Ⅰ 事案の概要
1 Y社は、ショッピングセンター内のフードコートで飲食店を経営する株式会社です。Y社において、店長の上には、複数の店舗を統括するマネージャーが配置されていました。
店長は、パート等の従業員の張り紙による募集及び面接の実施と採否の決定、採用した従業員の勤務時間及びY社の決めた範囲での時給の決定をすること、それ以外にも各店舗の金銭管理や食材の発注量の決定、3000円までの什器備品の購入をする権限がありました。
一方、広告紙等を利用した求人募集、従業員の昇給、各店舗の営業時間や店舗の休業、3000円以上の什器備品の購入については、本社の決済、承認等が必要となっていました。
2 Xは、平成20年7月から正社員として入社し、平成21年7月21日以降はジュニア店長、平成24年7月21日以降は店長の役職を与えられて稼働していましたが、平成25年9月2日以降、うつ病のために休職し、平成26年10月に労災認定を受けています。
Xは、月例賃金として、基本給、積立手当、役職手当、管理者手当(平成24年1月から、「管理固定残業」に名称変更されました。以下「管理固定残業」といいます。)、報奨金、能率手当、及び通勤手当が支払われていました。
この内、管理固定残業は、Y社の就業規則上、「管理職手当」として各役職に応じて支給され、労働条件通知書では「9時半以前及び店舗閉店時刻以降に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当のみなし相当額」として、Xの場合には、月83時間分を10万円の固定で支払うものとされていました。また、能率手当は、就業規則上、各役職に応じて支給するとされ、Xの場合には、能率手当の1時間あたりの単位は1200円とされ、手当の対象となる時間は、本部に各自申請することとなっていました。
3 本件は、上記のような前提事情の下、XがY社に対して、平成23年9月分から平成25年9月分までの未払いの時間外・休日・深夜割増賃金及びこれに対する各支払い期日から支払済まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を請求するとともに、労基法114条に基づいて、同額の付加金及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済まで民法所定の年5分の割合による金員の支払いを請求した事案です。
Ⅱ 判決のポイント
1 Xの管理監督者性
本件において、Y社の「店長」であるXに与えられていた権限は、「担当店舗に関する事項に限られていて、Y社の経営全体について、Xが、決定に関与することがなされていたとは認められないのであって、企業経営上の必要から経営者との一体的な立場において、労基法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないと言えるような重要な職務と権限を付与されていたということは困難であ」り、Xは、「実質的には、自らの労働時間を自由に決定することはでき」ず、「Y社において、店長が賃金面で、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られていたとは認められない」ことから、「Xが労基法41条2号の管理監督者に該当するとは認めることはできない」としました。
2 Xの割増賃金の金額
本件における割増賃金算定の基礎となるXの賃金について、基本給、役職手当、積立手当及び管理固定残業が労基法施行規則19条4号に、報奨金が同条6号に該当し、これらが割増賃金の基礎とすべき手当等と認められる旨判断しました。
このような判断の理由として、基本給及び役職手当については争いがなく、また積立手当は、毎月1万円ずつ支給されていることから、「月によって定められた賃金」に該当するとしています。
さらに、管理固定残業は、労働条件通知書上、毎月10万円83時間相当のみなし残業手当として支給される旨記載がありますが、そもそも「83時間の残業は36協定で定めることのできる労働時間の上限の月45時間の2倍に近い長時間であり、」労働条件通知書上の記載からすると、「相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって、公序良俗に違反すると言わざるを得ず、」他方、Y社が、店舗開店前、店舗閉店後の残業はあまり考えられないと主張していることからすると、月83時間もの時間外労働が発生することは、「そもそも想定し難いものであったと言わざるを得ないことからしても、」XとY社との労働契約で、管理固定残業が固定残業代として支給される旨の合意がなされたということはできないと判断しています。
Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項
本件は、Xが労基法41条2号に定める管理監督者に該当するか否かについて、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がなされているか等の従来の判断枠組みを踏襲し、Xの管理監督者性を否定しています。
また、管理固定残業については、労働条件通知書上の規定が、公序良俗に違反すること、そもそも、Y社が残業自体をあまり想定していないと主張していたことから、固定残業代に該当しないと判断しています。
このように、裁判所は、役職の名称によらず、職務内容や権限、具体的な待遇等、当該労働者の個別具体的な状況をもとに判断しています。そのため、企業側として、管理職を設定するにあたっては、上記判断枠組みに留意して、制度設計をする必要があると言えます。 また、固定残業代を採用する場合には、当該制度が想定している時間外労働が、労基法上に反することなく適法相当な程度であるか、当該想定される時間外労働に対して支払われる固定残業代相当額が相当であるか等、慎重に検討して採用する必要があると考えます。
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