【2023年】労働基準法の改正内容の一覧と労務管理について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
働き方改革に関連して、労働基準法が改正され、2019年から段階的に施行されています。
今後行われる法改正のうち注目すべきものは、2024年4月から建設業等にも時間外労働の上限規制が適用されることです。
そのため、該当する企業は適用内容を確認し、就業規則の整備や勤怠管理の見直しなどを行う必要があります。
本記事では、2022年以前の労働基準法の改正内容を改めて確認し、2023年、2024年に法改正が予定されている内容、企業が取り組むべき対応について解説していきます。
目次
労働基準法の改正内容の一覧
2019年~2021年改正 |
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2022年改正 |
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2023年改正 |
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2024年改正 | 時間外労働の上限規制(建設業、自動車運転の業務、医師、鹿児島県と沖縄県における砂糖製造業) |
2019年から2021年までの法改正により、「時間外労働の上限規制」や「年5日の有給休暇の取得義務化」など労働環境の改善のための対策がとられています。また、2022年の法改正により、「産後パパ育休制度」が導入される等、男性の育児休業の取得率の向上等を目的とした法改正も行われています。
2023年に施行される改正労働基準法
2023年4月から、中小企業においても、時間外労働が月60時間を超えた場合には、割増率50%以上の割増賃金を支払う義務が発生します。これまでは、本規定は大企業のみに適用され、中小企業については、支払能力などが考慮され、猶予されていました。
しかし、2023年4月からは、中小企業にも50%以上の割増賃金率が適用されることになります。
割増賃金率の引き上げにともない、中小企業においても、長時間労働を減らす取り組みの実施が求められます。具体的には、勤怠管理システムによる労働時間の可視化、代替休暇の付与、業務の効率化や人員の確保など、残業を削減するための対策を進めることが必要となります。
より詳しく知りたい方は下記の記事をご参照ください。
2024年に改正予定の建設業の時間外労働の上限規制について
2019年4月の労基法改正により、時間外労働の上限規制が適用され、36協定を締結したとしても、残業時間に上限が設けられるようになりました。主な規制内容は以下のとおりです。
- 時間外労働の上限:原則として月45時間・年360時間
- 繁忙時など特別の事情がある場合:時間外労働年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内、時間外労働の⽉45時間超えは年6ヶ月まで
建設業には長時間労働や人手不足という課題があるため、5年間適用が猶予されていましたが、2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されることになります。
36協定を締結していても、上限を超える時間外労働を行わせた場合は、6ヶ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科されるおそれがあるため、注意が必要です。
時間外労働の上限規制について、より詳しく知りたい方は、以下のリンクをご参照ください。
2022年に改正された労働基準法について
2022年に改正された労働基準法について、以下で解説していきます。
育児・介護休業法の改正内容
育児・介護休業法が改正され、2022年4月より段階的に施行されています。
改正の目的は、男女ともに育児・介護休業を取得しやすくし、仕事との両立を支援することです。
なかでも注目すべき改正は、2022年10月より施行された、「産後パパ育休(出生時育児休業)」と「育児休業の分割取得」です。
これらの制度の導入により、子の出生後8週間以内に4週間までなら、分割して2回まで、また原則子が1歳になるまで分割して2回の育児休業の取得が可能となり、1歳までに合計して4回までの育休が取得できるようになりました。さらに、育休開始日も柔軟に調整可能となり、ライフスタイルに合わせて、夫婦で育休のタイミングを決められる状況へとシフトしました。
この法改正に基づき、企業としては、就業規則や労使協定、人事制度等の社内規定の見直しをする必要があります。
なお、育児・介護休業法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
パワハラ防止法の義務化
2020年に大企業のみに適用されていた「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が、2022年4月から、中小企業に対しても適用され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が義務化されることになりました。
今後すべての企業は、「就業規則の整備と周知、パワハラ研修」「パワハラ相談窓口の設置」「パワハラに迅速かつ適切な対応を行うためのフロー整備」などを実施し、労働者が安心して働くことができる環境づくりを行うことが必要となります。
なお、ここで「中小企業」の定義を確認しておきましょう。下表のとおり、「資本金の額または出資の総額」 と 「常時使用する従業員の数」のいずれかに該当するなら「中小企業」、どちらにもあてはまらないなら「大企業」と区別されます。
業種 | 中小企業 | 小規模事業者 | |
---|---|---|---|
資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員の数 | 常時使用する従業員の数 | |
①製造業、建設業、運輸業、その他の業種(②~④を除く) | 3億円以下 | 300人以下 | 20人以下 |
②卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
③サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
④小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | 5人以下 |
2019年~2021年に改正された労働基準法
2019年~2021年に改正された労働基準法について、以下で解説していきます。
年5日の年次有給休暇の取得義務化
2019年4月から、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、「年5日」の有給休暇を取得させることが義務化されました。
そのため、使用者は、年間の有給休暇の取得日数が5日を下回る労働者に対して、労働者の意見を尊重したうえで、取得時季を指定して、有給休暇を取得させなければなりません。これに違反すると、30万以下の罰金が科されるおそれがあるため、注意が必要です。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
フレックスタイム制の清算期間の延長
フレックスタイム制とは、労働者が始業時間や終業時間、1日に働く時間の長さについて裁量を与えられる制度です。この制度で、実際に働いた時間と、会社によって定められた労働時間(所定労働時間)の差を清算するタイミングが清算期間です。
従来は1ヶ月であった清算期間の上限が、法改正によって3ヶ月に延長されました。これによって、月をまたいだ労働時間の調整ができるようになり、繁忙期と閑散期で労働時間のバランスをとれるようになる等、よりワーク・ライフ・バランスを重視した働き方が可能になっています。
フレックスタイム制の改正について、より詳細に知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
高度プロフェッショナル制度の創設
高度プロフェッショナル制度とは、高いレベルの専門知識を有し、職務範囲が明確で一定の収入要件(年収1075万円以上)等を満たす労働者を対象に、労働時間に基づく制限をなくして、労働時間ではなく成果に応じた賃金報酬が得られるようにする制度をいいます。
本制度もまた、働き方改革に伴う法改正によって労働基準法に創設する規定が設けられた取り組みの一つです。
具体的にどのような制限が撤廃されるのか等、詳しくは下記の記事をご覧ください。
同一労働同一賃金について
パートタイム・有期雇用労働法では、同一企業における正社員と、パートタイマー・有期雇用労働者の間で不合理な待遇差を設けることを禁止しています(同一労働同一賃金)。大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から施行されました。
不合理な待遇差の禁止対象は、基本給、賞与、退職金、各種手当、福利厚生などが挙げられます。正社員との待遇差があった場合には、対象労働者が事業主に説明を求めることができ、事業主には説明責任があります。
同一労働同一賃金の注意点について、より詳しく知りたい方は、以下のリンクをご参照ください。
子の看護・介護休暇の時間単位の取得
育児・介護休業法の改正により、「子の看護休暇」や「介護休暇」を時間単位で取得できるようになりました。この改正法は2021年1月から施行されています。
休暇の取得単位が半日から時間に変わるので就業規則の変更や、また、「子の看護休暇」や「介護休暇」を何日取得したのか、時間単位で管理することも必要となります。
労働基準法改正による労務管理の注意点
労働基準法が改正されて、より厳格な労務管理が求められるようになったため、正確な労働時間や、年次有給休暇の取得状況を把握する必要が生じたことに注意しましょう。
正確な労働時間を把握するために、タイムカード等の客観的な記録によって労働時間を管理する必要があります。また、書類上の労働時間を短くするために、管理職が打刻時間をずらすことを労働者に強要する等、システムを潜脱するような運用がなされていないか確認することも重要です。
そして、年休管理簿等を活用しながら労働者の有休取得状況を把握し、取得を促進することが求められます。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある