監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年、中小・小規模事業者をはじめとし、深刻な人手不足が発生しています。そこで、生産性向上や国内人材の確保のための取り組みを行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みとして、「特定技能」という新しい在留資格に関する制度が導入され、現業系の仕事に就くことが可能となりました。
本コラムでは、近年の入管法改正について解説し、特定の技能をもった外国人を雇用する方法についてご紹介したいと思います。
目次
近時の改正入管法と外国人雇用について
国内の労働力不足等の事情により、日本も外国人労働者を積極的に受け入れるべきであるという議論がなされています。そして、出入国管理及び難民認定法(入管法)は何度も改正されてきましたが、外国人雇用の推進に対しては根強い反発も残っています。
外国人雇用について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
出入国管理及び難民認定法(入管法)の概要
出入国管理及び難民認定法(入管法)とは、日本への出入国の管理や、外国人が日本に滞在する場合の「在留資格」に関する制度や手続きを定めたものであり、所管官庁は法務省です。
日本においては、出入国管理制度として、在留資格制度を採用しています。在留資格制度とは、あらかじめ数種類の「在留資格」を詳細に規定し、この規定に合致しない人の入国を拒否し、また、ビザの発給を停止することにより、国内外への出入国者を管理する制度です。
元来の在留資格制度は、特殊な技能や才能を有する外国人について、日本国内における活動を認めることにより、日本がその技能や才能の恩恵を受けることに主眼を置いていました。そのため、単なる人手不足を補うために外国人労働者を受け入れるといった方針ではありませんでした。
入管法改正の歴史
外国人労働者の扱いを巡り、入管法は度々改正されています。
以下で、その歴史について解説します。
平成26年の主な改正点
平成26年入管法改正は、高度の専門的な能力を有する外国人材の受け入れの促進のための措置として、「高度専門職第1号」及び活動制限を大幅に緩和し在留期間も無制限とした「高度専門職第2号」という在留資格を新設しました。
平成26年入管法改正前には、在留資格の種類にもよるものの、概ね5年、3年、1年、3ヶ月又は1ヶ月のいずれかの在留期間しか認められていませんでした。そして、在留期間外に日本に滞在すると、在留資格がないにもかかわらず活動した不法滞在となり、入管法違反となりました。
しかし、活動制限や厳格な在留期間を設けた状況であると、高度の専門的な能力を有する外国人材が日本で就労することを選択することに躊躇するおそれがあるところ、そのような人材の確保は日本国としても求められるため、平成26年改正により新しい在留資格が設けられたのです。
この制度の導入は、「高度専門職」という名のとおり、やはり優秀な外国人の活用という基本的な考えは大きく変わっていませんでした。
なお、雇用時に必要な在留資格について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
平成28年の主な改正点
平成28年に行われた入管法の改正は、在留資格「介護」の創設や、偽装滞在者対策の強化を行うものでした。
在留資格「介護」は、日本の介護福祉士養成施設(専門学校等)を卒業し、介護福祉士の資格を保有している外国人が、介護業務に従事するための在留資格です。この資格は、近年の日本における介護業界の人材不足解消のために設けられました。
偽装滞在者とは、偽造した卒業証明書や、虚偽の雇用証明書等を提出することによって不正に在留資格を得る者、あるいは、実習先から無断で立ち去って他の職に就く失踪技能実習生などを指します。平成28年頃には、こういった偽装滞在者の増加が社会問題となり、対策が求められていました。
取消制度については、日本において行うことが可能な活動が定められている在留資格によって在留しながら、実際にはその活動を行っていない外国人に適用する在留資格取消事由として新しい事由が定められました。これまでは、在留資格に応じた活動を3ヶ月以上行っていない場合に、初めて在留資格を取り消すことが可能でした。しかし、平成28年4月に新設された取消事由により、在留資格に応じた活動を行っておらず、かつ、他の活動を行っているか、行おうとして在留している外国人にも適用されるようになりました(第22条の4第1項第5号)。
この改正に関連して、雇用時に必要な在留資格について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
2019年施行の改正入管法について
2019年4月に施行された改正入管法は、外国人材の受け入れを拡大する改正であることから注目されました。
以下で、改正の理由と目的について解説します。
外国人労働者の受け入れ拡大を目的とした改正
2019年改正は、日本の生産年齢人口が減少し続けており、このままでは日本経済の成長が阻害されるという状況を変えるためには即戦力となり得る外国人労働者を多く受け入れるためになされました。
改正前には、技能実習生という制度がありましたが、これは、あくまで外国人労働者に日本の技能を学んでもらい、母国で活躍をするようにするための制度であり、日本に恒常的に労働力を提供することを目的とした制度ではありません。しかし、実際には技能実習生を労働者として使用しているようなケースが散見されたため、外国人の労働環境を改善するためにも一定の要件のもとで現業系の仕事に就くことを可能とする「特定技能」という新たな在留資格を設けました。
2019年4月施行の改正内容
外国人材の受け入れを拡大する2019年改正の内容について、以下で解説します。
在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」の創設
外国人が日本に在留するための新たな在留資格として、以下で説明するような「特定技能号」と「特定技能号」というものを創設しました。
「特定技能」とは
特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験あるいは熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格を意味します。
特定技能と技能実習の違い
特定技能と技能実習には、以下のような違いがあります。
特定技能 | 技能実習 | |
---|---|---|
外国人の技能水準 | 相当程度の知識又は経験が必要 | 特になし |
入国時の試験 | 技能水準、日本語能力水準を試験等で確認 | なし(一部例外あり) |
送出機関 | なし | 外国政府の推薦又は認定を受けた機関 |
監理団体 | なし | あり(主務大臣による許可制) |
支援機関 | あり(出入国在留管理庁による登録制) | なし |
外国人と受入れ機関のマッチング | 受入れ機関が直接海外で採用活動を行い又は国内外のあっせん機関等を通じて採用することが可能 | 通常監理団体と送出機関を通して行われる |
なお、技能実習生について詳しく知りたい方は、以下のページをご確認ください。
特定技能1号と特定技能2号の違い
「特定技能1号」は、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に外国人向けの在留資格を言います。在留可能期間は、最長で5年であり、家族の帯同はできません。
また、日本語能力水準が試験等で確認されます。必要とされる日本語の基準は、国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験N4以上の合格で基本的日本語を理解し、ゆっくりとした日常会話が日本語でできる程度の能力です。なお、例えば、介護分野については、さらに介護日本語評価試験の合格も必要であるなど、分野毎に特殊な要件もあります。
「特定技能2号」は、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格を言います。在留可能期間の上限はなく、家族の帯同も可能とされています。ただし、本コラム執筆時点では、下記対象業種14分野のうち、「建設」「造船・舶用工業」に限られています。日本語能力水準を試験等で確認することは不要です(特定技能1号の上位資格であり、N4程度の能力を有していることが通常期待されていることに加え、熟練した技術を要する業務に従事することのできるメリットを重視していると考えられます)。
特定技能の就労が認められる14業種
特定技能の在留資格が認められるのは、以下の現業系の仕事を主とした14の業種です。これらのうち、「建設」「造船・舶用工業」のみが特定技能2号を取得することが可能です(執筆時点)。
- 1 介護
- 2 ビルクリーニング
- 3 素形材産業
- 4 産業機械製造行
- 5 電気・電子情報関連産業
- 6 建設
- 7 造船・舶用工業
- 8 自動車整備
- 9 航空
- 10 宿泊
- 11 農業
- 12 漁業
- 13 飲食料品製造業
- 14 外食業
改正入管法の問題点
登録支援機関は、受入れ機関(特定技能の在留資格を有する外国人労働者を雇用する企業のことです)からの委託料で運営されるところ、委託料に関する制限がないため、受入れ機関が高額の委託料を登録支援機関に委託したにもかかわらず、必ずしも外国人労働者の待遇改善につながらないおそれがあること等が指摘されています。
また、「特定技能1号」労働者の地位が弱いことも問題です。家族の帯同も許されず、在留期間も最長5年と限られている立場は不安定なものと言わざるを得ません。
特定技能の創設が企業に与える影響
メリットとしては、労働力不足の改善、地方の人材不足解消、生産性及び業績の向上が考えられます。特定技能の就労が認められる分野は、日本の若者からの就職人気が減少しており、就労者が減少していた分野であったところ、これらの労働力不足等を改善することができるのは国として大きなメリットであると考えられます。
デメリットとしては、雇用環境の悪化がありえます。例えば、特定技能外国人を雇用した企業が、日本の文化と外国の文化を調和した職場環境を提供することに苦労することが考えられます。このデメリットを克服するためには、特定技能外国人を雇用する前に外国の文化について調べておき、対応策を準備しておく必要があります。
特定技能外国人を雇用する方法
特定技能外国人労働者を雇用するためには、登録支援機関との連携が必要です。
具体的には、受入れ機関は、支援計画を定める必要がありますが、その内容の全てを自社のみで実行する必要はなく、登録支援機関との間で支援委託契約を締結し、支援計画の実施を委託することができます。そして、登録支援機関は、当該委託に基づき、特定技能外国人に対し、特定技能外国人支援計画の実施に協力します。なお、特定技能外国人支援計画に定めなければならない事項は<7-2. 1号特定技能外国人支援計画の作成>において後述します。
外国人雇用の手続きについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
特定技能雇用契約の締結
特定技能雇用契約を締結する際には、以下の項目に注意する必要があります。
- ・報酬額が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること
- ・一時帰国を希望した場合、休暇を取得させること
- ・報酬、福利厚生施設の利用等の待遇で差別的取り扱いをしていないこと
その他、分野ごとに、これら以外のルールが定められていることもあります。
1号特定技能外国人支援計画の作成
また、受入れ機関は、1号特定技能外国人支援計画を策定する必要があります。
同計画には、少なくとも以下の記載事項を記載しなければなりません。
- ・職業生活上、日常生活上、社会生活上の支援(入国前の情報提供、在留資格変更許可申請前の情報提供、住宅の確保等)
- ・支援計画の実施を委託する場合は、その契約内容
- ・支援責任者等
必要に応じて出入国在留管理庁へ届出
受入れ機関は、以下のような場合に、出入国在留管理庁へ各種届出をしなければなりません。
- ・特定技能雇用契約の締結・変更・終了
- ・1号特定技能外国人支援計画の変更
- ・1号特定技能外国人支援計画の登録機関への委託契約の締結・変更・終了など
入管法の改正で企業に求められる対応とは
受入れ機関は、
- ・労働、社会保険、租税関係法令を遵守していること
- ・1年以内に非自発的離職者や行方不明者を発生させていないこと
- ・5年以内に出入国・労働法令違反がないこと
といった要件を充足する必要があります。
適切な体制を確保せず、不法就労(典型的な例としては、入管法で定められた就労以外の活動を行うこと、在留期間を過ぎているにもかかわらず日本に滞在して就労するような事例)が発生した場合には、事業主側に、不法就労助長罪が成立することがあります(入管法73条の2第1項)。
外国人雇用における人事管理等について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
外国人労働者に向けた就業規則はどのように策定すべきか?
外国人労働者に向けた就業規則の内容は、同種の労働をおこなう日本人と同様の扱いとなるものでなければならず、また、各種労働関連法規に適合した内容となっていなければなりません。
また、特定技能外国人に関する雇用契約書を作成する場合、トラブル回避や紛争予防の観点から母国語での契約書の交付が求められます。なお、それ以外の在留資格であっても、母国語又は平易な日本語で作成すべきでしょう。
さらに、渡航費、帰国旅費、住居確保に関する条件も明示しておくべきでしょう。
なお、雇用契約書を作成する際には、厚生労働省のサイトが外国語での契約書作成の参考になるでしょう。
雇用契約書について
(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040325-4.pdf)
就業規則について
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/foreign/index.html)
また、外国人雇用のための就業規則について、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
労働者から一時帰国の申し出があった際の対応
事業者は、外国人労働者から一時帰国の申し出があった場合、これに応じ、必要な有給休暇を取得させる必要があります。(平成三十一年法務省令第五号、特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令第1条第5号)。
また、このことは、特定技能雇用契約を締結する時点で盛り込んでおく必要があると考えられます。その際、旅費負担のトラブルが生じることも想定できるため、事前に条件を話し合って明示しておくことが重要であろうと考えられます。
入管法の改正で不明点等ございましたら、企業法務に詳しい弁護士にご相談下さい。
本コラムにおいてお示ししたように、入管法に基づいて特定技能外国人を雇用する際には、登録支援機関との連携、適切な記載事項が盛り込まれた支援計画の策定、外国人労働者の特殊性に配慮した労働環境の整備、各種関係法令に適した雇用契約及び就業規則の作成等、法律上多くの準備事項があります。
適切な運用を担保するためにも、事前に法律の専門家である弁護士に相談することをご検討ください。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士アイヴァソン マグナス一樹(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある