Ⅰ 事案の概要
Xは、平成24年11月1日、Yとの間で、一般事務及びボランティア活動支援を職務内容とする非常嘱託員として、雇用期間を平成25年3月31日までとする労働契約を締結し、同年4月1日以降、計5回にわたって、それぞれ雇用期間を1年とする有期労働契約を更新・締結してきました(それぞれ以下、労働契約①~⑥といいます。)。Xは、Yに対し、本件労働契約⑥の更新を申し込んだところ、Yは、無期転換の5年ルールが適用されると、宇都宮市の人事基準に反することを理由に、同申込みを拒絶し、本件労働契約⑥の満了をもって雇止めとしました。これに対して、Xは、Yに対して、有期労働契約が5年を超えたとして、期間の定めのない労働契約への転換を申し込みました。
本件訴訟では、Xは、Yに対して、労働契約⑥は、労働契約法19条各号の要件を満たしており、Yが更新申入れを拒絶することは、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当とは言えないことから、Yは労働契約⑥と同一の労働条件で申入れを承諾したものとみなされ、無期労働契約に転換された(労働契約法19条)旨を主張し、労働契約上の地位確認、平成30年4月から7月までの未払賃金及び遅延損害金、並びに同年8月以降判決確定日までの賃金及び遅延損害金の支払いを求めました。
一方、被告Yは、公益財団法人であって、その収入は寄付と宇都宮市からの補助金に限られていることから、財政基盤が一般企業と異なり脆弱であることを強調し、雇止めが有効となる旨主張しました。
Ⅱ 争点
裁判では、本件労働契約⑥が労働契約法19条各号のいずれかに該当するか、本件労働契約⑥が労働契約法19条各号のいずれかに該当するとしても、更新申込みに対する雇止めは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に当たるか(争点②)が争点となりました。以下、前者の争点のうち、労働契約法19条2号該当性(争点①)、及び後者の論点について説明します。
Ⅲ 判決のポイント
1 争点①
裁判所は、同号該当性について、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等を総合的に斟酌し、使用者が当該労働契約を有期労働契約とした目的の合理性の有無・程度と労働者の雇用継続に対する期待の合理性の有無・程度を相関的に検討した上、使用者において雇用期間を定めた趣旨・目的との関係で、なお労働者の雇用継続に対する期待を保護する必要性が高いものといえるか否かにより判断すべきとの基準を示しました。
さらに、裁判所は、原告は、あくまで本件各労働契約が有期労働契約として締結されたものであって、その各労働契約には雇用期間の定めがあり、かつ、自らが非常勤嘱託員の地位にあることの認識を欠いていたものではなく、また、非常勤嘱託員の給与は宇都宮市からの補助金で賄われており、その任用取扱基準も「宇都宮市役所の非常勤嘱託員任用手引き」の第2章3項(任用期間:原則1年以内(任用期間は更新を含め最大3年以内))に依拠することが求められていることからみて、本件各労働契約における雇用期間は、上記任用取扱基準に従って宇都宮市からの非常勤嘱託員の報酬財源を確保するために定められたものであって、その趣旨・目的に一応の合理性が認められるとしました。
しかし、裁判所は、以下の事情を考慮し、同条2号該当性を認めました。曰く、Xは、Yの基幹業務を含め、ほとんどの業務について主務者ないし担当者として関与して、その内容につき精通を深め、それなりの信頼を得ていたことがうかがわれること、本件各労働契約の回数は5回を数え、通算雇用期間は5年5か月に及んでいるうえ、更新にあたっての面談も僅か数分程度のものであって、Y理事長からは嘱託職員の任用には期限がないかのような発言すら為されていたことからすると、Xは、本件各労働契約上は非常勤嘱託員として採用されたものであるとはいえ、Xの業務形態は、本件各労働契約締結のかなり早い段階から、非常勤としての臨時的なものから基幹的業務に関する常用的なものへと変容するとともに、その雇用期間の定めも当初予定された3年間を超えて継続している点で、報酬財源確保の必要性というよりもむしろ雇止めを容易にするだけの名目的なものになりつつあったと見るのが相当である上、本件各労働契約の各更新手続それ自体も実質的な審査はほとんど行われず、単にXの意思確認を行うだけの形式的なものに変じていたものと言わざるを得ない。そうすると、上記のような本件各労働契約における雇用期間の定めの意味や目的を考慮したとしても、なお原告の雇用継続に対する期待を保護する必要は高いというべきであるから、Xにおいて本件労働契約⑥の満了時に同労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるというべきであり、本件労働契約⑥は労働契約法19条2号に当たるとの判示が為されました。
2 争点②
裁判所は、本件雇止めが宇都宮市の財政支援団体であるYが労働契約法18条所定の期間の定めのない労働契約の締結申込権の発生を回避する目的で行われたものであり、本件労働契約⑥が同法19条2号に該当する以上、特段の事情もなく、Xの合理的な期待を否定することは、客観的にみて合理性を欠き、社会通念上も相当とは認められないとしました。
そのうえで、裁判所は、本件雇止めは、人員整理的な雇止めとして実行されたものであり、整理解雇の法理が妥当するとし、人員整理的雇止めとしての客観的合理性・社会的相当性が肯定される場合に限り、上記特段の事情が認められるとしました。
さらに、本件の事情からして、本件雇止めを行う必要性は否定しがたいとしても、Yは、財政支援団体である宇都宮市の指導を唯々諾々と受け入れて本件の人員整理的な雇止めを実行したものであって、その決定過程において本件雇止めを回避する努力はもとより、Xを被雇止め者として選定することやその手続の妥当性について何らかの検討を加えた形跡は全く認められず、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときに当たると判示されました。
Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項
本件では、労働契約法19条1号には該当せず、2号に該当すると判断されました。同条1号に該当すると判断された判例としては、ニヤクコーポレーション事件(大分地裁平成25年12月10日判決)が挙げられますが、同条2号に比して認められた判例は僅かです。本事例では、雇止めの理由が形式的な基準に当てはめたにすぎないことが見透かされており、過去の更新手続や業務としての役割などの実態を重視されていますが、これは雇用継続の期待を評価するにあたってはよく見られる傾向です。
Yは、公益財団法人としての財政基盤の脆弱性などの特徴を主張しましたが、本判決では、そのような主張を踏まえても、せいぜい本件雇止めを人員整理的な雇止めとする程度の考慮にとどめ、いわゆる整理解雇の法理を用いた判断を下しています。したがって、たとえ財政的基盤の脆弱性が認められたとしても、人員整理的な雇止めであるか否かを判断し、従来の基準を用いて判断を下した先例として価値を有すものと言えます。
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