暴力団排除を目的とした服務規律の策定
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
暴力団排除に向けた動きは、社会全体で高まっています。会社も例外ではなく、社会的責任や労働者の安全を守るため、暴力団との関わりを断ち切ることが求められます。
また、暴力団との関わりが明るみに出ると、社会的信用の失墜など経営にも大きなダメージを与えかねないため注意が必要です。
そこで、社内における暴力団排除の規定は服務規律として定めておきましょう。具体的な規定や罰則を設けることで、労働者の意識や注意力が高まり、健全な会社経営を続けるために有効といえます。
本記事では、暴力団排除に向けて会社が知っておくべきポイントを詳しく解説していきます。リスクの発生を未然に防ぐため、しっかり確認しておきましょう。
目次
暴力団排除に関する服務規律
服務規律で“暴力団排除”に関する規定を設けることは、会社の健全な姿勢を示すために有効な手段です。
社会的信用を確保できるはもちろんのこと、外部取引や雇用契約でのトラブル防止にもなります。
また、規定では、暴力団の関わりが判明した際の処分についても明確に定めておくことが重要です。
では、服務規律の内容や懲戒処分の方法について、次項から詳しくみていきましょう。
なお、暴力団排除を掲げることは社内の秩序維持にもつながります。秩序維持の重要性については以下のページで解説しますので、併せてご覧ください。
服務規律の内容
服務規律の規定は、就業規則の中で設けることになります。
暴力団排除に関する服務規律では、まず「反社会勢力との一切の関わりを禁止する」旨を明示します。その他、以下のような規定も具体的に定めましょう。
- 暴力団等の活動に荷担する、又はそれらの活動を助長する行為(資金提供や便宜供与等)を行わないこと
- 自己又は第三者の不正の利益を図る、又は第三者に損害を与えるなど、暴力団等を不正に利用する行為を行わないこと
- 自己又は第三者を利用し、自身や自身の関係者が暴力団員である旨を伝えないこと
- 暴力団等との関わりを将来にわたって持たないこと
- 上記への違反が判明した場合、懲戒解雇又はその他懲戒処分を科すものとする
会社が暴力団排除に取り組む必要性
暴力団との関わりを絶つことは、経営上のトラブルを防ぐだけでなく、会社が労働者に対して負う「安全配慮義務」を果たすためにも重要です。安全配慮義務とは、労働者が安全かつ健康に働ける環境を整備するよう配慮する義務のことをいい、暴力団排除もこれに含まれると考えられています(労働契約法5条)。
したがって、会社は対内的な規定を設けるだけでなく、対外的にも暴力団排除の意志を見せることが望ましいといえます。例えば、以下のような点を経営方針として掲げると良いでしょう。
- 警察等の外部機関と連携して暴力団排除に努めること
- 暴力団等からの不当な要求には決して屈しないこと
- 暴力団等との金銭授受や取引を一切行わないこと
また、外部と取引をする際は、当事者が暴力団関係者ではない旨の誓約書を取り交わすか、契約書の中で暴力団等排除条項を規定しておくと安心です。
会社の安全配慮義務については、以下のページでも詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
暴力団に関与することのリスク
暴力団との関与が疑われた場合、会社の社会的信用は大きく損なわれます。また、たとえ相手が暴力団関係者だと知らなくても、ずさんな管理体制が問われ、会社の信用低下を招くでしょう。
社会的信用の低下に伴うリスクには、以下のようなものがあります。
- 新規の取引を断られる
- 既存の取引が中断される
- 労働者の離職率が高くなる
- 応募者が減り、新規採用が困難になる
- 暴力団の資本が入り、上場審査を通過できなくなる
- 条例違反として罰則が科される
反社会的勢力の定義
暴力団は、「反社会的勢力」のひとつにあたります。
反社会的勢力とは、暴力・威力・詐欺的手法を駆使し、経済的利益を追及する集団又は個人のことをいいます。また、暴力的な要求や法的責任を超える不当な要求行為も、反社会的勢力の要件とされています。反社会勢力に含まれるのは、以下のようなものです。
- 暴力団
集団的に又は常習的に、暴力的不法行為を助長するおそれがある団体 - 暴力団準構成員
暴力団の威力を背景に、暴力行為を行うおそれがある者 - 暴力団関係企業
暴力団が運営する企業や、暴力団が資金を提供する企業 - 総会屋
株主の権利を濫用し、コンサルタント料や賛助金の名目で会社から不正に利益供与を受ける者 - 社会運動等標ぼうゴロ
