛生規則35条)。なお、作業内容が変更したときは、その都度教育を行う必要があります。
また、新たに職長や指導・監督者になる者には、就任前に教育を行う必要があります(職長教育)。
そのため、職長や監督者になる可能性がある者には、計画的に教育を実施しておくようにしましょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある