退職証明書・解雇理由証明書とは|記載すべき内容や交付が必要なケースについて
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者から、退職証明書・解雇理由証明書が請求されることがあります(労基法22条)。これらの証明書は書式が法律で決められているわけではないので、何を記載するのか分からない方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、退職証明書・解雇理由証明書の概要や記載事項、作成するときの注意点などについて解説します。
退職証明書・解雇理由証明書とは
退職証明書とは、退職した日付や理由などを記載した書類です。労働者が退職時に請求することにより、会社が遅滞なく交付します。
また、解雇理由証明書とは、解雇した理由を記載した書類です。労働者が解雇予告日から退職日までの間に請求することにより、会社が遅滞なく交付します。
退職証明書とは
退職証明書とは、労働者が退職したことなどを証明する書類です。
労働者に請求された場合は、次の事項のうち請求されたもののみ記載します。
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 離職する前の賃金
- 退職事由(解雇の場合には解雇事由)
退職日が確定していれば、退職前に請求されても発行できますが、基本的には退職時や退職後に発行することになります。
解雇理由証明書とは
解雇理由証明書とは、会社が労働者を解雇した理由について証明するための書面です。
労働者から請求された場合には、次の事項のうち請求されたものを記載して発行します。
- 解雇する労働者の氏名
- 使用者の氏名・名称及び押印
- 解雇予告をした場合には、解雇予告日
- 発行日
- 解雇理由
労働者からの請求を拒否することはできない
使用者は、労働者の請求があれば遅滞なく証明書を発行する必要があります。これは労働基準法上の義務であり、使用者側は退職証明書を拒否することはできません。
請求を拒否した場合には、労働基準法違反となり30万円以下の罰金に処せられるおそれがあります。
退職証明書について
退職証明書について、離職票とどこが違うのか、何を記載すれば良いのか等について、以下で解説します。
離職票との違い
離職票は、企業を辞めると必ず発行される書類です。正式には、「雇用保険被保険者離職票」といいます。
これは退職後10日以内に発行される書類で、退職証明書と違って企業に交付を請求する必要はありません。使用する場面としては、金銭面を含む事務手続が多いです。
たとえば、失業給付金を受け取る際にハローワークに提出する、確定申告に使用する、国民健康保険の手続に使用するなどの場面です。
退職証明書に記載すべき事項
退職証明書に記載するべき事項として、次のものが挙げられます。
- 使用期間
- 業務の種類
- 事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(または解雇理由)
「退職の事由」(労働基準法22条1項)とは、労働者としての身分を失った原因を示すものです。
例えば、次のようなものを記載します。
- 自己都合による退職
- 退職勧奨に応じたことによる退職
- 定年による退職
- 解雇
これらのうち、「解雇」の場合には、別紙などに詳細な理由を記載するようにしましょう。
なお、これらに該当する事項であっても、労働者が請求していないものに関しては記載できないので注意しましょう。
「退職事由」や「解雇事由」、「定年」について詳しく知りたい方は、以下の各記事をご覧ください。
退職証明書の交付が必要なケース
退職証明書が必要になるのは、主に次のような場合です。
- 労働者が転職先の会社から提出を求められたケース
- 失業手当の給付、国民健康保険の手続きをする際に離職票の代わりとして使用するケース
退職証明書は公文書ではなく、労働者の申請に対して使用者が発行する文書なので、書式や様式の指定もありません。
企業としては、労働者からの請求があった場合にのみ退職証明書の交付が必要となります。
解雇理由証明書について
解雇理由証明書について、何を記載すれば良いのか、どのようなときに発行を求められることが多いのか等について、以下で解説します。
解雇理由証明書に記載すべき事項
解雇理由証明書には、解雇する理由について、次の事項を記載する必要があります。
- 就業規則において定めている解雇事由のうち、該当する条項
- 当該条項に該当するに至った事実関係
例えば勤務態度不良のように、該当する事実が数多く存在する場合には、なるべく多くの事実について詳しく記載しましょう。
後日、解雇の有効性が争われた場合には、解雇理由証明書に記載した理由以外を主張することが制限されます。もしも裁判などで追加の主張をしても、証明書に記載されていない理由は軽視される傾向があります。
記載にあたっては、裁判を見据えて、十分な記載を行うことが重要です。
解雇事由について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
解雇理由証明書を求められるケース
解雇理由証明書の発行を求められるのは、次のようなケースであることが多いです。
- 労働者が解雇に不満を抱き、理由を知りたがっているケース
- 不当解雇として労働組合の助けを借りようとしているケース
- 解雇無効の裁判を起こそうとしているケース
これらのケースが想定されることから、解雇理由証明書の記載は、なるべく詳細に理由を記すようにしましょう。
記載が不十分だと、労働者側に「不当解雇として争える」と思われてしまうリスクが生じます。すると、労働組合や裁判への対応をしなければならないため、会社にとって大きな負担になるおそれがあります。
解雇通知書(解雇予告通知書)と解雇理由証明書の違い
解雇通知書とは、即日解雇することを通知する書面です。また、解雇予告通知書とは、30日前に解雇を予告する書面です。
どちらの書面にも、基本的には次の事項を記載します。
- 解雇する労働者の氏名
- 会社名及び代表者名
- 解雇する日付
- 労働者を解雇する旨
- 解雇する理由及び該当する就業規則の記載
解雇通知書と解雇予告通知書の違いは、日付が30日よりも後の日付であるか否かです。
退職証明書・解雇理由証明書を作成する際の注意点
退職証明書や解雇理由証明書を作成するときには、次のことに注意しましょう。
- 労働者の希望しない事項は記載できない
- 証明書発行義務には時効があるが、発行回数の制限はない
- 解雇理由証明書などは第三者も見る可能性が高い
- 解雇した根拠は明示しなければならない
- 解雇理由を追加するのは難しい
これらの注意点について、以下で解説します。
労働者の希望しない事項を記載してはならない
退職証明書や解雇理由証明書には、労働者の希望しない事項を記載してはなりません(労働基準法22条3項)。
会社で証明書を発行する場合には、退職者・解雇者から、記載しなければならない内容について確認しましょう。それによって、証明書に余計なことを記載してしまい、再発行しなければならなくなる事態を防ぐことができます。
証明書発行義務の時効と発行回数
企業側に課せられている退職証明書・解雇理由証明書の発行義務は、2年で時効にかかります。退職・解雇から2年が経過するまでは、労働者は何回でも証明書の申請が可能であり、企業は必ずこれに応じなければなりません。
解雇の場合には、解雇するまでは解雇理由証明書を発行し、解雇後は退職証明書に解雇事由を記載して発行することになります。
第三者がみる可能性が高い
解雇理由証明書は、労働者が解雇を無効にするために請求されるケースが多い書類です。そのため、労働者本人だけでなく、相手方の弁護士や労働組合の組合員、裁判官なども見ることを前提として発行しなければなりません。
そのため、第三者が見ても「客観的に合理的で社会通念上相当」だと思われるような理由を記載しましょう。
根拠となる就業規則の条文を明示する
解雇理由証明書には、労働者のどのような行為が、就業規則のどの規定に該当したために解雇するのかを明記しなければなりません。
就業規則の解雇事由は例として挙げているだけだと考えられるケースもありますが、解雇できる事由のすべてだとみなされるケースもあります。そのため、就業規則に記載されていない理由によって解雇するのは難しいと考える必要があります。
特に、懲戒解雇の場合には、就業規則に規定されていない理由で解雇することはできないので注意しましょう。
解雇理由は原則追加できない
解雇理由証明書に記載した解雇理由は、基本的に追加できません。それは、後で解雇の理由を追加できてしまうと、解雇の理由を証明させる法の趣旨(労働者が解雇された理由を明確に知ることのできる機会の確保や解雇を争うために使用者側に理由を明示させること)の潜脱となるからです。
裁判などで解雇について争われたときには、証拠である証明書に書いてあることが重視されます。他の理由を主張することが禁じられているわけではありませんが、裁判では重要な理由として扱われないおそれがあります。
そのため、証明書を発行するときに、十分な内容を記載するようにしましょう。
労働基準法違反に対する罰則
退職証明書・解雇理由証明書についての義務は労働基準法22条に定められています。それに違反する、次の行為をしたときには、30万円以下の罰金に処せられるおそれがあります(労働基準法120条1号)。
- 交付しない
- 意図的に遅らせて交付する
- 労働者から請求されていない事項を記載する
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある