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福利厚生の導入方法と注意点について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

福利厚生は、従業員満足度の向上や企業イメージのアップ等、企業にさまざまなメリットをもたらします。また、ユニークな福利厚生を取り入れ、他社との差別化を図りたいという方もいるでしょう。

しかし、制度を導入しても実際に利用されなければ無意味です。導入前のニーズ分析や導入後の管理といった適切な手順を踏み、効果を上げるよう努めることが重要でしょう。

本記事では、福利厚生を導入する流れについて詳しく解説します。各プロセスにおける注意点やポイントもご説明しますので、導入を検討されている事業主の方はぜひ参考になさってください。

福利厚生とは

福利厚生とは、会社が労働者やその家族に提供する、給与や賞与以外の報酬やサービスをいいます。福利厚生の種類は、大きく「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2つに分けられます。

福利厚生を導入する目的は、労働者やその家族の健康的な暮らしを実現し、かつ働きやすい環境を整備することで、労働者の能力を最大限に発揮させることです。
また、会社側にとっても、労働者が必要とする福利厚生を導入することで、労働者のモチベーションアップによる生産性の向上、企業イメージアップによる採用力の向上など、様々なメリットを受けることができます。

福利厚生の種類

福利厚生には「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」と2つの種類があります。

法定福利厚生とは、法律により導入が義務づけられている福利厚生です。いわゆる社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険等)や子供・子育て拠出金などが挙げられ、会社が保険料の一部または全部を負担しなければなりません。

一方、法定外福利厚生とは、法律による規定はなく、企業が自由に導入できる福利厚生です。例えば、住宅手当や通勤手当、人間ドック費用の補助、法定日数以上の育児休業の付与、財形貯蓄制度などが挙げられます。

法定福利厚生 法律によって、企業に導入が義務づけられている福利厚生
法定外福利厚生 法律による規定はなく、企業が任意で導入する福利厚生

福利厚生の詳細について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

福利厚生とは

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福利厚生を導入するメリット・デメリット

福利厚生の導入には、メリットがある一方で、デメリットもあります。

メリット

企業のイメージアップによる採用力の向上

福利厚生の充実は、求職者が会社を選ぶ際の重要なポイントになります。入社してほしい人材が魅力を感じそうな制度や、会社独自のユニークな制度を導入することで、採用の際のアピールポイントとなり、優秀な人材が集まることが期待できます。

労働者のモチベーションアップによる生産性の向上

福利厚生が充実していると、健康的な暮らしが実現できるため、労働者の満足度が上がり、労働者のモチベーションがアップします。その結果、会社に対するエンゲージメントが高まり、定着率の向上、生産性への向上へとつながります。

デメリット

導入にコストがかかる

福利厚生の導入には、当然ながら費用がかかります。
そのため、定期的に福利厚生の見直しを行い、できる限り多くの労働者が利用できるサービスを提供し、コストパフォーマンスを上げることが必要となるでしょう。

管理負担が大きい

福利厚生の導入にあたっては、申請書類の作成や施設の整備など手間や時間がかかります。
また、導入後も、労働者からの利用受付や利用機関とのやり取り、利用後の処理などの管理業務が必要になります。

福利厚生制度の導入方法

福利厚生の導入は、以下の流れで行うことになります。

  1. 導入目的の明確化
  2. 制度の運用設計
  3. 導入・コストの試算
  4. 就業規則の規定・マニュアルの作成
  5. 従業員への説明

詳細については、以下でご説明します。

①導入目的の明確化

まず、福利厚生の導入目的やゴールを明確化します。例えば、「企業をイメージアップさせ採用力を向上する」「従業員満足度を上げて離職率を改善する」といった具合です。
また、スキルアップや体力面・精神面での健康維持等、労働者のモチベーションアップを図ることも重要です。

闇雲に制度を導入しても、「労働者に利用されない」「コストだけがかかる」といった事態になりかねないため注意しましょう。

②制度の運用設計

福利厚生の導入目的やゴールを明確にしたら、それが達成できるような制度を決定します。

なお、他社で人気の福利厚生であるからといって、自社でも同様の効果が得られるとは限りません。
そのため、アンケートなどを実施して、労働者の意見をヒアリングし、どのカテゴリーの福利厚生が人気なのかを把握し、多くの労働者が利用できる制度を導入する必要があります。

そのうえで、制度の内容や業務量にもとづき、自社で運用するのか、代行サービスに委託するのかを決定します。また、福利厚生の利用条件や利用対象者、利用方法、経費の処理方法などの制度設計も行いましょう。

③導入・運用コストの試算

検討した運用設計をもとに、導入コストや運用コストを試算します。試算によって実現可能性や費用対効果が明らかになり、導入の可否を判断しやすくなるためです。
また、導入できると判断した場合は、あらかじめ社内予算を確保しておくことが必要です。

④就業規則の規定・マニュアルの作成

制度設計にもとづき、福利厚生規程(就業規則)を作成します。福利厚生は基本的に相対的必要記載事項にあたるため、導入する際は、就業規則に記載する必要があります。

この際、労使間で認識の違いが起こらないよう、利用対象者、利用条件、申請方法、金額などについて、できる限り詳細に明記しておかなければなりません。

また、円滑に福利厚生制度を運用できるよう、担当部門や経理部門向けのマニュアルを作成しておくことも必要です。

就業規則への具体的な記載内容について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

就業規則の記載事項

⑤従業員への説明

制度を導入しても、実際に利用されなければ意味がありません。そのため、労働者への周知も重要なポイントです。

周知の方法としては、制度の目的や導入に至った背景、制度の内容等を記載した資料を作成し、労働者に配布するのが良いでしょう。労働者の理解や関心が高まり、利用率の向上につながる可能性があります。

また、社内報や掲示板で制度について紹介したり、SNSで宣伝したりするのも有効です。さらに、一定の年齢に達した労働者を集め、ライフステージに合った制度を紹介するという方法もあります。

福利厚生代行サービスを利用した導入について

福利厚生サービスの整備や運用、利用時の手配などは、福利厚生代行サービスに委託(アウトソーシング)することも可能です。

代行サービスを活用することで、福利厚生自体にかかる費用や人件費、担当者の業務負担を減らすことができるため、業務効率化を図れるというメリットがあります。また、代行サービスにはすでに豊富なメニューが用意されていますので、自社で運用するよりも、より質が高く幅広いサービスを提供することができ、労働者の満足度の向上が期待できます。

福利厚生代行サービスは、大きく「パッケージプラン」と「カフェテリアプラン」の2種類に分けられます。各プランのサービス内容は、代行業者の提携先(宿泊施設や飲食店など)によって異なります。

以下で2つのプランの内容を確認してみましょう。

パッケージプラン

代行業者が用意したパッケージ(サービス一覧)の中から、労働者が好きなサービスを選択して利用するプランです。当プランは定額制であり、従業員1人あたりの費用を支払えば、パッケージ内のサービスをすべて利用することが可能です。

宿泊施設やレストラン、スポーツクラブ、社会人資格講座の割引など豊富なサービスが用意されているため、多彩なサービスを手軽に整備したいという会社にはおすすめです。
また、後述のカフェテリアプランと比較して、導入準備にそれほど時間や労力がかからず、低コストで質の高い福利厚生サービス導入できるというメリットがあります。

ただし、家賃補助、育児・介護費用補助、社員食堂など会社独自の福利厚生は利用できないため、他社にはないユニークな制度を導入したい場合は、カフェテリアプランをおすすめします。

カフェテリアプラン

代行業者が提供するサービスと、企業が独自に導入する福利厚生を組み合わせてメニューを作り、その中から労働者が好きなサービスを自由に選択し、利用するプランです。労働者は、会社から付与されたポイントを使用して、サービスを利用することになります。

当プランには、例えば、育児補助や住宅補助を利用しない代わりに、宿泊施設の割引を多く利用するなど、労働者のライフスタイルやニーズに合ったサービスを提供できるというメリットがあります。

ただし、パッケージプランに比べると費用が割高で、労働者のニーズに合わせてメニューをカスタマイズしなければいけないため時間や労力がかかる、メニューによっては課税対象になる等のデメリットもあります。

リモートワーク・在宅勤務に対応した導入方法

新型コロナウィルスの影響により、リモートワーク・在宅勤務を導入する企業が増え、従来の福利厚生の見直しが求められています。リモートワーク・在宅勤務に対応した福利厚生の具体例を、以下にご紹介します。

  • 在宅勤務手当:在宅勤務による電気代、インターネット代などの費用負担
  • 食事補助:労働者の昼食代など飲食費の負担
  • 環境整備手当:机や椅子、パソコン、インターネットの通信設備などの費用負担
  • コミュニケーション手当:労働者同士のコミュニケーション支援のため、オンライン昼食会の飲食代などの費用負担
  • 健康サポート支援:リモートワークによる運動不足解消のため、筋トレやヨガなどのオンラインプログラムのレッスン料負担

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福利厚生導入後の運用に際して考慮すべき点

福利厚生の導入後は、名だけの福利厚生とならぬよう、定期的な見直しが必要です。
導入しても、効果がなければ意味がなく、費用だけがかさんでしまうからです。

まず、福利厚生導入による効果を確認します。例えば、導入によって「離職率が低下したか」「生産性が向上したか」といった点を確認しましょう。次に、福利厚生の利用率をチェックすることも必要です。

導入効果が薄い、または利用率が低い制度がある場合は、労働者の意見を再度ヒアリングし、原因を調査し、効果や利用率を高めるための対策を講じる必要があります。
また、利用率の低い制度については予算をおさえ、他の制度の予算を増やすという方法もあります。

さらに、労働者へ福利厚生サービスの内容や利用方法が周知されているか、利用しやすい制度になっているかどうかも、改めて確認しておく必要があるでしょう。

福利厚生制度を廃止する際の注意点

福利厚生の一方的な廃止は、労働契約法上の「不利益変更」に相当するおそれがあります。不利益変更とは、“就業規則につき、従業員の合意がないにもかかわらず、従業員にとって不利な労働条件の内容に一方的に変更すること”をいいます。同法9条では、禁止事項として規定されているためご注意ください。

福利厚生を廃止する際は、労働者に対し廃止の理由をきちんと説明し、合意を得るようにしましょう。また、廃止によって生じる不利益を補うための代替制度を用意することも必要です。

なお、不利益変更については以下のページでも詳しく解説しています。事業主には十分な理解が求められますので、ぜひご確認ください。

労働条件の不利益変更
ちょこっと人事労務

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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