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高度プロフェッショナル制度の導入手続きについて

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

働き方改革により、「高度プロフェッショナル制度」が新設されましたが、自社に導入するにあたってどのような手続が必要になるのでしょうか?

本記事では、高度プロフェッショナル制度の導入を検討されている方や、既に導入を決めている方へ向けて、制度の導入に必要な手続の流れについて、詳しく解説していきます。

高度プロフェッショナル制度とは?

高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門知識を要する特定の業務に就き、職務の範囲や年収等の一定の要件を満たす労働者に関して、労働基準法の労働時間規制の適用対象から除外したうえで、成果型労働制を適用する制度です。

高度プロフェッショナル制度導入手続の流れ

高度プロフェッショナル制度の導入手続きは、次のような流れで行います。

  1. 労使委員会を設置する
  2. 労使委員会で決議する
  3. 決議を労働基準監督署長に届け出る
  4. 対象労働者の同意を書面で得る
  5. 対象労働者を対象業務に就かせる

これらの流れについて、以下で説明します。

①労使委員会を設置

高度プロフェッショナル制度を導入するときには、まず、対象となる事業場に「労使委員会」を設置します。そして、この労使委員会で必要事項について議論し、委員の5分の4以上の賛成を得て、高度プロフェッショナル制度の導入について決議する必要があります。

労使委員会とは、労働者を代表する委員と、使用者を代表する委員によって構成される委員会です。このメンバーのうち、全体の半数以上は労働者を代表する委員で構成しなければなりません。また、委員は3人以上が必要となります。

②労使委員会で決議

労使委員会の設置後、当該委員会を開催し、決議すべきと定められている以下の10項目について、労使委員の5分の4以上の賛成によって決議します。

【労使委員会で決議すべき項目】

  • ①対象業務
  • ②対象労働者の範囲
  • ③健康管理時間の把握
  • ④休日の確保
  • ⑤選択的措置
  • ⑥健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
  • ⑦同意の撤回に関する手続
  • ⑧苦情処理措置
  • ⑨不利益取扱いの禁止
  • ⑩その他厚生労働省令で定める事項

各項目の詳細に関する説明は、下記の記事に譲ります。

高度プロフェッショナル制度とは

③決議を労働基準監督署長に届出

決議後、使用者は、労使委員会で5分の4以上の賛成を得た決議の内容をまとめ、所轄の労働基準監督署長に届け出ることになります。これを怠った場合、高度プロフェッショナル制度を導入することはできないので注意しましょう。

④対象労働者の同意を書面で得る

決議内容の届出後、使用者は、決議に従い、対象労働者の同意を書面で得る必要があります。なお、同意をしなかった労働者に対して、解雇等の不利益な取扱いをすることは禁止されます。

対象労働者の同意は、次の手順で取得します。

  1. 同意を取得する時期・方法等を決議する
  2. 労働者本人に対して高度プロフェッショナル制度の概要等に関する情報を書面で明示し、その後、同意するかを検討する時間を本人に十分与える
  3. 労働者本人に対して制度適用後の条件等を書面で明示する
  4. ③で提示した書面に労働者の署名を受ける

ここでの同意は、就業規則や労使協定のような抽象的、形式的な同意では足りず、文字どおりの「個別同意」が必要となるため注意しましょう。

⑤対象労働者を対象業務に就かせる

高度プロフェッショナル制度の対象労働者から、制度の適用について同意を得た後は、対象労働者を対象業務に就かせることになります。

当該制度を適用することで、労働者は労働基準法の労働時間に関する規定の適用を受けなくなるので、その補填として、使用者には労働者の健康や福祉等に配慮した措置をとる義務が課せられます。具体的には、法令及び決議に従い、以下のような対応をとることが求められます。

  • ① 対象労働者の健康管理時間の把握
  • ② 対象労働者への休日の付与
  • ③ 対象労働者の選択的措置及び健康・福祉確保措置の実施
  • ④ 対象労働者の苦情処理措置の実施
  • ⑤ 所轄の労働基準監督署長への①②③の状況の定期報告
    (6ヶ月以内ごとに報告します)

決議の有効期間の満了

決議の有効期間が満了することによって、対象労働者への高度プロフェッショナル制度の適用が終了します。

継続して当該制度を適用したい場合には、労使委員会で決議の有効期間を設定する際に、従前の決議内容について再決議を行うことで更新することができる旨もあらかじめ決議しておき、これに基づき再決議することが必要になります。

高度プロフェッショナル制度導入の注意点

ここまで説明してきた高度プロフェッショナル制度を導入するときには、次の点に注意しましょう。

  • 労使委員会で必要事項について決議し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない
  • 適用の同意は必ず書面で得る
  • 適用に同意するかを判断するのに十分な時間的余裕を確保する
  • 制度を導入しようとする事業場ごとに、労使委員会を設置して決議を行う
  • 適用した労働者の職務の内容は、労使間で可能な限り具体的に定める

