定年後有期再雇用契約を2回更新した元社長補佐に対する更新拒絶の適法性(テヅカ事件)~福岡地裁令和2年3月19日判決~ニューズレター 2021.9.vol.117

Ⅰ 事案の概要

本件は、定年退職後に有期雇用契約を締結し、被告との有期雇用契約を更新していた原告が、更新拒絶をした被告に対し、雇用契約上の権利を有することの確認と賃金等の支払いを求めた事案です。

⑴ 被告は、平成23年4月28日、再生手続開始決定を申し立て、再生計画にしたがった弁済をしていました。しかし、被告は、平成30年度、社会保険料等の支払いもできず、複数名の従業員に対して、退職勧奨をし、退職をしてもらうなどしていました。

⑵ 原告(当時57歳)は、平成24年7月頃、被告との間で、期限の定めのない雇用契約を締結し、被告に入社しました。その際、乙山(被告の代表取締役)は、原告に対し、被告では定年後も継続して雇用していく旨の話をしました。

⑷ 原告は、平成27年9月に満60歳となり、就業規則により、同月20日限りで被告を定年退職となりました。その際、原告は、被告と、引き続き被告での継続雇用を希望したところ、定年退職前と変更なく、引き続き総務部長として労務を提供する内容で更新しました。

⑸ 被告は、平成30年2月5日、原告に対し、雇用契約の更新をしない旨を告げ、雇用契約の更新を拒絶しました。

⑹ 原告は、ユニオンに加入し、ユニオンにおいて団体交渉を行うこととなりました。団体交渉においては、被告からは、労働条件として、前年度給与の42パーセント程度の給与の支払いをするとの提案がされました。これに対し、原告は、ユニオンを通じて、前年度の給与から20パーセント減の給与の支払いを求めましたが、被告は、更新拒絶の意思を表明した書面を交付しました。

Ⅱ 争点

本件の争点は、

①本件雇用契約の終了事由及び労働契約法19条(雇止め法理)の適用の当否
②本件雇用契約の更新の期待及びその合理的理由の有無
③更新拒絶の客観的合理的理由・社会的相当性の有無
④承諾したとみなされる本件雇用契約における賃金について

など、多岐にわたります。

Ⅲ 判決のポイント

今回は、上記争点のうち、①本件雇用契約の終了事由及び労働契約法19条の適用の当否、③更新拒絶の客観的合理的理由・社会的相当性の有無について指摘したいと思います。

1 ①本件雇用契約の終了事由及び労働契約法19条の適用の当否

本判決は、「本件雇用契約は、雇用期間を1年とする「有期労働契約」…であるから、労働契約法19条の適用があるというべきである。」と判断しました。

なお、「労働契約法19条が適用対象とする有期雇用契約について、類型や条件等を限定する法令は特段存在していないのであって、定年後の継続雇用であるからといって法の適用自体を否定すべき理由はない」とも判示しています。つまり、本件雇用契約の終了事由が、雇止めにあたることを前提とし、定年後の継続雇用の場面においても、雇止め法理の労働契約法19条が適用される、と判断しています。

2 ③更新拒絶の客観的合理的理由・社会的相当性の有無

本判決は、被告が主張する、更新拒絶理由としての業績不振や交渉経緯に関して詳細な事実認定をし、「被告が原告の本件雇用契約の更新の申込みを拒絶することについては相応の根拠があったとは認められないから、客観的に合理的な理由があったとはいえず、そのような理由で更新の申込みを拒絶することが社会通念上相当であるとも認められない。」とし、更新拒絶の意思を表明したとしても「被告は、原告の本件雇用契約の更新の申込みについて、承諾したとみなされる(労働契約法19条2号)。」と判断しました。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

1 ①について

本判決は、高年齢者雇用安定法に従って設けられた継続雇用制度に基づく雇用の場合にも、雇止め法理が適用されることを示しました。この点に関して、高年齢者雇用安定法改正により、使用者には70歳までの就業機会確保の努力義務が求められるようになりますが、65歳から70歳までの従業員を継続雇用した場合の雇止めも同様に問題となりえますので、注意が必要です。

2 ③について

今回、被告の公租公課の納付に影響が出ていたこと、被告が不動産を売却して資金を捻出していたこと、被告の複数の従業員に退職してもらっていたことなどの事情がありました。この点に関し、本判決は、「…被告の経営を立て直しつつ雇用を維持するために、人件費削減以外の方策としてどのような対処が考えられるのか、人件費削減による賃金減額により被る不利益の程度をどう抑制するのかなど、経営再建を図るために必要な経営合理化策と解雇や雇止めを可及的に回避するために採るべき措置を具体的に検討した形跡は証拠上認められない。」と指摘しています。整理解雇において検討される解雇回避努力に関する判断といえますが、継続雇用制度に基づき雇用された者の雇止めの際にも、雇用を維持するための資金の捻出の検討経過なども残しておくことが必要と考えられます。

また、今回は、原告が、経験に乏しい業務を行う部署に配置されたことで不慣れ等によるミスなどがあった可能性もありました。この点について、本判決は、「繰り返し注意、指導を受けたりしたこともなく、むしろ、原告は、定年退職後の本件雇用契約締結後にも、定年退職前と同様に管理職として勤務し続け、平成29年3月の更新時に月額2万円の減額のほかは、従前と変わらない労働条件で更新し続けていたのであり…被告の事業の存続に関わる重要な仕事を任されていた」ことも考慮されています。つまり、継続雇用制度に基づく雇用の場合でも、経験の乏しさにより起因するミスに対しては、ミスを回避するための指導を継続的に行うことに加え、指導を踏まえても改善がされないなどの状況を踏まえて重要な仕事を任せ続けることなく、他の従業員に担わせるなどの対応も重要となると考えられます。

さらに、本判決では、団体交渉での交渉経緯も考慮されています。被告が、賃金の大幅な減額・労働期間の短縮という条件を提示しましたが、本判決は、「具体的妥当性・合理性を有するもの」ではなく、「被告が原告の本件雇用契約の更新の申込みを拒絶することについては相応の根拠があったとは認められない」ということを考慮し、「原告の本件雇用契約の更新の申込みについて、承諾したとみなされる」と判断しています。このような判示を踏まえますと、更新後の労働条件の提示として、減額の具体的検討、労働能力を踏まえた提示とするなどの対応が必要と考えられます。

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