業績不良を理由とする解雇の有効性~東京地裁平成28年3月28日判決~ニューズレター 2017.10.vol.70

Ⅰ 事案の概要

1 Y社による解雇とXらの提訴

本件は、Y 社が、期限の定めなく雇用していた3名の労働者(X1、X2、及びX3)を、業績不良を理由として普通解雇した事案です。

X1ないしX3は、解雇は無効であるとして、労働契約に基づく地位の確認等を求めて提訴しました(以下、「本件訴訟」といいます。)。

なお、本稿では、X1及びX3(以下、「Xら」といいます。)のみ扱います。

2 本件訴訟におけるY社の主張(X1について)

本件訴訟において、Y社は、X1の解雇について、「X1は業績の低い状態が続いており、Y社は、その間、様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず、業績が改善されなかったことから解雇した」という主張をしました。すなわち、X1には、①業務の能率、生産性が著しく悪く、ミスも多いという問題、②無断で離席を繰り返すという問題があり、同僚や上司が助言・指導を行い、更には業務の変更を試みたにもかかわらず、一向に改善せず、かえって時を経るにつれて悪化していったというのです。

3 本件訴訟におけるY社の主張(X3について)

本件訴訟において、Y社は、X3の解雇について、「X3は業績の低い状態が続いており、様々な改善の機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず、業績が改善されなかった」という主張をしました。すなわち、X3には、①頻繁に業務の期限を徒過する、②上司に適切な報告を行わないなどチームとして業務を行うこと(チーム・オペレーション)ができない、③自分の興味のあることには業務上不必要であっても取り組む一方、自分が興味のない業務には必要であっても取り組もうとしない(その結果、業務上必要な作業が行われない)、④自己の非を認めない、⑤始業時間に出勤しなかったり、必要な手続きを経ることなく休暇をとったりするなどの問題があり、同僚や上司が助言・指導を行ったにもかかわらず、一向に改善の跡が見られなかったというのです。

Ⅱ  判決のポイント

1 結論

裁判所は、以下のような理由により、Xら全員につき解雇無効の判断をしました。

2 X1について

まず、裁判所は、X1は平成18年7月以降の業務において業績不良が続き、業績改善の措置(業務内容の変更、業務改善のためのプログラムの実施、所属長の面談など)を取っても職位に見合った業務はできなかったものと認めました。

しかし、続いて、昭和62年に入社後、X1は平成18年7月以前の業務においては職位に見合った業務ができていたこと、平成18年7月以降も複数の表彰を受けたり業務改善プログラムの目標を達成したりするなど業績改善に一定の努力を行い、被告はそれを評価していたことなどからすると、業績不良は認められるものの、担当させるべき業務が見つからないというほどの状況ではなかったとしました。また、相対評価での業績の低評価が続いたからといって解雇の理由に足りる業績不良があると認められるわけではないとしました。

その上で、X1はY社において約25年にわたり勤務を継続し、配置転換もされてきたこと、職種や勤務地の限定があったとは認められないことなどからすると、現在の担当業務に関して業績不良があるとしても、その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格や、一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での更なる業績改善の機会の付与などの手段を講じることができたとし、それらの手段が講じることなく行われたX1の解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利濫用として無効であるとしました。

3 X3について

まず、裁判所は、X3は、平成19年1月時点の業務において、期限の徒過、コミュニケーションの問題などがあり、2回の業績改善プログラムを実施したが目標達成はできず、別のチームに異動となったものの、そこでも期限の徒過、勤務時間の管理などに問題があり、任せられる仕事がなくなっていき、更に別のチームに異動となったが、同様に任せられる仕事は単発の業務となり、それさえも支障があったと認めました。

しかし、X3の平成18年の相対的業績評価が「着実な貢献」であったこと、業績不良に陥った後においても、正式な業務ではないとしても、平成23年及び平成24年に自主的な業務改善活動として部門改善活動に参加し、ツールの開発に携わり、所属したチームが部門内決勝に進出したことからすれば、X3の能力を生かす業務があった可能性は小さくないと評価しました。

また、相対評価での業績の低評価が続いたからといって解雇すべきほどの業績不良があると認められるわけではないとしました。

その上で、X3は約26年にわたりY社に勤務を継続し、配置転換もされてきたこと、職種や勤務地の限定があったとは認められないことからすると、現在の担当業務に関して業績不良があるとしても、その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格、一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会の付与などの手段を講じることが可能であったとし、それらの手段を講じることなく行われたY3の解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利濫用として無効であるとしました。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

本判決は、【A】長時間労働削減の重要性、その前提としての【B】労働時間及び労働内容の把握を正確に行うことの重要性を示唆します。

本判決は、「現状の業務において業績不良であったとしても、会社のどこかに活躍できる場所はなかったかを、手を尽くして探したのか」を厳しく審査しています。本判決によれば、従業員が会社のどこかで業務を担当しうる程度の能力を有しているときは、会社側において、活躍できる場所はないか探さなければならず、会社側がそれを怠った場合には、解雇が無効と判断される可能性が高いことになります。

「会社のどこかで活躍できる可能性が全くない」という人物であれば別ですが、そうでない場合には、解雇にあたり、会社のどこかで活躍できないかを、具体的かつ慎重に検討しなければ、解雇は無効とされてしまうかもしれません。本判決のX1及びX3の場合、過去の勤務実績については業績不良でなかった(少なくとも業績不良でない時期があった)ことから、「会社のどこかに活躍できる場所があったのではないか」と判断されたのだと考えられます。

そして、企業規模が大きい会社や、業種や職種の多い会社ほど、解雇無効とされる可能性は高く、解雇にあたり、より慎重な判断を求められることになります。企業規模が大きければ大きいほど、また、業種・職種が多ければ多いほど、「活躍できる場所があったかを、手を尽くして探していない」という判断がされやすくなると考えられるからです。

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