会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません 会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

ベースアップ(ベア)とは?考え方・定期昇給との違い・注意点など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

ベースアップによって賃金が上がることは、労働者にとって魅力的であるだけでなく、会社にとっても優秀な人材の獲得など様々な効果が期待できます。

ただし、ベースアップは人件費の上昇につながります。経営が悪化しても賃金の引き下げは難しいため、ベースアップをするかどうかについては、慎重に判断する必要があるでしょう。

このページでは、ベースアップの意味やメリット、ベースアップを行うときの注意点などをわかりやすく解説します。

ベースアップとは

ベースアップ(ベア)とは、労働者の基本給の水準を“一律で”上げることです。労働者の年齢や役職、勤続年数などに影響されないことが特徴です。
例えば、「2%のベースアップ」であれば、全員の基本給が2%上がることになります。

ベースアップの金額は、以下の式で算出できます。

昇給額 = 基本給 × 昇給率

わかりやすくするために例を挙げると、基本給が30万円、昇給率が2%のケースでは【昇給額=30万円×0.02=6000円】ですので、ベースアップ後の基本給は30万6000円となります。

ベースアップは会社の経営状況によるため、業績がアップしたタイミングで実施されることが多いです。
また、具体的な割増率については、労働組合等と交渉したうえで決定する必要があります。

基本給を含む「賃金の構成」については、以下のページをご覧ください。

賃金を構成する要素

「定期昇給」との違い

定期昇給とは、会社が決めた特定の時期に賃金額を上げる制度です。年1回(4月)又は年2回(4月・10月)に実施されるケースが多くなっています。

定期昇給は、個人の社歴や能力、成果に基づいて昇給額を決定します。そのため、昇給額には個人差があり、勤続年数が長くなるほど昇給率も上がっていく傾向があります。

一方で、ベースアップは一律で社員全員の賃金を上げるため、新入社員であっても賃金が上昇します。

また、定期昇給は「昇給する可能性がある」という制度なので、会社の業績や経営状況次第で昇給させない選択を取ることも可能です。

定期昇給について、さらに詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。

定期昇給制度|ベースアップとの違いや廃止による不利益変更など

ベースアップの考え方

ベースアップの考え方や役割として、主に次のものが挙げられます。

  • インフレに対応するための名目賃金調整
  • 企業の生産力が向上したことについて利益を還元するための調整

ベースアップを行うと一律で給与が上がるため、上司と部下の差はなくなりません。そのため、年功序列型の賃金制度の一環だと言えます。

そもそも「ベースアップ」という言葉は和製英語であり、欧米諸国には存在せず、日本独自の賃金制度によるものです。
しかし、近年は年功序列型の賃金制度を見直す動きが広がっており、能力主義を導入する会社が日本でも増えてきております。

今後は、ベースアップだけでなく、定期昇給制度や終身雇用制度といった日本独自のモデルを転換する動きがさらに広がる可能性があります。

ベースアップ実施によるメリット

ベースアップのメリットは、以下のような点です。

  • 労働者のモチベーションが上がる
    賃金アップの機会があれば、労働者の意欲や生産性も向上するでしょう。また、会社の業績がベースアップに反映されるので、「今後も会社に貢献しよう」という気持ちが高まります。
  • 人材の確保につながる
    求人サイトなどに「ベースアップあり」と記載すれば、会社の大きなアピールポイントになるでしょう。応募者が増え、優秀な人材を獲得できる可能性が高くなります。

一方、一律に賃金水準を上げることで、人件費が増えるというデメリットもあります。昇給率を決める際は、慎重に判断するようにしましょう。

ベースアップの平均額・平均引き上げ率

年度 集計企業数 ベースアップ
金額 引き上げ率
2018年 218 1,399円 0.46
2019年 221 1,153円 0.37
2020年 212 511円 0.17
2021年 220 366円 0.12
出典:2021年1~6月実施分「昇給・ベースアップ実施状況調査結果」の概要(一般社団法人日本経済団体連合会)

一般社団法人日本経済団体連合会が発表している“2021年1~6月実施分「昇給・ベースアップ実施状況調査結果」の概要”によれば、2019年までのベースアップの金額は1000円を超えていましたが、2020年以降は数百円程度に低下しています。

2020年以降のベースアップが落ち込んでいるのは、消費税の増税や新型コロナウイルスの蔓延による景気の悪化などが影響したと考えられます。

しかし、物価の高騰に対抗するために政府は賃上げに取り組んでおり、2023年以降はベースアップの金額が上昇する可能性があります。

最低賃金法におけるベースアップの必要性

最低賃金の引き上げにより、時給に換算したときの会社の賃金が最低賃金を下回ってしまったときには、会社の賃金を引き上げる必要があります。

最低賃金とは、使用者が労働者に支払わなければならない「最低限の賃金額」を定めた制度です。
最低賃金以上の賃金を支払わない使用者には罰則が科せられるため、最低賃金との差額を支給する等の対応が必要となります。

なお、ベースアップを行わない旨の就業規則の規定があっても違法ではありません。
しかし、最低賃金の見直しに合わせて、会社の賃金も見直すことが必要でしょう。

最低賃金についての詳細は、下記のページをご覧ください。

最低賃金制度について

ベースアップを実施する際の注意点

ベースアップを実施する方法や、経営が悪化したときの対応について以下で解説します。

就業規則や労働協約の変更が必要

ベースアップを導入する場合、就業規則や労働協約の変更が必要です。

具体的には、賃金表の改訂を行うことになります。賃金表とは、勤続年数や等級ごとの賃金額を定めた表のことで、「1級〇〇円、勤続5年以上○○円」などと書かれています。
この賃金表に、会社で決定した定率(昇給率)又は定額(昇給額)を反映し、ベースアップ後の基本給を記載しましょう。

また、就業規則や労働協約を変更するには、過半数労働組合又は過半数代表者労働者の同意を得て、所轄の労働基準監督へ届け出る必要があります。加えて、変更後の内容は必ず労働者に周知しましょう。

初任給のベースアップと既存社員への配慮

新卒採用者の初任給を上げることは、優秀な人材を獲得するために効果的です。
また、新卒者の初任給のみベースアップすれば、既存の労働者の賃金は上がらないため、人件費の増加を抑えることができます。

ただし、“新卒者の賃金”が“既存の社員の賃金”を上回らないよう配慮する必要があります。
新卒者の賃金の方が高額になっても違法性はありませんが、既存の社員は不満を抱くでしょう。その影響で離職する社員が増えれば、人手不足に陥るおそれもあります。
そのため、新卒採用者のベースアップを行う場合、社員への説明や代替措置などを行うことが必要です。

ベースダウンには労働者全員の同意が必要

会社の業績が悪化した場合、ベースダウン(賃金の引き下げ)を検討しなければなりません。
しかし、ベースダウンは労働条件の不利益変更にあたるため、基本的に労働者全員から個別に同意を得ることが必要です(労働契約法9条)。

労働条件の不利益変更とは、賃金などの労働条件を労働者にとって不利な内容に変更することです。通常であれば、会社が一方的に行うことはできません。

ただし、「労働者が受ける不利益の程度」や「変更の必要性」などにより、ベースダウンを行うことが合理的である場合、就業規則の変更によってベースダウンできる可能性があります(労働契約法10条)。

賃下げや不利益変更については、以下のページでさらに詳しく解説しています。

賃金引き下げによる労働条件の変更について

ベースアップの要求が行われる「春闘」とは

春闘とは、各企業の労働組合が労働条件の改善(ベースアップなど)を要求し、使用者と交渉・決定することです。毎年春頃に行われることから、春季闘争(略して「春闘」)と呼ばれています。

春闘で要求する内容はベースアップだけではなく、賞与なども含みます。また、金銭にかかわる内容だけでなく、労働環境や働くうえでの条件などが含まれることもあります。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-336-709

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます