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内定取り消しの注意点|違法性や認められる事例など詳しく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社が内定を出した後でも、業績の悪化などにより、内定取り消しを検討せざるを得ない場面があるでしょう。

しかし、たとえ入社前であっても、内定を通知した時点で会社と内定者との間には労働契約が成立します。そのため、会社都合の内定取り消しは、正当な理由がなければ無効と判断されるおそれがあるため注意が必要です。

この記事では、どのような場合に内定取り消しが認められるのか、内定取り消しを行う際の注意点についてわかりやすく解説します。

内定取り消しとは

内定取り消しとは、会社が一度出した採用内定を、後から撤回することをいいます。内定について会社と応募者が合意した時点で、たとえ入社前でも、法律上は労働契約が成立すると考えられています。

そのため、内定取り消しは単なる採用方針の変更ではなく、実質的には解雇と同じく慎重な判断が求められる行為です。対応を誤れば違法と判断され、損害賠償請求などの法的リスクを負う可能性もあります。内定を撤回するにあたっては、正当な理由と誠実な対応が求められます。

内定取り消しの違法性

内定はすでに採用が決まり、就業開始時期も予定されていることから、法律上は正式な労働契約の一種と考えられています。そのため、企業が正当な理由なく内定を一方的に取り消すことは、労働契約を解消する「解雇」と同様に扱われるのが特徴です。

労働契約法16条では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となる」と定められており、いわゆる解雇権濫用法理が定められています。これは、解雇によって労働者が受ける不利益が極めて大きいことを踏まえ、労働者を保護するために、解雇を厳しく制限する考え方です。

内定取り消しは、内定者の意思にかかわらず、企業の一方的な判断で成立済みの労働契約を終了させる行為であるため、この解雇権濫用法理がそのまま適用されます。したがって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当とはいえない内定取り消しは、解雇権の濫用として無効と判断されるおそれがあるため注意が必要です。

なお、「解雇」について詳しく知りたい方は、以下のページから解雇事由等についてご覧いただけます。

正当な解雇事由とは|解雇条件や労務上の注意点など

内々定の取り消しの場合

内々定は「採用予定の通知」です。内々定を行ったとしても、法律上は内定と異なり、労働契約は成立していません。そのため、内々定を会社側から取り消しても、基本的には違法とされません。

ただし、内定をもらえるという合理的な期待を有しているにもかかわらず、この期待を裏切ったときには、不法行為として会社に損害賠償責任が生じることがあるので注意しましょう。

新卒者の内定取り消しの場合

新卒者の内定取り消しや、入社時期の繰下げを行った企業は、その事実をハローワークへ通知することが、職業安定法施行規則第35条第2項により求められています。さらに、2年度以上連続して内定取り消しを行うなど、一定の条件に該当した場合には、企業名が公表される可能性もあります。

企業名が公表されれば、社会的評価の低下を招くだけでなく、今後の採用活動にも深刻な影響を及ぼしかねません。こうした点からも、内定取り消しについては、特に慎重な判断が求められます。

なお、厚生労働省の指針では、やむを得ず内定を取り消すときに会社が留意すべき事項として、以下をあげているためご注意ください。

  • あらかじめハローワークへ通知・相談を行い、その指導内容を尊重すること
  • 解雇予告や休業手当など、労働基準法の規定に違反しないよう配慮すること
  • 内定を取り消された学生に対し、再就職に向けた支援を行うこと
  • 補償などの要請があれば、誠意をもって対応すること

中途採用の内定取り消しの場合

中途採用であっても、双方が内定に合意した時点で労働契約は成立します。そのため、内定の取り消しは解雇と同様に扱われ、正当な理由がなければ無効と判断されるおそれがあります。

もっとも、内定取り消しが認められるかどうかは、新卒採用と中途採用とで判断の基準が異なる点に注意が必要です。新卒採用がポテンシャルを重視するのに対し、中途採用では経験やスキルを前提に判断が行われます。

採用判断を左右する重大な経歴詐称が判明した場合や、入社までに業務上必要な免許・資格を取得できなかったような場合には、内定取り消しが認められる可能性が高いといえるでしょう。

内定取り消しが認められるケース

内定取り消しが有効と認められるためには、客観的に合理的であり、社会通念上相当といえる理由が必要となります。ただし、以下のような採用の前提をくつがえす重大な事情がある場合には、例外的に内定取り消しが認められる可能性があります。

  • ①虚偽の申告があった場合
  • ②刑罰法規に違反した場合
  • ③疾病などで働けなくなった場合
  • ④大学等を卒業できなかった場合
  • ⑤内定通知書や誓約書の条件違反があった場合
  • ⑥業績悪化で整理解雇の要件を満たした場合

虚偽の申告があった場合

内定者が申告していた学歴・職歴・資格・業務経験などに虚偽があることが判明した場合、その内容や企業への影響によっては、内定取り消しが認められる可能性があります。

特に、採用判断の前提となる重要な事項について経歴詐称があり、会社が事実を知っていれば内定を出さなかったといえるようなケースでは、内定者として不適格と判断されやすくなります。

一方で、単なる記載ミスや、業務に直接支障を及ぼさない程度の申告漏れにとどまる場合には、直ちに内定取り消しが有効と認められるとは限りません。個別の事情に応じて慎重に判断することが必要です。

刑罰法規に違反した場合

採用内定が出た後であっても、内定者が窃盗や暴行、詐欺などの重大な犯罪を起こし、逮捕された場合には、内定の取り消しが認められる可能性が高いと考えられます。

こうした事態では、会社と内定者との信頼関係が大きく損なわれるだけでなく、内定を維持することによって、会社の評判や社会的信用に悪影響が及ぶおそれがあるためです。

もっとも、逮捕されたという事実だけで直ちに有罪が確定するわけではありません。会社としては、報道内容や捜査状況を含めて事実関係を慎重に確認したうえで、内定を取り消すかどうかを判断する必要があります。

疾病などで働けなくなった場合

内定者の健康状態が著しく悪化し、入社後に通常の業務を行うことが難しいと見込まれる場合には、内定の取り消しが認められることがあります。長期間にわたって十分な労務提供ができない状況では、企業にとって内定を維持することが困難となるためです。

もっとも、健康状態の悪化が一時的なもので、短期間の治療によって回復が見込まれる場合や、配置転換や業務内容の調整によって就労が可能な場合には、内定取り消しが違法と判断される可能性もあります。症状の程度や回復の見通し、企業側でどこまで配慮できるかといった事情を踏まえ、慎重な検討が求められます。

大学等を卒業できなかった場合

高等学校や大学などの卒業を前提条件として採用内定を出している場合、内定者が単位不足などの理由で卒業できなかったときは、企業が内定を取り消すことは適法であると考えられます。

これは、内定が「所定の学歴を取得し、入社後すぐに業務に従事できること」を前提に出されているためです。卒業できず、引き続き学校に通う必要が生じた場合には、就労開始が遅れるなど、企業の業務に支障が生じる可能性があります。

そのため、卒業という採用条件を満たさなかった場合には、内定取り消しが認められる可能性は高いといえるでしょう。

内定通知書や誓約書の条件違反があった場合

会社が内定を出す際には、内定通知書を交付し、内定者から入社承諾書や誓約書の提出を求めるのが一般的です。これらの書類には、「一定の資格を取得できなかった場合」や「内定期間中に重大な規律違反があった場合」など、内定取り消しが可能となる事由が明記されていることが多いです。

例えば、資格取得を条件としていたのに不合格となった場合や、SNSで不適切な発言をしたことが判明した場合には、取り消し事由に当たるとして、内定取り消しが認められやすくなります。ただし、取消理由が法令や社会通念に反する場合は、無効と判断されるため注意が必要です。

業績悪化で整理解雇の要件を満たした場合

会社の経営状況が悪化し、事業の継続そのものが困難となるような場合には、例外的に内定取り消しが適法と判断されることがあります。その判断基準として参考にされるのが、整理解雇の4要件です。

以下の要件をすべて満たす場合は、業績悪化を理由とする内定取り消しが適法とされる可能性が高くなります。

  • ①人員削減の必要性
  • ②解雇回避努力義務の履行(希望退職の募集など解雇を避ける努力を尽くしたか)
  • ③人選の合理性 (内定者を解雇する正当な理由があるか)
  • ④手続きの相当性(従業員や労働組合に十分に説明したか)

整理解雇の要件についての詳細は、以下のページをご覧ください。

整理解雇とは|4要件や実施手順、退職金などについて解説

内定取り消しが違法と判断されるケース

内定取り消しは、次のようなケースでは違法と判断される可能性があるため注意が必要です。

  • 業績悪化を理由とするが合理性に欠ける場合
    業績悪化を理由としているが、人員削減の必要性や解雇回避の努力など、整理解雇に求められる要件を満たしていない場合
  • 事実確認が不十分
    犯罪をしたという噂など、不確かな情報をうのみにし、十分な事実確認を行わず内定を取り消した場合
  • 選考時に確認できた事情を理由にした場合
    「社風と合わない」「暗い」など、選考時に把握できた、または把握していた事情を、後になって内定取り消しの理由とした場合
  • 処分として重すぎる場合
    書類の提出の遅れなど、軽微な問題行動だけを理由に内定を取り消した場合
  • 法律で禁止される不利益取扱いにあたる場合
    妊娠や出産、思想・信条、性的指向、国籍などを理由に内定を撤回した場合

内定者側の事由による内定取り消しが認められた判例

内定者側の事由によって内定取り消しが認められた判例として、無届デモを行って逮捕され、起訴猶予処分を受けた内定者の内定を取り消した事例があります(最高裁 昭和55年5月30日第2小法廷判決、電電公社採用内定取消事件)。

なお、当該事例では、「逮捕されたこと」や「刑事事件を起こしたこと」等は、会社が交付した書類に内定取り消しの要件として明記されていませんでしたが、内定を取り消す事由は、明記したものに限定されるわけではないと解しています。

会社側の事由による内定取り消しが認められなかった判例

会社側の都合による内定取り消しが認められなかった裁判例をご紹介します。

【東京地方裁判所 平成9年10月31日決定(インフォミックス内定取消事件)】

事案の内容

Aは、B社に勤務中、X社からスカウトを受けたため、X社のコンサルティング部のマネージャーとして入社することを決意し、入社承諾書を提出し、B社を退職しました。

しかし、入社の約2週間前になって、X社は業績不振等の理由により、SE職への変更や、補償金の支払いによる入社辞退等をAに打診しました。Aがこの提案を断ったところ、内定が取り消されたため、Aが内定取り消しの無効を訴えた事案です。

裁判所の判断

裁判所は、内定者は実際には働いていないが、内定という労働契約に拘束されて他社に就職できない立場にあるため、会社が経営状況の悪化を理由に内定を取り消す場合は、整理解雇の有効性の要件を考慮し、客観的に合理的で、社会通念上相当と認められるかどうかを判断すべきと判示しました。

本件では、人員削減の必要性が高く、Aを含めた内定者に対し、職種変更や補償の打診など、内定取り消し回避のために相当の努力を尽くしているため、客観的に合理的な理由は認められるが、内定取り消し前後のX社の対応は誠実性に欠け、内定取り消しによりAが被った著しい不利益を考慮すれば、社会通念上相当と認められないから、内定取り消しは無効との判決を下しました。

違法な内定取り消しを行った場合のリスク

企業のイメージダウン

近年では、内定を取り消された者がSNS等を利用して、その事実を暴露する事例が見受けられます。仮に、内定を取り消された本人が社名等を公表しなかったとしても、他の情報から会社が特定されてしまうリスクがあることは否定できません。

「内定を取り消す企業」として名前が広まってしまうと、採用に支障をきたすおそれがあるため、内定取り消しの際には十分な補償を行い、「内定を取り消した事実を口外しない」という合意書を作成することをお勧めします。

