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フレックスタイム制の導入手順や注意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者の事情に応じた多様な働き方の実現を期待できるのが「フレックスタイム制」です。

しかし、令和3年就労条件総合調査によると、変形労働時間制を採用している企業割合は約60%で、その中で、フレックスタイム制を採用している企業は6.5%程度に留まっています。また、企業規模別にみると、フレックスタイム制は規模が小さくなるほど採用割合が低くなっています。

採用率が低迷している理由として、フレックスタイム制が複雑な制度であることが考えられます。

そこで、このページでは、フレックスタイム制の導入手順や注意点についてより分かりやすく説明していきます。

フレックスタイム制の導入にあたり

フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)において働くべき時間(総労働時間)を前もって決めておき、始業時刻と終業時刻の両方を労働者に任せる制度です。
フレックスタイム制を導入するメリットとデメリットとして、以下のものが挙げられます。

【メリット】

  • ワークライフバランスの向上により、労働者の定着率を改善できる
  • 遠方からも通勤できる等、優秀な人材を雇いやすくなる
  • 働いている時間の集中力が高まり、生産性が上がる

【デメリット】

  • 労務管理が難しくなる
  • 社内でのコミュニケーションが希薄になるおそれがある
  • 時間にルーズな労働者が発生するおそれがある

フレックスタイム制を導入するメリットとデメリットについて、より詳しく知りたい方は、以下のページでご確認ください。

フレックスタイム制導入のメリット・デメリット

フレックスタイム制導入の注意点

フレックスタイム制を導入して運用するときに、特に注意するべき点について以下で解説します。

労使協定を正しく締結する

代表者の選任方法に問題があったり、必要な記載事項が不足していたりと何らかの不備がある場合、労使協定は無効とみなされるおそれがあります。

労使協定が無効であると、賃金の計算も通常と同じ扱いを受けることから、法定労働時間を超えた分は時間外労働として、割増賃金を支払わなければなりません。
そのため、労働時間が1日8時間を超えていたときに割増賃金が発生する等、予想外の人件費がかかるおそれがあります。

始業時刻・終業時刻は指定できない

フレックスタイム制は、始業時刻と終業時刻の両方を労働者に委ねる制度です。そのため、両方を固定することはもちろん、どちらか一方を固定することも許されません。

例えば、コアタイムが午前11時から午後3時とされている労働者について、「毎朝9時のミーティングに参加するように」といった業務命令をすることはできませんので注意しましょう。

なお、突発的な顧客対応等については、コアタイムでなくても業務命令が可能だと考えられますが、前もって就業規則等に対応する義務を定めて、労働者の同意を取りつけておくと良いでしょう。

労働時間を適正に把握する

企業には、労働者の労働時間を把握する義務があります。そのため、フレックスタイム制が適用される労働者がいると、労働者ごとに各日の労働時間を把握しなければなりません。人事課等にとっては、慣れるまで大きな負担となるでしょう。

しかし、過度の長時間労働や割増賃金の未支給等の発生を防ぐためにも、適切に管理して運用することが求められます。きちんと管理できなければ、労働者の時間の管理がルーズになり、労働時間が極端に短い労働者が発生する等のリスクがあるので、時間管理ツールの活用等の対策を行うようにしましょう。

時間外労働をするには36協定が必要

労働者に対して法定労働時間を超えて労働をさせたい場合、必ず36協定を締結しなければなりません。フレックスタイム制が適用される労働者についても、同様に36協定の締結が必要です。

フレックスタイム制では、あらかじめ定めた清算期間における総労働時間を超過して働いた分の時間を「時間外労働」と考えます。また、清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制については、週平均の労働時間が50時間を超えた分の時間についても「時間外労働」として扱われます。

以下のページでは、フレックスタイム制における「時間外労働」の計算方法等について詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。

フレックスタイム制における時間外労働のカウント方法

また、36協定について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

36協定

コミュニケーション不足への対策をとる

フレックスタイム制が適用される労働者がいると、職場で直接会うことによりコミュニケーションを取る機会が減ってしまいます。それにより、個人や各部署が抱える問題点の発見・改善が遅れる等のリスクがあります。

また、取引先との連絡が取りづらくなり、クレーム対応等に影響が生じるおそれがあります。

職場の全員が揃うコアタイムを設定したり、顧客に対応する労働者には適用しないようにしたりして、コミュニケーションを要する業務に支障が出ないように対策する必要があるでしょう。

フレックスタイム制導入の流れ

フレックスタイム制を導入するときには、以下のような流れで行います。

  1. フレックスタイム制のルールを定める
  2. 就業規則に規定する
  3. 労使協定を締結する
  4. 労働基準監督署へ届け出る
  5. 従業員に周知・説明する
  6. 運用を開始する

フレックスタイム制を導入するためには、就業規則に規定し、労使協定を締結することが要件とされています。
導入の流れについて、以下で解説します。

①フレックスタイム制のルールを定める

フレックスタイム制を導入するときには、対象となる労働者の範囲や清算期間等を定める必要があります。

このとき、そもそもフレックスタイム制を導入するべきかについても改めて検討しましょう。業種や社員の性質によってはフレックスタイム制が適さないため、ルールを定めるときには労使間で十分に話し合う必要があります。

定めるべき事項を以下の表にまとめたのでご覧ください。

対象となる労働者の範囲 対象となる労働者は、特定の個人や部署、職種等と定めることができます。もちろん、全労働者と定めることも可能です。
清算期間 3ヶ月以下の期間を定めます。ただし、1ヶ月を超える期間を定めるときには労使協定を労働基準監督署に届け出なければなりません。
清算期間における総労働時間 清算期間内に労働するべき時間として、「週平均40時間以下となる労働時間」、あるいは「1日あたり8時間以下となる労働時間」を定めます。
標準となる1日の労働時間 有給休暇を取得した日に働いたとみなされる労働時間をさだめます。通常の場合には、総労働時間と勤務日から、1日の勤務日あたりの労働時間を計算して求めます。
コアタイム・フレキシブルタイム コアタイムは「労働しなければならない時間」であり、フレキシブルタイムは「その時間帯であればいつ出社または退社してもよい時間」です。

コアタイムの設定について

フレックスタイム制の導入にあたっては、1日の労働時間をコアタイムとフレキシブルタイムに分けて設定するケースが一般的です。しかし、必ずコアタイムやフレキシブルタイムを設けなければならない訳ではありません。

コアタイムを設けることによって、育児や介護との両立において負担になるおそれがあるため、コアタイムを設けないという選択もできます。このように、コアタイムを設定しないケースを「スーパーフレックスタイム制」といいます。

ただし、コアタイムを設けないと、個々の対象者の実労働時間の把握や、時間外労働の扱い等、勤怠管理がより難しくなるため注意しましょう。

②就業規則に規定する

フレックスタイム制を導入する際には、就業規則等に“始業・終業時刻の決定を対象者に委ねる”旨を規定しなければなりません。コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合には、具体的な時間帯の範囲も規定します。

③労使協定を締結する

労使協定とは、使用者と労働者が締結する協定であり、必ず書面で締結します。
フレックスタイム制を導入するときには、対象者や清算期間等、制度設計時に検討した取り決め事項について定めた労使協定を締結します。

このときに定めた労使協定は、期間が1ヶ月以内であれば締結するだけで良く、労働基準監督署へ届け出る必要はありません。しかし、期間が1ヶ月を超えるときには、労働基準監督署に届け出る必要があります。

労使協定で定めるべき事項については、こちらの項目で説明しておりますのでご確認ください。

④労働基準監督署への届出

フレックスタイム制を導入するために就業規則を変更する場合には、労働基準監督署への届出が必要です。これは、清算期間の長さに影響されません。なぜなら、就業規則を変更したら、必ず届出が必要となるからです。

また、1ヶ月を超える清算期間とする場合には、締結した労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。

⑤従業員に周知・説明する

フレックスタイム制を導入するために就業規則を変更したら、その内容を従業員に周知しなければなりません。これは、変更した内容を周知することが、就業規則の変更が有効となる要件だからです。

また、これからフレックスタイム制を運用していくために、制度導入の目的やメリットのみならず、制度の導入に伴うコミュニケーション不足や勤怠管理の煩雑化など生じ得るデメリットについても労働者に十分に理解してもらうことが重要です。

また、取引先や他部署に影響が生じる場合には、関係各所への説明・共有も必要になるでしょう。

就業規則の周知義務と周知方法

⑥運用開始

フレックスタイム制を導入したら、勤怠管理システム等を導入するとよいでしょう。また、業務に支障が出たり、対象とした労働者が時間にルーズになってしまったりしたときには改善を図ります。
具体的には、コアタイムや対象とする労働者を変更しましょう。

フレックス導入時の違法行為に対する罰則

清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制を導入する場合には、清算期間が1ヶ月以内であるときと異なり、締結した労使協定を労働基準監督署に届け出なければなりません。

この義務に違反した場合には、30万円以下の罰金を科されるおそれがあります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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