組織再編・倒産と労働
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
組織再編は、会社の組織や内部構成を抜本的に変える制度です。事業拡大や資本力の強化、会社のスリム化などを目指して実施されるケースが増えています。
また、組織再編には4つの手法があり、自社の目的に応じて適切な方法を選ぶことができます。
ただし、その手続きは容易ではありません。株主を納得させて同意を得たり、労働契約の引継ぎを行ったりと、様々な手順があります。
本記事では、組織再編の手法やそれぞれの特徴、メリット等をわかりやすく解説していきます。「会社の改革を進めたい」、「事業のチャンスを広げたい」等とお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
組織再編について
組織再編とは、会社の事業構成や組織を編成しなおすことをいいます。主に無駄の削減、効率的な経営、競争力の強化などを目的に行われています。
会社法上、組織再編の具体的な手法としては、以下の4つが定められています。
- 会社分割
- 合併
- 株式交換
- 株式移転
これらは、すべて会社法で定められた法律上の行為となります。それぞれメリットや税務上の措置が異なるため、自社の狙いに合ったものを選択する必要があります。
まずは、これら4つの手法の違いについて簡単にみていきましょう。
会社分割
会社分割とは、自社の事業を切り離し、他社に承継させることをいい、具体的には以下の2つに分けられます。
- ①新会社を設立してその新会社に自社の事業を承継させる「新設分割」
- ②自社の事業を既存の会社に承継させる「吸収分割」
また承継の際は、事業にかかわる社員との労働契約関係や負債なども引き継がれます。
会社分割の詳細は、以下のページで解説しています。
合併
合併とは、複数の会社を1つの会社に統合することをいいます。
合併には、一方の会社を既存の会社に取り込む「吸収合併」と、統合した会社で新会社を設立する「新設合併」という2つの方法があります。
資金やノウハウが1つの会社に集約されるので、強固な関係性を築けるという特徴があります。
合併について、詳しくは以下のページで解説しています。
事業譲渡
事業譲渡とは、自社の事業を他社に譲渡(売却)することをいいます。個々の会社による“取引行為”なので、会社法上の組織再編には含まれません。
特徴としては、手続きが簡便なことや小規模事業の移転に向いていること等が挙げられます。
事業譲渡の詳細は以下のページで解説しているので、併せてご覧ください。
株式交換・株式移転
株式交換は、他の会社(子会社)の株主に対して自社(親会社)の株式を交付することで、他の会社を完全子会社化する手法です。
株式移転は、単独又は複数で新たな会社を設立し、それぞれの保有する株式をその親会社にすべて移転し自らその完全子会社となる方法です。持株会社を設立する際によく用いられる手法で、「新会社=完全親会社」となります。
いずれの手続きも、グループ強化や会社間のスムーズな意思決定につながる等のメリットがあります。それぞれの詳細は、以下のページをご覧ください。
組織変更との違い
組織変更とは、会社の“法人格”は残しつつ、会社の形態のみ変えることです。日本の会社形態は、
- 株式会社
- 持分会社(合同会社、合資会社、合名会社)
に分けられており、株式会社から持分会社(又はその反対)に形態を変える行為が組織変更にあたります。
手続きの流れは、まず「組織変更計画」を作成し、総株主や総社員の同意を得ます。また、会社の債権者(社債の保有者)にも異議がないか確認しなければなりません。
これらの手順を経て、組織変更の手続きが完了します。
株式会社から持分会社への移行
株式会社は、“投資家からの出資”や“知名度アップ”などが見込めますが、その分出資者(株主)の意思を尊重しなければなりません。株主と経営者の意見が食い違った場合、その都度調整が必要です。
また、決算公告や税務処理など煩雑な手続きが多いというデメリットもあります。
この点、持分会社は「出資者=経営者」であり、株主はいません。そのため、外部の意見に左右されずスムーズに意思決定できるという特徴があります。
このような背景から、あえて株式会社から持分会社に移行するケースも多くみられます。
持分会社から株式会社への移行
持分会社には、比較的安価・簡便に設立できる一方、事業を拡大しづらいという側面があります。また、出資者は、基本的には事業の失敗による全責任を負わされるため、多数の投資家から出資を募りにくいという特徴があります。
これに対し、株式会社は、「万が一事業が失敗しても、出資者が負う責任は自分が出資した額の限度に限られる」という有限責任の原則から、多数の投資家からの出資を集めやすいという特徴があります。
また、初めから株式会社を“設立”すると多額の費用がかかりますが、持分会社から“移行”すればコストを抑えることができます。
そこで、将来の事業拡大などを見据え、まずは持分会社として事業を開始し、途中で株式会社に移行するケースもみられます。
組織再編と労使関係
組織を変えることは、労働者にも大きな影響を及ぼします。例えば、複数の事業所が統合された場合、余剰人員が発生するおそれがあります。
そこで、組織再編後の人員配置や労働条件については事前に検討することが重要です。
厚生労働省は、事業者に、労働者に配慮しながら組織再編を進めるよう呼びかけています。
労働者への配慮としては、たとえば、労働契約の承継について情報を開示したり、労働者に異議申立ての機会を与えたりして、労働者の保護を図ることが必要です。
組織再編の適切な手順については、以下のような法律で定められています。
組織再編に関する法制度の整備
会社が組織再編を柔軟に行えるよう、法制度も整備されてきました。
まず、平成9年の商法改正において、合併手続きの合理化・簡素化が図られました。
また、新たな制度も次々と導入されています。
例えば、独占禁止法改正による「純粋持株会社」の認定や、平成11年の商法改正における株式交換・株式移転の開始が代表的です。
また、平成18年の会社法改正では、略式組織再編の開始や簡易組織再編の条件緩和が行われています。
さらに、平成11年には産業活力再生特別措置法※が施行され、税制面の優遇措置に関する規定などが定められました。これは、合併手続きのみならず、会社に資産の有効活用も促すことを目的としています。
なお、税制面については、平成13年に組織再編税制が導入され、適格要件を満たす会社は一定の優遇措置が受けられるようになりました。
※平成26年の産業競争力強化法の施行により廃止されています。
組織再編の労使関係への効果・影響の基本構造
事業譲渡合併 | 会社分割 | 合併 | |
---|---|---|---|
影響 | 特定継承 会社間の合意に基づき、特定の事業に関する権利義務を承継(債務については、債権者の同意も必要) |
部分的包括継承 事業に関する権利義務の全部又は一部を、包括的に承継 |
包括継承 権利義務の全部を、存続会社等に包括的に承継 |
労働契約関係の承継に労働者の合意が必要か | 労働者の同意が必要 ※ただし、黙示の合意が認められるケースあり。 |
労働者の同意は不要 ※ただし、以下の労働者には異議申立権あり。
|
労働者の同意は不要 |
組織再編税制
組織再編税制とは、会社が組織再編する際に適用される税務体制のことです。通常、移転する資産は時事評価のうえで課税されますが、これでは多額の税金が生じます。
そこで、一定の要件を満たす場合、資産・負債の移転にかかる譲渡損益を繰り延べできるなどの優遇措置が設けられています。
組織再編の効果
組織再編は、業績向上を目指すのに有効な手段です。無駄の削減、事業拡大など様々な効果があります。
また、組織再編の手法によってメリットも異なります。
【会社分割】
- 採算がとれない事業を他社に譲渡できる
- 分社化により倒産リスク等のリスクの分散ができる
【合併】
- 技術やノウハウを集約できる
- 資金が増加することで、事業展開がしやすくなる
- 各社共通の部署を統一することで、コスト削減になる
【株式交換】
- グループを強化できる
- 株式を移すだけで良いため、早期に効果を享受できる
【株式移転】
- グループ会社間の意思疎通が迅速になる
- 各会社が独立しているため、社風を無理に統一せず経営統合できる
- 株式を移すだけで良いため、早期に効果を享受できる
組織再編類型
組織再編手続きは、以下の3つが挙げられます。
- 適格組織再編
- 略式組織再編
- 簡易組織再編
基本的に株主総会で承認を得なければなりませんが、一定の条件を満たせば承認手続きを省略できる場合があります。
以下でそれぞれ詳しくみていきましょう。
適格組織再編
株主総会の特別決議を得たうえで組織再編を行う、最も一般的な手続きです。
組織再編税制の適格要件を満たすことで、税務上の優遇措置が適用されるメリットがあります。例えば、資産の移転にかかる譲渡損益を繰り延べたり、未処理欠損金額を組織再編後の会社の繰越欠損金として処理したりすることが認められています。
なお、適格要件には以下のようなものがあり、それぞれ条件が定められています。
- 金銭等不交付要件
- 従業者引継要件
- 事業継承要件
- 事業関連性要件
- 事業規模要件または特定役員引継要件
- 株式継続保有要件
これらの要件に満たない場合、優遇措置を受けられずコストが発生します(非適格組織再編)。
略式組織再編
略式組織再編とは、当事者が特別支配関係にあるとき、被支配会社の株主総会の決議を省略できる手続きです。具体的には、支配会社が被支配会社の90%以上の議決権を有している場合に適用されます。
よって、被支配会社は、取締役会(又は取締役)の決定があれば組織再編を行うことが可能です。
支配会社に大半の議決権があれば、被支配会社の株主総会で承認されるのは明らかです。そこで、形式的な手続きを省き、迅速に組織再編を行うために本制度が設けられました。
ただし、略式組織再編ができるのは吸収合併・吸収分割・株式交換のみです。
新会社を設立するケースは対象外となるため、ご注意ください。
簡易組織再編
簡易組織再編とは、小規模な組織再編において、存続会社等の株主総会の決議を省略できる手続きです。
小規模とは、「総資産の20%以下」の範囲で行われるものをいいます。
たとえば、簡易吸収分割の場合では、以下の要件を満たすことが必要です。
- 【分割会社】(資産を譲り渡す側)
承継させる資産の価格が総資産額の20%以下であること - 【承継会社】(資産を譲り受ける側)
組織再編の対価として分割会社の株主に交付する株式その他の財産の合計額が、承継会社の純資産の20%以下であること
ただし、承継債務額が承継資産額を上回る場合(債務超過となる場合)、簡易組織再編を行うことはできません。この場合、株主への分配額に影響を及ぼすため、必ず株主総会での決議を得る必要があります。
その他、譲渡制限がかけられた株式を交付する場合や、株主の3分の1以上に反対された場合も、簡易組織再編の対象外となります。
倒産と労働
会社が倒産しても、賃金を支払う義務がなくなるわけではありません。
そこで、「労働者の権利はどれだけ保証されるのか」、「何を支払えば良いのか」といった点をきちんと把握しておくことが重要です。
詳しくは以下のページで解説していますので、ぜひご覧ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある