試用期間とは|メリットや注意点、期間の延長、解雇について解説
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
新しい人材を採用するときには、従業員としての適性があるかを見極めるために、多くの会社が試用期間を設けています。会社は、この試用期間中に、労働者の能力やスキル、勤務態度等を確認し、本採用をしても良いかを判断します。
本記事では、試用期間に焦点をあて、
・使用期間の延長や解雇、本採用拒否が可能であるか、それらを行うときの注意点
・試用期間中の従業員から退職の申し出があった場合の対応
などについて解説します。
目次
試用期間とは
試用期間とは、採用した労働者を本採用する前に、あらかじめその者が自社の業務を行えるだけの能力・適性を備えているかを確認するための期間です。
試用期間の目的は、採用活動の期間だけでは見極めることが難しい、自社の社員としての適性を確かめることにあります。
企業は、労働者を採用するときに、履歴書や面接等により労働者の能力等を確認します。しかし、労働者の適性等は、履歴書や面接等だけでは見抜けないことが多いため、試用期間中に検討して本採用するかを判断します。
なお、試用期間を設けるためには、就業規則や雇用契約書に、試用期間を設けることを明記する必要があります。
試用期間の長さ
試用期間は3ヶ月~6ヶ月程度とするのが一般的であり、この範囲内にしておくことが望ましいでしょう。
試用期間の長さについて、法律上に特段の定めはありませんので、会社が就業規則によって独自に定めることができます。
しかし、試用期間が短すぎると、勤務態度等を見極めるための期間が足りず、試用期間が終わってから問題が発覚するおそれがあります。
また、試用期間は労働者にとっては不安定な雇用状況であることから、あまり長くすると求職者から敬遠されてしまうでしょう。
さらに、1年を超えるような期間を設けると「公の秩序又は善良の風俗に反する」として無効とされるおそれがあります(民法90条)。
試用期間中の労働契約
試用期間中の労働者であっても、労働契約を締結して雇用することになります。ただし、この労働契約については通常の労働契約ではなく、「解約権留保付労働契約」を労働者と締結していると考えられています。
●解約権留保付労働契約とは
簡単にいうと、通常より広く解約権の行使の自由が認められる労働契約のことです。この契約の特徴や、一般的な労働契約との違いとして、以下のようなものが挙げられます。
- 雇用契約は成立しているものの、会社側は雇用契約の解約権を留保している状態となる
- 自由に解約できるわけではないものの、通常の労働契約より広く解約権の行使の自由が認められる
試用期間の適用対象者
試用期間は、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトといった非正規社員にも適用できます。
ただし、派遣社員について派遣先の企業が試用期間を設けることは、実質的には派遣先が採用をしているものとして、いわゆる労働者派遣法に抵触するおそれがあります。
また、有期雇用契約の労働者については、試用期間を設けてもあまり有効とはいえません。
なぜなら、有期雇用契約では「やむを得ない事由」がない限り労働者を解雇できないからです(労働契約法17条)。よって、たとえ試用期間を設けても、「やむを得ない事由」がなければ本採用拒否できないと考えられます。
有期雇用契約の労働者の適性等を確認したいのであれば、試用期間を設けず、最初の契約期間を3ヶ月~6ヶ月程度にしましょう。
試用期間と研修期間の違い
試用期間と似た期間として「研修期間」、「仮採用」、「見習期間」、「トライアル雇用」、「インターン」があります。
それぞれの違いついて、下の表にまとめたのでご覧ください。
試用期間 | 会社が労働者を本採用するかどうか検討する期間 |
---|---|
研修期間 | 採用するか否かに関係なく、業務を行うために必要なスキルや知識を身に付けるための教育期間 |
仮採用 | 試用期間と同じような意味又は内定や内々定を受けている等の意味で用いられる |
見習期間 | 研修期間とほぼ同じような意味で用いられる |
トライアル雇用 | ハローワーク等が紹介した求職者の適性や能力を見極めるための期間であり、基本的には3ヶ月間を試用期間として定めて雇用すること |
インターン | 学生等が社会経験や業界研究の目的で行う就業体験 |
試用期間を設けるメリット
試用期間を設けることについて、会社側のメリットとして次のようなものが挙げられます。
- ミスマッチの回避
- 適材適所による早期離職の防止
一方で、採用される労働者にとっては不利であるように思われますが、次のようなメリットが挙げられます。
- 採用されやすくなる
- 社風が合わなかったとき等に退職を決断しやすくなる
試用期間中の労働条件に関する注意点
試用期間中の待遇や労働条件に関しては、基本的に本採用後と同じ権利を有するとされています。しかし、使用者と労働者との間で、給与や賞与等について本採用後とは異なる条件で合意すれば、そちらを適用することができます。
試用期間中の労働条件として、正社員とは異なる条件を定める場合には、求人票や労働条件通知書に、その旨を明確に記載しておかなければなりません。
採用された労働者が、正社員と同様の条件で入社したのであれば、たとえ試用期間中であったとしても、基本的に労働条件を引き下げることはできないので注意しましょう。
給与
試用期間中であっても、労働者へ給与の支払い義務があります。そのため、無給とすれば違法となります。
試用期間中の労働者について、本採用後より低い給与にすること自体は違法ではありません。ただし、「最低賃金」を下回らないように注意しましょう。
最低賃金制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
社会保険
試用期間中であっても、雇用されている労働者として労務提供するため、使用者には社会保険に加入させる義務が生じます。
もしも労働者を社会保険に加入させていなければ、使用者には懲役刑又は罰金刑が課される可能性があります。
【健康保険・厚生年金保険】
健康保険・厚生年金保険は、試用期間中だから加入しなくてよいというものではなく、加入要件を満たしている労働者を加入させる義務があります。
【雇用保険】
雇用保険は、1週間の労働時間が20時間以上で、かつ31日以上雇用の見込みがあれば加入させる必要があります。
【労災保険】
労災保険は、労働時間や労働日数にかかわらず全員加入させなければならないため、試用期間中の労働者も加入させる必要があります。
賞与
試用期間中の労働者については、賞与の支払い義務はありません。
そもそも、賞与の支給は法律上の義務ではありません。そのため、労働契約や就業規則に支給する旨を定めていなければ、支給しなくても違法ではありません。
賞与を支給している会社において、試用期間中の労働者に賞与を支給しない場合には、試用期間について賞与を支給しないことを労働契約又は就業規則に定めておきましょう。
賞与について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
有給休暇
試用期間中であっても、有給休暇が付与されることがあります。
有給休暇は、雇い入れてから6ヶ月間が経過した労働者が8割以上出勤していた場合に付与されます。ここでいう雇い入れとは、試用期間を開始した時点を指しています。そのため、試用期間を含めて、雇い入れから6ヶ月が経過した労働者には年次有給休暇が付与されます。
なお、年次有給休暇に関することの全般について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
試用期間の延長
就業規則の中に、試用期間を延長できる旨の規定をあらかじめ設けていれば、延長することが可能です。
ただし、試用期間を延長するためには、延長を必要とする客観的かつ合理的な理由が必要です。
具体的には、以下のようなケースでは延長が認められやすいと考えられます。
- 無断欠勤などを繰り返している場合
- 面接等において労働者が申告した能力が欠けている場合
- 協調性に欠けており、他の労働者と対立を繰り返す場合
- 経歴を詐称していた場合
また、試用期間の延長について、就業規則上の規定がない場合には、労働者との間で合意があることも必要となります。
試用期間中の解雇・本採用拒否
試用期間中の解雇は、通常の解雇に比べて広範囲で認められています。ただし、試用期間中の労働者であっても、正当な理由がなければ解雇は認められません。
そのため、「なんとなく雰囲気が合わないから」等の漠然とした理由では解雇をすることはできません。特に、試用期間の途中の時期については指導によって改善できる可能性があるため、解雇の有効性は厳しく判断されます。
試用期間終了後に本採用拒否など解雇する場合であっても、漠然とした理由では認められません。しかし、試用期間中に十分な指導を行っており、それでも改善が見られなかったような場合には、試用期間の途中よりも有効になる可能性が高まります。
会社都合か自己都合にするか等、本採用拒否については以下の記事でも解説しているので、併せてご覧ください。
試用期間中の解雇(解約権の行使)が認められる要件は、試用期間の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり、それが社会通念上相当と認められることです(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月1日、労働契約法16条)。
これらの要件を満たす具体例として、以下のようなものが挙げられます。
- 重大な経歴詐称を行っていた
- 正当な理由なく遅刻・欠勤を繰り返す
- 勤務態度が極めて悪く、何度も指導・教育したにもかかわらず改善されない
- 社員の立場を利用した犯罪(業務上横領等)を行った
- 私生活において、極めて重大な犯罪を行った
ただし、必ず解雇が認められるわけではないので注意しましょう。また、試用期間中の労働者を、能力不足を理由として解雇するのは極めて難しいでしょう。
解雇予告・解雇予告手当の必要性
使用者が労働者を解雇する際には、原則として30日前に解雇予告をするか、予告できなければ、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当について、使用者が労働者に対して支払わなければなりません(労基法20条)。
しかし、試用期間中の労働者についてはこの規定が適用されず、解雇するタイミングによって解雇予告手当の要否が異なります。
【試用開始から14日以内に解雇する場合】
解雇予告や解雇予告手当は不要となります(労基法21条本文、同条4号)。もっとも、たとえ試用期間中といえども、14日の期間で解雇相当となるのは、よほど重大な事情があるケース等に限られるでしょう。
【試用開始から14日を過ぎて解雇する場合】
解雇予告や解雇予告手当が必要です(労基法21条ただし書き、同条4号)。そのため、試用期間の残存期間が30日を切ってから本採用拒否を通知する場合は、通常の解雇と同じく、解雇予告手当の支払いが必要です。
なお、退職や解雇・解雇予告について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
試用期間中に退職の申し出があった場合の対応
試用期間中の労働者から「今すぐ退職したい」といった申し出があっても、即日の退職を認める必要はありません。
法律上、退職は2週間前の申し出が必要とされているため、それまでに退職の意思を伝えなければなりません。試用期間中とはいえ雇用契約を締結しているため、この規定は適用されます。
ただし、それより長い期間を就業規則などで定めていても、法律上は無効なので注意しましょう。
なお、試用期間中に労働者側から退職を申し出た場合には、労働者の自己都合退職となります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある