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退職金制度とは|種類や導入するメリット・デメリット

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

退職金とは、労働者が退職するときに受け取る金銭のことです。
退職金は法律で決められた義務ではないため、退職金制度を導入するかどうかは、会社が自由に決めることができます。そのため、退職金制度を導入している会社と導入していない会社に分かれるだけでなく、退職金の金額をどのように支給するか、支給するタイミングはいつなのか等も、会社によって異なります。

ここでは、退職金制度の概要、退職金制度を導入する企業側のメリット・デメリット、導入する方法、就業規則の明示事項、助成金等について解説していきます。退職金制度の導入を検討されている方は、ぜひ参考になさって下さい。

退職金制度とは

退職金制度とは、一定の年数以上勤務した労働者に対して、その退職時に会社が退職金を支給する制度です。正式には「退職給付制度」といいます。

退職金制度には、労働者の退職時に一括で退職金を支給する制度や、退職後に年金として支給する制度など様々な種類があります。

退職金の額は会社によって異なりますが、基本給や勤続年数、役職などに基づき計算されるのが通常です。退職金の支給条件も会社ごとに様々で、定年退職した労働者だけでなく、自己都合退職した場合や解雇された場合、労働者が死亡した場合などにおいても支給されることがあります。

退職金制度を導入する義務

法律上、必ず退職金制度を導入する義務はありません。そのため、退職金制度がなくても違法ではなく、会社で退職金制度を設けていなければ、支給する必要はありません。

ただし、就業規則や雇用契約書などに、退職金に関する規程が設けられている場合には、必ず退職者に退職金を支払う義務が生じます。

なお、採用における優位性の獲得や、従業員のモチベーションの向上などを目的として、多くの企業が退職金制度を導入しています。2018年に厚生労働省が行った「退職給付の支給実態の調査」によると、80.5%の会社が退職金制度を導入しており、企業規模が大きくなるほど導入率も高くなるというデータが出ています。

退職金制度の種類

退職金制度には、以下のように大きく分けて4種類あります。

  • 退職一時金制度
  • 確定給付企業年金制度
  • 企業型確定拠出型年金制度
  • 中小企業退職金共済

退職一時金や中小企業退職金共済は、一時金として支払われることが多く、確定給付企業年金や確定拠出年金は、60歳以降数年間にわたって分割で支払われることが多いという違いがあります。

それぞれ支給方法やメリット・デメリットが違うため、自社の現状に合う制度を選択するのが望ましいといえます。
以下で、各詳細について確認していきましょう。

退職一時金制度

退職一時金制度は、退職時に退職金を一括にて支給する制度です。一般的に「退職金」といえば、退職一時金を指していることが多いです。

  • 【メリット】
    • 一度にまとまった金銭を支払うため、労働者から感謝されやすい。
    • いわゆる「退職金」であるため労働者に理解されやすく、安心感を与えられる。
  • 【デメリット】
    • 退職金を支払うための積立をしても減税がない。
    • 退職者が増えると、蓄積していた内部留保が流出し、資金繰りに苦労するおそれがある。

確定給付企業年金制度

確定給付企業年金制度とは、あらかじめ定められた、一定額の給付を保障する企業年金制度です。企業が生命保険会社等と契約して掛金を運用してもらい、あらかじめ決められた金額が退職者に直接支給されます。

  • 【メリット】
    • 掛金を損金として算入できる。
  • 【デメリット】
    • 運用に失敗したときには多額の損失を補填することになる。

企業型確定拠出年金制度

確定拠出年金制度とは、労働者の在職中に、決められた掛金を会社が積み立て、退職後に年金として支給する制度です。

この掛金は、労働者本人が選んだ方法で運用され、最終的な支給金額の増減というリスクも本人が負担します。運用に関しては、外部の金融機関が取り扱うため、退職金も選んだ機関より支給されます。

  • 【メリット】
    • 掛金を損金として算入できる。
    • 損失が発生しても補填する必要がない。
  • 【デメリット】
    • 労働者の年金の支給額が不十分になるリスクがある。

中小企業退職金共済

中小企業退職金共済とは、中小企業に勤める労働者を加入させることができる公的な退職金制度です。

企業が中退共と契約を結び、毎月の掛け金を企業が全額負担して積み立てます。そして、退職した労働者の請求に基づき、共済から退職金が支払われます。掛金月額は従業員ごとに選択することが可能で、加入後に増額・減額変更することも可能です。

なお、従業員を加入させる場合は、試用期間中の者、定年など短期間以内に退職する者、期間を定めて雇用される者などを除いて、全員を加入させることが基本となっています。

また、掛け金は全額非課税であり、自己都合退職であっても、会社都合退職であっても、従業員が受け取る退職金額は変わりません。

  • 【メリット】
    • 掛金を法人が支払っている場合は損金、個人事業主の場合は必要経費として算入できる。
    • 掛金の一部を国から助成してもらえる。
  • 【デメリット】
    • 掛金を減額するのが難しいため、経営が苦しくなったときに負担が重くなるリスクがある。
    • 短期間で退職した労働者には退職金が支給されない。
    • 中小企業に勤める労働者しか加入できない。
    • 経営者や役員等は加入できない。

退職金制度を導入する企業側のメリット・デメリット

退職金制度を導入することで、企業側にどのようなメリット、又はデメリットがあるのでしょうか。
以下で、確認していきましょう。

退職金制度を導入するメリット

退職金制度を導入する企業側のメリットとして、以下が挙げられます。

  • 優秀な人材の確保
    退職金制度があることで、求職者に対し、「労働条件が良く、長く働きやすい職場」であることをアピールできるため、採用において優位性を獲得でき、優秀な人材の確保が期待されます。
  • 労働者の確保
    退職金は基本的により長く勤めた労働者の方が高額になるため、長く働こうという従業員のモチベーションがアップし、労働者の退職防止効果が期待されます。
  • コスト削減
    退職金制度として、企業年金や中退共などを利用する場合、会社負担の掛金は全額損金とされるため、節税効果が生じます。また、退職金には社会保険料がかからないというメリットがあります。
  • 退職後のトラブル防止
    経営状態の悪化等の事情が生じたときに、退職金が労働者の生活を保障するので、退職してもらうときのトラブルを防止する効果が期待できます。
  • 労働者の不正防止
    労働者が、横領等の重大な不正行為をした場合には、退職金を減額・不支給とする規定を設けておくことにより、不正の防止効果が期待できます。

退職金制度を導入するデメリット

一方、退職金制度を導入する企業側のデメリットとして、以下が挙げられます。

  • 資金繰りが悪化するおそれ
    退職金を用意する時、定年退職者については予測がつきますが、中途退職者は予測がつきません。多くの労働者が同時期に退職するような場合は、会社の資金繰りが悪化するおそれがあります。
  • 運用にコストがかかる
    退職金を用意するには、一定の資金が必要となります。企業規模や経営状況に相応しくない退職金制度を導入すると、経営状態が悪化する場合があります。
  • 導入後の廃止は難しい
    退職金制度は、一度導入すると簡単に廃止したり、内容を変更したりすることができなくなります。導入後の廃止には労働者の同意や多くの手続きが必要とされるからです。また、信頼関係が破綻することで、多くの労働者が退職するおそれもあります。

退職金制度の導入方法

退職金制度を導入する場合は、主に以下の手順で行います。

  1. 課題の整理、退職金制度の検討
    現状の課題を洗い出し、なぜ退職金制度を導入するのか目的を明確にします。例えば、採用応募者が少ないような場合は、退職金を導入し自社の魅力を高めることが目的となります。
    次に、どの制度が課題解決に役立つのか、コスト等について検討します。
  2. 労働者との合意
    導入する退職金制度が決まり、退職金の規定案がまとまったら、労働者代表(労働組合)と合意を結びます。特に、退職金を導入して手取り賃金が減るような場合は、労働条件の不利益変更となる場合があるため、労働者への丁寧な説明と意見聴取が必要です。
  3. 説明会の実施
    退職金規定を作成し、従業員に対して説明会を実施します。退職金の適用範囲や支給額、支給時期・方法、実行スケジュールなどを規定に沿って詳細に説明します。
  4. 労働基準監督署への届出
    退職金制度は就業規則の「相対的必要記載事項」に該当するため、常時10人以上の労働者がいる会社が就業規則に退職金の規定を設けた場合は、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

既存の退職金制度を変更する方法

退職金制度(就業規則)を変更することは可能です。ただし、退職金の支給水準を下げる場合は、就業規則の不利益変更にあたります。よって、まずは変更の必要性や不利益の内容等を説明し、不利益緩和措置を講じ、労働者から同意を得ることが必要です。

なお、使用者は労働者の同意なく、就業規則を不利益に変更することはできませんが、①変更後の就業規則を労働者に周知し、②変更が合理的である、という2要件を満たす場合には、例外的に、労働者の合意なしで変更することが可能です。

合理性については、経営状況が悪化しているなど変更に高度の必要性があるか、給与の増額や定年の延長など救済措置が講じられているかといった基準により判断されます。

退職金制度を変更するメリットは、資金繰りの悪化など経営上の問題を解決できる可能性があることです。
ただし、退職金の支給水準が下がる場合は、社員の同意が得られにくく、不信感を招くおそれがあるという注意点があります。

就業規則への明示事項

就業規則に退職金制度を定めるときには、以下の事項を明示しておく必要があります。

  • 退職金支給の対象者
  • 退職金支給日
  • 退職金の支給方法
  • 退職金の不支給・減額

以下で、各詳細について確認していきましょう。

退職金支給の対象者

退職金制度を導入する際は、支給対象者や支給対象外とする者、勤続年数などを明確にし、就業規則に明示することが必要です。支給対象者を正社員だけにするか、契約社員やパート、アルバイト等の非正規社員も含めるかの判断は会社の自由です。

ただし、非正規社員であっても、正社員と同様の仕事を行っていたり、正社員と同等の責任を負っていたりするようなケースがあります。このとき、非正規社員であるという理由だけで退職金を不支給とすると、労働契約法20条(正社員と非正規社員の不合理な待遇差の禁止)に違反する可能性があるため注意が必要です。

また、転職等の理由による中途退職者に対しても退職金を支給するか否か、退職の時期で減給・不支給とするか否かについても、就業規則に明示しておく必要があります。

なお、労働者が死亡した場合の退職金は、就業規則によって受取人の順位を定めていれば、それに従って支給します。規定がない場合は、法定相続人が受け取ることになります。

死亡退職金についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

死亡退職金

退職金支給日

労働基準法は、労働者から退職金の請求があった場合は、7日以内に支払わなければならないと規定しています(同法23条)が、この規定は別に支払い時期を定めた退職金には適用されません。

退職金制度を設けること自体が会社の自由ですので、就業規則で退職金の支給日を定めていれば、その期間内に支給すれば良いとされています。

ただし、支給日について定めがない場合は、退職者から請求があれば、7日以内に支払う必要があります。期限を過ぎると、遅延損害金が発生するため注意が必要です。
また、勤続何年目から退職金を支給するかについても、会社の判断で決めることが可能です。一般的には、勤続3年以上から支給する企業が多い傾向にあります。

退職金の支給方法

退職金は賃金であるため、基本的に直接労働者に支払う必要がありますが、労働者の同意がある場合には、本人が指定する銀行口座に振込により支払うことができます。また、退職金については、銀行が支払保証した小切手、郵便為替などによって支払うことも可能です。

また、退職金を分割支給する場合には、どのように分割して支給するかについて規定しておくことが必要です。

退職金の不支給・減額

退職金を支給するにあたり、不支給や減額をすること自体は、就業規則の理由規定が合理的かつ、社会的にも問題がない限り、有効となります。

例えば、退職者が懲戒解雇された場合や、競合他社へ転職するような場合に、本来支払うべき退職金を不支給・減額することは、有効と認められる可能性が高いといえます。

どのような理由規定が合理的か否かについては、必要性と労働者の受ける不利益を考慮して判断されます。

退職金の減給・不支給についての詳細は、以下の記事をご覧ください。

退職金の減給・不支給

退職金の算定方法

退職金の算定方法は、退職金制度の種類によって異なります。
例えば、会社が独自に支払う退職一時金の算定方法として、以下の4つが挙げられます。

  • ①定額方法
    勤続年数だけで退職金額を決定する方法です。例えば、勤続10年なら120万円、勤続20年なら240万円など、勤続年数に応じた金額をあらかじめ設けておきます。
  • ②基本給連動型
    勤続年数と退職時の基本給、又は勤務していた期間の平均給与をもとに退職金を計算する方法です。基本給に勤続年数に応じた支給係数を乗じて計算します。自己都合退職者については、支給割合を下げる場合もあります。
  • ③ポイント制
    基本給や勤続年数、役職、退職理由などの要素をポイントに換算し、退職時の累計ポイント数に応  じて退職金を支払う方法です。
  • ④別テーブル制
    勤続年数に応じた基準額と役職係数、退職理由などを決めたテーブル表を作成し、それに応じて退職金を計算する方法です。

退職金の算定方法についての詳細は、以下の記事をご覧ください。

退職金の算定方法

退職金請求権の消滅時効期間

退職金の請求権の時効は「5年間」と定められています(労基法115条)。また、退職金以外の賃金等に関する請求権の時効は2年とされています(令和2年4月1日以降は当面3年となっています。)。

したがって、労働者から退職金の請求があった際は、消滅時効期間が過ぎていないか注意が必要となります。

退職金制度の導入で利用できる助成金

退職金制度の導入で利用できる助成金として、以下の2つが挙げられます。

①キャリアアップ助成金

すべての有期労働者(契約社員、アルバイト・パート等)に対して退職金制度を導入し、支給・積立てを行った企業に対し助成金が支給されます。中小企業には40万円、大企業には30万円支給され、賞与も同時に導入すれば、さらに助成金が増額されます。

②中小企業退職金共済制度への助成金

(新規加入助成)
新しく中退共に加入する事業主に、掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5000円)を加入後4ヶ月目から1年間、国が助成します。短時間労働者の特例掛金月額(掛金月額4000円以下)加入者については、さらに助成金が増額されます。

(月額変更助成)
掛金月額が1万8000円以下の従業員の掛金を増額する事業主に、増額分の3分の1を増額月から1年間、国が助成します。ただし、2万円以上の掛金月額からの増額は助成の対象になりません。

助成金の詳細については、それぞれ以下の記事をご覧下さい。

キャリアアップ助成金【厚生労働省】https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

中小企業退職金共済制度への助成金https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/rousei/chutaikyo/chutaikyo_02.htm

退職金制度を廃止する場合の注意点

退職金制度を廃止することも可能です。ただし、退職金の廃止は就業規則の不利益変更にあたるため、前述の「退職金の変更」と同様の手順を踏むことが必要です。

まずは、労働者に廃止の必要性等に関する説明を行い、同意してもらうことが原則となります。また、退職金の不支給は、労働者に大きな不利益を与えることになるため、打切り支給など、廃止による不利益が緩和される措置を講じることも必要です。
仮に同意が得られない場合は、就業規則を変更して、強行的に廃止の手続きを取ることになります。

ただし、①変更後の就業規則を従業員に周知し、②退職金の廃止に合理性がある、という要件を満たさない限り、この方法は認められないため注意が必要です。合理性については、経営的に緊迫していることが客観的に証明でき、不利益緩和措置が講じられているかといった基準により判断されます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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