厚生労働省による企業名の公表

以下に挙げるような、“内定取り消しに関する対応が不十分なケース”に該当すると判断された会社は、厚生労働省によって会社名が公表されてしまいます。

  • 2年続けて内定取り消しを行ったケース
  • 同一年度内に10人以上の内定取り消しを行ったケース
  • 明らかに事業活動の縮小を余儀なくされているとは認められない取り消しを行ったケース
  • 内定取り消しの対象となった内定者に対して、内定取り消しの理由を十分に説明しなかったケース
  • 内定取り消しの対象となった内定者に対して、別の就職先を確保する支援を行わなかったケース

労働審判・訴訟のリスク

違法な内定取り消しを行うと、内定者から労働審判や民事裁判を申し立てられるリスクがあります。

内定には労働契約としての法的効力が認められます。そのため、その有効性が争われると、内定者の地位確認に加えて、入社日以降の未払い賃金や慰謝料などの損害賠償を請求される可能性があるため注意が必要です。

さらに、裁判が長期化すればするほど、最終的な支払額が増加したり、対応にかかる時間やコストが膨らんだりするなど、会社にとっての負担は大きくなります。内定取り消しを検討する場面では、こうしたリスクを十分に理解したうえで、慎重に判断しなければなりません。

内定取り消しを行う際の企業の注意点

内定取り消しをやむを得ず行う場合には、内定者とのトラブルを最小限に抑えるため、手続や対応の一つひとつに注意を払う必要があります。内定取り消しを行う際に留意すべきポイントとして、以下があげられます。

  • 内定者への十分な説明
  • 金銭補償や損害賠償の提示
  • 解雇予告・解雇予告手当
  • 解雇事由証明書の交付

内定者への十分な説明

内定取り消しを行う場合、会社には内定者に対して、その理由を誠実に説明する責任があります。

例えば、「業績が悪化したため」と伝えるだけでは不十分です。売上がどの程度落ち込んでいるのか、いつ事業縮小が決まったのかなど、内定取り消しに至った具体的な経緯を説明することが重要です。

また、内定者が意見や疑問を話せる場を設けることも欠かせません。「他の部署での採用は難しいのか」「入社時期の延期は検討できないのか」といった問いかけにも耳を傾ける姿勢が求められます。こうした対話を重ねることで、内定者の理解を得やすくなり、後のトラブル防止にもつながります。

金銭補償や損害賠償の提示

違法な内定取り消しと判断される場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば、「社風に合わない」といった面接時に判断できた理由や、採用時点で予測可能だった業績悪化を理由に内定を取り消した場合は、不当な内定取り消しとして問題となりやすいでしょう。

裁判などで内定取り消しが無効と判断されると、内定者は労働者としての地位を有していたとされ、入社予定日以降の賃金(バックペイ)の支払いを求められるおそれがあります。また、就職機会の喪失や生活費への影響など、内定者が被った損害を踏まえ、慰謝料や再就職までの期間の給与相当額の支払いを求められるケースもあります。補償の内容や金額は事案ごとに異なるため、専門家と相談しながら慎重に対応することが重要です。

解雇予告・解雇予告手当

労働契約の成立が認められる採用内定を取り消す場合、解雇予告を行うか、解雇予告手当を支払うべきです。
通常の解雇では、解雇日の30日前までに労働者に解雇することを予告するか、又は解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払わなければなりません。

なお、解雇予告等が採用内定の取り消しにも適用されるかについては、労基法21条で試用期間中の者が適用除外とされているため、その前の段階の採用内定にも適用されないとする説も存在します。しかし、前述のとおり、厚生労働省は支払いが必要との見解を出しています。

解雇予告・解雇予告手当に関してさらに詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。

解雇予告とは|解雇予告手当や手続き、注意点などわかりやすく解説

解雇事由証明書の交付

内定者が求める場合には、会社は、採用内定の取り消し事由を書面に起こした解雇事由証明書を交付しなければなりません(労基法22条)。

内定者の請求を拒否したり、交付までに必要以上の遅滞が生じたりしたときには、会社に罰則が科せられるおそれがあります。それだけでなく、不誠実な対応が内定取り消しの有効性の判断に不利に影響するおそれもありますので、誠実な対応が求められます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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