人権問題や環境問題に対する社会運動・街宣活動等の政治活動を装い、又は標ぼうして、会社に不当に利益を要求する者 - 特殊知能暴力集団等
暴力団との関係を背景に、暴力団の威力や資金的なつながりを用いて不正行為を行う集団
よって、会社は暴力団だけでなく、反社会的勢力全体を排除することが求められます。
反社会的勢力を規制する法律等
反社会的勢力の規制に向け、以下のような法律等が制定されています。
暴力団対策法
暴力団が不当な要求行為を行うことを禁止する法律です。不当な要求行為とは、口止め料の要求や宅地売買の要求、許認可の要求等が含まれています。違反した場合、中止命令等の行政処分や罰則が科せられる可能性があります。
ただし、取締対象は「公安委員会が指定した指定暴力団又は指定暴力団員」に限られます。
都道府県における暴力団排除条例
暴力団そのものを取り締まるのではなく、市民や企業が一丸となり暴力団を排除するための条例です。取締対象や規制内容は自治体によって様々ですが、例えば会社の場合、契約時に相手が暴力団でないことを確認すること・暴力団の利用禁止・利益供与の禁止等が定められています。
企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
あらゆる会社を対象に、反社会的勢力による被害を防ぐための基本理念や具体的な対策を定めた指針です。なお、法的拘束力はないため、違反によって罰則が科されるものではありません。
反社会的勢力との関与を理由とした内定取消
内定後に反社会的勢力との関わりが判明した場合、一定の要件を満たせば内定取消しが可能です。
まず、採用時の誓約書に、「反社会的勢力との関与はなく、誓約内容に違反した場合は内定取消しの措置を受け入れる」という旨が記載されている場合です。この場合、誓約違反を理由に内定を取り消すことができます。
また、履歴書に反社会的勢力の組織名や会社名が記載されていなかった場合、経歴詐称に基づく内定取消しも考えられます。
反社会的勢力と関わりがあった労働者の処分
入社後に反社会的勢力との関わりが判明した場合、必ず懲戒処分できるとは限りません。
というのも、労働者保護の観点から、懲戒処分は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえる場合のみ認められるためです。
よって、懲戒処分の可否については、反社会的勢力とのつながりの程度・当該労働者の悪質性等を踏まえて個別的に判断されます。
懲戒処分の要件や注意点については、以下のページで詳しく解説しています。併せてご覧ください。
反社会的勢力関係者であった場合
労働者が反社会的勢力関係者だと判明した場合、“服務規律違反”で懲戒処分できる可能性もあります。
以下2つのケースに分けてご説明します。
入社前から反社会的勢力関係者だった場合
就業規則において、
・本規則に違反した場合、懲戒解雇やその他懲戒処分の対象になること
が規定されている場合、服務規律違反に基づく懲戒処分が可能です。
入社後に反社会的勢力関係者になった場合
就業規則に上記のような規定があれば、服務規律違反に基づく懲戒処分が可能です。
また、入社時の誓約書に「将来にわたって反社会的勢力との関わりを持たない」という旨が記載されている場合も、服務規律違反として懲戒処分の対象になりえます。
反社会的勢力との接触があった場合
反社会的勢力関係者ではなくても、会食や接待、ゴルフで暴力団等と接触する労働者もいます。会社としては、コンプライアンスや社会的責任の観点から、小さな接触も見過ごすべきではありません。
しかし、反社会的勢力との関わりが軽微な場合、たとえ懲戒事由で定めていても、具体的に行った懲戒解雇処分が重すぎるとして無効になる可能性があります。
その場合、配置転換や退職勧奨などを行うか、譴責や戒告など軽い処分を行い、反社会的勢力との関わりを断ち切らせるのが賢明でしょう。
処分の詳細はそれぞれ以下のページで解説しますので、併せてご確認ください。
労働者の調査について
会社の利益を守るには、反社会的勢力との関わりを絶ち続けることが重要です。そこで会社は、労働者と反社会的勢力の関わりがないか調査することが認められています。
ただし、むやみに労働者の個人情報や行動を調べることは、プライバシー権侵害にあたるおそれがあるため注意が必要です。
まずは疑わしい人物についてネットや新聞で調べ、資料を集めましょう。その後、調査会社や探偵に依頼して詳しく調査したり、警察に相談したりして、確実な情報を得るのが望ましいといえます。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある