財形貯蓄制度とは|導入手順やメリット・デメリット
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
財形貯蓄制度は、労働者の資産づくりを支援するための福利厚生です。会社側が計画的な貯蓄やマイホームの取得などをサポートすることにより、労働者が安心して働くことができるという効果が期待できます。
また、会社側としても費用負担が少ないうえ、採用力の向上にも役立つため、労使ともにメリットが大きい制度といえるでしょう。
この記事では、財形貯蓄制度の概要、メリット・デメリット、導入手順、注意点などについて説明していきます。財形貯蓄の導入を検討されている方は、ぜひご一読ください。
目次
財形貯蓄制度とは
財形貯蓄制度とは、労働者の毎月の給与や賞与から一定額を天引きし、会社から金融機関に送金して積み立てを行う貯蓄制度です。会社から自動的に払い込まれるため、労働者は確実に貯蓄することができ、結婚、住宅購入、老後などライフイベントごとに必要となる資金作りをサポートしてもらうことが可能です。
また、住宅購入や老後の年金を目的とした財形貯蓄の場合は、利息が非課税となる税制上の優遇措置を受けられるというメリットがあります。
この制度は、「労働者財産形成促進法」に基づき制定された、会社と国が労働者の資産づくりを支援するためのものであり、福利厚生の一環として、会社が任意に導入できます。
財形貯蓄制度の目的
財形貯蓄制度は、勤労者財産形成促進法に基づき、勤労者の計画的な財産形成を促進し、生活の安定や国民経済の健全な発展に寄与するために制定されました。
具体的には、労働者の貯蓄や持ち家取得の促進、老後の生活の安定を図ることを目的としています。給与からの天引きにより貯蓄されるため、労働者は手間をかけることなく安定的、計画的に貯蓄を行えるというメリットがあります。
財形貯蓄制度の対象
財形貯蓄制度の対象となる労働者や貯蓄商品について、以下でご説明します。
対象となる労働者
財形貯蓄制度は、制度を導入する会社で働く労働者であるならば、職種や雇用形態を問わず利用することが可能です。アルバイトやパートタイマー、派遣社員なども利用できます。
ただし、自営業やフリーランス、労働者にあたらない法人の役員は、「制度を導入する会社で働く労働者」にあたらないため、財形貯蓄制度を利用できないのが基本です。(取締役兼工場長など、労働者にあたる法人の役員は利用可能です。)
また、財形貯蓄制度の加入は労働者の任意であり、強制加入させることはできません。事業主による強制貯蓄は、労基法により禁止されているからです(労基法18条1項)。
対象となる貯蓄商品
財形貯蓄制度では、銀行・保険会社・証券会社といった金融機関の貯蓄商品を選び、お金を積み立てていくことになります。貯蓄商品には、以下のようなものがあります。
- 定額貯金や定期預金
- 貯蓄型の生命保険や損害保険
- 投資信託(金銭信託・貸付信託・公社債投資信託・株式投資信託など)
- 有価証券(国債・地方債・社債・政府保証債・利付金融債など)
財形貯蓄制度の種類
財形貯蓄制度には、以下の3種類があります。
それぞれの内容を一覧表にまとめましたので、ご確認ください。
一般財形貯蓄 | 財形年金貯蓄 | 財形住宅貯蓄 | |
---|---|---|---|
加入年齢 | すべての労働者 | 満55歳未満の労働者 | 満55歳未満の労働者 |
利用目的 | 自由 | 老後の年金資金 | 新築・住宅購入・リフォーム資金 |
積立期間 | 3年以上 | 5年以上 | 5年以上 |
複数契約 | 1人複数契約が可能 | 1人1契約 | 1人1契約 |
非課税措置 | 優遇措置なし | 財形住宅貯蓄と合わせて元本合計550万円まで利子等非課税(保険型は払込額385万円まで) | 財形年金貯蓄と合わせて元本合計550万円まで利子等非課税(保険型は払込額550万円まで) |
一般財形貯蓄
一般財形貯蓄とは、使用目的が限定されない貯蓄です。車やマイホーム購入・結婚・子育て・旅行等さまざまな用途に利用できるため、自由度が高い制度といえます。
ただし、いくつか利用条件が設けられているため、以下で概要を確認しておきましょう(勤労者財産形成促進法6条1項)。
加入年齢 | 不問 |
---|---|
積立期間 | 3年以上(貯金開始1年間後から引出し可能) |
積立上限額 | なし(ただし、生命保険3000万円・郵便貯金1550万円等、商品によって上限あり) |
利子等の税金 | 全額課税(非課税の税制優遇措置なし) |
複数契約 | 可能 |
なお、振込については、労働者の給与やボーナスから天引きしたうえで、事業主又は事務代行団体によって行われます。また、事業主は、給与天引き以外の業務について第三者に委託することも可能です。
財形年金貯蓄
財形年金貯蓄は、老後の資金づくりを目的とした制度です。在職中に積み立てた資金は、60歳以降から5年以上20年以内にわたり、年金として受け取ることが可能です。
なお、保険商品(預け先が生命保険会社や損害保険会社など)の場合は、終身で受け取りができる場合もあります。
財形年金貯蓄は公的年金に上乗せして支払われるため、豊かな老後を送るのに役立つ制度です。
具体的な内容は、以下のとおりです(勤労者財産形成促進法6条2項、3項)。
加入年齢 | 55歳未満 |
---|---|
積立期間 | 5年以上 |
利息等の税金 | 財形住宅貯蓄と合わせて元本550万円まで利子等非課税(保険型の場合は払込額385万円まで非課税) |
複数契約 | 不可(一般財形貯蓄・財形住宅貯蓄との併用は可能) |
一般財形貯蓄・財形住宅貯蓄への変更 | 不可(別途、新規加入する必要あり) |
財形住宅貯蓄
財形住宅貯蓄とは、住まいの資金作りを目的とした制度です。積立金は、マイホームの建設や購入、リフォーム費用に充てることができます。概要について、以下で確認しましょう(勤労者財産形成促進法6条4項、5項)。
加入年齢 | 55歳未満 |
---|---|
積立期間 | 5年以上 |
利子等の税金 | 財形年金貯金と合わせ、元本550万円まで非課税(保険商品の場合、単体の振込額550万円まで非課税) |
複数契約 | 不可(一般財形貯蓄・財形年金貯蓄との併用は可能) |
利子等の非課税措置について
財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄には、両方の元本合計550万円までの利息等が非課税となる、税制上の優遇措置があります。
銀行で普通に預金すると利息に約20%の税金がかけられるため、よりお得に貯蓄できることになります。また、財形年金貯蓄の年金の支払いが終わるまで非課税措置が続くため、老後の生活の安定にも役立つというメリットがあります。
ただし、財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄については、積立てが2年間中断されると、それ以降に支払われる利息は課税対象となります。また、これらの貯蓄を住宅取得や老後の年金など本来の目的以外で払い出した場合は、基本的に非課税措置が適用されず、過去5年間に遡り、その期間中に支払われた利息すべてに課税されることになるため注意が必要です。
転職・退職時の取扱い
労働者が退職したら、事業主は退職から6ヶ月以内に、財形貯蓄取扱金融機関に「退職等の通知書」を提出する必要があります。
なお、労働者が退職から2年以内に財形貯蓄制度を導入する会社に転職した場合は、転職先の会社で財形貯蓄制度を再開することができ、利息非課税のまま貯蓄を続けることが可能です。この際、転職先を経由し、財形貯蓄取扱金融機関に以下の書類を提出する必要があります。
- 同一の金融機関で継続する場合:勤務先異動申告書
- 他の金融機関で継続する場合:転職等による財形貯蓄継続適用申告書
ただし、転職先の会社に財形貯蓄制度がない場合や2年以内に転職しない場合は、基本的に財形貯蓄は解約となります。
この場合は目的外の引き出しとして、過去5年間に支払われた利息すべてに課税されることになります。このデメリットについては、労働者に事前に伝えておく必要があるでしょう。
財形貯蓄制度のメリット・デメリット
メリット
財形貯蓄制度を導入することで、企業には以下のようなメリットがあります。
- 福利厚生の充実
労働者の資産づくりをサポートし、福祉の充実を図ることができます。
また、福利厚生の充実は採用時のアピールポイントとなり、優秀な人材を確保することにもつながります。 - 労働者の定着率向上
財形貯蓄制度を利用することで、労働者は結婚、マイホーム購入、子育てといった人生設計を立てやすくなります。それによって安心感や勤労意欲が生まれ、定着率の向上、離職率の低下へとつながります。 - 利子等の非課税措置
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両方の元本合計550万円までの利息等が非課税となります。銀行で普通に預金するよりも、効率的に貯蓄できます。また、財形年金貯蓄は、年金の支払いが終わるまで非課税措置が続くため、老後の生活の安定にも有用です。
デメリット
一方、財形貯蓄を導入するデメリットとして、以下のようなものが挙げられます。
- 導入時の事務的負担
財形貯蓄制度を導入する際には、預け先金融機関の選定、労使協定の締結、社内規程の作成などを行う必要があるため、業務負担が増大します。 - 利率が極めて低い
定期預金や保険商品など利率が低い商品を利用すると、非課税の恩恵を受けにくい面があります。
例えば、0.002%の定期預金に1年間200万円を預けると、利息が40円、非課税となるのが8円であるため、非課税の効果を実感しにくいといえるでしょう。 - iDeCo等のような拠出金の所得控除制度がない
財形貯蓄には、iDeCoや生命保険料などのような拠出金(掛け金)の所得控除制度が用意されていません。そのため、所得税の軽減というメリットを受けることができません。
これらは労働者側のデメリットですが、導入しても加入希望者が少ない場合は、制度が形骸化し、運用コストだけかかってしまうという企業側のデメリットもあります。
財形貯蓄制度導入の流れ
財形貯蓄制度は、労働者を1人でも雇用していれば導入することができます。導入の具体的な流れは、以下のとおりです。
- 取扱金融機関の決定
- 労使協定の締結
- 社内規定の策定
- 労働者への説明・募集
詳細については、以下で解説します。
①取扱金融機関の決定
福利厚生の一環として、財形貯蓄制度を導入しようと決定したら、まずは、財形貯蓄の取扱金融機関の選定から始めます。労働者のニーズや企業内の事務処理を考慮して選定することが必要です。
また、財形貯蓄制度をスムーズに実施し、運営するために、取扱金融機関と事務分担について取り決めた「覚書」を締結するのが通例となっています。
②労使協定の締結
労働者の給与の一部を天引きする場合、労使協定の締結が必要です(労基法24条1項)。
具体的には、給与の天引きについて、労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がなければ労働者の過半数を代表する者)と書面を取り交わす必要があります。
③社内規程の策定
労働者と合意したら、財形貯蓄の運営方法について社内規定(就業規則)を作成します。規定では、財形貯蓄の種類、取扱金融機関、加入対象者、積立の方法、積立金の払い戻し時期などについて定め、労働者にも本規定を周知しておくようにしましょう。
④労働者への説明・募集
財形貯蓄に関する従業員説明会を行い、契約希望者を募集します。説明する際には、正社員だけでなくアルバイトやパート、派遣社員も対象にすることが望ましいでしょう。
また、労働者へのPR方法として、社内報やパンフレット・チラシなどの配布が挙げられます。
契約希望者には申込書を提出してもらい、取扱金融機関に提出し、契約を行います。
財形持家転貸融資制度の適用
財形持家転貸融資制度とは、財形貯蓄を行う労働者が利用できる住宅ローンです。融資額は財形貯蓄の残高に応じて決められ、勤労者退職金共済機構が事業主を通じて、長期・低利で、労働者にマイホーム取得資金の融資を行います。
労働者の住宅取得支援だけでなく、会社も大きな負担を負わずに社内融資の充実を図れるというメリットがあります。ただし、制度の導入には以下の条件があります。
- 一般財形貯蓄、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄のいずれかを導入していること
- 労働者に融資資金を転貸する際に、利子補給金の支給など「負担軽減措置」を実施していること
- 社内融資規程として、財形持家転貸融資規程を作成していること
また、事業主は融資資金を転貸するにあたり、融資条件、退職時の対応、債務保証等について取り決めておく必要があります。
育児休業等取得者の特例制度
財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄は、積立が2年以上中断されると非課税措置を受けられなくなります。
しかし、育児休業等を取得する労働者については、企業を通じて事前に金融機関に「育児休業等の貯蓄継続適用申告書」を提出すれば、職場復帰後も非課税で貯蓄を継続することが可能となっています。
ただし、申告書を提出したにもかかわらず休業中も積み立てが行われた場合や、職場復帰後に積み立てが再開されなかった場合は、非課税措置が適用されないためご注意ください。
これらの制度内容については、労働者が不利益を受けないよう、事前に案内しておく必要があるでしょう。
育児休業の概要等は、以下のページで詳しく解説しています。併せてご確認ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある