新型コロナウイルス影響下における整理解雇の有効性(センバ流通(仮処分)事件)~仙台地裁令和2年8月21日決定~ニューズレター 2022.5.vol.125

Ⅰ 事案の概要

本件は、有限会社センバ流通にタクシー乗務員として勤務していたX1、X2、X3、X4の4名(以下、「Xら」といいます。)が、有限会社センバ流通による整理解雇(以下、「本件解雇」といいます。)は無効であるとして、労働契約上の地位保全及び賃金の仮払いを求めた事件です。

2 事実関係

⑴ 有限会社センバ流通は、タクシーによる一般乗用旅客自動車運送業等を目的として、平成16年に設立された有限会社です。Xらは、それぞれ有限会社センバ流通との間で労働契約を締結して、タクシー運転手として勤務していました。
Xらの労働契約の満了時期は、X1が平成34年(令和4年)8月31日、X2が令和2年8月31日、X3が平成35年(令和5年)1月31日、X4が令和5年7月31日でした。

⑵ 令和2年4月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってタクシー利用者は減少、有限会社センバ流通の経営状況は、令和2年4月の収支が約1415万円の支出超過、令和2年4月30日時点で総額約3133万円の債務超過になるような状態でした。

⑶ 有限会社センバ流通は、自交総連東北地方連合会に加盟する自交総連ハイヤータクシー一般労組のセンバ支部との間で、令和2年4月20日及び30日に団体交渉を行いました。そして、令和2年4月30日の団体交渉の席上で、Xらについて本件解雇をしました。

Ⅱ 争点

本件における争点は、①本件解雇の有効性(労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」の有無)及び②有限会社センバ流通がXらに対して仮払いすべき金額、の2点でした。①は、整理解雇の有効性と関連しますが、Xらが有期雇用契約中の途中解約であることから、「やむを得ない事由」の有無が問題となります。

Ⅲ 決定のポイント

1 本件解雇の有効性(労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」の有無)

本決定は、本件解雇が有期雇用期間満了前の解雇であるため、有効な解雇のためには「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)が必要であることを指摘しました。また、「やむを得ない事由」の有無を判断するにあたっては、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続の相当性の各要素を総合的に考慮するという判断枠組を示しています。これらの要素は、裁判例において整理解雇における判断枠組としてよく利用されています。

そして、①から④までの要素を個別的に検討したうえで、「①債務者に人員削減の必要性があり、その必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことは疎明があるが、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったことの疎明はなく、②債務者が一部従業員の休業等の一定の解雇回避措置をとったことは疎明があるが、雇用調整助成金や臨時休車措置等を利用した解雇回避措置が可能であったにもかかわらずこれを利用していない点において解雇回避措置の相当性は相当に低く、③人員選択の合理性及び④手続の相当性も低い。これらの事情、特に雇用調整助成金の利用が可能であったにもかかわらずこれを利用していないという解雇回避措置の相当性が相当に低いことに加え、本件解雇が有期労働契約の契約期間中の整理解雇であることを総合的に考慮すると、本件解雇は労働契約法17条1項のやむを得ない事由を欠いて無効である。」と判断しています。

2 有限会社センバ流通がXらに対して仮払いすべき金額

仮払いすべき金額の判断にあたっては、①ベースとなる月給の算定方法、②休業手当相当額を超える支払の要否(民法536条2項の帰責事由の有無)、③保全の必要性の有無が問題となりました。

本決定は、①については、令和2年5月に稼働していたタクシー乗務員の給与状況と勤務実績を踏まえて、宮城県の最低賃金額に勤務実績の平均値を乗じた12万9862円と判断しました。

また、②については、本件解雇の有効性の判断にあたって、Xらを休業させて雇用調整助成金を受給する等の解雇回避措置を取らなかったことを重要視したこととのバランスや、新型コロナウイルスの影響によるタクシー利用客の減少傾向の継続を踏まえ、有限会社センバ流通がXらを休業させることは有限会社センバ流通に帰責事由があるとはいえず、休業手当相当額(給与の6割)、すなわち7万7917円の支払で足りると判断しました。

そして、③については、Xら各自の資産及び収支状況を踏まえて、X3への仮払いは不要であると判断したものの、X1、X2、X4には一定の必要性が認められるとしました。

結論として、本決定は、有限会社センバ流通に対して、1か月当たりX1に5万円、X2に3万円、X4に1万2000円を仮払いすべきであると判断しています。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

1 本件解雇の有効性(労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」の有無)

一般に、有期雇用契約の期間満了前の解雇の場合には、「やむを得ない事由」が必要となります。本事案は、「やむを得ない事由」の考慮要素に関連して、新型コロナウイルスの流行による業績の悪化が挙げられている点に特色があります。

本決定は、考慮要素のうち①人員削減の必要性に関連して、新型コロナウイルスの感染拡大による有限会社センバ流通の経営状況への影響を検討し、人員削減の必要性があることやその必要性が相応に緊急かつ高度のものであることを認定しています。しかし、①及び②解雇回避措置の相当性の判断にあたって、雇用調整助成金の申請や臨時休車措置といった制度の活用の可能性があることを指摘して、本件解雇の有効性を否定しています。このように、新型コロナウイルスの流行に伴って業績が悪化した場合でも、有期雇用契約の期間満了前の整理解雇の場合には、整理解雇の有効性が認められない可能性がある点には留意が必要となります。

また、③人員選択の合理性及び④手続の相当性に関しては、③Xらの昼間勤務の意向について確認がなされておらず、④団体交渉は説明内容が不十分であったことに加えて、Xらが当該団体交渉に参加していなかったことから、Xらに対しては説明したことにならないと指摘されていることにも注意が必要です。団体交渉は手続的相当性を高める事情ではありますが、解雇対象者本人へ交渉の経過が伝わらない限りは考慮されないケースがあるということです。

2 有限会社センバ流通がXらに対して仮払いすべき金額

通常、仮処分決定において賃金の仮払いが命じられる場合には、従前受領していた給与を基準とされることが多いですが、本件では、解雇が無効であるとしても、少なくとも休業をさせざるを得ないことについて使用者に帰責事由はないと認められたため、支払金額は休業手当相当額に限定されています。また、年金収入を得ているという生活状況を踏まえて各労働者への支給額が減額されています。

3 実務における留意点

新型コロナウイルスの影響による業績悪化の場合でも、雇用調整助成金などの各種の措置が取られていることから、これらを利用することなく、整理解雇の有効性は容易には認められません。まずは、経営状態の改善や、解雇の回避のために活用可能な助成金等の制度がないかどうかを確認して、それらの制度が活用可能であれば必ず活用しておくようにしましょう。また、やむを得ず整理解雇を行うときには、整理解雇が必要不可欠と判断した判断過程が分かるように資料を残しておくことが重要です。整理解雇にあたって、対象者への説明等の手続を踏むことが必要な点は、新型コロナウイルスの影響によらない解雇の場合と同様です。会社の利益を守るためにも、新型コロナウイルスの流行を契機として整理解雇を行う場合でも、手続を慎重に進めるように留意しましょう。

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