Ⅰ 事案の概要
被告会社は、タクシー事業等を行うことを目的とする株式会社です。被告会社と、被告会社に雇用される乗務員であった原告らが組織する原告労働組合(以下、「原告組合」といいます。)との間では、本件以前から、労働協約の一方的解約などを巡って対立が続いていました。被告会社は、経営不振が続いており、平成20年度に大きな営業損失を出して以降、さらに3期連続で営業損失が続き、乗務員等に支払う給与等だけで運送収入の80%の割合を占める状況にありました。また、平成23年7月には、賞与及び給与等の支払も困難な状況となり、同年7月及び8月に被告会社の役員から合計1900万円の借り入れを行って、従業員の給与等を支払っていました。
こうした中で、被告会社は、平成23年8月17日に臨時株主総会を開催し、同年10月31日を以て被告会社を解散することを全会一致で決議(以下、「本件解散決議」といいます。)し、同年10月31日にも株主総会を再度開催して解散を確認し、その旨の登記を了しました(以下、「本件解散」といいます。)。本件解散決議を受けて、被告会社は、平成23年8月19日、原告らを含む全従業員に対し、同年10月31日を以て整理解雇する旨の解雇予告通知を行い、原告組合に対しても、本件解散決議を行ったこと、本件解散の日を以て全従業員を整理解雇(以下、「本件各整理解雇」といいます。)すること、及び同年8月19日付で解雇予告を全従業員に通知したこと等を記載した書面を送付しました。
本件で争われた争点は多岐にわたりますが、特に大きな争点となったのは、本件各整理解雇の有効性と、被告会社の原告組合に対する不法行為の成否です。
Ⅱ 奈良地裁平成26年7月17日判決
1 本件各整理解雇の有効性
(1)本件解散決議の合理性
本件で原告らは、被告会社による整理解雇が労働契約法16条に反し、無効であると主張していました。これについて、本判決は、「会社の解散など企業の廃止に伴ってされる全労働者の解雇についても労働契約法16条所定の解雇権濫用規制が適用される余地がある」としつつ、「企業を廃止することが事業主の専権に属すると解され、その権利行使の当然の結果としてされるものであることから、真実企業が廃止された以上、それに伴う解雇は、原則として労働契約法16条が規定する『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合』に当たらず、有効であると解するのが相当である。」としました。
但し、「企業の廃止が、労働組合を嫌悪し壊滅させるために行われた場合等、当該解散が著しく合理性を欠く場合には、会社解散それ自体は有効であるとしても、当該解散に基づく解雇は『客観的に合理的な理由』を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇であり、解雇権を濫用したものとして、労働契約法16条により無効となる余地がある」とも判示しています。これを踏まえて裁判所は、前記のような経営状況からして、解散決議には合理性があること、他方で被告会社の株主が専ら原告組合に対する嫌悪からその壊滅を目的として本件解散決議を行ったと認められる事情はないことをそれぞれ認定して、まず本件解散決議が合理性を欠くものではないと判断しました。
(2)解雇手続の相当性
さらに、裁判所は、「会社解散による解雇の場合であっても、会社は、従業員に対し、解散の経緯、解雇せざるを得ない事情及び解雇の条件などを説明すべきであり、そのような手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われた場合には、『社会通念上相当であると認められない』解雇であり、解雇権を濫用したものとして、労働契約法16条により無効と判断される余地がある。」とも判示しました。
その上で、裁判所は、本件は株主による解散決議であって、被告役員らが原告組合と団体交渉を行っても決議が撤回される余地は乏しいこと、解雇対象が全従業員であってその原因が本件解散決議であることから、役員らが理由を説明するのは困難であること、解雇予告が法の定める30日以上前の2か月前になされていること、再就職支援の措置をとることは社会的に望ましいとはいえるが、右措置を講じないことが直ちに整理解雇を無効とするものではないこと、被告会社がその事業を譲渡するにあたり、譲受会社との間で乗務員及び労働債権を引き継がない約束を結んだことは、被告会社のみの意向で左右できる事情ではないことなどの各事実を認定し、本件各整理解雇を行うにあたり手続的配慮が著しく欠けていたとは認められず、「社会通念上相当であると認められない」とはいえないと判断しました。
(3)本件各整理解雇の有効性
その他、被告会社に不当労働行為に該当する行為があったとは認められないとの事実を認定した上で、裁判所は、本件各整理解雇を有効と判示しました。
2 被告会社による不法行為の成否
以上のように被告会社による団体交渉に対する消極的姿勢は、整理解雇を無効とするものではないとされましたが、他方で裁判所は、原告組合に対し団体交渉を拒絶し、あるいは説明を十分に行わなかったことは、原告組合の団体交渉権を違法に侵害するものであるとし、被告会社らに対し、原告組合の団体交渉権侵害に対する損害賠償として30万円の支払いを命じました。
Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項
経営不振に追い込まれた企業において、会社の清算を選択することも、一つの経営判断として合理的な場合が少なくないと思われます。とはいえ、このような場合であっても、解雇権濫用法理の適用があるとするのが本判決です。
会社清算の選択自体は経営判断として尊重され、それ自体は不合理とはいえなくても、会社に専ら組合潰しの目的があったことを推認させる事実があるとか、解雇予告期間を十分にとらなかったり、従業員や組合に対する説明が不十分であったりするなど、解雇手続の相当性を考える上でマイナスに働く事情が多くあれば、解雇権濫用により整理解雇が無効とされる危険性が残ります。さらに、本件がそうであったように、会社が説明・協議義務を怠ると、整理解雇自体が無効とされなくても、別途不法行為による損害賠償請求が認められる危険性も生じます。
したがって、会社清算に伴う全従業員の整理解雇の場合にあっても、可能な限り従業員あるいは組合との間で協議を行い、説明を尽くすことが必要であると思われます。
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