【組織再編】株式交換・株式移転とは|2つの違いとメリット・デメリット
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
株式交換と株式移転は、どちらも既存の会社を廃止しない組織再編の手法です。
どちらも親子会社関係を築く制度ですが、手続きには違いがあります。自社の目的に応じて、適切な手法を選ぶべきでしょう。
ここでは、株式交換と株式移転の流れや相違点、メリット・デメリット等について解説します。
目次
株式交換とは
株式交換とは、ある会社の発行済株式をすべて“既存の会社”に取得させ、完全親子会社関係を築く方法です(会社法2条31号)。
仕組みとしては、子会社になる会社の株式を親会社にすべて所有させて、子会社になる会社の株式を所有していた者には親会社の株式を与えるというものです。
株式交換の主な目的は、経営統合や買収によるグループ力強化とされています。
実施するには双方の株主の同意が必要ですが、全員の同意を得る必要はありません。株主総会出席者の3分の2以上の賛成を得る「特別決議」によって承認されます。
さらに、支払う対価が純資産の5分の1以下である等、一定の条件を満たすことで「簡易株式交換」「略式株式交換」という簡略化した手続きを利用できます。
親会社になれるのは株式会社又は合同会社に限定されています。
メリット
株式交換のメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- 買収の対価が基本的に株式であるため、資金を用意する必要がない
- 子会社も親会社の経営に参加できる等、グループ会社を作りやすい
- 買収後も別法人として存続できるため、子会社になる会社の関係者の反発を抑えられる
- 少数株主が保有する株式をなくすことができるため、敵対的な株主を排除できる
- 完全子会社化に株主全員の同意が不要なので、強硬に反対している株主がいても実行可能である
デメリット
株式交換のデメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- 買い手企業が新株を発行して対価にする場合、買い手企業の株価が下落するリスクがある
- 買い手企業の株主に買収先企業の人間が加わるため株主比率が変わる
- 会社法に定められた複雑な手続きを行う必要があるため、手続きの終了までに日数がかかる
- 反対する株主の持ち株が3分の1に達していると特別決議ができないため成立しない
株式移転とは
株式移転とは、自社の発行済株式をすべて“新設会社”に取得させ、完全子会社になる方法です(会社法2条32号)。つまり、「新設会社=親会社」となります。
いわゆるホールディングカンパニー(持株会社)を設立し、子会社がスムーズに意思決定や事業展開できるようにするのが目的です。
なお、持株会社は基本的に事業を行わず、子会社の株を保有・管理するのが一般的です。また、子会社からの配当金によって収益を上げるため、子会社の経営が順調なほど持株会社も安定することになります。
なお、新設会社は、対価として新株を発行するため買収資金が必要ありません。また、株主総会の特別決議で承認を得れば、反対する少数株主も強制的に移動させることができます。
メリット
株式移転のメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- 対価が新設する親会社の株式であるため、資金を用意する必要がない
- 株式移転の後も別法人として存続できるため、それぞれの会社の独立性を保てる
- 新設する親会社以外の株主がいなくなるため、敵対的な株主を排除できる
- 株主全員の同意が不要なので、強硬に反対している株主がいても実行可能である
デメリット
株式移転のデメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- 債権者保護手続きなどが必要であり、数ヶ月を要することもある
- 反対する株主の持ち株が3分の1に達していると特別決議ができないため成立しない
- 反対する株主から買取請求権を行使されると応じなければならない
- 子会社になる各会社の株主が新設する親会社の株主になるため、一部の子会社にとっては思いがけない株主と対立するおそれがある
株式交換と株式移転の違い
株式交換と株式移転は、どちらも既存の株式会社の発行済株式を移転させて、完全親子会社を作るための手続きです。2つの手続きの一番大きな違いは、親会社として新設会社を作るか否かです。
その他にも、株式交換と株式移転には表のような違いがあります。
株式交換 | 株式移転 | |
---|---|---|
親会社 | 既存会社 | 新設会社 |
実行できる会社形態 | 株式会社 合同会社 (完全親会社になる場合のみ) |
株式会社のみ |
主な利用目的 | 他企業買収 (M&A) | グループ再編 |
効力発行日 | 株式交換契約日 | 新設会社の設立登記日 |
株式交換を利用するケース
株式交換は、別会社同士がM&Aを行うときに利用されるケースが多いです。
例えば、以下のような目的で利用されています。
- 完全子会社化により、グループ連携強化を図る
事業基盤を統一することで、生産・流通の効率化や事業拡大につながります。また、グローバル展開を広げる目的で実施されるケースもあります。 - 少数株主を強制的に排除する
株主の中には、経営方針に反対したり、経営権を狙ったりする少数派もいます。株式交換の場合、株主総会の特別決議で承認を得れば良いため、賛同しない少数株主も強制的に移動させることが可能です。 - それぞれの法人格を維持しつつ、グループ拡大を目指す
株式交換後も子会社の法人格が残るため、労働者への影響はほぼありません。社内の抵抗が少ないため、他の手法よりもスムーズに進む可能性があります。
事例の紹介
株式交換によって、独立していた会社が既存の会社の子会社になった事例として、三洋電機株式会社がパナソニック株式会社の子会社になった事例が挙げられます。株式交換に伴って、三洋電機は上場廃止しています。
この事例での交換比率は、次のとおりでした。
パナソニック:三洋電機=1:0.115
株式移転を利用するケース
株式移転は、企業グループ内での再編を行うときに利用されるケースが多いです。
例えば、以下のような目的で利用されています。
- グループ会社を持株会社の傘下に置くケース
グループ再編の一環として、持株会社を設立します。株式移転により以前からの関係を深めて、さらに強固なグループ関係を築くことができます。 - 複数の会社が共同持株会社を設立するケース
まったく別の会社同士が共同持株会社を設立し、共同経営を行う方法です。例えば、同種の会社が経営難を乗り切るために統合するケースや、異業種の会社が相乗効果を狙って経営統合するケース等があります。 - それぞれの法人格を維持しつつ、経営力をアップする
株式移転後も子会社の法人格が残るため、人事制度や給与水準をすぐに統一する必要がありません。そのため、労働者の抵抗も抑えられるでしょう。
事例の紹介
株式移転によって、独立していた会社が新設された会社の子会社になった事例として、株式会社 KADOKAWAと株式会社ドワンゴが株式会社KADOKAWA・DWANGOの子会社になった事例が挙げられます。
この事例での交換比率は、次のとおりでした。
KADOKAWA:KADOKAWA・DWANGO=1.168:1
ドワンゴ:KADOKAWA・DWANGO=1:1
株式交換・株式移転の手続きの流れ
株式交換や株式移転の手続きは、主に次のような流れで行われます。
- 当事者が条件に合意して、取締役が承認して契約し、株主等に周知する
- 必要書類を本店に備え付ける
- 株主総会で特別決議による承認を受ける
- 反対株主からの買取請求に応じる
- 子会社になる会社の株主へ対価を交付する
- 本店に事後開示書類を備え付ける
- 商業登記を変更する
株式移転・株式交換における労務上の取扱い
株式移転や株式交換の場合、法人格はそのまま維持されるため、労働契約は基本的に変わりません。
したがって、労働者はそれまで通りの労働条件で働き続けることができます。
というのも、株式移転や株式交換で影響を受けるのは株主のみだからです。株式移転と株式交換では、労働者への説明義務がなく、労働契約への影響も基本的にありません。そのため、手続きの中で労働者と関わることは少ないといえます。
しかし、組織が変わることによって、労働者は会社の経営状態等に不安を抱くかもしれません。会社は労働者の感情に十分配慮し、必要に応じて説明会を行う等するようにしましょう。
また、株式移転や株式交換の効力発生後は、速やかに本店に開示書類を備置・開示することが義務付けられています。
労働者の契約変更・解雇
経営に行き詰って株式移転や株式交換を行う会社であっても、労働条件の不利益変更は、会社が一方的に行うことはできません。法律で定められた一定の手順を踏むことが義務付けられています。
具体的には、労働者1人1人から個別に同意を得るのが基本です。ただし、対象者が多くて難しい場合、労働組合との協議や就業規則の変更によって対応できる可能性もあります。
労働条件を不利益変更するための手続きや注意点等について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
人員削減のための整理解雇も、組織再編だけを理由に行うことはできません。
通常、整理解雇は人員削減の必要性があること等の「整理解雇の4要件」を満たす場合にのみ認められます。
過去の裁判例でも、解雇の合理性については厳格に判断されています。
合理的な理由なく解雇した場合、解雇権の濫用にあたり、バックペイの支払義務などを負う可能性があります。
「整理解雇の4要件」等、整理解雇の要件について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
役員の扱い
株式交換では、親会社になる会社から、子会社になる会社に役員が派遣されることが多いです。このとき、子会社の役員だった者は、そのまま役員でいるケースが少なくありません。
一方で、株式移転では、子会社になった会社の役員から親会社になった新設会社の役員になる者がいます。親会社に移らなかった子会社の役員は、そのまま役員を続けるケースが多いです。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある