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就業規則の適用範囲

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

就業規則を作成するにあたり、その適用範囲、つまり作成した就業規則が適用される対象を見定めることが重要です。

例えば、正社員や契約社員、パートの方を雇用しているにもかかわらず、1つの就業規則しか作成していない場合は、雇用形態ごとに労働条件の差異を設けられません。
したがって、就業規則は、雇用形態ごとに作成するべきであるといえます。

こうした事情を踏まえて、本記事では、就業規則の適用範囲や、雇用形態ごとの就業規則の作成方法などについて解説していきます。

就業規則の適用範囲はどこまでか

就業規則の適用範囲とは、就業規則が適用される労働者の範囲(労働者区分)のことです。
労働基準法上、就業規則は、別段の定めがない限り、「労働者」つまり正社員や契約社員、パート・アルバイトなどすべての労働者に対して、適用されると定められています。
そのため、就業規則の適用範囲が不明確である場合は、正社員用に作ったはずの就業規則が、非正規社員を含めすべての労働者に適用される事態になりかねません。

特に、パートで働く方などとは個々に雇用契約を結んでいるから問題ないと考えている雇用主の方は注意が必要です。
なぜなら、就業規則と雇用契約では、基本的に就業規則について優先的な効力があり、就業規則で定められた労働条件が雇用契約よりも高水準のケースでは、就業規則が優先して適用される場合があるからです。

例えば、就業規則にボーナスを支払うという規定があり、規則上正社員とパートを区別していなければ、パートの雇用契約でボーナスは支払わないと定めていても、その定めは無効となり、ボーナスを支払わなければならない可能性があります。

そのため、就業規則を作成する際は、就業規則が適用される労働者の範囲を明記することが重要です。

なお、就業規則の適用範囲を考えるにあたっては、まず労働者の定義を知る必要があります。
以下で見ていきましょう。

労働基準法上の「労働者」の定義

労働基準法9条によると、同法にいう「労働者」とは、下記の記事でも説明しているとおり、「職業の区別なく、事業に使用され、賃金を支払われる者」を指します。

労働者性の判断基準

したがって、正社員も非正規社員も「労働者」であるため、就業規則の適用対象となります。
なお、非正規社員と個別に労働契約を結んでいる場合でも、就業規則で定める労働条件の方が労働者に有利な場合には、就業規則が適用されることになるため、注意が必要です。

適用範囲の記載例と注意点

就業規則を作成する場合は、就業規則が適用される労働者の適用範囲(労働者区分)を明確に記載することが必要です。
また、正社員用、契約社員用、パート用などそれぞれの就業規則を作成する必要も生じます。

詳しくは以下で、記載例を交えて解説していきます。

労働者の区分の明確化

雇用形態にかかわらず就業規則は適用されるので、就業規則の作成にあたっては、規則の適用対象となる労働者の区分を明確にする必要があります。特に、雇用形態に応じて労働条件を区別するのであれば、これを徹底しなければなりません。

例えば、正社員だけに規定を適用したい場合には、次のような規定を設け、当該就業規則の適用範囲を正社員に絞る必要があります。

(労働者の区分および適用範囲)第○条

1 この就業規則は、本規則に定める採用に関する手続きを経て、期間の定めなく正社員の呼称で採用された者(以下、単に「社員」という)に適用するものとする。

2 前項の社員のほか、嘱託、契約社員及びパートタイマー・アルバイト(以下、「パート」という)をおく。

3 嘱託については嘱託就業規則、契約社員については契約社員就業規則、パートについてはパート就業規則を、それぞれ別に定めて適用する。


また、正社員以外には適用したくない規定を定める際に、個別に正社員以外への適用を除外する旨の文章を入れても構いませんが、手間がかかりますし、抜け漏れのリスクもあります。そこで、可能であれば、上記のように適用範囲の規定を設け、雇用形態別の就業規則を別途作成することをお勧めします。

雇用形態別の就業規則の作成

正社員と非正規社員は、一般的に、業績や職務に対する責任の度合い等が異なるだけでなく、雇用契約期間や賞与、退職金の有無、賃金体系の違いといった労働条件の差異が設けられることがほとんどです。しかし、正社員用の就業規則しか作成しておらず、正社員の労働条件しか定めていなかった場合、この労働条件が非正規社員にも適用されることになってしまいます。

したがって、就業規則は雇用形態別に、その責任の度合い等に見合ったものを作成する必要があります。

なお、就業規則の作成における注意点に関しては、下記の記事でご確認ください。

就業規則の作成義務

「業務委託」と「請負契約」の場合

業務委託契約や請負契約で働く人は、「事業に使用される者」ではなく、「事業主」にあたるため、「労働者」には該当しません。したがって、基本的に、就業規則の適用範囲外となります。

ただし、契約の名称が業務委託や請負であっても、注文主と請負主の間に使用従属性が認められる等、契約の実態が「雇用契約」と考えられる場合は、契約の相手方は「事業主」ではなく「労働者」と判断されるため、会社側は労働者を雇用する責任を負います。したがって、このケースでは、就業規則の作成が必要となります。

では、以下で業務委託契約と請負契約の違いについて見ていきましょう。

業務委託契約について

業務委託契約とは、厳密な定義はないものの、一般的に、業務の処理を目的としてなされるもので、適切な処理がなされたことに対して報酬が支払われる契約をいいます。請負契約と類似の契約として捉えられるケースが多くみられます。委任契約や準委任契約を指すこともあります。

雇用契約との違いは、指揮監督関係等、「使用従属性」がないことです。そのため、業務委託契約に基づき働く者は、社員ではなく事業主となるので、労働基準法が適用されることはなく、また、就業規則についても適用対象外となります。

請負契約について

請負契約とは、業務の完成を目的としてなされるもので、成果物に対して報酬が支払われる契約をいいます。例えば、建設業での建物の建築について、子会社に委託する例等が挙げられます。

業務委託契約との最大の違いは、請負契約では、業務の完成を目的としていることです。なお、業務委託契約と同様、雇用契約と異なり、会社との関係で「使用従属性」はありません。また、契約に基づき働く者についても、社員ではなく事業主となるので、労働基準法、ひいては就業規則の適用範囲外となります。

役員への就業規則の適用

会社役員(取締役など)は、基本的に、就業規則の適用範囲外となります。
なぜなら、労働基準法9条にいう「労働者」は、会社や上司の指揮監督の下に業務を行う者をいいますが、「役員」は会社と委任関係にあり、上司の監督の下に業務を行うわけではないため、労働基準法にいう「労働者」に該当しないからです。

ただし、取締役工場長などの「使用人兼務役員」については、勤務実態が労働者と変わらないため、就業規則の適用範囲に含まれる可能性が高いといえます。

「役員」への該当性を判断する基準については、下記の記事をご覧ください。

企業の経営に携わる者の労働者性

役員規程の必要性

役員の選任や退任・解任、勤務条件等、役員自身に関する事項を定めたもの、つまり役員の就業規則に当たるものを「役員規程」といいます。
労働者用の就業規則を作成した場合は、管轄の労働基準監督署長へ届け出る必要がありますが、役員規程については、作成・届出をする必要はありません。

ただし、会社規模が大きかったり、使用人兼務役員や社外取締役がいたりする場合には、無用なトラブルを防止するためにも、役員規程を作成し、役員の責任や任期、報酬等に関するルールを明確に定めておくことをお勧めします。

雇用型の執行役員の場合

「執行役員」とは、会社の業務執行を担当する使用人(労働者)をいいますが、法律上根拠のある制度ではありません。したがって、会社によっても異なりますが、一般的には会社との雇用関係が認められる場合が多く、労働基準法上の「労働者」として扱われるケースがほとんどです。したがって、このような「雇用型の執行役員」は、就業規則の適用範囲に含まれます。

そこで、「雇用型の執行役員」について、他の一般的な「労働者」とは異なる賃金体系にしたい場合等には、“雇用型の執行役員用の就業規則”を作成する必要があります。この就業規則では、一般的な「労働者」と「雇用型の執行役員」とで、どのような点が異なるのかを明確に規定することが重要です。

正社員と契約社員の待遇差について

正社員と契約社員の待遇差がどこまで許されるかについては、以下の①~③の要素を検討し、不合理な待遇差といえるかどうかで判断されます。

① 業務の内容
業務の質か量いずれかが異なっていれば、待遇差に合理性が認められる根拠となり得ます。

② 責任の度合い
「契約社員は一定の役職までしか昇格できず、管理職にもなれない」と定め、正社員よりも責任が軽いことの根拠とするケースがありますが、逆に契約社員には昇進のチャンスを与えない差別待遇であると判断されるリスクがあります。
このような方法ではなく、正社員よりも仕事への責任を軽くするなどして、責任の程度に違いを設け、待遇差に合理性が認められる根拠を増やすべきでしょう。

③ 人事異動の範囲
正社員には転勤や配置転換があるものの、契約社員にはないケースが多くみられます。
例えば、会社によっては、正社員が転勤を拒否すると、出世ルートから外れ、大幅に減給されることがあります。このような事情は、待遇差に合理性を認める根拠となり得ます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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