ストレスチェック制度とは|実施義務や流れについて
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年、仕事に関して強い不安や悩みを感じている労働者が増えており、精神疾患を発病して労災認定される労働者が増加する傾向にあります。
そこで、労働安全衛生法が2015年に改正されて、労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防止するために、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行う制度が導入されました。
2020年には、50人以上の労働者がいる事業場について、80%を上回る事業場でストレスチェックが実施されています。
ここでは、ストレスチェック制度の実施方法や、高ストレスだと判定された労働者への対応等について解説します。
ストレスチェック制度とは
ストレスチェック制度とは、労働者が仕事によりどの程度ストレスを負っているのかを測定し、その結果を見た労働者自身が、日々の仕事の中でストレスを蓄積していることに気づく契機を設けるための制度です。
同時に、その結果を知った事業者が、職場環境を改善して、労働者がメンタルヘルスの不調に陥ることを未然に防止すること(一次予防)についても目的としています。
労働者に対して、ストレスチェックの結果を個別にフィードバックすると、職場の責任者が問題点を認識して改善する機会にすることができます。
ストレスチェックを実施することは労働安全衛生法66条の10に定められており、2015年12月から実施されています。
ストレスチェック制度の実施義務
ストレスチェック制度の実施義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場について課されます。ここでいう「労働者」には、パートタイム労働者や派遣先の派遣労働者も含まれます。
また、基準に届かない事業場については、当分の間、努力義務とされています。
なお、ストレスチェックの対象者となる「常時使用する労働者」とは、次の2つの要件をいずれも満たす者です。
- ①期間の定めのない労働契約により使用される者であること
※期間の定めのある労働契約であって、「契約期間が1年以上である者」「1年以上引き続き使用されている者及び使用される予定である者」を含む。 - ②その者の労働時間数が、通常の労働者の4分の3以上であること
実施者と実施事務従事者について
実施者 | ストレスチェックを企画し、結果の評価をする者 |
---|---|
実施事務従事者 | 実施者の補助を行う者 |
ストレスチェックを実施するのは上記表の者です。
「実施者」は医師や保健師などが担当し、専門的なアドバイス等を行います。
また、「実施事務従事者」は社内のメンタルヘルス担当者などが担当し、データの回収や結果の通知といった作業を行います。
ストレスチェックの実施方法
ストレスチェックは、次のような流れで実施します。
- 制度導入にむけた準備を行う
- 質問票の内容を決める
- ストレスの程度の評価を行い通知する
- 結果を保管する
上記の流れについて、以下で解説します。
制度導入にむけた準備
事業者は、衛生委員会において、主に次に挙げるような事項について準備を行い、ストレスチェックを実施することになります。
- 対象者を選定する
- 実施する時期を決める
- 質問する事項をまとめて質問票を作成する
- 面接指導を申し出る方法を定める
- 面接指導を依頼する医師を決める
- 結果の分析方法を検討する
- 結果を管理する部署や、保管する場所を決める
これらの内容を踏まえたストレスチェックの実施の趣旨・社内規程を労働者に周知します。
事業者は、単にストレスチェック制度の導入を表明するだけでなく、労働者のストレスチェック制度に対する理解を促すことが重要となります。
質問票の内容
まず、事業者が、実施者の提案や助言、衛生委員会の調査審議を経て、ストレスチェックの調査票の内容を決定します。どのような質問をするべきなのかがわからない場合には、国が推奨する57項目の質問票を参考にすると良いでしょう。
国が推奨する質問票を用いなかったとしても、質問項目には以下の3項目を必ず含めておかなければなりません。
- ①仕事のストレス要因(職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目)
- ②心身のストレス反応(心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目)
- ③周囲のサポート(職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目)
次に、ストレスチェック調査票を対象労働者に記入してもらいます。調査票の用紙を配布し記入してもらう方法と、社内のイントラネット等ICTを利用して回答を入力してもらう方法が選択できます。
なお、国が推奨する57項目の質問票は、以下のサイトでご確認ください。
厚生労働省 ストレスチェック制度導入マニュアル(PDF)ストレスの程度の評価と通知
事業者は、実施者の提案や助言、衛生委員会における調査審議などを経て、ストレスチェック結果の評価方法や基準について決定します。そして、実施者が個々人の結果を評価して、遅滞なく労働者本人に通知します。
労働者本人のストレスへの気づきを促すために、事業者がストレスチェックの評価を実施者に行わせるときには、できるだけ理解しやすくしましょう。例えば、点数化した評価結果を数値で示すだけでなく、ストレスの状況を図表などで可視化することが望ましいと考えられます。
そして、ストレスの点数などが高い労働者や、ストレスが高く周囲のサポートが乏しいと考えられる労働者については「高ストレス者」として選定し、対応していくことになります。
結果の保管
事業者は、書面などで労働者の同意を取得したうえで、実施者から提供されたストレスチェックの結果の記録を作成し、5年間保存しなければなりません。また、事業者は、事業場の衛生委員会等において保存方法及び保存場所等を決定します。
保管場所としては、次のような場所が考えられます。
- 事業場内(結果が紙の場合)
- 企業内ネットワークのサーバー内(結果がシステム上のデータの場合)
- 委託先である外部機関の保管場所
ただし、個人のストレスチェック結果は実施者が責任をもって管理し、事業者を含めた第三者に見られないようにする必要があります。
外部機関へストレスチェックを委託する場合
雇っている労働者の人数が多い等の理由により、社内でストレスチェックを実施するのが難しい場合には、外部機関へ委託することができます。
委託先として、主に次のような業者が挙げられます。
- 健康診断機関
- メンタルヘルスサービス機関
これらの業者に委託する場合には、費用だけでなく、プライバシー保護のためのデータ管理が適切か、有資格者と提携しているか等を検討すると良いでしょう。
高ストレス者に対する措置
ストレスチェックの結果として、高ストレス者であると判明した労働者がいた場合には、次のような措置が必要です。
- 面接指導を実施する
- 就業上の措置を行う
- 集団分析によって職場環境を改善する
これらの措置について、以下で解説します。
面接指導の実施
高ストレス者であると診断された労働者は、事業者に申し出ることによって面接指導を受けることができます。
対象者への面接指導は医師が行います。医師は、次の事項を確認します。
- 勤務状況
- 心理的な負担の状況
- その他の心身の状況
これらを確認してストレスへの対処法、セルフケア等の医学上の指導を行います。
就業上の措置
労働安全衛生法66条の10の6項により、事業者は、面接指導を行った医師の意見により必要があると認めるときには、当該労働者の実情を考慮して、以下にあげる適切な措置を講じる必要があります。
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少
- 当該医師の意見を衛生委員会等に報告する 等
また、事業者は、当該労働者の了解が得られるよう努めつつ、不利益な取扱いにつながらないように留意しなければなりません。
就業上の措置の実施にあたっては、特に労働者の勤務する職場の管理監督者の理解を得ることが不可欠となります。事業者は、当該管理監督者に対して、労働者のプライバシーに配慮しつつ、就業上の措置の目的や内容等について理解が得られるように説明する必要があります。
集団分析に基づく職場環境改善の努力義務
事業者がストレスチェックを行った場合には、実施した医師等にストレスチェックの結果を集計・分析させて、必要に応じて、労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければなりません(労働安全衛生規則52条の14)。
ストレスチェックの結果を分析することで、高ストレスの労働者が多い部署が明らかになると考えられます。その部署の業務内容や労働時間等の情報を分析し、その結果(例えば、仕事の量が多すぎる、仕事の難易度が高すぎる、オフィスが暑すぎる、職場の人間関係が悪い等)に応じて、職場環境等を改善していくことが望ましいでしょう。
ストレスチェック制度における罰則
ストレスチェック制度を導入する義務のある事業場において導入しなかった場合には、結果として罰則を受けるおそれがあります。また、会社が、損害賠償責任を負うおそれもあります。
これらのペナルティについて、以下で解説します。
未実施・未報告による罰則
ストレスチェックを実施することは義務付けられている場合でも、事業主がストレスチェックを実施しなかったことそれ自体により罰則が科されるわけではありません。
常時50人以上の労働者を使用する事業者については、1年ごとに1回、検査結果等の報告書を所轄労働基準監督署に提出する必要があります(安衛則52条の21)。そして、この報告をしなかった場合や、虚偽の報告をした場合に、50万円以下の罰金に処せられます(労安衛法120条5号)。
安全配慮義務違反を問われる
事業者が、ストレスチェック体制を設けなかったり、ストレスチェックの結果を十分に活用しなかったりしたことで、労働環境を改善せず、労働者の健康を危険から保護する義務を怠ったと認められる場合には、労働者に対して損害賠償責任を負うおそれがあります。
これは、事業者は、労働者との間で雇用契約を締結している限り、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負担しているからです(労契法5条)。
ストレスチェック実施に当たっての留意点
ストレスチェックを実施するときに気を付けるべき点として、次のようなものが挙げられます。
- 守秘義務が発生する
- プライバシーを保護しなければならない
- 不利益な取扱いをしてはならない
これらの留意点について、以下で解説します。
守秘義務の発生
ストレスチェック及び面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならず(労安衛法104第1項本文条)、これに違反した場合には6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることになります(労安衛法119条各号)。
さらに、医師、保健師及び看護師並びに精神保健福祉士は、業務上知り得た人の秘密をもらしてはならず、漏らした場合には一定の制裁が科されます(刑法134条、保助看法42条の2及び42条の3、PSW法第40条及び44条)。
プライバシーの保護
労働者のプライバシーを保護するために、事業者は、ストレスチェックの結果が外部に漏洩しないように配慮するべきです。
そのために、以下のような対策を行う必要があります。
- ①記入し終えた調査票が周囲の目に触れないよう、封筒に入れてもらう
- ②ICTを利用してストレスチェックを実施するに先立ち、個人情報の保護や改ざんの防止のための仕組み(システムへのログインパスワードの管理やキャビネット等の鍵の管理等)を整えておく
- ③事業者に提供されたストレスチェック結果や面接指導結果等の個人情報を適切に管理し、社内で共有する場合にも必要最小限の範囲にとどめる
なお、事業者は、ストレスチェック制度に関する労働者の秘密を不正に入手してはならず、労働者の個別の同意を得たうえで、ストレスチェックの結果を取得しなければなりません。
不利益取扱いの防止
労働者のストレスチェック受検の有無、事業者へのストレスチェック結果の開示に同意しないこと、医師による面接指導の申出を行わないこと等による不利益な取扱いは禁止されています。
不利益な取扱いとは、具体的に以下のようなことです。
- ①解雇
- ②雇止め
- ③退職勧奨
- ④不当な動機や目的による配置転換
- ⑤職位の変更
- ⑥その他労働契約法等の労働関係法令に違反する措置
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある