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長時間労働の面接指導|改正後の義務や要件、実施の流れなど

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

近年、長時間労働は労働者の脳・心臓疾患の発症と関連性が高く、うつ病等の精神疾患の原因にもなることが認められたため、残業や休日出勤等が問題視されるようになってきました。
それに伴って、長時間労働者への医師の面接指導が義務づけられたため、会社は労働時間等をしっかりと把握する必要があります。

さらに、2024年の法改正により、長時間労働を行っている医師についても面接指導を行う必要が生じています。
この記事では、面接指導の概要や流れ、面接指導を行うときの注意点等について解説します。

長時間労働者への面接指導とは

長時間労働者への面接指導とは、過労やストレスによる労働者の脳・心臓疾患や、メンタルヘルス不調の予防を目的とする措置です。長時間労働者に対して医師による面接指導を実施することは、労働安全衛生法66条の8で義務付けられています。

面接指導の対象になるのは、月に80時間を超える時間外労働及び休日労働を行っている労働者です。
面接指導では、産業医等の医師が、労働者の心身の状況について確認して、業務の過重性や疲労蓄積状況を評価することによって、労働者の健康を守ることを目指します。
また、対象ではない労働者に対しても、予防に関する指導が必要となります。

面接指導を実施する産業医について

面接指導を行う医師は、その事業場に選任されている産業医であることが望ましいです。

産業医とは、医学の専門家の立場から、労働者の健康管理等について指導や助言を行う医師です。事業場において、常時使用する労働者が50人以上である場合には産業医の選任義務があります。

また、産業医を選任していない事業場で面接指導の必要が生じたケースでは、次のような医師に実施を依頼しましょう。

  • 地域産業保健センターの登録医
  • 健康診断機関の医師
  • 産業看護職

産業医についての詳細は、下記のページをご覧ください。

企業における産業医の選任義務

【改正】労働安全衛生法改正による面接指導の強化

2019年4月1日から、基本的に1ヶ月の時間外・休日労働が80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者について、面接指導の対象とされました。
一般的な労働者については、対象者のうち申し出た者について面接指導を行う義務があります。

さらに、2024年4月1日に、面接指導の対象に医師が追加されました。
医師で面接指導の対象となるのは、時間外労働及び休日労働の時間が月100時間以上になると見込まれる者です。

面接指導の対象となる労働者の要件

面接指導の対象となる労働者は、時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者です。特に、面接指導の申出があったときには実施義務が課せられます。

なお、面接指導の実施は、労働者の申出から、おおむね1ヶ月以内に行うようにしましょう。

時間外・休日労働時間 申出の要否 違反時の罰則
一般労働者 月80時間超 必要
研究開発業務従事者 月80時間超 必要
月100時間超 不要
高度プロフェッショナル制度適用者 月100時間 不要

研究開発業務従事者の場合

研究開発業務とは、研究によって得た知識や技術によって、新たな商品を開発する業務です。

研究開発業務に従事する労働者には、残業時間の上限規制が適用されませんが、長時間労働している場合には、医師による面接指導を受けさせることが法改正によって義務化されました。

労働時間による面接指導の義務は、休日・時間外労働の時間によって、以下のようになっています。

  • 月80時間超:疲労の蓄積があって面接指導を申し出た者に行う(行わなくても罰則なし)
  • 月100時間超:申出がなくても、全ての者に行う(行わなければ罰則あり)

高度プロフェッショナル制度適用者の場合

高度プロフェッショナル制度とは、労働時間と成果の関連性が低い、高度に専門的な仕事をする年収1075万円以上の労働者について、労働時間ではなく成果によって賃金を支払う制度です。

本制度の対象者は、長時間労働をしてしまいかねないため、一定の基準で医師による面接指導を受けさせることが義務付けられています。この“一定の基準”とは、具体的に「1週間あたりの健康管理時間が40時間を超過した時間が、1ヶ月あたり100時間を超えたとき」をいいます。

この条件を満たす者に面接指導を受けさせなかったときには、罰則が適用されます。

※健康管理時間…労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外で働いた時間」の合計

面接指導を実施する流れ

面接指導を実施する流れは、主に以下のようになっています。

  1. 労働時間を適正に把握する
  2. 労働者の情報を産業医に通知する
  3. 労働者からの申出を受ける
  4. 面接指導の実施と医師からの意見聴取を行う
  5. 結果を記録・保管する
  6. 面接指導実施後の措置

これらの流れについて、次項より解説します。

①労働時間を適正に把握

労働時間の把握は、タイムカードによる記録や、パソコンのログ等の客観的に記録できる方法によって行います。
会社は、把握した労働時間の記録を3年間は保存する必要があります。

労働時間の把握の対象は、管理監督者や、裁量労働制の適用者等も含みます(高度プロフェッショナル制度が適用されている者は除きます)。
残業代を支払わない労働者についても、労働時間を把握して記録を保存しなければならないケースがあることに注意しましょう。

なお、時間外労働や休日労働についての詳細は、下記のページをご覧ください。

時間外労働とは | 特殊な勤務形態における時間外労働

②労働者の情報を産業医に通知

時間外労働時間と休日労働時間は、毎月一回以上は算定して、合算した時間が80時間を超えた労働者がいないかを確認します。
80時間を超えている労働者がいた場合、当該労働者について、主に以下のような情報を産業医に提供しなければなりません。

  • 労働時間
  • 作業環境
  • 深夜業の回数

③労働者からの申出

労働者から面接指導の申出があった場合は、遅滞なく実施しなければなりません。この面接指導は、当該労働者からの申出から、おおむね1ヶ月以内に実施します。なお、申出は、書面や電子メール等の記録に残る形で行われる必要があります。

また、産業医は労働者の健康診断の結果や労働時間等の情報によって、健康障害の発生リスクがあると判断した者に対して、面接指導の申出を勧奨することができます。それにより、労働者が面接指導を受け、健康確保へとつながるとされています。

確実に労働者が面接指導を受けるために、労働者が申出をしやすい環境を整えるのも大切です。例えば、簡単な手続きで申し込め、周囲の労働者に知られずにできたりする等の環境つくりをしましょう。

④面接指導の実施と医師からの意見聴取

使用者は、面接指導を行った医師から、労働者の健康確保のための措置について意見を聴く必要があります(労安衛法66条の10第5項)。また、意見を聴く時期としては、面接指導実施後、遅滞なく聴かなければなりません(労安衛則52条の7)。

面接指導では、労働者の勤務状況や疲労の蓄積状況、その他の心身の状況が確認されており、それらを基に「面接指導結果報告書」や「就業上の措置に係る意見書」が作成されて会社に提出されます。

意見書の内容としては、労働者の健康状態だけでなく、職場環境や労働安全衛生管理体制の見直し等についての意見がある場合も考えられるため、慎重な対応が必要となります。

⑤結果の記録・保管

使用者は医師による面接指導の結果を記録し、5年間は保管をしなければなりません。
記録の内容としては、以下のものが挙げられます。

  • 実施年月日
  • 当該労働者の氏名
  • 労働者の疲労の蓄積状況や心身状況
  • 面接指導を行った医師の意見 等

⑥面接指導実施後の措置

使用者は面接指導の実施後、産業医等の意見を踏まえて適切な措置をとらなければなりません。
労働者がメンタルヘルス不調と判断された場合は、精神科医等と連携を図る対応が必要となるでしょう。

とるべき措置として、以下のようなものが挙げられます。

  • 勤務場所の変更
  • 作業内容の変更
  • 労働時間の短縮
  • 深夜労働の回数の削減
  • 休職

また、これらの措置をした後、労働者の改善がみられた場合は、面接指導を行った産業医等の意見を聴いたうえで、通常の業務に戻す等の措置をとる必要があります。

面接指導を行う際の注意点

会社が面接指導を実施するときに注意するべき点について、以下で解説します。

面接指導の実施者の守秘義務

面接指導を実施する産業医や看護師等、実施にかかわる従事者には、守秘義務が生じます。また、その結果記録等を保管している使用者も同様です。面接指導の結果記録等は、機微な個人情報が含まれることが多く、十分注意をしなければなりません。健康診断等に関する情報を漏洩してしまうと、労安衛法上で罰則が適用されます。さらに、守秘義務に違反すると、民事責任として慰謝料請求を受けるおそれもあるため、厳格な取扱いが必要です。

本人から情報開示請求を受けた場合

面接指導の結果を本人から情報開示請求を受けた場合、個人情報保護法28条により、基本的に使用者は開示しなければなりません。しかし、同法28条第2項に該当する場合は、全て又は一部を開示しないことができます。

例えば、面接指導の結果には、業務と関連する意見や、就業上必要と思われる措置の意見、職場環境の改善に関する意見等が含まれており、労働者や、医師、使用者との関係が悪化するおそれがある場合等が考えられます。そのため、面接指導の結果によって開示する内容を、個別の労働者に応じて判断しなければなりません。

面接指導に関する不利益取扱いの禁止

会社に対して面接指導の申出をした労働者について、その申出を理由として不利益に取り扱うことは法律上禁止されています(労安衛法66条の10第3項)。
また、面接指導を受けない労働者への不利益な取扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇や雇止め、退職勧奨、降格なども禁止されています。

面接指導にかかる費用負担と賃金

労働者に対する面接指導の実施は、労安衛法にて使用者が負担する義務として定められていることから、それらにかかる費用は使用者が負担すべきとされています。

また、面接指導を受けている時間も労働時間に算入されますから、面接指導はなるべく就業時間中に行うのが望ましいでしょう。そして、その時間の賃金は支払わなければなりません。

長時間労働者が産業医の面談を受けやすい環境づくりの重要性

長時間労働者が産業医との面談を考えたとしても、昇進等に影響するのではないかと考えて申し出ないことが考えられるため、産業医の面談を受けやすい環境をつくる必要があります。
そのためにも、会社は産業医を選任したことや、産業医の業務内容、健康相談を申し出る方法等について周知しなければなりません。
加えて、労働者の心身の状態に関する情報は、健康の確保に必要な範囲内でのみ使用・保管する旨を必ず周知しましょう。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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