当該制度を導入する際の注意点について説明していますので、下記の記事も併せてご覧ください。

高度プロフェッショナル制度の導入時の注意点

労使委員会の設置の手順

労使委員会を設置する手順は、次のとおりです。

  1. 設置に当たって必要な事項について、労使間で話し合いの場をもつ
  2. 労使各側を代表する委員を選出する
  3. 運営のルールを定める

使用者が労使委員会に対し開示するべき情報

労使委員会を行うにあたって、使用者は労使委員会に対し、以下の事項を明示すべきであるとされます。

  • ①高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者に適用される、評価制度及び賃金制度、制度適用後に担当することになる業務の具体的な内容
  • ②健康管理時間の状況、休日確保措置及び選択的措置、健康・福祉確保措置、苦情処理措置の実施状況、労使委員会の開催状況
    ※健康管理時間…対象労働者が”事業場内にいた時間“と”事業場外で労働した時間“を合計した時間

なお、苦情処理措置の実施状況開示においては、対象労働者のプライバシー保護に十分に注意を払う必要があります。また、健康管理時間や休日を確保するために講じている策の進捗に関し明示すべき情報は、対象労働者を包括して求めた平均値に加えて、その内訳等、労働者それぞれの状況が明確化される必要があります。

対象労働者から同意を得る場合の手順

高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者から同意を得る場合には、次の手順で手続きを進めます。

  1. 同意を得る時期・方法等を決議する
  2. 労働者本人にあらかじめ書面で明示
  3. 書面に労働者の署名を受ける

これらの手続きについて、以下で解説します。

①同意を得る時期・方法等を決議する

対象労働者に、高度プロフェッショナル制度の適用について同意を求める前に、あらかじめ同意を得る時期や方法等に関して、労使委員会で決議しておきます。

また、1回だけ同意を得れば良いというわけではありません。定期的に同意を取得しなおすことが望ましいとされています。
そのため、次の時期に同意を取得すると良いでしょう。

  • 1年未満の有期契約労働者については「労働契約を更新するとき」
  • 無期契約又は1年以上の有期契約労働者については「1年ごと」

なお、対象労働者の同意は書面で得なければなりませんが、署名した紙面を直接提出してもらう方法だけでなく、電磁的な提出方法による取得も認められます。

②労働者本人にあらかじめ書面で明示

同意を得るにあたっては、あらかじめ労働者本人に、以下のような事項について記載した書面を明示しなければなりません。

  • ①高度プロフェッショナル制度の概要
  • ②労使委員会の決議内容
  • ③同意した場合に適用される賃金制度や成果の評価制度
  • ④同意をしなかった場合の配置や処遇
  • ⑤使用者は、同意しなかった労働者に不利益取扱いをすることが禁止される旨
  • ⑥同意の撤回が可能であること
  • ⑦使用者は、同意を撤回した労働者に不利益取扱いをすることが禁止される旨

③労働者本人に書面で明示

また、下記にまとめたとおり、制度適用後の条件等に関する事項についても、労働者本人に書面で明示する必要があります。

  • ①同意をした場合には、労働基準法第4章の規定が適用されなくなる旨
    ※労働基準法で規定される、労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定の適用対象から除外されます。
  • ②同意の対象となる期間
  • ③同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金の額

④ ②の書面に労働者の署名を受ける

高度プロフェッショナル制度の適用に関して、労働者の同意が得られた場合、③で明示した書面に労働者の署名を受けます。

なお、労働市場の状況や会社の経営状況等は日々変化するため、高度プロフェッショナル制度の評価制度や賃金制度等は、必要に応じて見直しを行い、その都度改めて労働者の同意を得るべきです。

また、高度プロフェッショナル制度を適用する期間を1ヶ月未満とすることは認められませんし、制度適用後の賃金が適用前の賃金より低額になることは許されません。加えて、使用者が一方的に高度プロフェッショナル制度の適用を撤回することもできません。

対象労働者を業務に就かせる場合の注意点

高度プロフェッショナル制度の対象となっている労働者を業務に就かせる場合には、次のような注意点があります。

  • 対象労働者に対する面接指導を実施しなければならない
  • 産業医に対する情報提供を行わなければならない

これらの注意点について、以下で解説します。

対象労働者に対する面接指導の実施

事業者(使用者)は、高度プロフェッショナル制度を適用する労働者に対して、労働安全衛生法に基づき、「医師による面接指導を実施する義務」も負います。この義務を怠った場合には、罰則の対象となり得ます。

もっとも、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超過しない、又は40時間を超えたものの超過した時間が1ヶ月当たり100時間を超えない労働者に対しては、申し出があったときに面接指導を実施するよう努める義務に留まります。

産業医に対する情報提供

労働安全衛生法に基づき、事業者(使用者)が高度プロフェッショナル制度の対象労働者に対して負うもうひとつの義務として、「産業医に対する健康管理等に必要な情報を提供する義務」があります。

当該義務のため、事業者は、産業医に対して、次の情報を提供しなければなりません。

  • ①当該制度の対象労働者に対して面接指導実施後に講じる又は講じようとする措置の内容に関する情報
  • ②1週間当たりの健康管理時間が40時間を超過し、かつ超過した時間が1ヶ月当たり80時間を超えた労働者の氏名と超過した労働時間に関する情報
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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