上司の部下に対する飲酒強要等をパワーハラスメントと認めた裁判例~東京高裁平成25年2月27日判決~ニューズレター 2014.10.vol.32

Ⅰ 事案の概要

X は、平成20年3月10日、Y1社との間で、期間の定めのない雇用契約を締結し、Y1社の本社で営業係長として、営業部次長であるY2の下、営業業務を担当していました。

平成20年5月11日、X、Y2及び訴外Aは、仕事の反省会を兼ね居酒屋に赴きました。Y2にビールを勧められたX は、「飲めないんです。飲むと吐きますので、今日は勘弁してください。」などといって断りましたが、Y2は、ビールを飲むことをXに強要しました。XはY2の要求に応じたところ嘔吐しました。Y2は「酒は吐けば飲めるんだ。」などと言い放ち、さらにXのコップに酒を注ぐなどしました(以下「本件パワハラ1」といいます。)

平成20年5月12日、酒のために体調が悪いと運転を断っているXに対し、Y2は、レンタカーを運転させました(以下「本件パワハラ2」といいます。)

平成20年7月1日、Y2は、直帰したXに対し、同日午後11時少し前に「まだ銀座です。うらやましい。僕は一度も入学式や卒業式に出たことがありません。」との内容のメールを送る等しました。(以下「本件パワハラ3」といいます。)。

平成20年8月15日、Y2は、Xとトラブルとなり、同日午後11時少し前頃、Xの携帯電話の留守電に「辞めろ!辞表を出せ!ぶっ殺すぞ、お前!」との録音を残しました(以下「本件パワハラ4」といいます。)。

平成21年3月25日以降、Xは、会社を休むようになり、適応障害を理由に自宅療養を認める旨の診断書を提出しました。

平成21年4月21日、XはY1社人事部長代行Bに対し、同月23日に、病状を説明する旨約しましたが、23日の当日に面談を断ったため、BはXの症状を把握できませんでした。 Bは、Xについて、平成21年3月及び4月の2か月間に合計23日の休暇又は欠勤があり、従前の経過も併せ考慮すると、Xは、就業規則20条1項(1)号の「業務外の傷病(私傷病)により勤務不能のため不就労の状況」に該当するものと判断し、Xに対し、平成21 年4月23日メールで休職命令を告知しました。Xは、これに対し、特段異議等を述べませんでした。

Xは、有給休暇消化後の平成21年4月15日から90日間の休職期間に入りました。

Y1社は、休職期間満了日の3週間程前である平成21年6月23日に、Xに対し、休職期間が同年7月13日で満了となることを予告し、復職に関する相談は、早期にしてほしい旨メールで発信しました。

平成21年7月7日、Xは、Y1社に対し、同月11日に担当医による診断があるので相談する旨等をメールで送信しましたが、その後、Xから復職願の提出はなく、本件休職期間が経過しました。そのため、Xは就業規則により自然退職扱いとされました(以下「本件退職扱い」という。)。

本件は、休職期間満了によりY1社から本件退職扱いをされたXが、Y1から飲酒強要等のパワハラを受けたと主張し、①Y1及びY2に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を求め、②休職命令及びその後の本件退職扱いは無効である旨主張して、Y1に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び本件退職扱い後の賃金の支払いを求めた事案です。

Ⅱ 東京高裁平成25年2月27日判決

1 不法行為に基づく損害賠償請求について

本件の一審判決(東京地裁平成24年3月9日判決・平22(ワ)11853号)は、「ぶっ殺すぞ」等との留守番電話への録音を残した本件パワハラ4についてのみ、不法行為該当性を認めました。

これに対し、本判決は、飲酒強要(本件パワハラ1)、運転強要(本件パワハラ2)、本件パワハラ3についても、不法行為該当性を認めました。

そして、Y2による各不法行為についてY1の使用者責任を認め、それらによるXの肉体的精神的苦痛を慰謝するために150万円が相当であると判断しました。

2 本件休職命令の有効性について

Xは、Xの適応障害は業務上の疾病であり、「業務外の傷病(私傷病)」(就業規則20条1項)に該当しないと主張し、本件休職命令の効力を争いました。

この点に関し、本判決は、パワハラ行為とXの適応障害の発症との因果関係を否定し、本件休職命令は、本件就業規則20条1項(1)号の休職事由に基づくものとして有効と判断しました。

3 本件退職扱いの有効性について

本判決は、Xは、本件休職命令に対し、Y1社に異議を唱えたことはなく、平成21年7月13日に休職期間が満了すること及び復職の相談があれば早期に申し出るようY1から告知を受けていたが、復職願や相談等の申出をすることなく本件自然退職に至ったことから、Y1社が労働契約上の信義則に反したとか、本件退職扱いが権利の濫用であるとはいえない、と判断し、本件退職扱いを有効としました。

Ⅲ 本裁判例からみる実務における留意事項

1 いかなる行為がパワハラに該当するかの判断は簡単ではありませんが、本判決の内容から、パワハラと判断される行為の具体例を知ることで、同種のパワハラの発生を回避することが望まれます。

2 飲酒強要については、飲酒の際に頻繁にみられる行為ですが、本判決では、「単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為上も違法というべきである」と判断されており、単なる迷惑行為にとどまらないという認識を共有する必要があります。

3 運転強要について、本判決は、「たとえ、僅かな時間であっても体調の悪い者に自動車を運転させる行為は極めて危険であり、体調が悪いと断っているXに対し、上司の立場で運転を強要したY2の行為が不法行為上違法であることは明らかである」と述べています。運転させる距離や時間が短いからパワハラに当たらないといった考えは改める必要があります。

4 本件パワハラ3の留守電・メールについて、本判決は、その内容や語調、深夜の時間帯であること、従前のY2のXに対する態度などから、Xに精神的苦痛を与えることに主眼がおかれたものと評価し、社会的相当性を欠き、不法行為を構成すると判断しました。留守電・メール等は内容のみならず、上記のような事情を踏まえて、パワハラの該当性が判断されることに注意すべきです。

5 本件パワハラ4の留守電について、本判決は、「ぶっ殺すぞ」という言葉、辞職を強いるかのような発言、留守電に及んだ経緯から、違法であることは明らかで、その態様は極めて悪質であると判断しています。その他、よく耳にする「馬鹿野郎」等の発言を不法行為に該当するとした裁判例(東京地裁平成22年7月27日判決)も参考となります。

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