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会社分割における労働契約の承継について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社分割は、自社の事業を他社に引き渡し、経営力向上などを目指す手続きです。組織再編の手法のひとつであり、承継事業の権利義務が“包括的に”引き継がれるのが特徴です。
また、承継事業に従事していた労働者も、分割先に移動するのが基本です(労働契約の承継)。

ただし、会社の決定だけで勤務条件が変わると労働者に不利なので、一定の保護手続きも設けられています。

では、会社分割における労働契約の承継はどのように行われるのでしょうか。また、会社が注意すべき点は何でしょうか。本記事で詳しく解説していきます。

会社分割における労働契約の承継

会社分割では、承継事業に従事する労働者(主従事労働者)のうち、分割契約等※1で定めがある者については、労働契約がそのまま承継会社等※2に引き継がれます(労働契約承継法3条)。
一方、労働契約等で承継の定めがない場合、基本的に分割会社に残留することになります。

※1:吸収分割における「分割契約」と、新設分割における「分割計画」の総称
※2:吸収分割における「承継会社」と、新設分割における「新設会社」の総称

しかし、分割元と分割先の合意だけで決定すると、労働者に不利益が起こりかねません。例えば、承継事業に従事していた労働者が残留すると、担当業務がなくなるおそれがあります。

そこで、労働契約承継法ではいくつか手続きを定め、労働者の保護が図られています。

なお、組織再編には「合併」や「事業譲渡」などの手法もあります。「会社分割」以外の労働契約の承継については、以下のページをご覧ください。

組織再編における労働契約の承継について

主従事労働者の範囲

主従事労働者とは、分割契約等の締結日時点で、専ら承継事業を担っている者をいいます。ただし、以下の点に留意する必要があります。

  • 複数の事業を担っている場合、それぞれの事業に従事する時間や役割を総合的に考慮し、主従事事業を判断する。
  • 繫忙期の応援勤務などで一時的に他事業部に勤務しているが、その後承継事業に戻る予定がある場合、主従事労働者にあたる。
  • 人事や経理などの間接部門でも、承継事業を専ら担当している者は主従事労働者となる。また、複数の事業に関わっている場合、それぞれの事業に従事する時間や役割を考慮して判断する。
  • 間接部門で、主従事事業の判断が難しい者は、当該労働者を除いた労働者の過半数が承継対象となっている場合、主従事事業労働者となる。

※なお、承継は権利義務単位で行うことができます。つまり事業部全体ではなく、特定の業務だけを承継できるということです。
もっとも、主従事労働者にあたるかは事業単位で決定するため、承継業務が一定の判断基準に満たない場合、主従事労働者とはなりません。

会社分割を理由とした解雇

会社分割で部署などを統合すると、余剰人員が生じる可能性があります。その場合、整理解雇による人員削減を検討することもあるでしょう。

しかし、解雇は使用者が自由に行えるものではなく、解雇に相当する合理的な理由が必要です(労働契約法16条)。具体的には、行為の内容や回数、故意や過失の有無、会社が被った被害の程度などを考慮し、解雇の妥当性を判断します。

よって、「組織再編によって余剰人員が生じた」というだけでは、当然に解雇が認められる可能性は低いでしょう。

人員削減が必要な場合、まずは配転・希望退職・退職勧奨を行うなど、解雇を回避する努力が必要です。

労働条件の変更を行う場合

会社分割後は、承継会社等で労働者の労働条件を統一するのが一般的です。また、コスト増加などを防ぐため、一方の労働条件を引き下げるケースがほとんどです。

これは、統合によって1つの会社に複数の労働条件が混在し、人事管理が難しくなるためです。また、「同じ仕事をしているのに労働条件が違う」という事態も起こり得るためです。

ただし、会社が勝手に労働条件を引き下げることはできません。労働条件を変更する場合、原則として労働者全員の同意を得る必要があります(労働契約法9条)。

もっとも、会社分割では対象者が多いため、個別に同意を得るのは難しいといえます。
そこで、以下の要素を考慮し、労働条件の引下げ(不利益変更)が相当といえる場合、就業規則の変更及び周知によって実行することができます(労働契約法10条)。

  • 労働者が受ける不利益の程度
  • 労働条件変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容
  • 労働者との交渉の経緯など

労働者及び労働組合への通知

分割会社は、労働者や労働組合へ会社分割の概要を通知しなければなりません(労働契約承継法2条)。
また、通知は以下の期限までに行う必要があります。

  • 株式会社株主総会を要する場合、分割契約等を承認する株主総会の日の15日前
  • 株式会社株主総会が不要な場合、分割契約等の締結日または作成日から2週間
  • 合同会社の場合、分割契約等の締結日または作成日から2週間

もっとも、上記は「法律上の通知期限」なので、より早い段階で通知すべきでしょう。
例えば株式会社の場合、「契約分割等の書面を本店に据え置く日」または「株主総会の招集通知を発する日」のうち、いずれか早い日に通知するのが望ましいとされています。

通知対象者

2条通知の対象となるのは、以下の労働者です。

  • 承継事業に主として従事していた者(主従事労働者)
  • 承継事業には従事していないが、分割契約等で労働契約を承継する旨の定めがある者(承継非従事労働者)

なお、正社員だけでなく、パートや契約社員なども対象です。
これらの労働者は、会社分割による影響が特に大きいといえます。労働者の異議申出が認められるケースもあるため、漏れなく通知することが重要です。

通知事項

2条通知の通知事項には、以下のようなものがあります。

  • 分割契約等で、当該労働者が「承継会社等に承継される旨」が記載されているかどうか
  • 当該労働者が異議申出できる期限日
  • 当該労働者が「主従事労働者」と「承継非主従事労働者」のどちらにあたるのか
  • 分割後の分割会社及び承継会社等の基本情報
  • 分割後に当該労働者が従事する業務内容、就業場所、その他の就業形態
  • 分割後における、分割会社及び承継会社等の債務履行の見込みについて
  • 異議申出ができる旨とその方法など

特に、債務履行の見込みについては十分な説明が求められます。

会社分割により、労働者は「業績不振なのではないか」「賞与はきちんと支払われるのか」など様々な不安を抱く可能性があります。
そこで、分割後も問題なく債務を履行できると伝え、労働者を納得させることが重要です(債務を履行できない場合、そもそも会社分割は行われないのが一般的です)。

労働者との協議(7条措置)

組織再編において、分割会社は、労働者の理解と協力を得るよう努めなければなりません(7条措置)。具体的には、労働者に会社分割の理由や概要を説明し、協議する必要があります。

なお、7条措置の対象は分割会社で雇用するすべての労働者です。「承継会社等に移動するのか」「分割会社に残留するのか」は問いません。また、パートや契約社員も対象に含まれます。

これは、会社分割は全労働者に何らかの影響を与えることから、労働者の保護を図るための手続きとして規定されています。

7条措置の詳細は、以下のページをご覧ください。

会社分割における7条措置(労働者の理解と協力を得る努力)について

労働者との協議(5条協議)

分割会社は、承継対象者と労働契約の承継について個別に協議する必要があります(5条協議)。
また、分割会社は労働者本人の意向を踏まえ、承継の有無やその範囲を決定しなければなりません。

 

これは、比較的弱い立場にある労働者の意見を十分に聴き、保護を図るための手続きです。労働者は会社分割そのものには反対できませんが、自身の労働契約については主張が可能となります。
なお、5条措置を怠った場合、労働契約の承継が無効になる可能性があるため注意が必要です。

5条協議の詳しい内容は、以下のページで解説しています。

会社分割における労働者との協議(5条協議)について

労働者からの異議申出

以下の労働者は、労働契約の承継について不服があれば、分割会社へ異議を申し出ることができます(労働契約承継法4条、5条)。また、異議申出の効果もそれぞれ異なります。

  • 承継事業に主として従事しており、分割契約等に労働契約を承継する旨の定めがない
    →異議申出により、承継会社等に移動することができる
  • 承継事業に従事していないが、分割契約等に労働契約を承継する旨の定めがある
    →異議申出により、分割会社に残留することができる

いずれも、労働者の労働条件はそのまま維持されます。

この規定は、会社分割によって担当事業から強制的に切り離されることを防ぎ、労働者を保護することを目的としています。
なお、異議申出の際、労働者は決定に不服がある旨を記載した書面を提出する必要があります。

労働協約の承継

労働協約の債務的部分については、分割契約等に記載することで、承継会社等に引き継ぐことができます。ただし、分割会社と労働組合の間(労使間)で合意があることが前提です(労働契約承継法6条)。

債務的部分とは、使用者と労働組合の間の個別ルールのことです。例えば、ユニオンショップ協定・組合事務所の設置・団体交渉の規定・非組合員の範囲などが挙げられます。
これらは分割会社の“権利義務”にあたるため、承継の対象に含まれています。

一方、賃金や労働時間などの規範的部分や、債務的部分のうち労使間の合意がない部分については、みなし規定が適用されます。

つまり、当該労働組合員の労働契約が承継される場合、承継会社でも同一の労働協約が締結されたとみなされます。

したがって、承継会社には、「既存の労働協約」と「分割会社の労働協約」の2つが併存する可能性があります。

 

異議申出期限

異議申出の期限は、以下の範囲内で分割会社が自由に決めることができます。

  • 株主総会の承認が必要な場合
    →通知日から株主総会開催日の前日まで
  • 株主総会の承認がいらない場合、又は合同会社の場合
    →通知日から会社分割の効力発生日の前日まで

ただし、労働者に十分な検討時間を与えるため、異議申出の期限は通知日から最低13日間空けることが義務付けられています。

また、異議申出は労働者を保護するための制度なので、異議申出がなされたこと(又はなされようとしていること)を理由に、分割会社が当該労働者を不利益に扱うことは認められません。

会社分割における労働契約に関する留意点

パートや嘱託職員

会社分割の一連の手続きは、分割会社で雇用するすべての労働者が対象となります。したがって、正社員だけでなく、パートや嘱託職員、契約社員、アルバイトなどあらゆる雇用形態が含まれます。
また、社内における呼称も関係ありません。

これは、労働契約の承継における協議・通知・異議申出は労働者の保護を図るための制度であり、雇用形態や呼称によって差を設けるべきではないからです。

福利厚生の取扱い

福利厚生も労働条件の1つなので、そのまま承継会社等に引き継がれるのが基本です。
ただし、以下の福利厚生については注意が必要です。

  • 労働条件ではなく、会社が恩恵的に提供していたもの
  • 承継会社の規模などから、同一の制度を運用するのが困難なもの
  • 分割会社以外の第三者が実施していたもの

これらの福利厚生は、承継会社等にそのまま引き継ぐのが難しく、変更を余儀なくされる可能性があります。
その場合、労働者との協議の中で取り上げ、十分な説明を行うと共に、代替措置などについて協議することが必要です。

有給休暇の日数や勤続年数の取扱い

会社分割では、労働者の労働契約が“包括的に”引き継がれます。
したがって、有給休暇の残日数や勤続年数はそのまま維持され、リセットされることはありません。

また、承継会社等に、退職金制度永年勤続表彰ストックオプション制度がある場合、分割前と分割後の勤続年数の通算によって金額などを決定します。
それまでの勤務が無駄にならないため、労働者にとってメリットが大きいといえるでしょう。

もっとも、承継会社の退職金制度が分割会社と異なる可能性はあります。
その場合、1つの会社に複数の制度が併存すると不便なので、いずれかに統一するのが一般的です。労働者にとって不利な内容に変更する場合、基本的に対象者全員から個別同意を得る必要があります。

また、承継会社に退職金制度がない場合、分割時に一度退職の手続きをとり、退職金を清算することも可能です。

書面による通知を義務付け

労働者に通知する際は、書面を交付することが義務付けられています。電子メールやホームページへの掲載、USBなどの記録媒体の使用は認められません。
また、書面を郵送する場合、通知期限日までに労働者の手元に到達する必要があります。
ただし、通知書に労働者の署名は必要ないため、ファックスで送ることは可能です。

書面による通知を義務付けるのは、全労働者の手元に確実に届けるとともに、後にトラブルが発生し、労働者の地位が危ぶまれるのを防ぐためです。
また、労働者は、書面を確認することで新たな疑問が生じ、事前に解消できる可能性もあります。

適切な方法で通知しなかった場合、労働契約の承継(又は分割会社への残留)の効力が争われる可能性があるため注意が必要です。

労働者を転籍とする場合

労働契約の移転は、分割契約等による「承継」ではなく「転籍」とすることも可能です。
転籍は、分割会社を一度退職し、承継会社等と新たな雇用契約を結ぶ方法です。

ただし、転籍には労働者の個別合意が必要であり、会社が一方的に命じることはできません(民法625条1項)。よって、労働者が拒否した場合、強制的に転籍させることは認められません。
また、転籍とする場合も、労働契約承継法上の保護手続きは行う必要があります。

つまり、全労働者への説明(7条措置)、対象労働者との個別協議(5条協議)、分割の概要の通知(2条通知)などを省略することはできません。また、異議申出ができる旨も知らせる必要があります。

なお、それまでの労働条件や勤続年数の取扱いについては、転籍同意書で定めるのが一般的です。

これらの保護手続きを怠ると、転籍の効力が否定されるおそれがあるためご注意ください。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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