労働者とは|労働者を守るため法律について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
現在は、労働基準法、労働契約法、労働組合法等の、「労働者」を保護するための法令が多く存在し、労働者は保護されています。
もっとも、これらの保護は、基本的には、「労働者」の定義に当てはまる者にしか適用されません。その意味で、各法令で定める「労働者」の定義を知らなければ、労働法が適用されるか否かの判断ができないともいえます。
そこで、本記事では、「労働者」とは誰のことか、「労働者」に該当することの意味、「労働者」にかかわる法律等について、簡単に解説します。
目次
労働者の定義
どのような者を「労働者」とするかは、各法令のそれぞれにおいて、適用(保護)する対象を示すために定められています。
労働法とは、労働者と使用者の関係性を定めた法律の総称であり、労働基準法、労働契約法、労働組合法などの法律を表します。
労働基準法などにおける労働者の定義は、下の表のとおりです。
労働基準法 | 事業に使用される者で、賃金を支払われる者(労働基準法9条) |
---|---|
労働契約法 | 使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者(労働契約法2条1項) |
労働組合法 | 賃金や給料、その他これに準ずる収入によって生活する者(労働組合法3条) |
これらのうち、労働基準法と労働契約法における定義はほとんど同じです。しかし、労働組合法においては、労働基準法などよりも広い範囲の者を労働者としています。
労働契約については、以下のページにて解説していますのでご参照ください。
労働組合法における労働者の定義については、以下のページで詳しく解説していますのでご覧ください。
労働者性の判断基準
労働基準法上の労働者性を判断する基準は、まずは次の2つです。
- ①使用者の指揮監督の下で働いているか
- ②労働による対価を得ているか
もっとも、その具体的判断基準、判断を補強する要素として、例えば、仕事の機材を誰が提供したか、専属で働いていたか等を考慮します。
労働者性の判断基準について、判断を補強する要素を含めて、以下のページで解説しておりますのでご覧ください。
労働者を守る法律
労働者を保護するために、労働に関する多数の法律が存在します。それらを総称して「労働法」といいます。
労働法は、雇用されている労働者であれば、正社員だけでなく、派遣社員や契約社員、パート・アルバイト等の非正規雇用の労働者にも基本的に適用されます。
労働法の中でも、根幹ともいえる「労働三法(労働基準法・労働組合法・労働関係調整法)」や、その他の主な法律について以下で解説します。
「労働三法」
労働三法とは「労働基準法」、「労働組合法」、「労働関係調整法」を合わせた総称のことをいいます。これらは、労働者の権利を守るためにつくられた法律になります。
それぞれの役割について、次項よりみていきましょう。
「労働基準法」
労働基準法は、労働時間や休日、賃金等、使用者が守ることを義務づけられた労働条件の最低基準が定められています。
例えば、次のような事項が挙げられます。
- 男女同一賃金
- 労働時間は週40時間・1日8時間以内
- 1週につき1日又は4週につき4日の休日を与える
- 割増賃金の支払い
- 有給休暇を与える
「労働組合法」
労働組合法は、労働者の「団結権」を保護するために制定されたものです。団結権は、労働者が労働組合を結成する権利のことを指し、労働者が組合をつくり、使用者と対等な立場で労働条件に関する交渉ができるようにすることを目的として作られた法律です。
なお、労働組合法では、以下のような行為は、「不当労働行為」に当たるとして禁止しています(労組法7条)。
- 労働者が労働組合に入らないことを雇用の条件にする
- 労働組合の組合員であること等を理由に解雇や不利益な取扱いをする
不当労働行為とは、労働者の団結権などの権利を阻害する行為のことです。
不当労働行為についての詳細は、以下のページをご覧ください。
「労働関係調整法」
労働関係調整法とは、労働者によってストライキ等が行われた、あるいは行われる場合に、その解決を図るべく労働委員会が行う調整手続について定め、使用者と労働組合との関係を調整するために制定された法律です。
労働委員会は、国と各都道府県に設置されており、使用者と労働組合の紛争を解決するための組織です。当事者の話し合いだけでは解決できない場合に、あっせん、仲裁等を行います。
その他の法律
労働者を保護するための法律は、労働三法以外にも多数存在します。
労働者を雇用する際に特に知っておくべき主な法律として、次のものが挙げられます。
- ①労働契約法
- ②最低賃金法
- ③男女雇用機会均等法
- ④育児介護休業法
- ⑤労働安全衛生法
- ⑥労働者災害補償保険法
- ⑦労働者派遣法
これらの法律について、以下で解説します。
労働契約法
労働契約法とは、労働者と使用者の合意によって労働契約の締結や変更を行うことにより、労使の良好な関係を構築するための法律です。主に、次のことが定められています。
- 労働者にとって不利な就業規則の変更に対する規制
使用者には、就業規則を労働者に不利に変更するときは、原則とて労働者と合意をすることが求められます。 - 懲戒処分や解雇の規制
客観的合理性を欠き、社会的に相当と認められない懲戒処分や解雇は認められません。そのため、事実関係に基づいた公平な処分等が求められます。 - 有期雇用契約を締結した労働者の保護
契約期間が通算で5年を超えた労働者は、無期雇用契約への転換を申し込むことができます。
最低賃金法
最低賃金法とは、労働者の生活を保障し安定させるために、最低賃金を定めるための法律です。最低賃金は、主に都道府県ごとに金額が時給として定められています。
使用者は、雇用している労働者に対して、最低賃金以上の賃金を支払うことが義務づけられています。
単純に時給が最低賃金を下回っている場合だけでなく、月給制の企業で基本給が低い場合には、時給に換算すると最低賃金を下回っており、違法な状態であるケースがあります。最低賃金は、通常であれば毎年のように引き上げられているため、下回らないように注意しましょう。
最低賃金法について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、労働者が性別にかかわらず、雇用の分野において均等な機会を得て、均等な待遇を受けられるようにすること、性別を理由とした差別をなくすことを目的として制定された法律です。
使用者に対しては、性別を理由として次のような場面で差を設けることを禁止しています。
- 募集、採用
- 昇進、降格
- 契約の更新
- 解雇
また、使用者には、セクハラやマタハラといったハラスメントの防止策をとることも義務づけられています。主な対策として、相談窓口の設置やハラスメント防止研修の実施等が挙げられます。
男女雇用機会均等法について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
育児・介護休業法
育児・介護休業法とは、労働者が育児や介護を行いながら仕事を続けられるようにするための法律です。
この法律により、使用者は労働者の申請によって、主に次のことが義務づけられます。
- 原則として1年(待機児童の場合には2年)までの育児休業を与える
- 通算93日、3回までの介護休業を与える
- 小学校入学前の子について、年5日(子が2人以上の場合には10日)の看護休暇を与える
- 年5日(対象となる家族が2人以上の場合には10日)の介護休暇を与える
- 時短労働を認める
- 残業や深夜労働を免除する
育児・介護休業法について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
労働安全衛生法
労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康を守り、職場環境を快適にすることを目的とした法律です。
労働災害などを防止するために、使用者には次のことが義務づけられています。
- 労働時間を把握すること
- 労働者に対して安全衛生教育を行うこと
- 従業員が50人以上の事業場では、安全管理者や衛生管理者を選任すること
- 従業員が50人以上の事業場では、ストレスチェックを行うこと
労働安全衛生法について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
労働者災害補償保険法
労働者災害補償保険法とは、勤務中や通勤中に負傷するなどした労働者に対して保険給付を行うための法律です。
この法律は、公務員などを除く大半の使用者に適用されます。また、雇用されている労働者には、非正規労働者も含めて全員に適用されます。
使用者は、雇用している労働者の全員分の保険料をすべて支払うことが義務づけられます。
労働者派遣法
労働者派遣法とは、労働者派遣事業を適切に行わせることや、派遣労働者を保護することを目的とする法律です。
労働者を派遣された使用者には、次のことが義務づけられています。
- 自社から離職後1年を経過していない元従業員を派遣労働者として受け入れないこと
- 派遣契約を解除するときには、新たな就業機会を確保し、休業手当の費用を負担すること
派遣労働について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
労働者の権利と義務
労働契約を結んだ労働者は、権利を与えられ、義務を負うことになります。
例えば、次のような権利と義務が挙げられます。
【権利】
- 賃金を受け取る権利
- 休憩、休暇を取得する権利
【義務】
- 会社の指揮命令に従う義務
- 誠実に職務に専念する義務
また、労働者は「労働三権」と呼ばれる使用者側に対抗するための権利が与えられています。「労働三権」については、次項より解説します。
労働者の権利と義務について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
「労働三権」
日本国憲法では、労働者が団体となり、会社と対等な立場で交渉ができるよう、「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の労働三権を保障しています(憲法28条)。反対に、使用者の権利としては経営三権が存在します。次項では、労働三権それぞれの権利についての解説をしていきます。
「団結権」
団結権は、労働者が労働組合を結成・加入し、これらを運営することを保障する権利です。
使用者と労働者の雇用関係は、一般的に使用者の方が強い立場になってしまうため、対等な関係で交渉することが困難になります。この権利は、そのような弱い立場の労働者が、使用者側と対等に交渉するために、労働組合という組織で団結する権利といえます。
使用者は、労働者の労働組合等による団体権の侵害をするような行為は、不当労働行為として禁止されています。
「団体交渉権」
団体交渉権は、実際に労働組合が使用者側と賃金や雇用関係等について交渉する権利です。
企業側が正当な理由なく団体交渉を拒むことは違法とされているため、労働組合から団体交渉の申込みを受けた場合、基本的には応じなければなりません。
団体交渉について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
「団体行動権」
団体行動権とは、労働者の団体がその要求を実現するための手段として、団体行動(争議行為)をすることを認める権利のことをいいます。
団体行動とは、ストライキやピケ行為、怠業等の行為のことです。
労働者側のストライキが使用者側だけでは解決できなかった場合には、労働委員会のあっせんによって解決するケースもあります。
団体行動権について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
外国人労働者の問題について
外国人であっても労働者であり、雇用していれば基本的に日本の労働法が適用されます。しかし、外国人の労働条件は自由に定められると誤解していたり、意図的に労働法を無視したりして、外国人に違法な長時間労働や低賃金労働を行わせているケースがあります。
また、外国人に対する差別が横行していたり、セクハラやパワハラが放置されていたりするケースもあるため、労働環境が劣悪になりがちです。
外国人は日本の法律についての知識が不足しがちであるため、事前に十分な説明を、外国人にも職場の人間にも行っておく必要があるでしょう。
他にも、法律上は日本で働けない外国人を不法就労させているケースもあります。このようなケースでは、雇われた外国人だけでなく雇用主も処罰されるため、雇い入れる外国人がどのような資格で在留しているのかを確認するようにしましょう。
外国人雇用の全般について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
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※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある