私傷病休職制度とは?期間や給与などの基礎知識を紹介
私傷病の休職期間についてYouTubeで配信しています。
私傷病休職期間を設けようと考えていますが、休職期間をあまり長く設定するのは避けたいです。そこで、休職期間を2週間にして、その2週間で回復しない場合には、退職になるよう設計しようと考えていますが、問題ないでしょうか?といった質問例を設けました。
動画では、この質問例についてに回答し、その理由を解説しています。
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
私傷病休職とは、労働者が業務外の病気やケガで働けなくなった場合に、就労を免除して、会社を休ませる制度をいいます。
私傷病休職は法律上の制度ではないため、必ず設けるべき制度ではありませんが、一般的に、多くの会社において規定されています。
ストレス社会と呼ばれる現代では、うつ病や適応障害などの精神疾患をはじめ、様々な理由により、会社を休職する者が増えています。休職が必要な場面で適切な対応ができるよう、私傷病休職について、会社として事前に知識を得ておくことが重要です。
本記事では、会社側の視点から、私傷病休職の仕組みや注意点などについて解説していきますので、ぜひご参照下さい。
会社におけるメンタルヘルスケアについての詳細は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
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目次
私傷病休職制度とは
私傷病休職とは、労働者が業務外の病気やケガ(私傷病)により働けなくなった場合に、会社に在籍させたまま、一定期間の就労を免除して休ませる制度をいいます。
私傷病休職の目的は、労働者が病気やケガを乗り越えて、再び働ける環境を整備することにあります。
一方、業務上の病気やケガによる休業は労働災害であるため、私傷病休職にはあたりません。
そもそも、労働契約は「労働力の提供と賃金の支払い」で成立しているため、会社としては、私傷病によって働けなくなった労働者を解雇することは法的に可能です。そのため、会社に在籍させたまま就労を免除し、私傷病からの回復を待つ私傷病休職は、一定期間解雇を猶予する措置であると考えられます。
ただし、あくまで解雇の猶予であるため、休職期間内に復職できる程度にまで回復しなかった場合は、自動的に退職又は解雇となります。
私傷病休職の法的根拠
私傷病休職は法律で定められた規定ではないため、休職事由や休職期間、休職期間中の給与の支払義務、復職の要件などについても、会社ごとに就業規則等で独自に定めることが可能です。
ただし、一度就業規則等で定めた内容には拘束されることになりますし、簡単に変更することもできないため、制度設計にあたっては慎重に判断する必要があります。
私傷病休職の期間
休職期間について、労働基準法など法律の定めはありませんが、勤続年数に応じて、私傷病休職の期間を3ヶ月~2年程度と定めている会社が多い傾向にあります。
例えば、勤続年数3年以内は6ヶ月、5年以内は1年、それ以上は1年半といった具合です。
また、休職制度の濫用を防止するために、例えば、復職後の再休職が3ヶ月以内、又は6ヶ月以内の場合は、復職前後の期間を通算するという会社もあります。
なお、パートタイマーや契約社員には休職制度を適用せず、正社員にだけ休職制度を適用することや、休職期間に違いを設けることも可能です。
ただし、同じ職務内容や責任の程度、配置変更の範囲等であれば、雇用形態にかかわらず、同一の待遇にしなければならないという「同一労働同一賃金」のルールを遵守した上で、差異を設けることが必要です。
休職期間について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
私傷病休職中の給与等
私傷病休職期間中の給与の支払いについては、休職中は労務の提供がなく、休職事由も会社側に責任があるわけではないため、法律上支払うべき義務はありません。そのため、会社が独自の判断で、休職期間中の給与の支払の有無や金額を決定することになります。
なお、休職期間中の給与(病気休暇手当や私傷病休暇手当など)を支給するか否かは、就業規則に記載があるかどうかがポイントになります。就業規則で規定されているならば、これらの手当を就業規則にしたがって支払い、規定がない場合は、支払う必要はないことになります。賞与についても同様です。
ただし、給与が支給されない場合であっても、休職者は健康保険から傷病手当金の支払いを受けることが可能です。詳しくは後述します。
傷病手当金の支給について
私傷病休職期間中に、会社から十分な給与が支払われない場合は、休職者は健康保険より「傷病手当金」を受け取ることができます。
傷病手当金は、以下の要件をすべて満たした場合に支給されます。
- ①私傷病の療養のための休業であること
- ②就業できないこと
- ③連続する3日間を含み4日以上就業できなかったこと
- ④休職期間中に賃金が支払われない、又は賃金が傷病手当金より少額であること
また、傷病手当金の1日あたりの支給額は、基本的に以下の計算式で求められます。
1日あたりの支給額=支給開始日以前12ヶ月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×2/3
傷病手当金は、休職開始から4日目以降の休業日に対して、支給開始日から1年6ヶ月を限度に支給されます。この1年6ヶ月の間に復職と休職を繰り返した場合、復職していた期間も1年6ヶ月に算入されます。
また、傷病手当金の受給者が、退職して健康保険の被保険者資格を喪失したとしても、退職日までに継続1年以上の被保険者期間があるときは、退職後も傷病手当金を受給することができます。
社会保険料の負担について
私傷病休職中は基本的に給与を支払う必要はありませんが、休職中でも社会保険料は免除されないため、会社負担分と労働者負担分ともに、社会保険料を支払う必要があります。そのため、会社は少なくとも会社負担分については支払義務を負います。
休職の前後で社会保険料の負担額は変わりませんが、休職前は賃金から天引きできていた労働者の負担分を、休職後はどのように徴収すべきかが問題となります。
休職後の社会保険料の徴収方法として、以下が挙げられます。
- 会社が一時的に立て替える
- 毎月請求書を発行し送金してもらう
- 復職後の賞与で相殺する
- 傷病手当金を代理受領し控除する(次項で説明します)
いずれの方法を選択するとしても、保険料の徴収漏れを防ぐため、休職者本人と事前に話し合っておくことが重要です。
私傷病休職の手続きと流れ
私傷病休職の手続きは、基本的に以下の流れで行われます。
- 有給休暇を利用する。
- 労働者が診断書を提出する
- 会社が休職命令を下す
以下で各詳細について見ていきましょう。
①有給休暇を利用する
労働者が体調不良で会社を休まなければいけない場合であっても、まずは本人の判断で有給休暇を申請してもらい、有給休暇を消化した後に会社から休職命令を下し、休職を開始することが一般的です。
これは、休職中は基本的に給与が支払われないため、まずは有給休暇を利用した方が、本人にとって有益であると考えられるためです。
なお、有給休暇は労働者本人からの申請が必要であり、会社が勝手に有給休暇として処理することはできないため注意が必要です。
また、労働者が有給消化ではなく休職を希望している場合は、休職に応じる必要があります。
②労働者が診断書を提出する
労働者より体調不良で仕事をしばらく休みたいとの申し出があった場合は、まず仕事を休ませた上で、医師の診断を受け、会社へ医師の診断書を提出してもらいます。
診断書は休職の要否を判断するためのものであるため、病名だけでなく、就業が可能か否かについても記載されたものであることが必要です。この診断書に基づき、会社が私傷病か労災か、休職の必要性などについて判断します。
また、会社側が労働者の異変に気付いた場合は、産業医や専門医と相談し、本人や上司などからもヒアリングを行った上で、本人に医師の受診を勧め、医師の診断書を提出してもらうことが必要です。
なお、本人が医師の受診を拒否する場合は、就業規則等に受診命令の規定があるならば、就業規則に従い、受診命令を下すことになります。
③会社が休職命令を下す
就業規則等に「労働者が以下の要件を満たす場合は休職を命じる」などと定められている場合は、会社が休職命令を下して、はじめて休職が開始されることになります。労働者がしばらく欠勤した後、自動的に休職が始まるわけではありません。
会社が休職命令を下す場合は、休職の理由や主治医の診断書、就業規則の休職期間の上限などに基づき、休職期間を決めて、休職命令書を作成し、労働者本人に交付、又は郵送します。後日のトラブルを避けるためにも、休職命令は書面で行うことが望ましいでしょう。
なお、一定期間の欠勤を休職命令の要件とする会社では、有給休暇の消化後ではなく、就業規則に記載された欠勤期間が経過した後に休職期間が開始されることになるため注意が必要です。
私傷病休職中の対応と注意点
休職期間中は、休職者から少なくとも毎月1回程度、定期的に症状や治療経過について、メールや書面などで報告してもらうことが必要です。症状の確認は復職の時期を見極めるだけでなく、会社の安全配慮義務の観点からも重要です。
なお、内容や頻度が合理的な範囲内に収まっていれば、休職期間中であっても、就業規則上の根拠規定の有無にかかわらず、業務命令として、求職者に報告を求めることが可能です。
ただし、トラブルを避けるためにも、休職にあたっては、あらかじめ報告の義務等を定めた誓約書を労働者より受領しておくことが望ましいでしょう。
