Ⅰ.はじめに
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律(以下、「派遣法」といいます。)に関する説明の第2回として、今回は、派遣労働者の待遇向上についてご説明したいと思います。
派遣労働者の向上についても、派遣元企業のみならず、派遣先企業にも一部関係する点があるので、派遣労働者を受け入れている企業も注意が必要です。
Ⅱ.無期雇用への転換措置
派遣労働者の待遇向上の一つ目としてまず挙げられるのは、派遣元に対し、無期雇用を希望する「有期雇用労働者等」について、有期雇用から無期雇用への転換措置の努力義務を課したことです。
有期雇用が多い派遣労働者の地位の安定や正社員としての就業先の確保の必要性に鑑みて新設された規定であり、派遣元はこのような措置を採るよう努めなければなりません。
対象となる「有期雇用派遣労働者等」としては、派遣元における雇用期間が通算1年以上の派遣労働者、又は通算1年以上の派遣労働者として雇用しようとする労働者です(派遣法省令25条)。後者についての具体例としては、登録型派遣において、登録中の労働者につき、実際に派遣先が見つかり、その際に派遣労働者として雇用しようとする場合等が考えられます。
そして、転換推進措置としては、①無期雇用の「機会」の提供、②「紹介予定派遣」の対象とすること、③無期雇用転換のための「教育訓練」等の実施のいずれかを採用するよう努めなければなりません。
- ① 無期雇用の「機会」の提供とは、派遣元が、派遣労働者に対し、無期雇用の派遣労働者としての雇用又は無期雇用の直接雇用の労働者としての雇用、いずれかの機会を提供することです。
- ② 「紹介予定派遣」の対象とすることについては文字通りのことですが、注意点として、紹介予定派遣については、派遣法上の許可又は届出のみならず、職業安定法上の職業紹介に関する許可又は届出が必要です。
- ③ 無期雇用転換のための「教育訓練」等については、具体例として、無期雇用転換に役立つ資格取得や能力アップのための講習、セミナー等の開催又は受講支援措置等が挙げられます。
なお、以上の措置については、有期雇用派遣労働者等に無期雇用の希望があることを前提としています。希望の有無については、労働契約の締結又は更新、賃金の支払い等の機会を利用するか、又は電子メール等を活用して、把握すべきとされています[派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針第2の8 (1)]。
Ⅲ.均等待遇の確保
派遣労働者の待遇向上の二つ目として挙げられるのは、同種の業務に従事する派遣先労働者との均等待遇の確保に関する規定が新設されたことです。
遣労働者の実態として、派遣先の労働者と同様の仕事内容をしていても、賃金をはじめとした待遇において格差が生じていたことから、派遣元企業において、派遣先と均等な待遇を配慮する義務が新設されました(派遣法30条の2)。
均等待遇にあたって考慮しなければならない要素は、賃金決定のみならず、教育訓練・福利厚生の実施その他派遣労働者の円滑な派遣就業の確保にも及びます。教育訓練・福利厚生の実施等として、具体的にすべき措置とは、「労働者派遣に係る業務を円滑に遂行する上で有用な物品の貸与や教育訓練の実施等を始めとする派遣労働者の福利厚生等の措置について、当該派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の福利厚生等の実情を把握し、当該派遣先に雇用される労働者との均衡に配慮して必要な措置を講ずるよう努めること」とされています[派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針第2の8 (2) ハ]
そして、賃金決定において考慮すべき要素としては、①同種の業務に従事する派遣先の労働者の賃金水準、②同種の業務に従事する世間一般の労働者の賃金水準、③派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力、経験等があります。
また、以上の派遣元企業の配慮義務を補うために、派遣先企業に対して、賃金水準や福利厚生・教育訓練の実施状況に関する情報を、派遣元企業へ提供する等の協力の努力義務が課されることになりました(派遣法40条3項)。派遣先は、情報提供することはもちろん、派遣元企業の求めに応じて、派遣労働者の評価等に協力するよう努めなければならないこととされています[派遣先が講ずべき措置に関する指針第2の9 (2)]。
Ⅳ.待遇に関する説明義務
派遣労働者の待遇向上の3つ目としては、派遣元に対し、派遣労働者として雇用しようとする労働者に対する、賃金の額の見込みその他の当該労働者に関する事項を説明する義務を課す規定の新設です。
説明しなければならないのは、賃金の額の見込み等以外には、派遣元の事業運営に関する事項、労働者派遣に関する制度の概要とされています(派遣法施行規則25条の2第2項)。賃金の額の見込み等については、一定の幅があってもよく、その他の福利厚生については、説明可能な範囲でよいとされています。
説明方法としては、書面の交付等その他適切な方法によらなければなりません(派遣法施行規則25条の2第1項)。実際には、書面以外にはメールやインターネット上の自社ホームページ等で説明することになります。
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