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障害者雇用の合理的配慮|障害別の事例や流れについて解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

障害の有無にかかわらず、労働者が“公平”に働ける職場を実現するためには、“配慮”が要されます。

障害のある方を雇用するすべての事業主には、仕事をするうえで配慮が必要な労働者一人ひとりに合わせた「合理的配慮」を検討し、実施することが求められます。
障害者差別解消法による「合理的配慮」は、民間企業について、現在は努力義務とされていますが、2024年までには義務化される予定となっています。

このページでは、厚生労働省が策定した『合理的配慮指針(平成27年3月25日厚生労働省告示117号)』の内容を中心に、事業主が提供すべき「合理的配慮」について、解説していきます。

合理的配慮とは

障害者雇用に関する「合理的配慮」とは、障害のある者とそうでない者との間で、募集や採用、採用後の待遇を均等に確保するために支障となっている事情を、改善・調整するための措置のことをいいます。

障害者差別解消法の改正により、2024年までには合理的配慮の提供が民間事業者にも義務づけられることになっています。

一人ひとりの障害の特性や職場環境などが違えば、具体的にどのような配慮が求められるのかも変わってくるため、当該障害者と事業主とで話し合って、個々の障害者に応じた必要な「合理的配慮」の内容を決めていくこととなります(障害者雇用促進法36条の2、36条の3、36条の4)。

合理的配慮の法的義務

合理的配慮について定めた法律として、「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」を把握する必要があります。
これらの法律では、事業主に過重な負担にならない程度で配慮を義務づけています。「過重な負担にならない」という判断は、事業活動への影響の程度等を考慮して行われます。

2つの法律が対象としている分野と、合理的配慮を提供する義務のある者を下の表にまとめたのでご覧ください。

障害者差別解消法 障害者雇用促進法
対象分野 社会的な分野 雇用分野
合理的配慮の提供義務 国や自治体(義務)
民間事業者(現在は努力義務)
すべての事業主

対象となる障害者

合理的配慮の提供の対象となる障害者とは、次のような者を指します。

  • (ア)~(エ)のいずれかの障害があること
    • (ア)身体障害
    • (イ)知的障害
    • (ウ)精神障害(発達障害を含む)
    • (エ)その他、心身の機能障害
  • (ア)~(エ)のいずれかの障害があることで、就労において長らく相当の制限を受けている、あるいは仕事を通した自己実現が著しく困難な生活を送る者

業務内容に照らして障害の程度が軽く、業務をするにあたって障害がハンディとならない人や、病気やケガ等により一時的に業務に制限を受けるにとどまる人は、上記の条件に該当しないため、合理的配慮の対象外となっています。

障害別の合理的配慮の例

障害 合理的配慮の例
身体障害 視覚障害
  • 「こちらへ」等の指示語ではなく「3歩前へ」というように、位置関係を分かりやすく伝える
  • 資料を点字によって作成したり、資料の内容を読み上げて伝えたりする
聴覚障害
  • 筆談や手話等、目で見て分かる方法を用いて意思疎通を行う
  • 難聴者がいるときには、聞こえやすいように話したり、複数の発言が交錯しないようにしたりする
肢体不自由
  • 車いす利用者のために、段差の横にスロープを作る
  • 列に並んで順番を待つことが難しいときには、列から外れて順番を待てるようにする
精神障害
  • 細かなスケジュールや集団による行動することが難しいときには、柔軟な運用を行うようにする
  • 情緒不安定を抑えるため、休憩室等の落ち着ける場所で休めるようにする
発達障害
  • 感覚過敏について、それを和らげるための対処(例えば聴覚過敏に耳栓使用)を行えるようにする
  • 作業手順や道具配置などにこだわりがあるときには、一定のものを決めておくようにする
知的障害
  • 資料を簡潔な文章によって作成したり、文章にルビを付したりする
  • 写真や絵などを用いて、分かりやすく説明する

上の表は合理的配慮の例ですが、これらの配慮をしないことが、必ず違反になるわけではありません。当事者と対話を行い、相互理解を深めることによって、障害者が希望する配慮のうち提供できるものを提供するようにしましょう。

過重な負担について

合理的配慮は、事業主に“過重な負担”がかからない範囲で提供することとなっています。この“過重な負担”にあたるかどうかは、次項以降にあげるいくつかの要素を総合的に考慮しながら判断します。

なお、検討の結果、合理的配慮を実現するための措置が、事業主にとって過重な負担がかかるものと判断できる場合には、当該障害者と事業主とでよく話し合い、当該障害者の意向を汲んだ事業主に過重な負担にならない別の措置を講ずることとします。

では、“過重な負担”の判断要素となる事項を、順に確認していきましょう。

負担の要素 内容
事業活動への影響の程度 配慮を行うことによって、生産活動、サービスの提供及びその他の事業活動への影響の程度
実現困難度 事業所の立地状況や、施設の所有形態などによる、合理的配慮をするための機器・人材の確保、設備の整備等を実現するための困難の程度
費用・負担の程度 合理的配慮をするための費用や負担の程度
※合理的配慮が必要な障害者が事業所に複数人いる場合には、その複数人に対して要する費用や負担も考慮する
企業の規模 “企業”単位での負担の程度
※企業の規模に応じた、合理的配慮に関する負担の程度を考慮する
企業の財務状況 ““事業所”にかかる費用負担だけでなく、“企業”の財務状況に応じた経済的な負担の程度も検討する
公的支援の有無 “合理的配慮をするにあたり公的支援の活用が可能な場合には、活用を前提として判断する

合理的配慮の流れ

合理的配慮は、次のような流れで行います。

  1. 合理的配慮を必要とする障害者の確認
  2. 合理的配慮の措置の内容に関する話合い
  3. 合理的配慮の確定・実施
  4. 配慮内容の見直し・改善

この流れについて、以下で解説します。

①合理的配慮を必要とする障害者の確認

募集・採用時の障害者からの合理的配慮の申出

合理的配慮が必要となる障害者は、募集や採用にあたって支障となる事情や、希望する措置について、事業主に申し出ます。なお、必要な措置について、具体的な希望を申し出ない場合には、支障となる事情のみ申し出てもらえば問題ありません。

ただし、障害者は、面接日時等を考慮し、採用スケジュールに余裕をもって、事業主に申し出る必要があります。

採用後の職場において支障となっている事情の有無等の確認

採用活動のタイミングで労働者の障害について把握している場合には、採用後、雇用開始日までの間に、当該障害者に対して、職場で支障となる事情があるかどうかを“事業主から”確認しましょう。

同様に、雇用開始日までに障害について把握できなかった、あるいは、雇用開始当時は労働者に障害がなかった場合には、それぞれ障害があること・障害を負ったことを把握したタイミングですぐに、職場で支障となっている事情があるか否かを確認します。

上記に加え、障害の程度や職場環境の変化に応じて定期的な確認作業が必要であり、この確認作業及び障害者からの自発的な申出によって支障となっている事情が明らかになれば、希望する措置の確認・検討が必要になります。

②合理的配慮の措置の内容に関する話合い

障害者から事業主へ合理的配慮について申出があり、支障となっている事情があることを確認した場合には、障害者自身が具体的にどのような措置を希望するかを聴取し、また、事業主はどんな措置を講ずることが可能かを提示して、双方の意向のすり合わせを行います。

③合理的配慮の確定・実施

障害者との話合いにおいて聴取した意向を十分に汲んで、具体的にどのような措置を講ずるかを検討します。

もし、当該障害者の希望にぴったり沿う合理的配慮を提供することが、事業主にとって過重な負担にあたり、実施できないという結論に至った場合には、理由を添えて、その旨を当該障害者に説明するとともに、別案を検討する必要があります。

反対に、実施できる措置が複数ある場合には、話合いを経てより実現しやすい措置を選択することも望ましいものと考えられます。

④配慮内容の見直し・改善

合理的配慮をする義務は、障害事由を確認したそのとき一度限りの対応で終わりということではありません。障害の程度や、職場環境の変化などに応じて必要な配慮を適時提供することが大切ですから、現在実施している措置が適切かどうか、定期的に見直し・改善する必要があるでしょう。

障害者の意向を確認することが困難な場合

もし、この一連の手続き(=合理的配慮の手続き)の中で、障害者の意向を確認することが難しい事情がある場合には、ハローワークの職員などに支援を求めることで、当該障害者の意向を適切に汲み取ることができる可能性がありますので、ひとつの解決方法として留意しておきましょう。

相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助

事業主は、障害者である労働者のために、次のように環境を整えなければなりません。

  • 相談体制の整備
    相談窓口の設置、相談への適切な対応、プライバシーを保護するための措置、不利益な取扱いの禁止等
  • 苦情の処理
    障害者からの「差別を受けた」「合理的配慮が受けられなかった」等の苦情について、相談窓口の担当者などを交えて話し合う等
  • 紛争解決の援助制度
    都道府県労働局長による助言を受ける、障害者雇用調停会議による調停制度を利用する等

これらの仕組みについては、こちらのページで詳しく解説していますので、ぜひ参考になさってください。

障害者雇用促進法における相談体制の整備、苦情処理、紛争解決の援助

合理的配慮の提供義務に違反した場合

合理的配慮をしていないからといって罰則規定はありません。事業主には、雇用管理を改善するために必要な助言、指導、勧告といった行政指導がなされる可能性があります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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