私傷病休職中の報告義務をはじめ、休職中の取り扱いに関する社内規程についての詳細は、以下の記事でご確認ください。
私傷病休職からの復職について
私傷病休職から復職するにあたっては、休職者からのヒアリング結果や主治医の診断書、産業医からの見解、上司の意見などに基づき、会社として復職の可否を判断します。
復職の可否については、会社独自の判断基準を定めて運用することが可能です。
一般的には、以下の判断基準が多く使われおり、休職者が以下のいずれかの要件を満たす場合は、職場復帰させなければならないとされています。
- ①休職前の業務を通常程度に行える健康状態にまで回復していること
- ②①には達していないが、一定期間業務を軽減すれば、休業前の業務を通常程度に行える健康状態にまで回復すると考えられること
- ③休職前の業務を行うのは困難だが、他の業務であれば復帰が可能で、本人も他業務への復帰を望んでいること
以下の記事で、復職後の職務内容に関する注意点や復職の可否の判断基準などについて説明していますので、併せてご覧下さい。
職場復帰を支援する「リハビリ出勤制度」
「リハビリ出勤制度」とは、長期間就労環境から離れていた労働者がスムーズに復職できるよう、復職の前後に、一時的に業務の負担を軽減するなどして、段階的に元の仕事に慣れさせていく制度をいいます。
リハビリ出勤は法律上の定めがないため、導入するか否かについてやその内容については、会社ごとに就業規則等で定めることになります。
例えば、勤務時間と同じ時間帯に診療内科等が主催する復職支援プログラムを受ける「模擬訓練」、職場に一定期間続けて出勤し、仕事はせず、座席などで過ごす「お試し出勤」、復職後の時短勤務や、作業負担が軽い部署への異動などの措置が挙げられます。
なお、復職前のリハビリ出勤であれば給与は発生せず、復職後であれば給与が発生する点に注意する必要があります。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
休職期間満了時に復職できなかった場合
休職期間満了時に復職できなかった場合の取扱いについては、会社ごとに就業規則等で定めることになりますが、法律上は、労働契約の終了という扱いになります。
この労働契約の終了方法には、会社側の一方的な労働契約の解除である「解雇」と、労働契約の自動終了である「自然退職」と2つありますが、就業規則等には「自然退職」と規定するのが望ましいといえます。
なぜなら、解雇とすると、労基法20条による30日以上前の解雇予告、又は解雇予告手当の支払いが必要となるだけでなく、労働者が感情的になり、労使間トラブルへと発展するリスクがあるからです。
なお、「自然退職」は、労働者本人の都合で労務が提供できなくなったと解釈されることから、自己都合退職と扱われるのが通例です。
うつ病などメンタル不調による私傷病休職
うつ病などメンタル不調を原因とする私傷病休職については、慎重な対応が求められます。
まず、本人に心の病である自覚がない場合は、会社から心療内科の受診を勧める必要があります。受診に応じない場合は、就業規則にしたがって、受診命令を下します。
また、休職期間中でも、基本的には定期的に休職者と連絡を取るべきですが、メンタル不調者の場合は注意が必要です。主治医と相談の上、接触を控えるよう求められた場合は、従う必要があります。
なお、メンタル不調者が会社に円滑に復帰できるよう、又は復職の判断のため、「リワークプログラム」の利用が有用です。
リワークプログラムとは、うつ病や適応障害等で休職している者を対象に、職場復帰の支援を目的としたリハビリプログラムのことです。仕事に類似したオフィスワーク、運動・リラクゼーション、復職後の再発を防ぐ疾病教育や認知行動療法などの心理療法が行われます。
私傷病休職に関する就業規則の規定
私傷病休職制度を設けることは法律上の義務ではありませんが、会社として制度を設けるのであれば、就業規則で規定する必要があります(相対的必要記載事項、労基法89条10号)。
一般的には、以下のような条項を規定することになります。
- 私傷病休職の事由
- 休職の期間
- 休職期間中の給与の有無、社会保険料の負担、傷病手当金
- 休職期間中の症状の定期報告義務、病院の受診義務、診断書提出義務
- リハビリ出勤制度、リハビリ出勤中の給与の有無
- 休職期間の通算(短期間で休職を繰り返す場合は、休職期間と復職前の休職期間とを通算するなど)
- 職場復帰の可否判断、可否判断後の職場復帰の手続き
- 休職期間中に復職可能になれば復職させること
- 復職しないまま休職期間が満了した場合の取り扱い(満了後に復職できなければ、休職期間満了日をもって自然退職とするなど)
- 復職後の職務や待遇など
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある