派遣労働における派遣元・派遣先の責任について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
派遣労働は、労働者と雇用関係を結ぶ雇用主と、指揮命令権を持つ者が異なるという特殊な働き方ゆえ、労働者にまつわる様々な責任を、派遣元会社、派遣先会社のどちらが負うのか知っておかなければなりません。労働者側からすれば派遣元と派遣先のどちらに権利を行使するのかという問題になりますが、使用者側からすれば、なにか問題が起こった際、どちらが責任を負うのかということにもつながります。
このページでは、派遣元会社、派遣先会社、それぞれの責任について詳しく解説していきます。
目次
派遣元・派遣先の責任の所在
派遣という働き方は、雇用主と指揮命令権を持つ者が異なるため、雇用管理責任がいずれにあるか不明確という問題点があります。派遣労働者が雇用契約を結ぶのは派遣元会社でありながら、就労する場であり指揮命令を受けるのは派遣先企業ですので、労働者に対する責任がいずれにあるのか、知識なく判じるのは困難です。例えば、労働基準法、労働安全衛生法など、労働者を保護するための法律に関しては、原則として雇用契約を交わしている派遣元会社が責任を負います。しかし、派遣労働者が就労し指揮命令を受けるのは派遣先会社であるため、派遣先会社が負う責任や、また派遣元・派遣先会社が共に負う責任もあります。
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下、労働者派遣法、労派遣法)」では、労働契約当事者としての雇用責任は派遣元が、労働者が就労するにあたって係る責任は派遣先が負うことになっています。
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各法律における派遣元・派遣先の責任分担について
労働者派遣において、派遣元会社、派遣先会社が負う責任は、それぞれ各法律において分担されています。労働者に対する責任がどのように分担されているか、以下で解説します。
労働基準法
労働基準法に関しては、原則、派遣元の使用者がその責任を負うことになっています。例えば賃金の支払いや、労働条件の明示、派遣料金の明示等です。
一方、派遣先が負う責任には、公民権行使の保障、労働時間制の原則や例外、休憩・休日の規定等があります。
労働基準法における派遣元と派遣先に責任分担については以下のページで詳細に解説していますので、ぜひご参照ください。
労働安全衛生法
労働安全衛生法に関しても、原則的に責任は派遣元会社にあります。例えば、一般的な健康管理等については派遣元が責任を負っています。しかし、派遣労働者の就労の場は派遣先会社であり、そちらでの指揮命令に従うことから、派遣先会社も労働者の安全を確保するための責務や就業に伴う衛生管理の責任を負っています。安全管理体制や労働者の健康障害の防止措置等は、就労場である派遣先会社が責任主体となります。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法に関して、差別を禁止する規定の責任は主に派遣元会社が負います。しかし派遣先会社に責任がないかといえばそうではなく、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、セクシュアル・ハラスメントに関する雇用管理上の措置義務、妊娠中・出産後の健康管理に関する措置義務などは、派遣労働者の就労の場である派遣先会社の事業主にも責任が課されます。その責任の一部のみを派遣先会社が負うというよりは、派遣元・派遣先会社がともに男女差別是正のための責任を負っているととらえるべきでしょう。
育児・介護休業法
育児・介護休業法に関して、2016年の改正により、妊娠、出産、育児・介護休業等の取得を理由としたハラスメントといった就業関係を害する行為に関しては、雇用主である派遣元の事業主に防止措置義務が課されました。また、派遣される労働者の役務を受ける派遣先会社の事業主にも、同じ防止措置義務が課されます。
すなわち、育児・介護休業等を取得したことによる不利益取扱いは、派遣元、派遣先問わず、どちらの事業主にも禁止されます。
派遣元・派遣先の責任者について
派遣元責任者の概要と要件
派遣元会社の事業主は、派遣労働者を管理し、その就労環境等を保護するため、厚生労働省令の定めるところにより基準に適合する者を派遣元責任者として選任しなければなりません(労派遣法36条)。
適合要件としては、次のようなものがあります。
- ・労働者派遣法6条1号~9号に該当しないこと(心身が負傷していないこと、復権していない破産者でないこと、暴力団員でないこと等)
- ・未成年者でないこと
- ・住所不定等、生活の根拠が不安定でないこと
- ・不当に他人の精神、身体および自由を拘束するおそれのないこと
- ・雇用管理を行ううえで健康状態に支障がないこと
- ・有害な業務に就かせるおそれがないこと
- ・一定の雇用管理等の経験があること
- ・派遣元責任者講習を受講して3年以内であること
派遣元責任者の職務
事業主によって選任された派遣元責任者の、主な職務は以下のようなものです。
- ・派遣労働者に対する、必要な助言および指導を行う
- ・派遣労働者から申し出があった苦情の処理に当たる
- ・派遣労働者の個人情報の管理を行う
- ・派遣労働者に対する教育訓練の実施および職業生活の設計に関する相談の機会の確保
- ・派遣労働者の安全と衛生に関して、派遣先会社の安全と衛生を統括管理している者、及び派遣先会社との連絡調整を行う
- ・派遣先会社との連絡調整全般を行う
派遣先責任者の概要と要件
派遣元責任者と同じように、派遣先会社も、厚生労働省の定めるところにより派遣先責任者を選任しなければなりません(労派遣法41条)。資格を要するわけではありませんが、労働関係法令の知識があること、人事・労務に関して知識または経験があること、派遣労働者に関わる事項を変更し、決定する権限を有する者が務めることが望ましいとされています。
派遣先労働者の職務は、以下のようなものがあります。
- ・派遣労働者が申し出た苦情の処理に当たる
- ・派遣労働者の安全と衛生に関して、労働者の安全と衛生に関する業務を統括管理する者及び当該派遣元事業主との連絡調整を行うこと
- ・派遣元事業主との連絡調整全般
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派遣元・派遣先が講ずべき管理項目の概要
労働者派遣法は、2012年の改正で、派遣元の事業主に対して、有期雇用派遣労働者の無期雇用派遣の機会の確保、転換の措置等の雇用安定措置を行う努力義務を規定しましたが、2015年改正ではこれがさらに強化されました。「雇用安定措置」とは、派遣先に対し直接雇用を求めることや、派遣以外の労働者として無期雇用することができるよう、雇用の機会を確保し提供すること等をいいます。
一方派遣先は、労働者派遣契約の遵守の義務や、直接雇用労働者と同水準の教育訓練を実施しなければならない義務を負っています(これは2018年の改正により、配慮義務から措置義務になっています)。
労働契約申込みみなし制度
2012年の労働者派遣法改正(施行2015年10月)で、「労働契約申込みみなし制度」が導入されました。これは、派遣先会社は、違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れた時点で、派遣元会社におけるものと同一の労働条件で派遣労働者に労働契約の申込みをしたものと「みなす」という制度です(労派遣法40条の6)。派遣労働者が受諾する旨の意思表示をすることにより、派遣先会社と派遣労働者のあいだに労働契約が成立します。
なお、労働契約申込みみなし制度の対象となる違法派遣は、
- ①派遣禁止業務への派遣(港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療関連業務(紹介予定派遣や産休・育休取得者の代替要員等を除く))
- ②無許可派遣事業主からの派遣
- ③事業所単位での派遣可能期間を超過した派遣
- ④個人単位での派遣可能期間を超過した派遣
- ⑤偽装請負
以上の5つです。
この制度は、派遣先が「違法派遣と知りながら」という条件つきではありますが、派遣労働者の正規雇用化を促し、派遣労働者の保護等をより厚くする、非常に重要なものといえます。
派遣禁止業務、派遣可能期間に関しては、以下のページで詳細に解説していますのでご参照ください。
制度の効果
「労働契約申込みみなし制度」とは、その名のとおり、違法派遣を受け入れた時点で、派遣先が該当派遣労働者に派遣元と同一の条件で直接雇用を申し込んだとみなす制度です。派遣労働者側が承諾すれば(≒直接雇用の意向があれば)、その派遣先と労働者のあいだで労働契約が成立します。派遣先が違法派遣に関して善意・無過失の場合はこの制度は成立しませんが、厚生労働大臣は、派遣先、または派遣労働者の求めに応じて、違法派遣に該当するかどうか助言をすることができます(労派遣法40条の8第1項)。この助言によって、善意・無過失を主張することが不可能になります。
また、該当派遣労働者がみなし申込みを承諾したにもかかわらず直接雇用の労働契約を結ばないときは、厚生労働大臣は、その派遣先に対して助言、指導、勧告をすることができ、勧告に従わない場合はその旨を公表することができます。
このように、「労働契約申込みみなし制度」は、派遣先の責任をより重くし、派遣労働者の正規雇用を目指した制度といえるでしょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある