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【懲戒処分】出勤停止(自宅謹慎)に該当する懲戒事由や期間など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

懲戒処分のうち、労働者が会社に出勤することを、一定期間禁止する処分を「出勤停止」といいます。また、これに類似する処分として「懲戒休職」の規定が設けられている場合もあります。本稿では、「出勤停止」と「懲戒休職」の違いや、労働者が出勤停止の処分を受けている間の賃金を支払う必要があるのか、といった点についてご説明致します。

出勤停止の定義

出勤停止とは、服務規律に違反した労働者への制裁として、労働契約を存続させたままで、就労を一定期間禁止する処分のことをいいます。「自宅謹慎」や「懲戒休職」といった名称で規定されている場合もあります。出勤が停止されている間は、賃金が支給されず、勤続年数にも算入されないのが通常といえます。

懲戒処分としての出勤停止

懲戒処分として出勤停止が行われる場合には、あくまでそれが懲戒処分の一種である以上、懲戒処分に対する法的規制が適用され、就業規則において懲戒事由が定められるとともに、出勤停止が懲戒の種類としてあらかじめ定められている必要があります。懲戒処分としての出勤停止の期間は、1週間以内や10日から15日程度が多いですが、明示の法的規制が存在するわけではなく、違反事由の程度と比較して不適切に長い場合には、懲戒権の濫用や公序良俗等により制限がなされることもあります。

業務命令としての出勤停止

懲戒処分としての出勤停止処分とは別に、業務命令として出勤停止が行われることがあります。例えば、懲戒処分をするか否かにつき、調査または審議決定するまでの間就業を禁止する出勤停止の措置や、企業が労働者を出社させるのは不適当と認める事情がある場合等が考えられます。業務命令としての出勤停止は、状況に応じて適切な賃金や休業手当を支払う限り、使用者には、就業規則における明示の根拠なしにそのような命令を発する権限が認められます。

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懲戒休職・自宅謹慎・自宅待機との違い

懲戒休職

「懲戒休職」は、「出勤停止」と同じく、労働者による企業秩序に違反する行為への制裁として、労働者の就労を禁止する処分であり、一般的には「出勤停止」よりも程度の重い処分であると考えられています。就業規則で「懲戒休職」を規定している場合には、休職期間が比較的長期にわたっていることが多く見受けられますが、過去の裁判例においては、6ヶ月の懲戒休職は重過ぎるとして3ヶ月を限度に効力を承認した事例もあり(盛岡地裁一関支部 平成8年4月17日判決)、休職期間の長さには注意が必要です。

自宅謹慎

自宅謹慎の処分は、懲戒処分である出勤停止の意味合いで使用される場合と、業務命令である自宅待機の意味合いで使用される場合があります。しかし、自宅謹慎処分は、単純な自宅待機と比較して、非難の意味合いが強いと考えられます。そのため、どちらかといえば、懲戒処分としての出勤停止の意味合いで利用される場合が多いとされます。

自宅待機

自宅待機については、懲戒処分である出勤停止の場合とは異なり、就業規則における明示の根拠がなかったとしても、使用者には、そのような命令を発することが認められます。その際には、状況に応じて、適切な賃金や休業手当を支払う必要があります。

出勤停止処分が有効となる条件

他の懲戒処分と同様に、出勤停止処分の有効性についても、出勤停止処分の対象たる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、当該出勤停止処分は無効と判断されます。出勤停止期間の長短は、社会通念上相当であるか、という枠組みの中で判断されるものと考えられます。

懲戒処分

出勤停止処分に該当する懲戒事由

出勤停止処分が認められるためには、あらかじめ就業規則に定められた出勤停止事由に該当することが必要となります。就業規則において懲戒事由の内容はある程度抽象的・包括的な記載がなされますが、その内容が安易に拡大解釈等されることのなきよう、懲戒事由の有無の判断にあたっては具体的な行為へのあてはめがなされるように、限定的な解釈が求められると考えられます。

懲戒処分 懲戒事由

出勤停止処分が違法と判断されるケース

出勤停止も懲戒処分である以上は、出勤停止処分が有効とされるには、使用者が労働者を懲戒することができる場合でなければならず、懲戒の理由となる事由と懲戒の種類として出勤停止処分が就業規則上明記されていなければなりません。また、労働者の問題行為が就業規則上の懲戒事由に該当し、「客観的に合理的な理由」があると認められなければなりません。さらに、労働者の問題行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められる必要があり、当該処分が重きに失すると判断された場合には違法・無効となります。

出勤停止処分が無効となった判例

保母の業務に従事していた労働者が、園児を見失ったため、7日間の出勤停止処分が行われた事案に対する裁判所の判断があります。

園児を見失わないように視野に入れておく必要があったにもかかわらず、他のことに気を取られて園児に背を向けている間に見失ったことから、責任は重いとされつつも、園児が15分程度で保護されており、報告書を提出の上、ミスの原因を分析して反省の言葉を記載していることなどから、7日間の出勤停止という処分は重きにすぎるため、減給処分で十分と判断されました。

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出勤停止期間の限度

出勤停止の期間の妥当性は、社会通念上相当なものと認められるか否か、という枠組みの中で考慮されると考えられます。出勤を停止する期間の上限は、法律で定められてはいませんが、「公序良俗の見地より当該事犯の情状の程度等により制限のあることは当然である」との通達(昭和23年7月3日基収2177号)が存在しており、どれだけ労働者の行為が重大なものであったとしても、無制限の出勤停止は認められないと考えられます。出勤停止期間をあまりにも長くしてしまうと、懲戒処分が違法との判断を受けやすくなると考えられ、過去の裁判例においても、6ヶ月の懲戒休職につき、重過ぎるとして、3ヶ月の限度でこれを有効とした事例が存在します。かなり古い行政解釈であり、工場法の時代のものではあるものの、「7日を限度とする」との通達(大正15年12月13日発労71号)が出されたこともあり、これを参考に、1週間から2週間程度の出勤停止期間を設定している就業規則も多く見受けられます。

労働基準法における出勤停止期間の扱い

労働基準法において出勤停止期間の上限が規定されているわけではありませんが、出勤停止処分の有効性に関して、それが社会通念上相当なものであったと認められるかという枠組みの中で、出勤停止期間の長短も考慮されることとなります。

出勤停止期間の妥当性が争われた判例

派遣社員として従事していた女性に対して、露骨かつ卑猥な言動などによるセクハラ行為を行ったことなどについて、加害者であった従業員2名に対して、それぞれ30日間または10日間の出勤停止を行った事案において、セクハラの申告が遅かったことを加害者に有利に考慮することなく、それぞれの出勤停止処分を有効と判断した事例があります(最高裁平成27年2月26日判決)。

10日間または30日間という、かなり長期間の出勤停止命令ですが、行為の重大性などから有効性が維持されており、単に出勤停止期間が長期間であるか否かだけではなく、行為の重大さと期間の長短の相関関係において有効性が判断されているといえるでしょう。

出勤停止期間中の賃金支払い義務

懲戒処分としての出勤停止が行われる場合には、その期間中は賃金が支払われない取扱いがなされることが多いといえます。減給の場合には、減給額の上限が労働基準法91条に規定されており、「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」とされます。他方で、出勤停止の場合には、同条の適用はないとされています。すなわち、この点に関する通達によれば、「労働者がその出勤停止期間中の賃金を受けられないことは……法91条の規定には関係ない」(昭和23年7月3日基収2177号)とのことであり、出勤停止処分にともなって賃金の減額が生じた場合であっても、労基法91条の適用がないことが明らかにされています。

出勤停止期間中の行動制限について

出勤停止中に自宅謹慎を命じることは可能か?

懲戒処分としての出勤停止については、あくまで出勤停止期間中に会社での就労を禁止するものであるところ、自宅謹慎は、会社での就労を禁止するにとどまらず、自宅からの外出自体を禁止するものであって、行動の自由をより強度に制約するものとなるため、懲戒処分としての出勤停止において、更に自宅謹慎を命じることは認められない可能性があります。

業務命令としての出勤停止については、例えば外出を認めることにより証拠隠滅のおそれが存在するなどの相当の理由がある場合には、業務命令の一環として自宅謹慎を命じることまで許容されることもあり得ると考えられます。

出勤停止中の兼職は禁止できるのか?

会社の許可又は会社への届出なしに兼職することは、出勤停止中であるか否かを問わず、就業規則においてこれを禁止する旨の規定が置かれていることがほとんどと考えられます。したがって、就業規則において兼職禁止の規定がある場合には、出勤停止中も兼職を禁止する旨の業務命令を発することによって、出勤停止期間中の兼職を禁止できるものと考えられます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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