自己都合退職の基礎知識 会社都合退職との違いとは
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
自己都合退職とは、転職や介護など労働者の都合により会社を退職することをいいます。
他方、リストラや倒産など会社の都合で退職することを、会社都合退職といいます。
自己都合か会社都合かにより、失業手当の給付内容や退職金の支払い、助成金の受給などの点で違いが生じるため、2つの相違点を把握することが重要です。
本記事では、自己都合退職の基礎知識を確認したうえで、会社都合退職との違いを把握しながら、自己都合退職の企業側のメリット・デメリット、自己都合退職における注意点などについて解説していきます。
目次
自己都合退職の定義
自己都合退職とは、転職や結婚、出産、家族の介護など労働者自身の都合により、労働者が自主的に退職を申し出ることをいいます。つまり、労働者がライフスタイルや家庭事情、キャリアアップなど個人的な事情で退職した場合は、基本的に自己都合退職として扱われます。
また、会社の規律違反や犯罪などの問題を起こし、重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)処分となった場合も、自己都合退職として扱われるのが通例です。
自己都合退職となる退職理由
自己都合退職となる退職理由としては、以下のような事情が挙げられます。
- キャリアアップのための転職、起業
- 会社の仕事内容や人間関係の不満解消
- 勤務条件の相違(賃金・労働時間・仕事内容など)
- 結婚、妊娠、出産、育児、実家の家業を継ぐなどライフステージの変化
- 病気やけがの治療・療養
- 家族の介護や看護
- 資格試験の勉強に専念する
- 海外留学、大学院への進学
- 会社から懲戒解雇(重責解雇)された
退職理由が「自己都合」「会社都合」いずれになるのか、最初に判断をするのは会社です。
まず、会社が退職の事情から退職理由を判断し、離職証明書に記入し、ハローワークに提出します。退職理由は離職票に記載され、退職理由に異議がある場合は、退職者がハローワークに異議申し立てを行います。異議がなければ、会社が決めた退職理由で受理されます。
懲戒解雇の場合
解雇は基本的には会社都合退職として扱われます。ただし、懲戒解雇の中でも、労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇の場合、つまり、「重責解雇」処分を受けた場合は、自己都合退職として扱われるのが通例です。
重責解雇となり得る解雇理由として、以下のケースが挙げられます(雇用保険・業務取扱要領)。
- 刑法の規定、又は職務に関連する法律に違反して処罰を受けたこと
- 故意又は重過失により会社の設備や器具を破壊したこと
- 故意又は重過失により、会社の社会的信用を失わせ、又は損害を与えたこと
- 労働協約や就業規則等に対する悪質な違反(社内での横領・窃盗・傷害等、長期間の正当な理由のない無断欠勤、賭博や風紀紊乱など)
- 会社の経営上の機密を漏らしたこと
- 会社の名をかたり、利益を得又は得ようとしたこと
- 重大な経歴詐称
懲戒解雇の詳細については、以下の記事をご覧下さい。
「会社都合退職」との相違点
会社都合退職とは、会社の倒産や経営難、リストラなど会社側の都合により、一方的に労働契約を解除し、労働者を退職させることや退職勧奨による合意退職等をいいます。
例えば、労働者が早期退職制度に応募して退職した場合(希望退職)や、勤務地変更により通勤が困難になった場合、ハラスメント被害を受けた結果退職することになったような場合も、会社都合退職として扱われます。
会社都合退職についての詳細は、以下の記事をご覧下さい。
なお、自己都合と会社都合では、「失業保険の給付」や「退職金の支給」等において違いが生じます。
以下で詳しく見ていきましょう。
失業保険給付における違い
失業保険とは、正式には「雇用保険」といいます。雇用保険の加入者が会社を退職した場合、一定の要件を満たすと、再就職までの生活を支える手当として、失業手当(基本手当)を受給することが可能です。
ただし、退職理由が自己都合か、会社都合かにより、失業手当を支給される場合に、主に以下の点で違いが生じます。
- 失業手当の受給要件
- 給付制限期間の有無
- 最短給付開始日
- 給付日数
- 最大給付額
詳細については、下表をご覧ください。
自己都合退職 | 会社都合退職 | |
---|---|---|
受給要件 | 離職日以前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12ヶ月以上 | 離職日以前1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上 |
給付制限期間 | 原則2ヶ月 ※例外あり |
なし |
最短給付開始日 | 原則2ヶ月(給付制限期間)+7日(待期期間)経過後 | 7日(待機期間)経過後 |
給付日数 | 90~150日 | 90~330日 |
最大給付額 | 約125万円 | 約275万円 |
※例外となるケース
- 病気や介護等を理由とする「特定理由離職者」は給付制限が免除される。
- 2020年9月30日以前の自己都合退職、5年間で3回以上正当な理由のない自己都合退職、横領など重大な理由による退職については、3ヶ月の給付制限となる。
自己都合退職の場合、失業手当をもらえるまで、基本的に2ヶ月間の給付制限があるため、受給開始時期が遅くなります。また、会社都合退職よりも、給付金額が少なく、給付日数も短くなっていることがわかります。よって、失業手当の受給においては、自己都合より会社都合の方が労働者にはメリットが大きいといえます。
退職金支給における違い
退職時にまとめて支払う「退職一時金」については、自己都合で退職した場合は満額支給されず、会社都合よりも減額されるのが一般的です。
一方、会社都合で退職した場合は、満額受け取れることが多い傾向にあります。
退職金については法律上の定めがないため、自己都合退職者への退職金の支給の有無や減額率などは会社ごとに異なり、就業規則の規定次第となります。
例えば、勤続年数が短い場合は退職金の減額率を高くし、ある程度勤続年数がある場合は減額率を低くするなどして、退職金額を調整する企業が多いようです。
ただし、就業規則等に明記されていない大幅な退職金の減額を行ったり、自己都合退職であることを理由に、一方的に退職金を不支給としたりすることは認められていませんので注意が必要です。
なお、企業年金や確定拠出年金などの退職金については、基本的に、離職理由による減額はありません。
退職金の詳細について知りたい方は、以下の各記事をご一読ください。
企業側のメリット・デメリット
労働者が自己都合で退職した場合に、企業側が受けるメリット、デメリットとして、以下が挙げられます。
メリット
- 助成金の受給で不利とならない
雇用関係の助成金(キャリアアップ助成金、トライアル雇用奨励金など)には支給要件があり、6ヶ月以内に「会社都合退職者」がいると不支給となる場合があります。一方、自己都合退職であれば、助成金の受給で不利となりません。 - 解雇によるトラブルが回避できる
解雇については、労働者が納得しない場合、不当解雇として訴えられるリスクがあります。
一方、自己都合退職は労働者の意思による退職であるため、このようなトラブルを回避できます。 - 退職金の支給額を抑えられる
就業規則に「自己都合退職者については退職金を減額する」旨の規定を設ければ、退職金を減額できるため、退職金の支給額を抑えることが可能です。
デメリット
・退職者とトラブルが生じるおそれ
労働者からすると、基本的には自己都合退職より会社都合退職の方がメリットが大きいといえます。そのため、「会社都合を自己都合として処理された」として労働者から訴えられ、トラブルになるおそれがあります。
自己都合退職の申出期間
就業規則に「退職の申し出は退職日の1ヶ月前まで」などと規定している例はよく見られ、労働者が自主的に応じるなら問題ありません。ただし、それを労働者に強制させることはできません。
なぜなら、民法627条1項は、「正社員など期間の定めのない労働者の退職については、退職日の2週間前までに退職を申し出れば認められる」と定めており、また、これは強行法規であると解されているからです。
強行法規に当たる法律は就業規則に優先するため、就業規則に「退職日の1ヶ月前まで」と規定していても、無効となります。よって、本規定に基づき、労働者の退職を拒否し、強制的に働かせた場合は、違法行為として労基署から指導を受けたり、労働者から慰謝料請求されたりするリスクがあります。
なお、完全月給制の場合は、給与計算期間の前半の退職の申し出が必要となります(同法627条2項)。また、年俸制のように6ヶ月以上の期間により報酬を定めた場合には、退職日3ヶ月前までの申し出が求められ(同法627条3項)、それぞれ申出期間が異なるため注意が必要です。
年俸制について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
有期雇用と自己都合退職
有期雇用労働者(契約社員、パート・アルバイト等)の契約期間途中の自己都合退職は、基本的に認められていません。会社側も契約期間内に退職の申し出をされたとしても、応じる必要はありません。ただし、次のケースでは、有期雇用労働者であっても、契約期間中に自己都合退職ができる場合があります。
- 1年以上働いている場合
1年を超える有期労働契約であって、契約の初日から1年を経過した日以降であれば、契約期間満了前であっても、いつでも自由に退職を申し出ることが可能です(労基法137条)。 - やむを得ない事由がある場合
勤続年数が1年に満たない場合でも、ケガや病気で働けない場合、家族の介護が必要な場合、ハラスメント被害を受けた場合、会社側が了承した場合など、やむを得ない事由がある場合は、契約期間中の退職を認める必要があります(民法628条)。
契約期間満了による退職
契約期間満了による退職(雇止め)で、以下の①~③いずれかに該当し、かつ、労働者が契約の更新を希望しているのに、会社側が契約更新をしなかった場合は、基本的に会社都合退職となります。
- ①契約更新が1回以上あり、3年以上継続して雇用されていた場合
- ②有期雇用契約の締結時に、契約の更新が確約されていた場合
- ③契約の締結時に、契約更新の可能性が明示されていた場合
上記のケースでは、契約が更新されるだろうと期待する合理的理由があると考えられるため、会社都合退職とみなされます。
一方、契約期間満了による退職で、以下の①②のうち、いずれかに該当した場合は、基本的に、自己都合退職となります。
- ①本人が契約の更新を希望していない場合
- ②本人は更新を希望しているが、通算契約期間が3年未満で、かつ契約時に契約更新の確約や、更新の可能性についての明示がなく、さらに会社が契約更新をしない場合
会社都合退職や、有期労働契約の解雇等の詳細については、以下の各記事をご覧下さい。
自己都合退職における注意点
労働者の自己都合退職において、企業が注意すべきポイントとして、以下が挙げられます。
- ①在職強要の禁止
- ②賃金の支払い
- ③有給休暇の消化
- ④損害賠償請求
以下で詳しく見ていきましょう。
在職強要の禁止
在職強要とは、労働者を退職させないよう強要することをいいます。例えば、退職届を受理しない、長時間の面談で慰留する、後任が見つかるまで退職させない等の行為が挙げられます。
どのような理由があっても、在職強要は違法行為であり、禁止されています。
なぜなら、労働者には2週間前までに申し出れば退職できるという「退職の自由」(民法627条1項)や、「職業選択の自由」(憲法22条)等の権利が保障されているからです。
仮に労働者が退職を申し出ているにもかかわらず、会社側が退職することを拒否し、働くことを強制したような場合は、強制労働を禁止する労基法5条に違反する可能性があります。違反すると、1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金が科される場合があるため注意が必要です(労基法117条)。
賃金の支払い
自己都合退職の場合でも、勤務終了日までの賃金を支払わなければなりません(労基法24条)。
退職者の賃金については、就業規則等で定めた賃金支払日に支払われることが通例です。ただし、退職者から請求があった場合は、7日以内に賃金を支払わなければなりません(同法23条1項)。
なお、賃金額等で労使間トラブルとなっている場合には、双方に異議のない部分についてのみ7日以内に支払えば足りるとされています(同法23条2項)。
一方、退職金については、退職者から請求があったとしても、7日以内ではなく、通常の支払い期日に支払うことで問題ありません。
賃金支払いの詳細については、以下の記事をご覧ください。
有給休暇の消化
有給休暇の取得は労働者の権利であるため(労基法39条)、労働者が退職日前に残っている有給休暇の消化を希望した場合は、認める必要があります。
なお、有給休暇の買い取りは、心身の疲労回復という有給の目的に反するため、基本的には禁止されています。ただし、「退職日までに消化しきれない有給休暇の買い取り」を労働者から請求された場合は、買い取りに応じても問題ありません。労働者との雇用関係が終わった時点で、有給休暇を取得させる義務がなくなると判断されるからです。
買い取りは法律上の義務ではないため、労働者からの請求を断ることは可能ですが、就業規則等にあらかじめ義務として規定されている場合は、有給休暇を買い取る義務が生じるため注意が必要です。
退職時の有給休暇の消化についての詳細は、以下の記事をご覧下さい。
損害賠償請求
労働者に対する損害賠償金について、会社が就業規則等にあらかじめ一定の金額を規定することは禁止されています(労基法16条・賠償予定の禁止)。
ただし、労働者の退職により、実際に会社が損害を被ったならば、損害賠償請求できる場合があります。請求が認められるには、以下の3要件を満たす必要があります。
例えば、以下のケースに該当し、会社が重大な損害を被った場合は、損害賠償請求が認められる可能性があります。
- 無期雇用労働者が2週間前までに申し出ることなく、突然退職した場合
- 有期雇用労働者が本人の過失により、契約期間途中で退職した場合
- 退職時に、競合他社と退職者が共謀し、他の従業員に転職の勧誘を行い、大量に辞めさせた場合
- 会社負担での海外研修を経験後、短期間で辞めた場合
- 問題行動を起こし、会社に損害を与えて退職した場合
賠償予定の禁止等についての詳細は、以下の記事をご覧下さい。
離職票・退職証明書の発行
離職票は、会社を退職したことを公的に証明する書類で、正式には「雇用保険被保険者離職票」といいます。退職者が失業手当等の支給を受ける際に必要となる書類であり、離職票の交付手続きは会社を介して行います。
退職日から10日以内に、会社が「被保険者資格喪失届」と「被保険者離職証明書」をハローワークに提出すると、ハローワークから離職票が交付されるので、その離職票を会社から退職者に送付します。
一方、退職証明書とは、退職者が会社を確かに退職したことを証明する書類です。離職票を受け取るまでの間に、国民健康保険・国民年金などへの加入手続きを行う場合や、転職先に提出する場合などに用いられます。
退職証明書は、会社が積極的に発行するべき義務はありませんが、退職者から請求された場合は、すぐに発行しなければなりません。
証明書に記載する項目として、主に以下が挙げられます。退職者から希望があった項目のみ記載します。
- 勤務期間
- 業務内容や種類
- 役職
- 賃金
- 退職理由など
退職時に発行する書類についての詳細は、以下の記事をご覧下さい。
離職理由の異議申し立て
離職理由について事実と違うと考える退職者は、ハローワークに離職理由に関する異議申し立てを行うことが可能です。例えば、退職者は「会社都合」と思っていたのに、離職票に「自己都合」と書かれていたようなケースが挙げられます。
異議申し立てを行う場合は、退職者が「異議申立書」に、会社から不当に解雇されたなど、会社都合退職である理由等を記載し、離職票とセットで、ハローワークに提出します。
その後、ハローワークが会社側に離職票の内容の確認を行い、会社と労働者双方の意見を聞き、離職理由について判断を下します。そのため、会社として離職理由が正しいと考える理由を、根拠となる資料等に基づき、ハローワークに主張する必要があります。
仮に会社都合に値する正当な理由があると判断された場合は、離職理由が、自己都合から会社都合へと変更される可能性があります。
会社都合退職についての詳細は、以下の記事をご覧下さい。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある