セクハラ発生時の対応マニュアル|再発防止策や注意点などを解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
社内でセクハラが発生した場合の対応方針が明確でない企業は少なくありません。
セクハラは単なる個人間の問題にとどまらず、企業の損害賠償責任やイメージ悪化といった深刻なリスクにつながります。そのため、問題が起きてから場当たり的に対応するのではなく、日頃からしっかりと備えておくことが大切です。
この記事では、セクハラ発生時に企業が取るべき対応のポイントから、再発防止に向けた具体的な対策まで、わかりやすく解説します。
職場におけるセクハラとは
セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、職場における性的な言動によって、相手に不利益や不快感を与える行為のことです。発言だけでなく、身体への接触や性的な画像の掲示なども対象となります。
セクハラは大きく「対価型」と「環境型」に分けられます。対価型とは、性的な言動に対する労働者の拒否・抵抗などを理由に、降格や減給などの不利益を与える行為です。一方、環境型は、性的な言動によって職場の雰囲気を悪化させ、働きにくい環境を生じさせる行為を指します。
行為者に悪意がなくても、相手が不快に感じればセクハラと判断される可能性があるため注意が必要です。セクハラに該当するかどうかは、被害者の受け止め方や言動の内容、職場での関係性や発言時の状況などを踏まえて、総合的に判断されます。

セクハラの対象となる範囲
セクハラは、特定の人や限られた場面で起こるものではありません。対象となるのは、企業で働くすべての人です。正社員だけでなく、契約社員・パート・アルバイト・派遣社員なども含まれ、被害者にも加害者にもなり得ます。
また、発生する場面も上司と部下に限らず、同僚同士のほか、取引先や顧客とのやり取りの中でも起こる可能性があります。さらに、異性間だけでなく、同性間やLGBTに対する言動も対象となるため、幅広いケースに注意が必要です。
また、「どこで起きたか」という点も重要です。セクハラが問題となる「職場」は、単にオフィス内だけを指すものではありません。出張先や取引先、業務中の車内、接待や職務の延長と考えられる懇親会、さらにはオンライン会議やチャットなど、仕事に関係する場面であれば、職場とみなされる可能性があります。
このようにセクハラの対象範囲は非常に広いため、企業はすべての従業員を対象に、適切なセクハラ防止対策を講じることが求められます。
セクハラが企業に与える影響
職場内でセクハラが行われているにもかかわらず、企業が適切な対応を行わないでいると、以下のような企業リスクや責任が発生するおそれがあります。
-
①企業イメージを低下させる。
企業内でセクハラが発生し、裁判等に発展した場合、テレビやネットのニュースで報道されたり、公的機関により企業名を公表されたりして、企業イメージが低下し、自社の売上げが落ち込むおそれがあります。 -
②職場の士気を低下させる。
セクハラが行われると、職場の士気が低下して生産性が落ちたり、被害者や周囲にいる労働者のメンタル不調を招き、休職者や退職者が発生したりする等の影響が生じるおそれがあります。 -
③団体交渉やストライキへと発展するリスクがある。
被害者が労働組合に助けを求めた場合には、団体交渉や争議行為に対応しなければならなくなります。 -
④損害賠償を請求されるリスクがある。
企業内でセクハラが発生すると、被害者から、加害者の使用者としての賠償責任を追及されたり(民法715条)、労働契約上の安全配慮義務違反として、損害賠償を請求されたり(民法415条)するおそれがあります。
企業に課せられた法的義務と関連法令
| 義務・責任 | 根拠法令 | 内容 |
|---|---|---|
| 使用者責任 | 民法第715条1項 | 従業員が業務中にセクハラを行い、被害者に損害が生じた場合、企業も損害賠償責任を負う可能性があります。 |
| 安全配慮義務(債務不履行責任) | 労働契約法第5条、民法第415条1項 | 企業には従業員が安全に働ける環境を整える義務があります。セクハラ対策を怠ると、職場環境配慮義務違反として、損害賠償責任を問われるおそれがあります。 |
| セクハラ防止のための雇用管理上の措置 | 男女雇用機会均等法第11条 | 相談窓口の設置や被害申告時の適切な対応など、セクハラ防止の体制づくりが求められます。怠ると、行政指導や企業名の公表の対象となることがあります。 |
| 不法行為責任 | 民法第709条 | セクハラが組織ぐるみで行われていた場合は、企業自体が加害者として責任を問われる可能性があります。 |
企業には、従業員が安心して働ける環境を整える「安全配慮義務」があり、これは雇用契約に基づく重要な責任です。例えば、セクハラを把握しながら適切な対応を取らず放置した結果、従業員の心身に不調が生じた場合には、企業が損害賠償責任を負う可能性があるため注意が必要です。
また、セクハラが業務に関連して行われたと認められる場合には、企業は「使用者責任」を負い、加害者とともに被害者に対して賠償責任を負うこともあります。使用者責任には、選任や監督において十分注意していた場合の免責規定もありますが、実際に認められるケースは多くありません。
そのため、企業にとっては、そもそもセクハラが発生しないよう、未然に防ぐ体制づくりが重要といえます。
セクハラ発生時の会社の対応
セクハラが発生した場合、会社には迅速かつ適切な対応が求められます。対応を誤ると被害が広がるだけでなく、企業の責任が問われるおそれもあるため、落ち着いて段階的に進めることが大切です。一般的な手順は以下のとおりです。
- 被害者からの相談・事実調査
- 被害者と加害者の隔離
- セクハラの有無の判断
- 加害者の処分
- 被害者への措置
- セクハラの再発防止
①被害者からの相談・事実調査
従業員からセクハラ被害の相談を受けたら、まず丁寧に話を聞き、事実関係を正確に把握することが重要です。企業には、申告された内容について、迅速かつ適切に調査する義務があります。これを怠ると、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるだけでなく、調査の不備を理由に賠償額が増額されるおそれもあります。
また、事実調査が不十分であることを理由に、会社の義務違反が肯定される可能性もあるため、注意が必要です。セクハラが生じた後に加害者である上司らからの報告のみで判断して会社が十分な調査をしなかった場合に、被害者の損害賠償請求が認められた裁判例もあります。
さらに、適切な調査をするには、被害者と加害者だけでなく、目撃者など第三者からのヒアリングも行い、客観的に事実を把握することが必要です。
ハラスメントの調査方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
被害者からの事情聴取
セクハラの被害が申告されたら、迅速に被害者から事情を聞き取ります。
なぜなら、被害者に対して、企業が迅速かつ適切な対応をしていないという印象を与えてしまうと、外部からの介入を招く等、トラブルが拡大することが予想されるからです。
特に重大なセクハラを受けた被害者から聞き取りを行う際には、聞き取りの担当者を同性にする、または同性の労働者を同席させるといった配慮が必要でしょう。
事情の聞き取りを行う際には、次の点に注意しましょう。
-
結果について、詳細かつ正確に記録をとる
(つじつまが合わない内容についても、否定せずにそのまま記録に残す) - 録音する際には、本人の同意を得る
- 聞き取りの記録について、本人に内容を確認したうえ、署名・捺印をもらう
- 被害者と加害者間のやりとりの記録(メールやLINE等)はすべてコピーをとる
加害者からの事情聴取
ヒアリングは、被害者だけでなく、加害者に対しても行わなければなりません。
このとき、被害者から、被害を申告したことを加害者には伝えないでほしいと求められるケースがある点に注意するべきです。そのような場合に、加害者に直接ヒアリングを実施することは、被害者の希望に沿いません。
しかしながら、加害者からのヒアリングを行い、被害が確認できた場合には指導または処分を行わない限り、再発防止が叶いません。そのため、被害者の気持ちには寄り添いつつも、再発防止のためには加害者からも事情を聴き取る必要があることを伝えたうえで、同意を得る努力をするべきでしょう。
なお、加害者がセクハラの事実を認めない場合には、双方の証言の一貫性や、加害者の就業時や飲酒時等の言動を参考にしながら判断することが多いようです。
ハラスメント加害者への調査方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
第三者からの事情聴取・証拠の収集
セクハラの有無を判断するために、必要であれば目撃者など第三者へのヒアリングも行います。これは、当事者以外の証言を参考にすることで、より客観的に事実を確認できるためです。
ただし、ヒアリングの進め方には注意が必要です。不用意に聴取を行うと、失言により目撃者が知らなかったセクハラの内容まで伝えてしまうなど、プライバシーの侵害につながるおそれがあります。調査の範囲や情報の伝え方には、十分配慮しながら進めることが大切です。
さらに、物的証拠の収集も欠かせません。例えば、被害者と加害者のメールやLINEのやり取り、録音や録画データ、防犯カメラの映像などは、セクハラの内容を示す有力な証拠となります。これらを適切に確保することで、より正確な事実認定につなげることができます。
②被害者と加害者の隔離
セクハラが発生した場合には、被害者と加害者を隔離することが必要です。両者が同じ環境にいる状態を放置すると、被害者の精神的負担が大きくなり、被害がさらに深刻化するおそれがあります。
実際に、性暴力など重大なセクハラが申告されたにもかかわらず、十分な隔離措置が取られなかったことが、企業に不利に判断された裁判例もあります。そのため、会社がセクハラの事実を認識した場合には、被害者が加害者と接触せずに済む環境を、速やかに整えることが大切です。
具体的には、座席の変更や部署異動、上司・部下関係の見直し(指揮命令系統の変更)、別の事業所や店舗への配置転換などを行い、接触しないよう工夫します。
また、事実関係の調査が終わるまでの間は、加害者の出勤を免除し自宅待機とするほか、必要に応じて被害者についても同様の配慮を検討することが考えられます。
③セクハラの有無の判断
セクハラの有無を判断するときは、収集した情報を総合的に見て判断することが重要です。
メールやLINEなどの客観的な記録、関係者へのヒアリング内容、被害者・加害者への再聴取結果など、複数の証拠や証言を踏まえて検討する必要があります。特に、被害者と加害者の供述内容が、証拠と照らして不自然ではないかを確認することが大切です。
また、調査担当者は、自分の主観や思い込みに左右されないよう注意し、常に中立的な立場で事実関係を見極めなければなりません。
ハラスメントの判定方法について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
④加害者の処分
事実関係の調査の結果、セクハラの事実が認められたら、加害者の処分を検討することになります。
たとえ加害者が企業にとって重要な立場であったり、勤務成績が優秀であったりしても、処分しないまま放置することは適切とはいえません。
ただし、処分の内容はセクハラの程度に応じたものとする必要があります。例えば、比較的軽いケースであれば、戒告やけん責など軽い懲戒処分で対応するのが一般的です。いきなり懲戒解雇など重い処分を行うと、厳しすぎるとして無効と判断されるおそれがあるため注意が必要です。
どのような処分が適切かについては、過去の裁判例などを踏まえて、慎重に決める必要があります。処分の重さについて判断に迷ったら、弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒処分についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
⑤被害者への措置
調査結果や加害者への対応については、被害者が理解し納得できるよう、丁寧に説明することが大切です。
また、被害者は強い精神的負担を抱えていることが多いため、その心身の状態に配慮したフォローを行うことも欠かせません。例えば、産業医やカウンセラーの利用を案内したり、業務量を一時的に調整したりするなど、状況に応じた柔軟な対応が求められます。
また、有給休暇の取得を勧めたり、必要に応じて休職を提案したりして、十分に休養できる環境を整えることも大切です。対応が一段落した後も、職場環境に問題がないかを継続的に確認し、二次被害の防止に努めましょう。
⓺セクハラの再発防止
セクハラが発生した場合は、問題を解決して終わりにするのではなく、再発を防ぐための対策を検討することが重要です。なぜ問題が起きたのかを振り返り、自社の体制や職場環境にどのような課題があったのかを見極めたうえで、具体的な対策を考える必要があります。
また、対策は決めただけで終わらせず、社内への周知や研修などを通じて、継続的に取り組むことが大切です。その場限りの対応にとどまると、同じような問題が再び起こるおそれがあります。
さらに、実施した対策が十分に機能しているかを定期的に確認し、必要に応じて見直すことも欠かせません。こうした取り組みにより、セクハラの再発を防ぎ、安心して働ける職場づくりにつなげることができます。
会社が行うべきセクハラの再発防止策
厚生労働省の指針では、職場内でセクハラが発生しないよう、また発生した場合に適切な対応がとれるよう、会社が必ず実施するべきセクハラ対策を、以下のように定めています。
- 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 就業規則の整備と見直し
- プライバシー保護に配慮した相談窓口の設置
- セクハラ防止研修の実施
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
事業主は、「セクハラは決して許されない」という方針を明確に示し、管理職を含むすべての従業員にしっかりと周知・啓発することが重要です。社内報やパンフレット、社内ホームページなどを活用し、繰り返し情報発信を行うことが効果的です。
経営トップ自らが積極的にメッセージを発信することで、職場全体のハラスメント防止意識を高めることができます。
就業規則の整備と見直し
セクハラの再発を防ぐためには、就業規則の整備が欠かせません。
「セクハラを禁止すること」「セクハラに当たる言動」「違反した場合の懲戒処分」などを明記し、従業員がいつでも確認できる状態にしておくことが大切です。こうした規定がなければ、調査によってセクハラが認定されたとしても、厳重注意にとどまり、適切な懲戒処分を行えないおそれがあります。
また、就業規則は一度作成して終わりではなく、社会の変化や法改正に合わせて定期的に見直すことも必要です。時代に合わせて内容をアップデートすることで、実効性のあるセクハラ対策を維持することができます。
就業規則の作成方法や、懲戒処分について詳しく知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
プライバシー保護に配慮した相談窓口の設置
企業は、セクハラなどのハラスメントに備え、あらかじめ相談窓口を設置しておく必要があります。
あわせて、担当者が相談を受けたときに適切に対応できるよう、対応の流れやマニュアルを整備しておくことも大切です。また、窓口は設置するだけでは不十分であり、その存在や利用方法を社内にしっかり周知することも欠かせません。
さらに、相談対応にあたっては、被害者のプライバシーを保護することが強く求められます。被害者のプライバシーを侵害するような強引な聞き取りをすれば、被害者にさらなる負担を与え、二次被害につながるおそれがあります。
損害賠償責任を問われるリスクもあるため、担当者には、適切な対応方法や守秘義務について十分な教育を行うことが必要です。
セクハラ防止研修の実施
セクハラを防ぐためには、一般社員と管理職を対象とした研修の実施が欠かせません。一般社員には、日々の業務の中で注意すべき言動を再確認させる必要があります。一方で、管理職には、セクハラを発生させない職場環境の整備や、発生時の適切な対応を中心に、理解を深めてもらうことが重要です。
研修では、具体的な事例を取り上げるのが効果的です。例えば、「冗談のつもりの発言が相手には不快に受け取られてしまうケース」や「飲み会での何気ない一言が問題となるケース」などを紹介することで、自分の行動を振り返りながら理解を深めることができます。
また、研修は定期的に行うことが大切です。繰り返し学ぶことで知識が定着し、セクハラを防ぐ意識を根付かせることができます。
セクハラ対応で企業が避けるべきこと・注意点
セクハラを軽視・被害者を非難する
セクハラの相談を受けたときは、問題を軽く扱ったり、被害者を責め立てたりしてはいけません。
「この程度はよくあること」「あなたにも原因があるのでは」といった発言は、被害者の心を深く傷つけ、セカンドハラスメントにつながるおそれがあります。
また、そのような対応がなされると、「相談しても意味がない」「自分が責められるかもしれない」と感じ、被害者が声を上げられなくなってしまいます。その結果、加害者の行為が見過ごされ、問題がより深刻化するリスクもあります。
相談を受ける側は、被害者の話を否定したり遮ったりせず、丁寧に耳を傾けることが大切です。
事実調査を怠る・公正性を欠いた対応をとる
企業には従業員が安心して働ける環境を整える義務があり、セクハラの相談を受けたら、必ず調査を行う必要があります。
たとえ被害者が「大ごとにしたくない」と望んでいても、調査を行わないまま放置すれば、安全配慮義務違反と判断されるおそれがあります。そのため、当事者への丁寧なヒアリングや証拠の確認を行い、慎重に事実関係を把握することが必要です。
また、加害者が上司や経営層であることを理由に処分を軽くするなど、不公平な対応も避けなければなりません。こうした対応は、被害者に不信感を与えるだけでなく、職場の秩序を乱すおそれがあります。
問題を放置・口止めする
セクハラへの対応で、問題が表に出ると困るからと放置したり、被害者に口外しないよう求めたりするのは、企業として避けるべきです。
こうした対応は被害をさらに広げるだけでなく、被害者に深刻な影響を与え、休職や退職を余儀なくさせるおそれがあります。さらに、企業が問題を隠しているという不信感を招き、従業員の信頼低下にもつながりかねません。
企業に求められるのは、問題を小さくしたり隠したりすることではなく、セクハラの訴えに真摯に向き合い、迅速かつ適切に対応することです。その積み重ねが、被害の拡大防止と企業の信頼維持につながります。
被害者に不利益な取り扱いをする
セクハラを相談したことによる不利益な取り扱いは禁止されています。不利益な取り扱いとは、解雇や降格、減給といった処分を行うことや、無視する、嫌がらせをする、査定を下げると脅す等の言動が当てはまります。
たとえ相談したのが非正規雇用の従業員であったとしても、セクハラの相談には真摯に対応する必要があります。
法律で禁止されている不利益取扱いについて詳しく知りたい方は、以下のページをご一読ください。
セクハラ対応を怠った場合の罰則
職場でのセクハラ防止措置を講じる義務に違反した企業は、厚生労働大臣に報告を求められ、助言、指導もしくは勧告をされる対象となり得ます(均等法29条)。また、この是正勧告に従わない場合には、企業名を公表されるおそれがあります(均等法30条)。
企業名公表は、近年、インターネットによって求人企業を検索することが一般的になっていることからすれば、企業の求人活動にも悪影響を及ぼすことは明らかであるため、公表措置にならないようにしっかりと対応しておくべきでしょう。
セクハラに関する裁判例
労働者が受けたセクハラ被害に関して、企業の責任を認めた裁判例を2つほどご紹介します。
【平成25年(ワ)17419号 東京地方裁判所 平成28年12月21日判決 東京セクハラ(情報処理会社)事件】
【事案の概要】
被告会社の従業員であった原告は、被告会社の取締役である被告Y1から、性的関心を持つような発言を受けたり、髪をなでられたり、業務用のLINEに「愛してる」などのメッセージを送られたりするなど継続的なセクハラ行為を受けました。原告は被告会社にこれらの被害を訴えましたが、適切な対応がとられなかったため、被告Y1と被告会社を相手取り、損害賠償を請求した事案です。
【裁判所の判断】
裁判所は、まず、被告Y1のセクハラ行為は原告の人格権を侵害したものであるため、被告Y1は不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負うと判断しました。
次に、被告会社については、社内教育を新入社員には実施していた一方で、被告Y1のような中途採用者には行っておらず、体制として不十分な点が認められたことから、被告会社は、セクハラが発生しないよう職場環境を整備する義務に違反したと判断し、民法415条による債務不履行責任を認め、損害賠償金の支払いを命じました。
【ポイント・解説】
セクハラ対策は、規程があるだけでは十分といえず、実際に機能しているかどうかが重要であることを示した裁判例です。企業には、相談窓口の存在を従業員にしっかりと周知することに加え、定期的な研修の実施や、正社員だけでなく中途採用者を含む全従業員への教育を徹底することが求められます。また、セクハラが発生した際に、迅速に対応できる体制を整えておくことも不可欠です。
【平成15年(ワ)55号 青森地方裁判所 平成16年12月24日判決 青森セクハラ(バス運送業)事件】
【事案の概要】
被告S交通の従業員であった原告は、上司である被告乙からセクハラ行為を受けていました。具体的には、会議室に呼び出されてキスをされたり、出張中に宿泊した旅館で抱擁されたりしたほか、帰宅後にスナックへ呼び出され、宿泊施設に連れ込まれそうになるといった行為がありました。
こうしたセクハラを、8年間にわたり継続的に受けていたにもかかわらず、被告S交通は適切な対応をとりませんでした。その結果、原告は退職を余儀なくされました。
そのため、原告は、被告及び被告S交通に対して、損害賠償を請求した事案です。
【裁判所の判断】
被告乙による出張中のセクハラ行為は、社外で行われたものであるものの、出張自体が仕事の一環であるため、会社と密接な関係にあると判断しました。また、本件の社外でのセクハラ行為は、被告乙がS交通において優越的な立場にあり、原告が部下として職場環境の悪化を避けたい立場にあったことを踏まえ、職場内での行為と同じ性質を持つものと評価しました。その結果、裁判所は、被告S交通について、被告乙の使用者として、民法715条に基づく使用者責任を負うと判断しました。
また、被告S交通は原告からセクハラ被害の申告を受けながら、何ら抑止策や防止策を講じず、被告乙の行為を放置していたため、職場調整義務違反による債務不履行責任も負う(民法415条)とし、損害賠償金の支払いを命じました。
【ポイント・解説】
この裁判例から分かるのは、「社外で起きたことだから会社は関係ない」とは言えないという点です。出張や飲み会であっても、業務と関わりがあれば、企業の責任は及びます。
企業には、こうした場面も含め、業務に関連するあらゆる機会でセクハラを防ぐ姿勢が求められます。そのためには、日頃から研修やルールの周知を徹底し、「どの場面でも適切な行動が求められる」という認識を社員にしっかり根づかせることが重要です。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
